流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー10
ここは三の丸。オーナーの部屋。
特に何かあるわけではなく畳に座布団、机のみ置いてある。
「お前はあの時、加茂に救われたんだったなあ?」
「一体いつの話をしているんです?」
龍水天海が距離をおいて座っているイドさんに笑いかける。
「またも加茂がやってきているなあ?」
「今回は関係ありませんよ。彼は私用で来たみたいですから。」
「嘘をつくな。」
龍水天海がやけに低い声を出し消えた。
そしていつ移動したのか気がついたらイドさんの前で仁王立ちしていた。
「嘘じゃないですよ。あなたは僕がけしかけたとか思っているようですが彼はたまたま来ただけです。……っう。」
龍水天海がイドさんの腹を思い切り蹴り飛ばした。
「薬は誰に塗ってもらったんだあ?ああ?」
「か……カメですよ……。龍神ですからカメを呼ぶのは当然でしょう?」
イドさんはこちらを睨みつけている龍水天海を腹をおさえながら見つめる。
イドさんの腹の傷は傷口が開いたのか血が滴っている。
「お前!拙者の事を話したのか?」
龍水天海はまたもイドさんを蹴り飛ばす。
イドさんは痛みに顔をしかめながら苦しそうに口を開いた。
「は、話しているわけないでしょう……。」
「じゃあなんでカメの他に加茂と流河が来ているんだあ?」
「加茂の考えている事はよくわかりませんがツアーコンダクターを呼んだのは竜宮城に入りたかったんでしょう?」
「なんで奴らは竜宮に入りたかったんだあ?」
「簡単な事ですよ。竜宮が閉鎖されたからです。
閉鎖されたら心配になるでしょう?」
「……!?」
イドさんの言葉に龍水天海の顔から血の気が引いた。
「あなたは一体何に怯えているんです?
前オーナー、天津を消した時もアトラクションがおかしくなり怯え、竜宮を閉鎖したでしょう?
で、今度は竜宮が閉鎖されたことを心配した者達が乗り込んできている事に怯えている。
僕はあなたの心を読むことはもうできません。ずいぶん前の事ですからね。」
「黙れよ。奴らが来たらお前が始末しろ。いいな?わかったよなあ?」
龍水天海は嘲笑しながらイドさんを蹴り続けた。
「さて。この怪我どうしたもんかな。困ったもんだぜ。動けねぇ……。」
龍様は闘技場の真ん中でへたり込んでいた。
シャウも同じくらいのダメージを受けたはずだが彼はとても元気である。
「加茂様は化け物さね……。」
「シャアアウ!」
カメは重い傷口をなんとも思っていないシャウをオロオロしながら見ている。
「怪我か……。やっぱり私がやるしかないのかしら。」
アヤは一人迷っていた。
自分の身体をいじる事は十五分程度なら可能だが他人は難しいかもしれない。
自分は時神なので歴史は止まっているが彼らの歴史は常に動いている。
歴史のつじつまを合わせるのが大変なのだ。
故に時神は他人の時間をいじる行為はできないという事になっている。
アヤはうーんと唸っていたがなにげなく見た龍様の頭にHPのゲージがまだあったのを発見し目を光らせた。
「一か八かね……。」
アヤは先ほどと同じくゲージに鎖を巻きつけていった。
しばらくしてゲージをいったん消し、また出現させる。
「おお!」
龍様の顔は輝いていた。
体の傷はきれいさっぱりない。隣で楽しそうなシャウも傷が消えていた。
もうゲームは終わったものだとばかり思っていたがまだ続いていたらしい。
それが幸運だった。
アヤが行った時間の巻き戻しは成功したのだ。
「う、うまくいったわ……。それより竜宮ってどういう仕組みなのかしら?ゲージの時間を戻しただけで体中の傷が治るなんて……。」
「それにはあたしが答えてやるぜ!ははっ!」
アヤの独り言をひろったのは飛龍だった。
飛龍は先ほどとは違いとても元気だ。機嫌も直ったらしい。
ついでだからとアヤが一緒に飛龍のゲージも回復させてやったからだろう。
「竜宮は歴史そのものと言っていいんだぜ!
常に歴史を放出しているんだ。つまりずっと過去を見せ続ける。例えば時神でいくか。
時神アヤ、お前がここに来た時、お前はお前の関係者の歴史を見る事ができる。
見る事ができる範囲は竜宮の中で過ごしただけの時間だ。
竜宮に来る前とか竜宮から出た後の事はわからない。」
「へえ。だから私にはさっきから先代の時神が見えるのねぇ。」
「そうだぜ。それもここでの観光スポットのひとつだ。
過去自分の先祖とかがここ、竜宮で何をしていたのか歴史の管轄を丸無視してみる事ができんだよ。
竜宮は人間が想像した幻想だからな。本来ない建物だ。
だからこんな、歴史を放出し続ける建物になったのかもな。」
飛龍はふふんと唸った後、付け加えた。
「で、ここは歴史を常に放出しているわけだから時間の感覚が狂っている。つまり、お前は好き勝手に時間を操れるわけだ。
まあ、それも色々範囲があるけどな!」
「なるほどねぇ……。」
アヤがため息をついた。それを見た飛龍はまた付け加える。
「あ、それとな。龍雷がまったく竜宮に戻らなかったのはそれも原因らしいぜ?」
「ああ、そういやあ昔、あいつ人間を大量に殺戮したらしいな。
そんでスサノオ尊に封印されたんだろ?」
途中で龍様が話に加わってきた。
「まあ、それは噂だぜ?もうそれを証明できるやつはいねぇんだよ。」
飛龍はアヤ達を見回しながら笑った。
その中、シャウだけは珍しく真面目に飛龍を眺めていた。
「シャウ?どうしたの?」
アヤは心配になりシャウに話しかける。
シャウは我に返ったのかハッとこちらを向いた。
「なんでもないんだナ!シャアウ!」
シャウは突然にもとのシャウに戻った。
……今の顔は……龍雷……イドについて何か知っている顔ね……。
ん?まって……。りゅういかづち……いかづち……?
そういえばなんでイドさんは雷神の力を持っていないのに雷の字がつくの?
……まさかシャウと何か関係が……
「でよ、よく間違われるんだが人間が言っている方の竜宮城じゃねぇからな。ここは。人間の言い伝えで残る竜宮は現世の海の中にあるぜ。……って、聞いてんのかよ!時神!」
飛龍に呼び掛けられアヤの思考はもとに戻ってきた。
「ええ。聞いているわ。」
「ほんとかよ?……まあ、いいか。表の竜宮は現世に、裏の竜宮は高天原にあると考えてくれ。で、龍雷は記憶を思い出す事を極度に嫌っている。つまり、竜宮はやつにとっていたくねぇ場所の一つっていうことだ。
ちなみにこの裏の竜宮は初の龍神が誕生した時にできた建物だ。
あいつが殺戮をしていたと仮定してちょくちょく竜宮に足を運んでいたなら昔の自分が映ってやなんだろうなあ。あいつが生まれた時にはもう竜宮はあったからな。」
飛龍は楽しそうに笑った。
「あなたは何をしていたの?」
「え?あたし?……あの時のあたしはなんだかわからず人間に祀られていたな。そういえば。あんときは地域信仰で細々としてたっけね。」
「そうなの。けっこう生きているのね……。」
「まあ、そんなもんだよ。じゃあ、話はここまでにするぜ。一応あたしは負けた。だから通っていいぜ。先に行きたいならな。」
飛龍は先に続く階段を指差してにやりと笑った。
カメがさきほどからやけに静かだと思ってみてみると彼女は立ったままお休みタイムに入っていた。カメはまもなく飛龍の眼力で起こされる事となった。
「カメ!てめぇはあたしの話は興味なしか?ええ?生意気なんだよ!」
「え?ええ!はわわわ……飛龍様……おゆるしをぅ……。」
カメは甲羅に隠れつつ怯えていた。
彼女は世渡り下手というのか……素直すぎるのか、色々損をしているような気がする。
「ああ、もうわかったわよ。通してくれるならさっさと通るわよ。」
アヤは階段の方に歩き出した。階段付近にはもうシャウが立っていた。速い。
とてつもなく速い。さすが雷といったところか。
しかも加茂別雷神の別雷の意味は若い雷のこと。
若い雷だからこそ元気なのか。
……彼はいったいいくつなのかしら……別雷は若くなくてはならない……。
つまり彼も姿をころころ変えているという事なのか……。
明治の時代から生きている事はわかっているがその他はまるでわからない。
「シャウ……。」
「何だナ?シャアウ!さっさと先に……。」
「あなたは一体どういう仕組みなの?」
「……。」
シャウは珍しく黙り込んだ。
「転生……しているのね?」
「そうだナ。シャアウ。シャウは時神のシステムとほとんど同じだヨ!ただ、神格が生まれた時から高いってだけなんだナ!シャアアウ!」
時神の歴史は止まったままなので歳をとる事はないが自分よりも強い力を持つ時神が現れた場合、力は強い時神に流れ込む。
時間の力を失っていく先代はやがて人間が持つ歴史の力が流れ始め、いままでの時間が逆流して唐突に死ぬ。
人間は生きて百年だ。時神は百年までは力の強い時神のままでいられる。
後は強い時神が現れるか運となる。
現れなければ長く生きられるしすぐに現れてしまったら百年足らずで死ぬ。
時神はそういう生死を繰り返しているのだ。
先代は五百年生きた時神だ。
五百年たった後にアヤという力の強い時神が出てきたので先代は消滅した。
それとシャウのシステムが一緒なのか。
「加茂別雷神は自分が老いたと感じた瞬間に消滅するんだぜ。
そして新しい加茂が生まれる。加茂別雷神は常に若い雷でなければならないからな。」
龍様がふんふんと鼻を鳴らしながらアヤを追い越し歩く。
「でも加茂様はまだまだ若いさね!」
カメも慌てて後に続く。
「そう……なの。」
アヤも階段に向かって歩き出した。
後ろではニヤニヤ笑っている飛龍がひらひらと手を振っていた。




