流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー1
相変わらず雨が降り続いている。おそらく梅雨がきたのだ。
かわいらしい緑色のカエルのフードをかぶった少女がフードと同じ色のカエルのぬいぐるみを持ちながら楽しそうに走る。
少女はきれいな金髪と美しい青色の瞳をしていた。
「梅雨がきたよーっ。梅雨がー来たよーっ!」
少女は興奮気味に田舎の田んぼ道を駆ける。
ぬかるんだ土の道を走り抜けると同時に蛙の鳴き声が響きはじめた。
彼女がこんなにも騒いでいるのに農作業している人々は彼女に気がつかない。
ここはまわり山に囲まれたお年寄りが多い小さな村。
ちょっと騒げば皆何事かと家から出てくるそんな村だ。
「あの……。」
少女が騒いでいると隣から控えめな女の子の声がした。
「ん?なあに?誰?」
少女は無邪気にも話しかけてきた者に笑いかけた。
「カエルの神様か雨の神様かわかりませんが……ひとつ頼みを聞いてくれませんか?あ、わたくし、山の神です。
山神……というか木種の神です。
大屋都姫神と申します。
ええと……一応名前はヒエンです。」
大屋都姫神、ヒエンと名乗った女の子は蛙フードの少女に丁寧に挨拶をした。
ヒエンはボーダーのニット帽をかぶり、ピンク色のパーカーに短いスカートをはいている。緑色の髪と瞳を持つ愛嬌のある顔つきの女の子だった。
補足で言うと番傘をさしている。
「ヒエン?スサノオ尊の娘?へえ……あのスサノオ尊の娘か……。
あれ?あたしになんの用なの?ああ、あたしはカエルって呼んで!えへへ。」
カエルフードの少女は自分の事をカエルと名乗ると歯を見せて笑った。
「兄を探しているんです。」
「兄?五十猛神のこと?ゆーめいだよねっ。」
「そうです……。」
「どこ行っちゃったの?」
「それがわからないから頼んでいるのですが……。
あ、痕跡が残っている山はわかっているんですが……。」
ヒエンはカエルのペースについていけず頭をひねっていた。
完全に相談する相手を間違えたという顔つきだ。
「ああ!じゃあさ、とりあえず時神に相談しようよ!あたしも手伝うよ!」
「え?時神ですか?」
「うん!」
カエルは戸惑っているヒエンの手を引くと楽しそうに走り出した。
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「……。で?うちにきたわけ?」
カエルとヒエンの前にひときわ不機嫌そうな顔の高校生くらいの女の子が座っていた。
普通のマンションの一部屋なのだが時計がいっぱいある少し奇妙な部屋だ。
椅子と机は一つしかないため、ヒエンとカエルは床に座っている。
「そうなんよー。あたしは時神のアヤに相談するのがベストだと思っちゃってさー!天才!」
カエルがニヒヒとアヤと呼ばれた高校生くらいの女の子に笑いかけた。
「はあ……私としてはこんな憂鬱な雨の日にやっかい事はごめんなんだけど……。」
「まあ、そんなこと言わない!言わない!」
「だいたい、あなた誰なのよ!」
アヤはカエルに頭を抱えながら叫んだ。
カエルの横でヒエンが「面識なかったんですか!」と驚愕の表情でカエルを見ていた。
「あたし、カエル!よろしく!」
「いや……そういう問題じゃなくて……。」
「まあ、とりあえず彼女を助けてあげてよー。」
「イソタケル神でしょ?スサノオ尊の子供なんて見たこともないわよ。」
カエルとアヤの会話にヒエンが控えめに入り込んできた。
「あの……わたくしも父がスサノオなのですが……。」
「わかっているわ。イソタケル神の妹、大屋都姫神でしょ。」
「ええ……。」
「時渡りしてイソタケル神がいなくなった時を調べるつもりできたんだろうとは思うけど、一度、その山に行ってみないと私もわからないわ。
だいたい時を渡る事なんてできないわよ。」
「別にいいよ!さあ!行こう!今すぐ行こう!」
カエルはいきなり立ち、アヤとヒエンの手を握る。
「別にいいって……ちょっと!ま、待ちなさい!
雨降ってるじゃない!傘とかカッパ着ないと……。
その山の場所はわかるのよね?その痕跡が残っているっていう山!」
「うー……。いいよーそんなの!はーやーくー!」
「あんたねぇ、頼み込んできたのに偉そうじゃない?」
アヤは重い腰をあげるとカッパを出すべく押入れを開けた。
ヒエンは申し訳なさそうにその場に座り込んでいた。
るんるんと歩く若い女。
花がついているベレー帽のようなものをかぶり、花をイメージしたのかフリフリつきの紅色のシャツ、下は足首がすぼまった白いズボン。
手には手袋をしていて如雨露を持ち歩いている。
そして腰には刀のような大きなハサミがぶらさがっていた。
花がついているポシェット、金髪のロングヘアーが女性らしさを出している。
「こんにちは~♪」
女はにこやかな表情で謎の建物の中へ入って行く。古い洋館のようだ。
「なんだ……。草姫か。なんの用だい?」
「あらん❤草姫ちゃんじゃない。どうしたの?」
洋館に入ると二人の男性が女を出迎えた。
二人の男はまるっきり同じ顔をしている。
だが、一人はあきらかに女性だ。でも男性だ……。ん?
「はじめてきたのにーなーんで私を知ってるのかしら~?あれ?まあいいか~♪」
女はあまりそのことは気にしていないようだ。
見回すと洋館は本棚でいっぱいだった。
どうやらここは洋館ではなく図書館らしい。
「で?要件は何よ?」
オネェだと思われる男性が声を発した。なかなかイケメンだ。
「うん~、とりあえず冷林のね~♪」
「はあ?冷林だって?それ知ってどうすんだい?」
男の方が女を睨んだ。
「そんな事を言うのはやめなさい。……いいわよ。草姫ちゃん。」
イケオネェは男を叱った。
男はぶすっと顔を膨らませると本棚の一角を指差した。
「ああ、そこらへんにあるから勝手にみていくといい。」
「ありがと~♪まず、『読む』方からいこうかしら~♪」
女はまたるんるんと指差された方向へと向かった。
「今、お茶でもだすわね。」
イケオネェは急須から緑茶をいれている。
机がたくさんあり、女は席に座りながら本を読み始めた。
その横でイケオネェが微笑みながら緑茶を机に置く。
「ねぇ?何をそんなに読む事があるの?
冷林なんて調べても何も出ないんじゃないかしら?」
「う~ん。まあ、いいの~♪ネコヤナギにねぇ。」
「花言葉……自由ね……。」
女は呑気な笑顔をイケオネェに見せると緑茶に口をつけた。




