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流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー17

―ここには入ってはいけないと私は何度言った?―


―……?―


目に入ったのはオーナーの天津と知らない女の子。

女の子は幼い。

十歳いっているかいってないかくらいだ。


そしてカメと同じような甲羅を持っている。


自分ではないが間違いなくカメだった。

幼くして死んでそのまま龍神の使いになったようだ。


これは古い記憶だ。


あのカメはおそらくもう消えてしまった先代のカメだろう。

だが、配線があるという事はそんなに前の記憶ではないのかもしれない。


―言葉を話せないのか?―


―……?―


彼女は人間と親交があったわけではなさそうだ。

人の言葉を話すどころか何を言っているのかもわかっていないようだ。


―立ってる看板の文字も読めなかったのか……―


―……?―


女の子はなぜか楽しそうに笑っている。天津は龍鞭で思い切り女の子を叩いた。


女の子は吹っ飛ばされ床に転がる。

叩かれた所を抑えながら女の子は泣きじゃくり始めた。


―言ってわからぬのなら身体で覚えてもらうしかなかろう。―


―……?―


女の子は怯えた目で天津を見上げている。


―これが龍の使いか……。勘弁だな……。―


天津が再び鞭を振り上げる。


―やめろよ。―


飛龍の声がした。


―飛龍か。―


天津は階段の方に目を向けた。

階段から今とさほど変わらない飛龍が頭を抱えながら歩いてきた。


―このカメはあたしが言葉を教えてんだ。

それで……教育の一環でここの階段を教えたんだ。―


―なんのためにだ?―


―決まってんだろ?いけないことだって教えるためだぜ。これから怒るんだよ。―


―……いままでその子を監視していたというわけか。―


―ん。そうゆうこった。だからあんたは安心していいぜ。―


飛龍は女の子を抱きかかえた。


―まあ、いい。……時に飛龍。―


天津は飛龍に背を向けて歩き出した。


―ああ?―


―……嘘はほどほどにしておけ。―


天津はそれだけ言うと階段を登っていった。飛龍はヘッと笑った後、つぶやいた。


―ったく、一言多いんだよ。あいつは!黙っていきゃあいいのによ。―


―……?―


女の子は飛龍に抱きかかえられながら首をひねっていた。


―あんた、このまんまじゃいつか痛い目合うぜ?今も痛かっただろ?―


―……?―


飛龍の問いかけに女の子は頭を捻った。

おそらく何を言っているのか聞き取れないのだろう。


―だから……―


飛龍はそっと女の子を抱きしめ、頭を撫でた。

女の子は泣きながら飛龍にしがみついてきた。


女の子と飛龍の心が繋がったらしい。

それを見ながらカメは飛龍の元を思い出していた。


飛龍流女神は母性を秘めている龍神として人々に祀られていた。

温かく生き物を見守り、恵みの雨を降らす。


本当はとても優しくおおらかな龍神なのだ。

そしてその温かさから火の神とも呼ばれた。


おそらく先程、闘技場でシャウの言い訳を聞いていた時も嘘だと見破っていたのだろう。


だがあえて彼女は信じたふりをしたのだ。


……でも怖いさね……やっぱり。

カメがため息をついた時、配線が目に入った。


……そうだわぁ!これを見れば!


カメは記憶が消えないことを祈りながら一心不乱に配線を繋ぎ始めた。

そんなカメを見ながら飛龍はそっと微笑んだ。


「……あんたの事、あたしにはわかんねぇけどよ、カメの方があんたよりも立派じゃねぇかなって思うんだが。」


本能で動いているようなイドさんに飛龍が語りかけた。

イドさんは飛龍に常に襲いかかっている。


「グルルル……。グルァアア!」


「ははっ!そうだ……。逃げんじゃねぇ!あたしに向かってこい!あたしがこええか?まわりのやつらがこええか?あんたはそんな男じゃねぇだろ!」


飛龍もイドさんに牙を向く。二匹の龍は交じり合いながら激しくぶつかった。


「これが最後の配線さね!」

カメは冷や汗をかきながら残り一本になった配線を装置につなぐ。


刹那、眩しい光が制御室全体を覆った。


「グワアアア!」

突然、空気を切り裂くような風がイドさんを貫いた。

イドさんは叫び、急に龍から人型に戻り、膝をついて倒れた。


「オーナーか?」


飛龍ももとの人型に戻る。

イドさんの上には一つ目の大きな龍が気品よく飛んでいた。


「……恩をあだで返すか……龍雷よ……。」

「あ……天津……。」


起き上る事もできないイドさんは苦しそうに身体を這わせる。


「もう動けまい。自分の怪我の度合いもわからないか。」

「……僕は……何を?」


イドさんは元のイドさんに戻っていたが先程までの記憶を失っているようだった。


「ああ?あんた、急に狂ったと思ったらもとに戻ったのか?」

「……狂った?」

「いきなり笑い出してよ……。わっけわかんねぇよ。」


飛龍の言葉にイドさんは頭を捻った。それに答えたのは天津だった。


「龍水天海の気性が龍雷に移ったのだ。元が同じなのだ。自己を保てなくなるくらい追い詰められると龍水天海の気性が出てしまうのだな。」


「……そうですか……。あれはまだ僕の中にいるのですか……。やっとこの性格で落ち着いたというのに……。」


イドさんは目を伏せた。


「……どうでもいいがあんたはその龍水天海を否定するばかりで何もしてないよな?ただ、ここで暴れただけだぜ?」


飛龍はイドさんの前まで歩いてきた。


「あなたは……また僕を怒らせるんですか?」


「馬鹿な男だぜ。言葉の意味をしっかり受け止めろよ。あたしはカメの方が立派だと思うぜ。悪い事はしたがな。」


「……。」


理由はわからないがカメは現世に行きたい一心でこんな事をしてしまった。

それを償う為に必死で自分のやるべきことを探している。


飛龍はその心を褒め、イドさんにもわかってほしいと望んでいた。


「とにかく、龍雷はここにいる事だ。もう動けまい。私はあれをなんとかしてくる。」


オーナーは龍から人型になると颯爽と階段を登って行った。


「ま、待ってください!あれは……僕が!」

「うるせえ!」

イドさんの言葉を飛龍が遮った。


「あんたは少し頭を冷やせ!答えがはっきりと出るまであたしはあんたの側にいてやる。」


飛龍はドカッとイドさんの前に座り込んだ。

カメは震える足で飛龍の側に寄ってきた。


「僕がやらないと……!」

「答えが出たらあたしがあんたを運んでやるよ。」


イドさんはうつむいて黙り込んだ。本当はもうとっくに答えなんて出ていた。

だがそれを口にするにはまだ時間がかかりそうだ。


「あの……。」

カメが控えめに飛龍を見上げる。


「ああ?なんだ?」

「い、いえ……別になんでもないさね……。」


「あんたは頑張ったんじゃねぇの?何したいかわかんねぇけど後で現世に連れてってやるよ。」


「ホント?」


「ああ。気が向いたらな。ははっ!」

飛龍は喜んでいるカメの頭を小突いた。


「痛い!うう……。」


カメは再び飛龍に怯え甲羅に隠れてしまった。

それをみた飛龍はいたずらっぽく笑った。


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