流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー3
任意ではないツアーが始まった。
ツアー内容は竜宮城観光ツアーらしい。
しかしタダなので龍様はてきとうである。
「ああ、そこにうまい店あるけど今急ぎだから却下にするぜ!
今日は宿ねぇとこになるがいいよな?
俺様はカメでも犯すとして、ああ、アヤちゃんは寝てる時にでも触って……。」
カメは龍様の言葉に蒼白になり、アヤはあからさまに嫌な顔をした。
「りゅ……龍様……!」
「ああ?冗談だよ。冗談。だが魔がさす事もあんだろ?男だかんな!うへへ。」
龍様はカメにデコピンをする。アヤは少々の恐怖を覚えた。
こういう事を軽々と言える男は実際行動に起こす事はほとんどないが野宿となると若干不安だ。
しかも、今さっき会ったばかりの男だ。安心はできない。
「アヤちゃん!大丈夫だナ!シャウ!彼はエロ本とか顔を真っ赤にして読むタイプの男だヨ。そんなに見せたらダメだろ!この女恥を知らない!シャウ!」
「うっるせぇよ!てめぇは!そういう事言うんじゃねぇ!かっこわりぃだろうが!男は少し悪の方が……。」
龍様はシャウの頭をグリグリとまわす。
「こないだ現世のエロ本拾って龍に見せたらおもしろかったナ!布が少なすぎる!って。シャアアアウ!」
シャウは楽しそうだ。
「だから黙れって!お前なんてこうしてやる!うりゃうりゃ!」
龍様は骨のオモチャでシャウの鼻をくすぐる。
「ああ!やめるんだナ!電気が……。」
「あ。やべぇ。」
龍様がつぶやいた時、シャウがくしゃみをした。
ただのくしゃみならばかわいいものだったが彼の身体からはくしゃみと共に電流が流れた。
電流は地面に亀裂を入れながら近くの家を破壊して通り過ぎた。
「……。」
アヤとカメは言葉を失った。当たっていたら笑いごとではない。
「おお……誰も住んでねぇ空き家でよかったぜ……。てめぇ!あぶねぇだろうが!電流ためてんならためてるって言えよ!」
「これからの争いに備えてためといたんだナ!でも今ので四分の一なくなっちゃったナ!シャウ!シャウ!シャアアアウ!」
どうやらシャウはシャウと叫ぶ事により電流をためられるようだ。
一体どういう体の構造をしているのか神様は奥が深い。
これは別の事を心配した方がいいようだとアヤは思った。
しばらく色々な店をすっ飛ばして歩いた。
本当は竜宮城に行く前に色々な店を物色するツアーのようだが今はそれをすべて飛ばしている。
ひたすら歩くだけなのでつまらないのはそうだが竜宮城がやばい事になっているらしいのにこの緊張感のなさはなんなのか。
「それより、竜宮城がどうとかって言ってたけど。」
アヤは不明な点を聞こうと龍様に話しかける。
「アヤちゃん、竜宮城は観光名所でいっぱいアトラクションがあるんだけど今、オーナーの天津彦根神がいなくなってよ、アトラクションが勝手に動き出しててけっこーあぶねぇ事になってんのよ。
だからデンジャラスなんだぜ!だからタダ。サービスなし!」
龍様はなぜか胸を張って話した。
「なんでえばってんのよ……。」
「つあこん失格だナ!シャウ!」
ツアーコンダクターを勝手に略したシャウはステッキで絵を描きながら歩いている。
「龍様、それはどういう事なのさ?」
カメは何かに怯えるように龍様の話を聞く。
「カメ、てめぇそんな事も知らなかったのか?やっぱ、お仕置きが足らねぇか?その甲羅奪ってやろうか?ああ?」
「ひぃい。それだけはカンニンしてぇ……。甲羅なくなったらすっぽんになっちゃうじゃないかい……。」
「ちょっとはずしてみろよ!うりうり!骨背中に入れてやろうか?おりゃおりゃ!」
「ああ!やめてぇ❤カンニンしてぇ❤」
龍様はカメの甲羅をはずそうとしており、カメは悩ましい声をあげてもがいている。
……話が進まない。
シャウはなんだかわからない絵を描きながら満足げに頷いている。
おそらく馬だろう。下手すぎてよくわからない動物になっている。
……誰か話を進めて!私を助けてちょうだい……。
アヤは神様に祈ってしまった。
「で?結局竜宮城のオーナーがどうなったのよ!」
祈っていてもしかたないと思い、アヤは無理やり話を戻した。
「天津彦根神、オーナーは誘拐されたんじゃねぇかって言われてるな。」
龍様はカメの甲羅に骨を押し込みながら答える。
「誘拐?」
「あれほどの神が誘拐なんてナ!シャウ!」
シャウの言葉に龍様が顔を曇らせた。
「んー、オーナーは力を失ってんらしいぜ。
龍神の間でオーナーの気を感じとれねぇ。
なんでだかは知らねぇけどな。そこのカメがしばらくの間、行方不明になってたせいで俺様達は情報の交換ができなかったんでぇ。
だからオーナーが竜宮の自分の部屋にいるのかいないのかすらわからねぇ。確認のしようがねぇから一応誘拐って事で話がまとまってんだ。まったく最悪だぜ。」
龍様はまたカメをいじりだす。
「こっそり現世に行った事はあやまるよ!わちきもちょっと現世で用が……。ああ!カンニンしてぇ……❤」
カメは龍様に頬をはさまれモニュモニュ動かされている。
「とりあえず目指すはオーナーの部屋だナ!シャウ!いるかわかんないけどナ!シャウ!」
シャウは元気に走り出した。
龍様は呆れながらカメは半泣きで後に続く。アヤもしかたなしに後に続いた。
暗い部屋の中……どこだかわからない。
銀髪ゆるゆるパーマを肩先で切りそろえている男が鎖に繋がれていた。
整った顔立ちのその男は力なく笑った。
神々の正装、和服はボロボロだ。
上は青の着流しに緑の羽織、下は黒の袴なのだが所々血が滲み黒く変色している。
「まったく……僕をこんなにしてどうするつもりなんですか?」
銀髪の男は覇気のない声でつぶやく。
「龍雷水天神……呑気だなあ。自分がどういう状況かわかっているのかなあ?」
銀髪の男、龍雷水天の他にもう一人、オレンジ色のストレートな髪を腰あたりまで伸ばしている男が声を上げ、あざけるように笑った。
頭には双龍の冠をかぶっており赤色の水干袴を着ている。
「まさかあなたが出てくるとは……龍水天海神。こんなに痛めつけられたのは久しぶりです。」
龍雷水天はオレンジの男、龍水天海を懐かしそうに見つめた。
「神々の中で神格が上でもお前は龍神の中では中くらいだなあ。お前は力を失いすぎているからなあ。」
龍水天海は手から出した龍鞭で龍雷水天を痛めつける。
龍は龍水天海の手の上で鞭のようにしなり龍雷水天を打った。
弾ける音と共に響く龍雷水天の苦痛の叫び。
「……これは……一体なんのマネです?はあ……はあ……僕を殺すつもりなんですか?……この拷問めいたもの……痛すぎるんですけど。」
龍雷水天は痛みに堪えながら龍水天海を見上げる。
「ずいぶんと余裕なんだなあ。竜宮城のオーナーはもういないんだ。
今こそお前が竜宮城を支配するべきだろぉ?
どれだけひん死にすりゃあ言う事聞くんだよぉ。」
龍水天海はまたも龍雷水天を打つ。
龍雷水天は痛みに悶え、体には鞭痕が絶えず重なる。
「言う事を聞けって?無理言わないでください……。僕も色々背負っているんですよ。こんだけボコボコにされて鎖に繋がれて龍鞭で打たれて……いい事最近ありません。というか、あなたがオーナーになればいいでしょう?」
「お前は知っているはずだ。拙者がオーナーになれない理由をなあ。これは今のお前にしか頼めないんだなあ。そんで。」
龍水天海が不敵な笑みを浮かべる。
「なんです?」
「天津彦根神、どうしようかなあ。」
「これ以上はやめなさい。」
龍雷水天の言葉に龍水天海はおかしそうに笑う。
「何言ってんだあ?これからがおもしろいだろお?」
「……。」
「お前がこうやって聞き分けがないと身体に傷がどんどん残る事になるんだがなあ。」
龍水天海は龍雷水天の頭に足を乗っけて踏みつける。
龍雷水天はギロリと龍水天海を睨みつけた。
「だから……いい加減にしなさい!」
「すっげぇ言雨だなあ。」
龍雷水天から威圧、言雨が降りまかれる。
口から発せられる気が雨のように降り注ぐことからこう呼ばれるようになった。
しかし、その威圧も龍水天海にはきいていないようだ。
勝てないと悟った龍雷水天は従う事に決めた。
「……まあ、いいでしょう。これ以上騒ぎになったら大変です。
オーナーになってあげますよ。
オーナーと言ってもどうせあなたのお人形さんになるだけなのでしょう?
しばらくつきあってあげますよ。」
「お?いきなり聞き分けがよくなったなあ?
はじめからそう言えばよかったんだなあ。
そしたらこんなに痛い思いしなくても済んだのになあ。
そして拙者の存在も隠してられるなあ?」
「……。」
龍水天海の笑い声が暗い部屋に響き渡っていた。
……そうですね。彼が表に出るのはまずいんですよね。
今は従ったふりをするのが得策か……
そしていつか……あなたを……
龍雷水天は目をそっと閉じた。




