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流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー最終話

終わったの?


アヤは白い光をぼうっと見つめた。


心の中ではこれでよかったのかと思っていたがイドさんの決意に対して何も言う事はできなかった。


昔の自分を消すというのはどういう気持ちなのかアヤにはわからなかったからだ。お互い共存するのはむずかしかったのかもしれない。


きっとイドさんもできる事なら共存をと考えていたに違いない。

だからいままで手が出せなかった。


「それから……残念なことに……あなたは別物だと言いますが……魂はこうやって戻って来てしまうのですよ……。僕もあなたと一つになるのは嫌ですがね。」


白い光がイドさんの傷を癒していく。


「何も言いたかねぇが……あんたとあいつは似ていると思うぜ。」

龍様がぼそりとつぶやいた。


「確かにね。……雰囲気がそっくりだった気がするわあ。」

カメもなんとも言えない顔でつぶやいた。


「……そうですか。似てますか。あれとは違うように性格を作り替えたはずなのですがね……。」


イドさんは青と白の世界、天上階をただ見つめている。


「まあ、でもいいじゃねぇか。今、お前は違う龍神なんだから……。」

飛龍もイドさんを乗せたままぼんやりと天上階を眺めていた。


「そろそろ戻るぞ。もう封印はない。竜宮はもとの竜宮に戻る。」

天津は一つ目を細めて一同に語りかけた。


「待つんだナ!シャアウ!」

シャウが声をあげた。


「なんだ?加茂。」

「もう……レジャー施設はやめる気なんだナ?シャアウ……。」


「ああ。もうよいだろう?龍雷に協力するのはもう終わりだ。」

「そんな……。シャウ……。」


シャウはいままでで一番へこんだ顔をしていた。


「不服そうだな?」


「このままじゃ龍雷がかわいそうなんだナ!

いままでやってた竜宮が急に変わったら他の神が原因を探すんだナ!そうしたら必然的にばれちゃうんだナ!シャアウ!」


「お前はどこまでも龍雷の肩を持つのだな。」

天津の言葉にシャウは目を細めた。


「龍雷を守る……これは……先祖の加茂の記憶……シャウの本能なのかもしれないんだナ……。本当はシャウが竜宮のオーナーになって事件前の竜宮に戻したいんだナ……。でもシャウにはできないんだナ。シャウ!」


「自分がいつ死ぬかわからんから私にやれというのか。……あのくだらんものを……。」


「くだらなくないんだナ!アトラクションで皆笑顔になるんだナ!くだらなくないんだナ!それにシャウも若いままでいられそうな気がするんだナ……。シャアウ!」


シャウが天津に対し声を荒げた。


「俺様は……加茂に乗っかるかな。正直、竜宮見ても何がいいんだよって思う。だけどな、ツアーコンダクターの仕事がなくなると毎日がつまらねぇし生活できねぇ。」


龍様の言葉を聞いた飛龍も大きく頷いた。


「そうだねぇ!あたしも戦うやつがいねぇと張り合いがない。何試合もゲームできるんならこのままアトラクションはあったほうがいいなあ……。」


「わちきは……龍神様に任せるさね。ね?」

カメはイドさんをみて微笑んだ。


「天津彦根神……二度も助けていただきとても助かりました。僕は何も望みません。僕はあなたの判断に従います。」


天津は一同の言葉を聞き、ふうとため息をつくと決断した。


「……しかたあるまい。ここに住む龍神を守るためにも私がオーナーになるしかない。またしばらくオーナーを続けよう。」


天津の判断が出たとたんに場がいっきに和んだ。

皆、もとの竜宮に戻る事を望んでいたようだ。


「じゃあ、私は神格が高まった時にでも遊びにくるわね。」

いままで事のなりゆきをみていたアヤが会話に参加した。


「そうだ!アヤちゃんはまだここにこれねぇんだった!」

龍様のつぶやきに天津の眉がぴくんと動いた。


「高天原に入れない神格の者がいるな……。」

「やべぇ!」

「え!ちょっと!いきなり動かないでよ!龍!」


天津の一睨みで龍様が逃げ出した。

上に乗っていたアヤは思わずバランスを崩しそうになった。


「カメ!来るんだナ!このまま現世に逃げるんだナ!シャアウ!」

シャウは飛龍の上にいるカメに手を伸ばした。


「あ……。」

カメはイドさんと飛龍を不安そうに見つめた。


「ほんとはあたしが現世に連れてってやろうとか思ってたけど良い機会じゃねぇ?さっさと行って来いよ。そのかわりすぐに戻って来いよ。」


飛龍は龍様の近くまで飛んで行ってやった。

それでも不安そうなカメにイドさんは言った。


「行って来なさい。僕はもう大丈夫です。あなた達に救われましたから。」


イドさんは笑顔でカメの背中を押した。その流れでカメはシャウの手を掴む。


「ごめんね……。すぐに戻るさね!龍雷様、飛龍様!」

「ええ。」

「イド……。次会う時は普通の出会いを期待しているわ……。」


横からアヤがぼそりとつぶやく。


「そうですね。近いうちにその肩の怪我、治しに伺います。」

「いいわよ。かすり傷だから。」


アヤがそう言った時、天津が追いかけてきた。


「待て!なぜ……。」

「オーナー!気のせいだ!気のせい!じゃーな!」


龍様はそう焦って言うとスピードを上げて逃げて行った。


「まったく……。」

天津はそれ以上追おうとはせずそのままイドさんの横に来た。


「オーナー、僕は一人じゃどうにもならないとわかっていながら一人でなんでもやろうとしました。あなた達の好意をすべて無駄にするところでした。せっかく助けてくれたのに僕はそれを壊そうとしました。ほんとうに申し訳ない。」


イドさんは頭を下げ、天津に謝罪の言葉をのべた。


「べつにいい。あれは竜宮にとっての脅威だった。協力者が現れないと何もできないと私も思っていたのだ。お前が生まれたばかりの時の竜宮はとにかくまとまっておらず、新しい龍神を受け入れるようになっていなかった。だから私はお前が竜宮に入る事をはじめ拒んでいた。


加茂が協力してくれなければ私も自由に動けなかったのだ。今はこうして助け合いができる。

龍神の世は変わり、お前も変わった。それでいいではないか。」


「そう言ってもらえると僕の心の負担も軽くなります。」

イドさんは複雑な笑みを向けた。


自分には頼れる者達がいる。仲間がいる。そう思えるだけでよかった。


いままでは仲間を作ろうとはしなかった。

それ故に手を差し伸べてくれている者に気がつかなかった。利用していた……。


「よく考えたら僕って最低ですよね。」

「悪い面からすればそうなるな。」


天津はふふっと笑った。それを見た飛龍がイドさんをからかう。


「へっ!何言ってんだよ。自虐か?あんたらしくないな。」

「そうですねぇ……。」


飛龍は豪快に口を開けて笑った。

イドさんはそんな飛龍を見ながらそっと微笑んだ。



アヤ達は現世の海の上にいた。

「はじめからこういうワープ的なのがあるのなら使いなさいよ。」


「……そりゃあ無理だぜ。これは一方通行なんだよ。」


海の下には小さな神社が沈んでいた。


「へえ、あれが現世の竜宮さね?さびれているわあ……。」


カメはううと唸っている。

アヤ達はこの神社から外へと飛び出した。


天上階を進んでいた時になぜか鳥居が空に浮いており、そこを潜ったとたんに現世の海にいたのだ。


「楽しかったんだナ!シャアウ!」


シャウは龍様の上で楽しそうに踊っていた。

傷はなぜかきれいに治っている。


龍様はうざったそうにしながらアヤに弁護を始めた。


「いいか?現世で修行中の神がこの竜宮から高天原の竜宮に来れちまったらあのゲートの意味がねぇだろ?だから現世からは高天原にいけねぇようになってんの。」


「……わかったわよ。もう疲れたからとりあえず家の前でおろして。」

龍様は現世の空を駆ける。横でカメがアヤの肩の傷を治していた。


「加茂様!こっち向かない!いいさね!」

「だってアヤちゃんの上半身……シャアアウ!」


カメは興奮しているシャウを甲羅でどかしながらアヤの上着を脱がせ、薬を塗る。


「となりに男神がいるってのは気が気でないわ。うう……ちょっと!この薬痛すぎるわ!」


「アヤにも女の子の感情があるさね!ああ、痛い?ごめんね。」

「女の子の感情って……どういう意味よ……。」

「別になんでもないさね!」

「あらそう。」


二人がこそこそと話していると龍様が声を発した。


「おい、そろそろ陸地だ。俺様達は見えないがアヤは見えちまうから上着着ていた方がいいんじゃねぇのか?宇宙人かなんかに見間違えられたとしても服着てるのときてねぇのとでは違うと思うぜ!ははは!」


下品な笑い声に顔をしかめながらアヤは上着を着た。

しばらく飛行し、あの桜並木まで戻ってきた。


まだお昼前なのか子供達が楽しそうに走り回っている。

アヤ達は龍様から降りた。龍様も人型に戻る。


「で、結局お前は何がしたかったんだよ。現世で。」

龍様が呆れた顔をカメに向ける。


「それは……。」


カメが何かを言いかけた時、後ろからこのあいだの女の子が走り去った。


「あっ!」

カメが心配そうに後を追う。


「あの女の子、竜宮行く前にも呼び止めようとしていたけど何なの?」

「ま、待つさね!」


アヤの問いかけが聞こえていないのか必死な顔でカメは走る。

その後をわけもわからず龍様とシャウがついていく。


「うう……。アヤちゃんの質問に答えるんだナ!カメ!シャアウ!」

シャウの言葉にやっとカメが気づき、口を開いた。


「あの子はわちきがカメだった時に一人、いつも話しかけに来てくれた女の子……。一人で寂しかったんだろうなって思ってたさね。もしかしたらわちきに助けを求めていたかもしれないさね!その子の事が死んでから気がかりで……。」


そこまで言ってカメは立ち止った。


「でもよ、それはずいぶん前の話なんじゃねぇのか?なあ?カメ……ん?」

龍様も足を止め、前を向く。


「違う……。」

カメはそっとつぶやく。そして眼前の光景をただ見つめた。


目の前で美しい女性に飛びつく女の子。

その女性は女の子を抱きしめるとそっと手を繋いで歩きだした。


幸せそうに笑いながら……。


「あの子じゃない……。」

カメはただ茫然と見つめた。


「そうか……。」


きれぎれにカメはつぶやく。


「もう……わちきが心配する事じゃなかったさね……。はじめから……わちきはいらなかったんだ。」

そう言って破顔した。


カメの瞳には女の子ではなくそのとなりで笑っている女性が映っている。


女の子は女性に笑いかけると

「まま。」

とつぶやいていた。


「お前、なんで泣きながら笑ってんだ?」

龍様につっこまれカメは涙をぬぐう。


「月日を考えてなかったさね。……女の子があまりにもそっくりだったから……間違えてしまったさね。彼女はあんなに大きくなって子供もいて楽しそうに笑っているさね。あれからあんなに経っていたんだねぇ……。人間の寿命ってほんと短いね。」


「でも人間は強くてたくましいんだナ!シャウ達をつくったのも彼らなんだナ……。だから期待に応える義務があるんだナ!シャアウ!」


シャウは楽しそうに踊っている。


「まあ、そうだな。お前、たまには良い事言うよな?」

龍様は舞い散る桜の花びらをつまみながらシャウを突いた。


「カメ、解決してよかったわね。」

後ろからのんびり歩いてきたアヤがカメの肩に手を置く。


「うん……。わちきに心残りはもうない。」

カメは桜の花びらの中をのんびりと歩く親子をいつまでも見ていた。


少しせつない顔をしながら……。


「よーし!ちょっと現世バカンスと行こうか!」

龍様がムードをぶち壊し、いきなり大声を発した。


「ちょっと待つんだナ!竜宮はどうなるんだナ!シャアウ!」

「そんなのどうだっていいんだよ!オーナーがいるだろ?」

龍様はシャウの脇腹をオモチャの骨で突く。


「やめるんだナ!くすぐったいんだナ!シャアウ!」

「いいさね!現世バカンス!名所をまわるさね!」


カメも元気になり、皆で勝手に盛り上がっていた。

アヤはふうとため息をついた。


その後に来る言葉がわかっていたからだ。


「で……。俺様達このへんよくわかんねぇから案内してくれよ!な?アヤちゃん!」


「アヤの家を拠点にするさね!」

「おお!お泊りなんだナ!シャウ!」

「いやよ!さっさと竜宮に帰りなさい!」


アヤの言葉に三人は悲しそうな顔になり、デレデレしてきた。


「そう言わずにぃ!」

「いいじゃないかい……。」

「シャアウ!」

アヤは再びため息をついた。


……なんでこう神様って元気でめんどくさいの?


「私、疲れてて寝たいんだけど……。」

「大丈夫!大丈夫!」

「大丈夫じゃないわよ!」


しばらく私に安穏はない……。


アヤは泣きたい気持ちを抑え、人間には見えない神々に引っ張られて行った。


どんどん遠ざかって行く自分のマンションを横目で見ながら再び大きなため息をついた。


安穏の地に帰れるのはいつの事か……。

やれやれ。



昔の自分を見つめ直す事。記憶を思い出してみる事……。

忘れていた自分に出会えるかもしれない。

たまにそういう事を考えてみるのもいい……。

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