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流れ時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

彼女はある田舎の小学校、三年二組の水槽に住んでいた。


三年二組の生徒達は彼女を可愛がり、彼女は毎年変わる教室をただ眺めていた。


子供達が大きくなって何度も同窓会で彼女の名前は呼ばれた。


「先生!あのカメ子元気ですか?ああ、まだ元気なんだ!」

「せんせー!ミドリ元気?うわ!ちょー元気じゃん!うける!」


と毎年彼女の名前は変わる。


彼女自身も何年も前に別れた子供にこうやって会うと言うのは不思議な気持ちだった。


人はこんなにも成長が速いのか……

本当に儚い生き物だ……。


ずっとそんなふうに考えながら今いる子供達を眺めていた。


彼女をここに置いた先生とやらはおらずもう別の先生に変わっている。


今の子供達、先生にはなぜ彼女がここにいるのかわからない。


三年二組に昔からいるから飼っている……そんな感じだ。


彼女は「まだ元気なのか」から「いつからここにいるのだろう」に話題が変わっている事に気がついた。


「このチャーリーちゃんはいつからここにいるんだろうね。」


小学生達は彼女を見ながらそんな話をする。

彼女は自分が今何歳なのかよくわからなかった。


いつだったか毎日飽もせずに彼女に話しかける子供がいた。


大概の子供は最初の一日だけ物珍しげに見るだけだ。後は生物係とかいう係が


「はやく外でサッカーやりてーな」


とか言いながら水槽を洗ったりしているだけだった。


あれは今思えば本当に珍しい事だった。その子供は三年二組を出るまで彼女に話しかけ続けた。


だがあの時はただ珍しいと感じただけだった。そんなに深く気にも止めなかった。


そのうち、彼女は自分がとても老いている事に気がついた。死期が近づいていると悟った時、ふとその子供の事を思いだした。


今あの子はどうしているだろう。

見た所友達と呼べる存在はいなさそうだった。


そうか……だからこそ自分に話しかけてきたのだ。


なんで気がついてやれなかったのだろう。


あの子の言葉に耳を貸してやらなかったのだろう。

彼女はそう思った。


そう考えるとあの時、何もしてやれなかったのが急に心残りになった。


……あの子は今どうしているのだろう?一人で寂しがっているのだろうか?


一度でいいからあの子をもう一度見たい……。困っているのなら助けてやりたい……


そんな事を考えた夕方、彼女は眠るように死んだ。



「シャウ!」


目の前に変な男が立っている。

アヤは無視して歩こうとした。


「シャウ!」

しかし男はまたアヤの前に立ちふさがる。


アヤは高校生だ。

人間の歳でいえばだが……。


実は彼女は時の神。神格は低いが神様だ。


人間の時間を守るのが彼女の役目だった。

ただ見るだけで何もできない。


時間を止めたりすることは基本できない。

だから、自分の時間も動かせない。


故に歳をとらない。

時の神は人間から徐々に神格を高め、神様となる。


アヤは神様になってからまだ一年しかたっていない。これから歳をとらないにしても彼女はまだ高校生である。


で、この男だが奇妙な格好をしている。

シルクハットにワイシャツ上から着物を着込んでいる。下は袴だ。


髪は肩先で切りそろえてあり丸眼鏡が光に反射している。


「シャウ!」


男は奇妙な掛け声でアヤの前を塞ぐ。

なんなんだこいつは。


間違いなくなんかの神なのだがめんどうくさいので無視していた。


……春になったから変な神様が出てきたのかしら……


アヤはそんな事を思いながら再び歩き出す。


「シャウ!」


男はまたアヤの前を塞ぐ。

いい加減にイライラしてきた。


「なんなのよ!あんた!」

「あ、やっと気がついたナ!シャウ!」


男は持っていたステッキを地面に刺す。


「用があるなら普通に話しかけなさいよ。」


「桜がきれいだナ!ここは桜並木だナ!シャアウ!」


男はステッキを今度は咲いている桜に向かいビシッと突き上げた。


今は四月だ。入学式シーズンだ。

ここは巷で有名な桜の名所。


川辺に並んだソメイヨシノがきれいに咲きほこっている。桜は長くはもたない。


アヤはきれいなうちに花見をしにきたのだ。


そうしたらこんな変な男に出くわしてしまった。


「どこの神様か知らないけど私に用なの?」

「カメを探しているんだナ!シャウ!」

「カメ?」


「あ、それと紹介がまだだナ!シャウは加茂別雷神かもわけいかずちのかみだナ!シャウでいいヨ!シャウ!」


……シャウって一人称だったのね……。

それにしても加茂別雷神とは有名な神様が出てきたものね。


雷神は雨をもたらす神と言われている。

そして雨は川へ流れ龍神の管轄へと入る。


その後、川を流れた雨は作物を潤す。

それから木種の神や農業の神へと渡される。


雷神は雨を必要とするものにとって大事な神様だ。


「で?シャウ。カメは見てないわ。」

「マジか!残念だナ!シャウ!」


シャウの顔は精悍な青年なのだが話し方などでイメージが沸きにくい。


……カメを探している雷神……。という事は龍神になにか問題でもおきたのかしら。


雷神は龍神と仲がいい。

そしてカメは龍神の使いだ。


そんな事を思っていた時、上空から桜の花びらと共に京都の舞妓さんみたいな女が落ちてきた。


アヤは驚いて後ずさりをした。シャウはアヤを不思議そうに見つめ、ふっと後ろを見た。


刹那、シャウの身体に女が激突した。

女はシャウの上に覆いかぶさるように倒れた。


シャウは……生きているか不安だ。

女の頭にささっていたカンザシがシャウの脇腹に直撃していたのをアヤは見ていた。


「ちょっと……大丈夫?」

「いたたたあああ……。」


先に聞こえたのは呑気な女の声だ。

女はゆっくりと起き上る。


「あなた、カメね。」


アヤは一発でわかった。


背中にリュック型の甲羅があるし、着物の裾にはカメと流れる水の絵が描かれている。


眉はマロ眉で目はぱっちりしている。パッと見、すごくきれいな女性だ。


カンザシもとても良く似合っている。


「どうしてわかったのさ……。」

カメはさばさばと答える。


「いや……単純に恰好で……。」


「しまった!ばれない恰好を模索してきたってのに!これだからわちきは!」


またこれも外見と風貌があっていない。


「シャウ……?カメだト……。」


シャウはカメにつぶされているが生きているようだ。反応して動いている。


「あれ?あんた誰?なんかごめそ。どくわ。」


カメはシャウから降りた。

シャウはよろよろと起き上る。


「痛い……ものすごく痛いナ!シャウ!」

「ごめんってあやまったじゃないかい。って……か……加茂様……。」


カメは今度、土下座する勢いであやまった。


「なんだ……豹変はやいナ!シャウ!」

「龍神達には言わないで!お願い!一生の!」


「現世に来ちゃった事か?シャウ!」


シャウはステッキを座り込んでいるカメに向ける。


「最悪だよ……。いきなり加茂様に会うなんて……ああ、これは終わった感じだね。


連れ戻されて龍神様達からお仕置きだよ。わちき……すっぽん鍋だよぉおおお!」


カメは頭を抱えながらぶつぶつつぶやいている。


……すっぽん鍋って……カメじゃないの?


アヤはそう思ったがめんどうくさかったのでつっこまなかった。


「シャウがお仕置きしたいナ!なんで龍神の使いがこんなにかわいいんだ!シャウ!」


「わちきってかわいいのかい?嬉しいじゃない。龍神にそんな事言われたことないよ。」


「ちょっと勝手に盛り上がっているけど私帰ってもいいかしら?」


二人がなんだか盛り上がっているのでアヤはとっとと帰ろうとした。

余計な事には首を出さないと決めている。


「ちょっとまってよぉ……。」


行こうとしたら謎にハモった二人から手を掴まれてしまった。


「何よ……。」


「シャウは龍神の中で起こっている事件を調べててナ!時神ちゃんが一緒に来てくれたらナとか思ったり。シャウ!」


「思わなくていいわ……。」


「それでわちきを探していたのかい?

龍神達に何かあったの?


わちきは何にも知らないよ。わちきは人間界に用があっただけさね。私用だけど。」


カメは唸る。


「私用はまずいんじゃないかナ!龍神達はカメちゃんを探してた!シャウ!」


「えええええ!これはマジでわちきやばいわ!ボッコボコ確実だわ。」


「龍神達はあなたをボコボコにするの?」

ひたすら怯えているカメにアヤが質問した。


「いや、わからないんだわ。

いままで逆らった事ないし……。


でもな、神々の使い鶴とは違い、龍神の使いカメは口答え許されないんだわ。


だから怖い。怖すぎておもらししてしまうわ。」


「殿様天下ってとこかしら?」


「時神様!なんか優しい龍神様知ってないかな?わちきをその龍神様の命令を遂行しているという事にして今の事態をなんとか……。」


カメは必死だ。アヤには一人だけ龍神に心当たりがあった。


「ああ。一人だけ知っているけど。」

「誰?」


龍雷水天神りゅういかずちすいてんのかみだったかしら?井戸の神様、イドさんよ。


彼は考えている事がちょっと読めない所あるけど優しいと思うわよ。」


アヤはさらりと言ったがカメは急激に顔色が悪くなった。


「そそそ……それはダメ!絶対それはダメ!あの神は怖いんだよ?すごーく怖いの!前ひっぱたかれたりもしたんだから!」


カメの言葉にアヤは首をひねった。


「あれ?彼そんな神様だったかな……。」


龍雷水天神とはある事件でたまたま知り合っただけだ。


深くは知らないがのほほんとしていておだやかな神様だったように記憶している。


「シャウ!今回はそいつが絡んでいるんだ!シャアウ!」


シャウが興奮気味に会話に入り込んでくる。


アヤはなんだか嫌な予感がしてきた。

こういう神が絡んでくるとろくなことがない。


さっさと別れたかったがそうもいかなくなった。

なぜだか彼らは自分を頼っている。


神々の事件というのは下手すれば人間に多大な迷惑がかかる。アヤはこれを見て見ぬふりをすることはできなかった。


「……とりあえず……話を。」

アヤはシャウをそっと見つめた。


アヤは桜並木を歩き出す。


シャウはアヤを抜かしては立ち止り抜かしては立ち止りを繰り返している。


正直イライラする。


カメは桜よりも川を見ている。


何か思い入れがあるのか同僚を探しているのかはわからないがみなもを見ながら河川敷を歩く。


「ねぇ?なんでこういう……話を聞くタイミングであなた達は黙るの?」


「だって時神ちゃん、シャウ達は人間には見えないんだナ!時神ちゃんは見える!シャウ!一人で話しているみたいになっちゃうヨ!シャウ!」


つまり人目を気にしてくれたらしい。正直今そういう気遣いはいらない。


「とりあえず、一回竜宮に戻った方がいいさね。加茂様がいてくれればなんとか調査に言ってたとか言えるし……。」


「竜宮?」


アヤはカメの言葉に反応を示した。


「あれ?知らんの?

神々が住む世界高天原の南の方に海があるさね。


その海の中に竜宮って城があるんよ。リゾート地、神々の観光名所、龍神様達の世界、竜宮城。」


「竜宮城ってリゾート地なの?」

「んん……まあ、キャッスルは広いから一部さね。」

「そうなの?」


「うん。加茂様は特別待遇でいつもご案内してるさね。」


「シャウ!」


シャウはカメにブイサインを送る。


そういえば目の前にちらつくこの雷神、神格はかなり上だったように思える。


そんな事を思っていた時目の前を可愛らしい女の子が横切った。


「あ……。」

カメがその女の子に反応した。


「どうしたの?カメ?」

「あの子を……。」

「え?」


カメが女の子に手を伸ばそうとした時、シャウが楽しそうに叫んだ。


カメは伸ばしかけた手を元に戻した。


「バアアアン!ここに高天原へのチケット!さっそくだが高天原へシャウ……ウィー……ダアアアンス!」


シャウは文字がいっぱい書いてあるお札みたいな紙を投げた。


「え?ちょっといきなり?おかしいわよ!この展開!」


「ゴーじゃなくてダンスなんかい!しかもシャウって何気に自分入れてきたー!」


アヤとカメの声は目の前に現れた扉に吸い込まれて行った。


光りに包まれアヤ達の身体は消えてなくなった。


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