流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー14
「おい!カメ!しっかりしやがれ!」
「う……ん?」
カメは龍様にゆすられて現実に戻ってきた。
カメはうずくまって震えている自分に気がついた。
「カメ?あなたここで何を見たの?」
「お、思い出したさね……。ここで天津様が消えたさね……。」
「ここで?お前はオーナーが消えた所を見たっていうのかよ?」
龍様の言葉にカメは首を横に振った。
「実際には見てないさね……。
配線おかしくしてそこの機械の隙間から外に出たら天津様がいなくなってたさね……。
あと、もう一人、男の声がしたさね。」
「男の声……?」
龍様はさっそく制御室を調べ始めた。シャウは大きな機械を眺めている。
「加茂!お前も調べろ!その男とやらがカギだ。ここに何か痕跡があるかもしれねぇ!」
「シャシャシャシャーウ!シャウにはわかんないんだナ?とりあえず、龍、カメがいじったっていう配線をゴーグルで分析するといいんだナ?シャウ!」
「ああ、そうか!」
シャウの言葉で龍様の顔が輝いた。
今度はアヤに変な感覚が襲ってきた。また例のあれだ。
―こんなとこ入っていいの?―
目の前にまた立花こばるとが映る。
―シャウの記憶にここがなぜか残っているんだナ……。昔から……シャアウ!―
―昔からって?―
―シャウは生まれてまだ数十年なんだナ。でも身に覚えのない記憶が頭にあるんだナ!シャウ!―
―へぇ……じゃあ、先祖の記憶なのかな?―
―たしか……ここに……―
シャウは一本の配線の前にいた。
アヤがもうちょっと見ようとした時、そこで目の前の記憶は途切れた。
現実に戻ってからすぐにシャウを探した。シャウは配線の一つを眺めていた。
……そうか。
アヤは一つの結論に達した。
「シャウ!」
「ん?アヤちゃん?なんだナ?シャウ!」
「あなた、こういう事態にいつかなるってわかっていたの?」
アヤの唐突の質問にシャウはしばらく変な顔をした。
「どういう事なんだナ?話が飛び過ぎてわからないんだナ……シャウ……。」
「あなたは自分の記憶を保存するために立花こばるととここに来た。
違う?あなたも私と同じ記憶をみているんでしょう?私達は関係者だから。」
「……うーん。」
シャウは何とも言えない顔でアヤを見つめる。
「生まれてからすぐの記憶は歳を重ねるごとに消えてしまう。あなたはそれを思い出すために何度も竜宮を訪ねていたんじゃないの?」
「鋭いんだナ……アヤちゃんは……。
シャウは竜宮に記憶を留めておくことができないんだナ。
なんでかはシャウの秘密にあるんだナ!
シャウは若くなくちゃダメなんだナ!
若さをずっと繰り返しているから歴史が残らないんだナ!
それに気がついたのはほぼ最近。
自分で何度も足を運んでいてもあの時の記憶は覗けなかったんだナ!シャアウ!」
「なるほどね……。それで時神である立花こばるとを思い出すカギにしたのね。」
「それは違うんだナ。たまたまなんだナ!
こばるとはシャウの友達だったんだナ……。
よく遊んでいたんだナ!そこでシャウは考えたんだナ。
もしかしたらアヤちゃんと一緒に来たら彼との記憶がみれるカモと!シャアウ!」
「そうなの。」
「ああ、懐かしかったんだナ!
あんなことあったナ、こんな事あったナ……
シャウはここでそれがみれなかったんだナ……。
でもアヤちゃんと来て見れたんだナ!嬉しかったんだナ。シャアウ!
そしたらこばるととの記憶がシャウにとって重要なものだったんだナ……。」
「そう……偶然だったのね。」
シャウはせつない笑みを向けた。
彼のこんな表情は初めてだ。アヤはそこから先、何も言えなかった。
「龍!この配線が怪しいんだナ!シャアウ!」
シャウは遠くで配線を調べている龍様に声をかけた。
「お?それか!よし!今行くぜ!」
「ああ!それさね!その配線をわちきは握っていたさね!」
龍様とカメが慌ててこちらに向かって来た。
龍様はゴーグルでシャウが指差した配線をチェックする。
「……これは……。」
「ん?」
「これはやべぇぞ……。
でっかい封印だ……。結界が張り巡らされている。
お前、これを引っこ抜いたのかよ……?」
龍様がカメを睨みつける。
「え?わからないわぁ……。普通の配線だと思ったから抜いちゃったかも……。」
「ちげぇよ!こんなのお前が抜けたのかって言ってんだ!俺様はこれ抜けねぇよ……。」
「でも普通に……。」
カメは怯えた顔を龍様に向ける。
「きっと神と龍神向けに結界を張ったんだナ。シャアウ!」
「つまり、神と龍神以外は普通の配線みたいに抜けちゃうって事?」
「そういう事なんだナ!シャウ!」
「ぬるい結界だわね……。」
アヤとシャウの会話で龍様がため息をつく。今回何度目のため息か。
「まあ、ここ……カメは絶対に入れないからな。普通。まあ、いいや。……つまり、竜宮のアトラクションを使ってここで何かを封印してたって事だな。」
龍様は頭を抱えた。
その封印していたものが竜宮にいるという事だ。姿を現さないのが不気味だ。
「ああ、もうこんなところにいるんですか。」
いきなり声がした。アヤ達はドキッとして振り返った。
「お前!」
視界に映ったのは銀髪ユルユルパーマの龍神、イドさんだった。
「ここまで入り込んでくるなんて……まあ、予想はしていましたが。」
イドさんは傷を負っているが平然と立っている。
そして何か決意のようなものを感じた。
「龍雷様!」
カメが近寄ろうとしたが龍様に止められた。
「待て!カメ。こいつから殺気を感じるぜ……。」
「そんな!」
「よく見抜きましたね……。実は僕も必死なんですよ。
全員、竜宮から出て行ってもらいます……。
それから、カメ、こちらに来なさい。そして僕を全力で援護しなさい。」
「しまった!」
イドさんの言葉に龍様の顔から血の気が引いた。
「あなたが優しい龍神で困りましたね。彼女になんの命令もしていないなんて。僕にとられちゃいますよ。ほら、こちらに来なさい。」
イドさんは不敵な笑みを浮かべる。
「わ、わかったさね……。龍様……お許しを……。」
「カメ!行くな!」
龍様が慌てて命令をするがイドさんがした命令の方が先だ。
カメは当然イドさんにつく。
「アヤちゃん、今回の僕は敵ですよ。」
イドさんの眼力がアヤを恐怖させた。
「い、イド……。」
「俺様とやるってのか?ここには加茂もいるんだぜ?」
「そうだナ!シャアウ!」
龍様とシャウが前に出る。
「そんなの今は関係ありませんね。僕は僕で戦っているんですよ!」
イドさんは龍様達に向かって走り出した。
「水の槍なら俺様だって負けねぇンだよ!」
龍様はイドさんが水の槍を出現させたので同じように出して見せた。
そのまま水の槍と槍がぶつかる。
……くそ……かってぇ……
龍様はイドさんの力に押されていた。
イドさんはそのまま龍様の腹を思いきり蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
龍様は吹っ飛ばされ壁に激突した。イドさんは龍様に向かい歩き出す。
同時に左手をシャウ達に向け、鉄砲のような水玉を飛ばした。
シャウは咄嗟にアヤを突き飛ばしかわす。
「危なかったんだナ……シャアウ!」
「た、助かったわ……。」
アヤはシャウに突き飛ばされたが怪我はなかった。
イドさんは左手を器用に扱い水玉をアヤ達に飛ばしてきている。
アヤは水玉の時間を必死で止め、止まった水玉をシャウが電撃で斬っていた。
イドさんは左手を動かしながらひるんでいる龍様に向かい歩く。
シャウが水玉を避けながらイドさんに電気を帯びたステッキで殴りかかった。
「シャウ!……っ!」
しかしシャウの攻撃は素早く現れたカメに弾かれた。
「カメ!」
「ごめんねぇ。加茂様。
わちきは龍雷様を守らんといかんのよ。恨まないでねぇ!」
カメは甲羅を思い切り振りきった。
ゴオオ!と轟音が響き、爆風と衝撃がシャウを吹っ飛ばした。
「シャウ!」
アヤはシャウが床に打ち付けられる前にシャウ周辺の空気の時間を止めた。
シャウはぶつかることなく地面に落ちた。
「た、助かったんだナ……シャアウ!」
シャウはすぐに起き上る。龍様はいまだ立てないままイドさんと槍を交えている。
イドさんの身体からは血がポタポタと滴っているがイドさんの力は衰えていない。
「くそ……。つええ……。」
龍様が苦しそうな顔でつぶやく。イドさんは左手をバッといきなり開いた。
そしてその直後、イドさんの手のひらに火花が散る。
シャウの放った電撃をイドさんが左手で吸収したのだ。
イドさんは一応雷神の力も持っているので雷の力にはそれなりの免疫を持っていた。
「あなた達は二人がかり……僕は一人でしかも傷を負っている……。僕の方が負けるリスクが高いんですがねぇ。」
イドさんはうまく横に逃げた龍様に再び水の槍を振るう。
「さて。」
イドさんはそう言うと龍様と水の槍を交えながらアヤに大きな水の弾を投げつけた。
「!」
「アヤちゃん!シャアウ!」
シャウは間に合わなかった。アヤは大きな水玉に身体ごと閉じ込められた。
何か叫ぼうとした口から泡が洩れる。
……い、息ができない!
「こういうのはやっかいな事から処理していくものですよ。」
「あ、アヤちゃん!」
イドさんの瞳は底冷えするほど冷たかった。
カメは少し戸惑っているようだったが何も言わなかった。
く……苦しい……。なんでイドが……こんな……
シャウが焦ってイドさんに電撃を飛ばすが電撃はイドさんの左手に吸収される。
龍様は休まず槍を振るい続けるがすべてイドさんに受け流されていた。
「……こういうのは力じゃないんです。
少し考えれば並みの神でも神格の高い神に勝てるんですよ。
龍、あなたは槍のパターンに規則が見られます。
そして目を見ればあなたがどこを狙っているかすぐにわかります。
そして加茂、あなたはすごい電流を流せますが僕には効きません。
物理攻撃はカメが弾いてくれます。
あと、残りの脅威は時神アヤのみ。
そのアヤちゃんも今はあれです。頭を使えばいいんですよ。」
イドさんは水の槍と共に打撃も繰り出している。龍様は押されていた。
……頭を使う……
アヤはそれで閃いた。いままでやってきたことをやればいいのだ。
こんな状況で苦しい苦しい言っていたら気絶するか死んでしまう。
……ここは竜宮だ。時間をいじる事は可能。だから、一回水玉の時間を止めて……
アヤは水の時間を止めた。
急に窮屈になり身動きできなくなったがアヤは次の行動に出る。
……時神がいじった時間は時神のものだ……。
禁忌だがここは竜宮だ。なんとかなるだろう。
アヤは鉄のように固くなった水の時間を巻き戻した。
大きな水玉が目の前に現れ、まだ水をかぶっていないアヤにぶつかってくる。
アヤはそれを横に避けてかわした。水玉はボールのように壁にぶつかり消えた。
「ふう……。」
「アヤちゃん?」
シャウ達は何が起きたかわからないようだ。わかるわけない。
これは時神にしかわからない事だ。
「私は大丈夫よ。……彼が教えてくれたのよ。」
アヤはイドさんにそっと目を向ける。
「僕は何も教えていませんよ。アヤちゃんは色々と鋭い所がありますよね。」
「よく言うわ。」
アヤは余裕のない笑みを浮かべながらイドさんを睨む。
「余裕かましてんじゃねぇぞ!」
龍様がイドさんに向かい、何かを振り回した。
イドさんは咄嗟に横に避ける。
しかし、イドさんが避けたのは水の槍ではなかった。
水の槍は右手に持っている。薙ぎ払ったのは左手だ。
「ん……?それは柄杓?」
「そうだぜ!俺様は水の槍と柄杓の二刀流なんでぇ!」
龍様は片方の手に持った水の槍を逆方向から薙ぎ払った。
イドさんは柄杓を避けたばかりで身動きができず水の槍にあたり、吹っ飛ばされた。
「な、なるほど……。僕が避けたのは柄杓でしたか……。いつの間にそれを持ったかわかりませんが見事です。」
イドさんは壁にぶつかる瞬間に足を壁につけそのまま龍様に突っこんできた。
「どんな瞬発力してんだよ……てめえは!」
「僕には龍の血が流れています。そしてあなたも。身体能力は高いはずですよ。」
イドさんと龍様の水の槍が激突する。龍様はイドさんの打撃を柄杓で防いでいた。
イドさんは先ほどの攻撃で傷が開いたのか滴る血の量が増えている。
シャウはサポートにまわっていた。
イドさんの気をひかせるために雷を四方八方から出現させ攻撃。
イドさんはそれを受け止め、受け止めている間にカメが龍様の攻撃を防ぐ。
どちらも最良の攻防だ。
「私には何ができるのかしら……。」
アヤが作戦を考えていた時、シャウとイドさんの様子がおかしい事に気がついた。二人とも動きが鈍っている。
……今なら……イドの時間を止められる!
アヤは時間の鎖をイドさんに向けて放った。
「なっ!」
イドさんは驚いて立ち止った。
「隙あり!」
龍様が水の槍をイドさんに向け振りかぶる。そこでアヤにあの感覚が襲ってきた。
……また……またこばるとの記憶?
そう思ったが違うようだ。目の前にはイドさんと……シャウがいた。




