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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー2

アヤ達は駅に来るのが一時間に一本というローカル電車に乗っていた。


ドアは押しボタン式で時間帯も時間帯だからか乗って来る人がいないため、ずっと閉めきりになっている。


雨が絶えず降っており、現在は午後の一時。


「で、まだ先なの?」


アヤはまわりの風景を見ながらつぶやいた。まわりはもう山しか見えない。

人も住んでいるかあやしい。


「もーちょい!」

カエルは『シカ注意』の看板を見ながら車掌の物まねをしている。


「ごめんなさい。アヤさん。雨の日に遠出してもらって……。」

「いいわよ。今日は暇だったから。」


落ち込んでいるヒエンにアヤは優しく声をかけた。


「ねー、見て見て!キツネェ!」

その時、カエルが窓の外を指差した。アヤ達も窓から外を覗く。


「あら、ほんとね。なんでこんなところにキツネがいるのかしら。」

木々の中をキツネの群れが走っていく。


「この山にはなぜか昔からキツネが多く住んでいると言われています。ですが、昔話などでここのキツネが悪く言われた事はありません。」


ヒエンがアヤに対し答える。


「ああ、キツネはだますとかそういうたぐいの話ね。」

「ええ。どちらかと言えばゴンキツネのようなお話が多いんです。」


「へぇ、そういえばキツネの神様を一人知っているわ。


実りの神様と呼ばれていた……えーと……日穀信智神にちこくしんとものかみだったかしら?皆からはミノさんって呼ばれているわね。」


「ああ、知っている知ってる!あのキツネ耳生えているちょっとワイルドな神様だね!ほら、腹筋われてんじゃん!」


カエルの言葉にアヤは眉をひそめた。


「んん……。でも何にもしていない驚異のなまけものよ。彼は。」

「ああ、そうなんですか?いけないキツネさんですねぇ。」


そこからアヤ達の会話は日穀信智神、ミノさんの腹筋の話になった。話はなぜか弾んだ。気がつくともう降りなければならない駅にいた。


「わっ!ここ!ここ!降りるよ!」

「え?」


カエルが慌てて『開』のボタンを押して外に飛び出す。続いてヒエンとアヤも飛び降りるようにホームに足をつけた。


「ちょっといきなりすぎるわよ!駅名ちゃんと見ておいてよね。」

「ごめんごめん。なんか盛り上がっちゃったからさー。」


「腹筋の話からなぜ肉体美に話がいったのか不思議で考えていたら降りる駅でした……。すいません。」


二人はえへへと頭をかく。アヤはため息をついて気分を変えた。


「で?この駅何にもないんだけど……。」


ホームは半分崩れていてところどころ雑草が生えている。改札もない。もちろん屋根もないため、アヤ達は雨合羽を着ている。


「こういう無賃乗車になっちゃうような駅はいけないと思うんだけどなあ。」

「あ、でもあそこに木の箱が置いてありますよ。」


ヒエンがカエルにこそこそと話しかける。確かに向かいのホームに木の箱が置いてある。木の箱はきのこが生えそうなくらい湿っており所々腐りかけていた。


「ああ、ここに切符をいれろって事ね。」


アヤ達は向かいのホームに行き、切符を箱の中に入れた。箱の中には何も入ってなさそうだった。


ふと横を見ると屋根のついた切符売り場が見えた。券売機には蜘蛛の巣が張っており使えるのか使えないのかわからないくらいさびれていた。


「アヤさん……帰りはわたくしがなんとかしますから!」

ヒエンは目に涙を浮かべながらアヤに頭を下げている。


「いや……うーん。できる事ならお願いしたいわ……。」

アヤは引きつった顔をヒエンに向けた。


ため息をつきつつ、アヤ達は駅から出た。

何と言うか心境が山の中で遭難した気分だ。


ふと横を見ると錆びついた看板が立っていた。文字はほとんど読めないがどうやらこの辺に伝わる昔話が書いてあるらしい。


「昔話?キツネのかなあ?」


カエルが興味を持ったのでアヤ達も看板を頑張って読み始めた。


……むかしむかし、この村にはキツネが多くいました。


キツネは化かすと言われていたのでこの村の人々は何か悪い事が起こってはキツネのせいにしていました。


そんなある日、この村を大飢饉が襲いました。

まったく雨が降らなくなり、作物は枯れました。


村の人たちは食べるものもなくつらい生活をしていました。

そんな時、ある村人が村のど真ん中で沢山の食料を見つけました。


それは山で採れる山菜やどこにあるのかわからない果物ばかりでした。

その村人は不思議に思いました。


作物がとれない時に村の真ん中にこれだけの食料があるわけがない。

村人は慌てて村の人々にこの事を話しました。


村人は言います。


これはキツネが自分達をからかう為に幻をみせているんだ。


毒が入っているかもしれない。

キツネが我々を化かしているのだ。


村人達はそのキツネを懲らしめるため罠を張りました。

しばらくしてその罠に一匹のキツネがかかりました。


キツネは手に食べ物を持っていました。

村人達はこのキツネが犯人であると確信しました。


村人達はそのキツネをこっぴどく痛めつけ逃げ行くキツネに向かい銃をうちました。


その翌日、この村の近くの林で一匹のキツネが死んでいるのを村人が見つけました。


村人はざまあみろと思いました。

でもよく見るとそのキツネはかなりやせ細っています。


歩くこともままならないくらいやせ細った体で人間を化かす余裕があるでしょうか。


そこで村人は気がつきました。


このキツネは自分が食べるはずのものをすべて村人にあげていたのだと。


村人はキツネを抱えると村へと戻りました。


そしてその話を村人達にしました。

村人達はキツネを殺してしまった事を悔やみ、涙を流しました。


そしてそのキツネは村人達により神様として祀られました。


食物の神、実りの神として……


それからというもの、この村でキツネを悪く言う人はいなくなりました。

昔話はここまでだった。そこから先はキツネ神の説明だった。


現在、昔話に残っているハコ村は残っておりませんがキツネ神の信仰はいまでもあつく、このあたり一帯で祀られております。


十月には実りの秋を願ったお祭りも行われております。              

今現在は神社を新しく建て直し、キツネ神様も移動していただいております。


……御祭神、日穀信智神

……千福神社


「ってこれミノさんじゃん!」


「あら、ほんとね。ちゃんと信仰されてるじゃない。

……この昔話ノンフィクションなのね。」


「まあ、こういった類の神様のお話はノンフィクションが多いですよ。人間からするとそうは見られないかもしれませんが。」


アヤ達は雨の中頷き合うと目的地へと足を向けた。


※※


「さーてと……。」


大きなハサミを持った女、草姫は大きく伸びをした。


ここは濃い緑色の葉が特徴的な、木々で覆い茂る林の中。

雨は降っておらず太陽が照っている。


地面はひびわれておりほとんど雨が降っていないようだ。


「……いくわよ~。錨草ね~!……ああ、あの花言葉は人生の出発だから……今の私とはちょっと違うかな~。まあ、いいか~。」


草姫はルンルンと手を振りながら緑深き林へと歩き出した。


……もう、妹の事はいいのに……あの神ったらしょうがないわね~……。


……変わらぬ愛情を永遠に……センニチコウ♪赤いカーネーションはいいすぎよねぇ。


ふふ。


……じゃあ、ヒルガオで……ね?花言葉は……


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