流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー15
竜宮の制御室だと思われるここは今の機械的なものはなにもなく、ただ真っ暗な地下室だった。
シャウが手から光を出しているおかげで彼ら周辺は明るい。
シャウに眼鏡はなく、顔つきも今のシャウよりも精悍に見える。
帽子もかぶっていない。
これはいつの時代のシャウなのだろうか。
―わぁの寿命ももう終わる……わぁは歳をとった。―
今とまったく違うシャウがしゃべりだした。
―あなたは加茂別雷神ですか?―
イドさんがシャウに話しかける。
―そうだ。わぁの雷の力は衰えた。
もう……長くはあるまい……時になぁはこの竜宮に何度足を運んだか?―
―追い出されてから何度も天津彦根に助けを求めるため入り込みましたよ……。
すべて追い出されましたが。ところでなぜここにあなたがいるのですか?―
イドさんはここに忍び込んだ時に偶然、シャウに会ったらしい。
―わぁはなぁを探していた……。
なぁがここから先、存在したいと望むならわぁが力を貸そう。―
―力を……貸す?―
―そうだ……。わぁの力をなぁにあげよう……―
イドさんの顔が曇る。
―それではあなたが……―
―わぁは別によい。なぁが存在する力がほしいのなら……わぁの雷を分け与えよう。のぅ、龍水天神よ。―
―……。―
―なぁの事を知る神々は今後いなくなる。
わぁも生まれ変わる。のう?生まれたばかりの弱神よ……。―
シャウは愉快そうに笑っている。
―あなたは僕が倒されるところをみたのですか?
いや……今は僕と言わない方がいいでしょう。
龍水天海神……が封印されるところをみたのですか?―
イドさんの言葉にシャウが深く頷いた。
―なぁは龍水天海とは違う……。
あれが封印された時に新たに生まれた別人格の龍神……。
なぁにはなぁの生まれた意味がある……。
なぁは恐怖に陥れてしまったあの里をもとの里に戻す使命がある……。
もう一度龍神としての信仰を取り戻し、雷と雨の力で里を潤してやれ。―
―あなたが僕を助けてくれるのですか……。―
イドさんは複雑な顔をシャウに向ける。
―こんな少量の雷でよければなぁにやろう。なぁの覚悟を見せろ……―
―覚悟……。―
―この雷を受け入れる覚悟だ……覚悟がなければ死ぬぞ―
イドさんは顔を引き締めた。
―……あなたが下さるというのなら……僕は……―
―なぁはこれから龍雷水天神となる!―
その直後、イドさんの叫び声が響き、同時に目を開けられないくらいの光りが包んだ。
そこまででアヤは現在に戻ってきた。
イドさんは龍様の攻撃をくらい倒れており、シャウは気難しい顔でただ立っていた。
「いたたた……やりますねぇ……。もう立てません……。」
イドさんの出血量が多い。いままで平然と立っていたのが不思議なくらいだった。
「お前をそこまで追い詰めるのはなんだ?そもそもお前はなんで戻ってきた?」
「それは……。」
龍様の問いにイドさんは詰まった。
「……龍水天海神……あなたがスサノオ尊に封印される前の名前……。」
「なっ……記憶を観たのですか!」
アヤの発言にイドさんは驚いた。
「あなたに時間の鎖を巻きつけていた時に見えちゃったのよ。あなたとシャウは戦いの最中ずっと今の記憶を観ていた。違う?」
「その通りですよ。」
イドさんは立ち上がろうとしたが立てず、そのまま膝をついた。
「龍雷様!動いちゃダメさね!」
カメが慌てて近寄る。
「こ……ここにはあいつが……龍水天海神が封印されていました……。
誰かが封印を解いたんです……。
そのせいで術が逆流した。あいつはその流れに乗って天津を封印したんです。
あなた達が知りたかったのは天津の安否でしょう?
天津はここに封印されていますよ。
バラバラになった配線を元に戻せば逆流した術が元に戻り、天津は復活します。」
「わちきがアトラクションをいじったせいで……。」
「おや?カメがやったのですか?」
「そんなこたあ、どうだっていいんだよ!ここにオーナーが封印されている?」
イドさんとカメの会話を丸無視した龍様が割り込んできた。
「そうですよ。オーナーはずっとここで封印されていただけなんです。
……天津は僕がもとに戻しておきます。
……ですから一度、竜宮から出ていってください……。」
「それは聞けない願いなんだナ!シャウ!」
シャウは動けないイドさんをよそに三ノ丸オーナーの部屋に行ける階段を登ろうとしていた。
「加茂!」
「ここから先にお前がいるんだナ。シャウにはわかるんだナ……。シャウ!」
「あれは僕ではない!」
イドさんの威圧が言葉から発せられる。
「うっ……。」
アヤとカメは思わず膝をついた。
重い……。
とてつもない重さのプレッシャーがアヤにのしかかる。
「大丈夫だ。気を確かに持て。ここには俺様と……加茂がいる。」
龍様が素早くアヤの前に立った。威圧は龍様に向き、アヤの身体が軽くなった。
「龍……カメが……。」
「あいつは大丈夫だ。龍神の使いがこんなんで気絶していたら仕事が務まらないぜ。あいつは服従の印を見せているだけだ。」
カメはイドさんの側で膝をつき、頭を垂れている。
「あれは僕がけじめをつけるんです!
あなた達がどうこうする必要はありません!」
イドさんはゆっくりと立ち上がるとシャウと龍様を睨みつけた。
「そうもいかねぇんだよ!竜宮を早く元に戻さなきゃあなんねぇんだ!」
「龍水天海神をお前ごときがなんとかするつもりなのかナ?
お前程度の力じゃ無理なんだナ。
まわりの龍神じゃああいつに歯が立たなかったんだナ!
だからスサノオ尊に倒してもらったんだナ!違うかナ?シャアウ!」
「……。」
イドさんは悔しそうに下を向いた。
「今のおめぇじゃあ、どっちみち死ぬぜ?
……おめぇはいつもそうだ。
何か一人でいつも抱えているじゃねぇか……。
ちったあ俺様達を頼れ。同じ龍神じゃねぇか。」
「……この歳になってまだ仲間ごっこですか?
……あなた達にはここから踏み入れてほしくないんですよ。
もう少しだけ時間をください。そうすればすべて元に戻りますから……。」
イドさんは龍様をなだめるように言った。
「馬鹿野郎!
おめぇ、そんな余裕のねぇ顔して一人でなんとかしようとしてんのかよ!」
「待つんだナ……。龍。」
「加茂……。」
龍様の怒鳴り声を止めたのはシャウだった。
「龍雷水天も龍水天海も……他人が心に入ってくることを怖がっているんだナ……。
シャウは土足ではなくてちゃんと靴を脱いで入るから安心するんだナ!
シャアウ!」
シャウはにっこり笑うと階段を駆けあがって行った。
「おい!待てよ!加茂!いちいちわけわかんねぇ男だな!あいつは!
……龍雷!お前はそこにいろ!今回は俺様達で解決してやるぜ!」
龍様もシャウに続き走り出した。その後ろを控えめにアヤがついていく。
「イド、私も彼らを手伝うわ。」
「ま、待ちなさい!」
イドさんは走りかけたが思うように体が動かなかった。




