流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー4
「で、その雨神があなただとするならばどうやって教えてもらうのよ……。」
「だから、あたしじゃないんだってば。実体はないししゃべらないけど感情はあるんだよ。だから纏っているけどあたしじゃないの。」
「よくわからないけど魔法に感情があるって事ね?」
アヤはいい表現を見つけようとしたが見つからなかったのでわかりやすく聞いた。
「まあ、うん。うーん……まあ……ん?」
カエルは戸惑った顔でアヤを見返した。カエルにもよくわからないらしい。
「とりあえず……やってみてもらえませんか……すいません……。」
ヒエンがひかえめに入り込んできた。
「うん!わかった!」
考えるのをやめたカエルがヒエンに向かい元気に返事をした。
「ねぇねぇ、雨神様、雨神様?図書館に行きたいんだけどいいかな。」
カエルは普通に空に向かって話しはじめた。
実際には雲に向かってという方が正しい。
「そんな普通でいいのね……。」
アヤはカエルを黙って眺めていた。
「はいっ!はいっ!はーい♪」
カエルはニコニコ笑いながら手拍子をしている。
カエルの感覚は相変わらずわからない。
しばらくすると全域だった雨が集中豪雨になってきた。風も強くなってきてアヤ達を押し出す。
「この雨の通りにいけば着くって。風に従えって。」
雨神は集中豪雨で道をつくったらしい。
つまり雨の降っている所を歩けば着くという事だ。
風も先程よりもだいぶん強い追い風だ。足が持っていかれそうだ。
「そんな事言ったってこんな風じゃ歩けないわ。」
アヤがつぶやいた刹那、カエルがヒエンとアヤの手をとって走り出した。
「レッツゴー!」
「わわわっ!ちょっと待ちなさい!」
「走ったら危ないです!きゃあああ!」
アヤとヒエンがカエルを止めようとするが風のせいで足が勝手に動いて行く。
ヒエンは顔面蒼白で走っている。
こんなに速く走った事はなかったので転びそうで怖かった。
カエルは風に乗りぴょんぴょん飛びながらアヤ達を引っ張る。
このまま本当に吹っ飛ばされそうなくらい足が地面から離れている時間が長かった。もうほぼ浮いている状態だ。
「ちょっと!ちょっと!いやあああ!」
カエルが山の斜面を全速力で駆けるのでアヤもさすがに全力で止めにかかった。
「大丈夫!大丈夫!」
「大丈夫じゃないわよ!いつ転んでもおかしくないじゃない!転んだらただじゃすまないわ!」
「あ、足が折れます!足折れます!」
ヒエンは先ほどから絶叫している。
「だいたい普通に歩けばいいじゃない!なんで走るのよ!」
「時間かかるじゃん?」
アヤはカエルを叱ったがカエルの笑顔を見て色々あきらめた。
「……もうやだ……。」
「えー?何?聞こえなかったぁ!」
アヤのつぶやきはカエルに届くことなく風に流れて消えた。
もう山を下りきり田んぼが多い田舎道を走っている。
先程の山よりも平面なので恐怖心は半減したが今度は前から叩きつけてくる雨が痛くてしょうがなかった。
カエルとヒエンは人間には見えないがアヤは人間と共に生きる神なので人間には見える。
今、この状態を人間が見たら目を丸くするかもしれない。
走っている内に一軒家がだんだん多くなっていき、ひときわ大きい黄色い建物が見えてきた。商店街を走り抜け、どんどん黄色い建物が近づいてくる。
どうやら目的地はこの黄色い大きな建物らしい。黄色の建物の目の前まで来た時、暴風雨が小雨になってきた。雨の道は途切れ、また全域を濡らしはじめる。
「目的地ってここ?」
カエルが首を傾げている。
「ここってこの町だか村だかの中央公民館じゃない……。」
アヤはがくがく震えている足を落ち着かせながら黄色い建物を仰ぐ。
「はあ……はあ……こんなに走ったのははじめてです……。」
ヒエンは今にも倒れそうな顔でヨロヨロとアヤにもたれかかってきた。
「ちょっとしっかりしなさいよ……。大丈夫?」
「……ま、まあ、とりあえず入りましょう?」
ヒエンはアヤに吐きそうな顔を向けてささやいた。
「よし!行こう!」
カエルはもうすでに自動ドアから中に入り込んでいた。アヤもフラフラしているヒエンを支えながら自動ドアを潜った。
アヤはびちょびちょになっているカッパのフード部分を取りながらあたりを見回す。雨だからか客は少なく従業員もあまりいない。
乾いているタイル床を濡らしながら歩いていると図書館を発見した。
「あれが図書館かな?けっこう奥まったところにあるんだねぇ?」
カエルはタイル床を滑りながら図書館の前まで進んだ。




