流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー最終話
一応、ワイズと剣王に皆で謝りに行った。
ワイズは冷林を封印できなかった事にご立腹だった。
その非難の矛先はイドさんにいき、イドさんが罰を受ける事となった。
ワイズ曰く、なぜもっとうまくやらなかったんだYO!イドちゃんは下手なんだYO!
とのことで。
西の剣王の側近、ヒメさんが来ることに対しても出迎える感じではなかった。
やっかい事はもういやだYO!剣王と喧嘩は面倒だからはやくどっか行くんだYOとのことで。
あやまる暇もなく、箒で掃かれるみたいに外に追い出された。
ワイズなりの優しさであるとミノさん達はとらえた。
その次に剣王のもとへ行った。
剣王は相変わらず部屋でゴロゴロしており、出向いた一同になかなか気がつかなかった。
ヒメさんは軍を勝手に動かした事その他を必死で謝ったが聞いているのかいないのか。
イドさんは苦渋の表情で剣王を睨みつけていた。
まあ、とりあえず、めんどくさいから罰はトイレ掃除一週間ねぇ~。
とのことで。
ミノさんが小学生か!と突っ込んでいたがこの件はこれで流された。
ヒメさんに何か降りかかる事はなく穏便に終わった。
そしてミノさん達は早々に現世に戻され、高天原へ入る事はなかった。
「いやーしかし、今回はまいったぜ。俺、もう疲れてなんもできねぇよ。」
「ミノさん、ありがとうございます。なんにも言わないでいただいて。」
ここはミノさんの神社、ミノさんは石段のところでゴロゴロしており、イドさんは横に座っていた。
「しかし、おたく、娘に厳しくねぇか?」
「親の愛を知らずに育ってしまったのは僕のせいです。
あの子はうっすらと僕の事を覚えていたみたいですが。
僕自身もどう接すればいいかわからなくて……。」
「まだまだガキって事かよ。」
「否定はしませんねぇ。人間の子供と同じです。
親に叱られたくてやった大きないたずらです。
ただ、彼女の場合は人間の子供と同じにはできません。
まわりの神々に多大な迷惑をかけ、人を消滅させようとした。
これは歴史の神失格ともいえる絶対にやってはいけない事です。
たまたま、今回、冷林が気まぐれで動いた事がいたずらの原因になったんですから冷林もそこの所わかっていて今回見逃したんだと思います。」
「だろうな。」
二人は落ちゆく紅葉を眺めながら冷たい風に縮こまった。
「彼女は子供ですが僕の力を受け継いでいます。
そこらの神には負けないでしょう。それも原因です。
少し天狗になってたのかもしれません。
その陰で歴史の神の重さに耐えられなかった。
そういう時に頼りたい親族が彼女にはいない。僕も複雑です。」
「もう娘だって言っちまえよ。」
「もう……言えませんよ。」
「そうかよ。ヒメのやつ、おたくに褒められたり怒られたりしてんの満更でもなさそうだったぜ。」
「ふふ……。新手のプレイだと思われているのですかねぇ。」
「さあな。」
「あ、ミノさん。」
イドさんが懐からお酒を取り出した。
「ん?」
「どうです?」
イドさんがミノさんの前にお酒をかざし微笑んだ。
「おたくみてぇな神と酒飲みかわすなんて今じゃ怖くてできねぇよ……。」
「まあ、いいじゃないですか。」
イドさんがニヤニヤ笑った時、一人の少女が鳥居をくぐって中に入ってきた。
「ん?あの娘……。」
「おじいさんとこの孫娘さんですねぇ。」
ツインテールの少女は賽銭箱にお金を入れると熱心にお願いしていた。
「……いっぱい食べれますよーに。」
彼女はそうお願いしたようだ。
少女はお願いした後、後ろからついてきた母親と思われる女のもとに楽しそうに走り去って行った。
「元気そうじゃねぇか。よかったな。」
「あの子は問題ないですよ。人間は強い生き物ですから。」
ミノさんとイドさんは石段に座りながらニッコリと笑った。
少女とすれ違うようにアヤとヒメさんが鳥居をくぐってきた。
「あら、さっきの子、もしかして。」
「ああ、おたくらか。そうだ。あのじじいの孫だ。なんかうちに来たんだよな。食物神なんてこの世界じゃ沢山いるんだけどな。」
「よかったじゃない。信仰が増えて。これでしばらく生きてられるわ。」
「グサッといま刺さったぜ……。そうだ……俺、今けっこう危機だったんだ……。」
アヤの一言でミノさんの頭ががっくりと垂れた。
ヒメさんは珍しく言葉を話さなかった。
「ヒメちゃん、アヤちゃん、元気してましたか?」
イドさんはニコリと二人を見上げる。
「ええ。ものすごく疲れた以外、何もなかったわ。イド、なんかワイズから罰を与えられていたみたいだけど……どうしたの?」
「えー……まあ、ひどい目に遭いました……。エロいダンスやれってワイズから強要されまして……男がやるもんじゃないと思ったのですが……足を限りなく出して上半身裸でワイズにアタックして……ああああああ!サブいぼ立ってきました!」
イドさんは顔面蒼白で悶え苦しんでいる。
「エグイ事やらせるわね……ワイズ。
まあ、でもあんた、美男子だし女子は喜ぶわよ。」
「ワイズは完璧に楽しんでいましたがね……。天御柱神とかはそれから口聞いてくれなくなりましたよ……。」
「まあ……ドンマイってとこね。」
落ち込んでいるイドさんの背中をアヤはぽんぽんと叩いた。
「イド殿……。」
ひときわ暗い声を出したのはヒメさんだった。
「ん?なんですか?ヒメちゃん。」
「イド殿はもしかして……ワシの……」
「……。」
イドさんとミノさんの息を飲む声が聞こえる。
「兄だったりせんかの?」
ヒメさんの一言でミノさんとイドさんは同時にズッコケた。
「兄?おたくはどうしてそういう発想になるんだよ!もっとあんだろ!別の!ほら!」
「ミノさん、いいですよー。もう。僕はヒメちゃんのお兄ちゃんじゃありません。」
ミノさんの必死の叫びを軽く流したイドさんはきっぱりと言い放った。
「そうじゃの……。」
ヒメさんはがっくりといかにも悲しそうな顔でイドさんの横に座った。
「でも、でもですよ?僕はヒメちゃんが困っていたらきっと助けてあげますよ。アヤちゃんもミノさんも困ってたらヒメちゃんを絶対に助けてくれます。」
イドさんがヒメさんを優しく慰める。
「ええ?俺らもそういうのに入ってんのかよ。俺、ヒメに勝てねぇんだけど。」
「ま、いいじゃない。暇しないわよ。」
戸惑っているミノさんにアヤはふふふと笑った。
ヒメさんは輝かしい笑みを向けると急に元気になった。
「おお!じゃあ、これから皆で誓いの鬼ごっこじゃな!」
「何だよ……それ……。」
「ミノさん、やりましょ!」
「意味わかんないけどたまには運動も悪くないかしら。」
アヤ達は重い腰を上げて大きく伸びをした。
その時白いものがふわりとアヤの横に落ちた。
「おいおい……雪降ってきたぜー。」
ミノさんが紅葉に紛れ降ってくる雪にため息をついた。
「もう冬なのね……。」
「じゃあ、積もったら雪合戦に変更じゃな!」
「だからなんでそうなるんだよ!」
「詳細は携帯メールで送る故!」
「ああ、すっかり忘れてたわね……携帯。」
アヤ達が楽しそうに会話をしている中、イドさんは空を見上げ冷たい空気を感じ、目をそっと閉じた後ヒメさんに何か箱を手渡した。
「なんじゃ?ムキムキロボット一号?」
「そうです。オモチャですよ。あげまーす。」
「む……いらぬがせっかくだからもらっておくのじゃ。これをかわいく改造するのじゃ!くまさんとかつけてかわいーく❤」
ヒメさんはニコニコと神社を走り出した。
「あれ?こういうのがほしいんじゃないんですかあ……。女の子は難しいなあ……。」
イドさんはミノさんをちらりと見た。
「俺見たってしょうがねぇだろ。」
そのやり取りをみてアヤはヒメさんとイドさんの関係がわかり、クスッと笑みをこぼした。
ヒメさんが叫びはじめたので一同はヒメさんに向かい走り出した。
紅葉は落ち、白い雪が舞う。
おじいさんは皆の心に生き、神々はそれを見守る……。
その神は愛を妬んだ……。
人々の歴史を読んでむなしくなった……。
何もかも壊そうとした。
だが、その神は気がついた。
自分も愛を求めていることを。
神々の戦国時代は続く……
彼らは助け合い生きている……この世に住む人間のように……




