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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー16

「あれが冷林か。」

ミノさんが恐々と冷林を見つめている。


「ぬいぐるみそのものだったんだわ。……それよりもなんで冷林軍とイドが戦っているのよ!イドは結局何がしたいわけ?」


戦いが激化しているのを遠目で見ながらアヤは大きなため息をついた。


「さあな。なにか大事なものでも守ってんじゃないのか?」

「なんか知ってるの?」

「……俺はあいつの事を何一つ知らねぇさ。」


アヤが探るような目をしてミノさんを見たがミノさんは構わず今度はイドさんを見つめていた。


「……あの……。」


急に近くでおじいさんの声が聞こえた。

気がつくとすぐそばにおじいさんがこちらをうかがいながら立っていた。


「うわっ!びっくりしたぜ。じじい……。」

「あの争いを止めてください!日穀信様!」


ゴマのような瞳でおじいさんはミノさんに詰め寄った。


「だから、俺は……戦闘は得意じゃねぇんだよ。人を喜ばせたりする事はできるが傷つける事はしたくねぇんだ……。」


「止めるだけでいいんです。わたしも日穀信様の為に力を精一杯出します。」

おじいさんの必死の顔に押され、ミノさんは複雑な顔を向けた。


「簡単に言いやがって……。」

「心配するな。俺も手を貸す。」

「あ、俺も。」


ミノさんの不安な顔に時神過去神栄次と未来神プラズマは力強く答えた。


「あれじゃあ、やったらやり返す喧嘩みたいよね。快刀、乱麻を断つよ。止めましょう。」


アヤはおじいさんに向かい頷いた。

おじいさんはアヤに頷き返すと祈り始めた。


するとミノさん達の身体が蒼く光出した。


「おお!力が湧いてくる。やっぱすげえな。」

ミノさんの感嘆の声におじいさんは優しい微笑みを向けた。


「行くわよ。」

「ああ。」


アヤ達は剣やら水やら火やら糸が入り混じってヒートアップしている喧嘩に堂々と割り込んで行った。


アヤは時間の鎖を出現させ、冷林側、イドさん、ヒメさんを拘束しようとするが彼らの神力が高すぎで動きを少し鈍らせる事で精一杯だった。


栄次はミカゲ様と刀のぶつかり合いをしている。


「何故、おぬしが関与してくるか。」

「俺はきまぐれだ。」


栄次の言葉にミカゲ様は顔を曇らせた。

ミカゲ様は刀をうむ方で使う方ではない。


長年刀一本で戦乱を生き抜いてきた栄次と戦うのは分が悪かった。


「おぬしは自分の時が止まってから幾度……戦を経験したか……。」


「俺は先代と代わってから……何百年生きているかわからん。平安くらいからじゃないか。」


栄次は刀を大きく振り下ろした。ミカゲ様はそれを見て、すかさず間合いに入るが栄次は刀を下ろした格好のまま、すばやく後ろに退いてかわした。


「……。斬り合いになれておるな……。」


「まあな。大きく振りかぶるのは自殺行為だ。振りかぶった後、体勢をたてるのに隙ができる。だがその自殺行為もうまくやれば斬られることはない。」


「……。普通の人間にはできぬ。」

「俺達時神は人間上がりだが……人間ではないのだ。」


栄次は疲れた顔をミカゲ様に向けると苦笑した。


……強い者と戦う、昔はそういう考えがあった。だが今はもうどうでもいい……。

夢もない……。俺は長く生きすぎた……。


ただ、今の楽しみとしては……時神現代神になりたてのアヤが楽しそうに笑っているのを見る事だけだ……。


未来神プラズマは俺より長く生きている。あいつは何を思っているのか。


……俺にはわからない。あまりわかりたくもないが。


栄次は刀を振るいながらそっとプラズマの事を想った。


一方プラズマは左手に銃と右手に小型ナイフを握りニッパーとアマちゃんに向かっていた。


「あんた、何っすか!色々関係ないっすよね?こちらが呼んでおいてあれっすけど、おとなしくしててもらえないっすかね!今は特に!」


ニッパーはプラズマに牙をむき、炎を飛ばしてきた。

プラズマは小型の剣を振った。


風がプラズマの周りをまわり、炎は消えた。その後、後ろから迫ってきたヒメさんの刀剣を銃で弾いていく。


「なんすか!それ!刃物で炎が斬れて……銃弾で刀剣を弾く?」

「これは今の時代では未来の道具だよ。珍しいだろう?」


驚いているニッパーをみてプラズマは楽しそうに微笑んだ。


……まだ若い。こんな無邪気な表情ができるなんてね……。


「まったく余裕そうですわね。」


アマちゃんがそっと指を動かした。刹那、プラズマに細い鋭い糸が巻きついた。


「……糸?」

「そうですわ。ただし、動いたら身体がきれますわよ。」


アマちゃんの一言でプラズマの動きが止まった。それを横目で見たニッパーはイドさんに向かい攻撃を仕掛けて行った。


「動いたら身体がきれる……ねぇ。そんな事ないと思うよ。」

プラズマはなんのためらいもなく歩き出した。


「!」


プラズマの身体は傷つくことなく、糸があるとも感じさせない歩きでアマちゃんの方に向かって行った。


「実は未来では丈夫な服ができたんだ。」

「……そう。じゃあ……わたくしも消える事になるのかしら?」


「それはないと思うよ。自然な素材を愛する者もいる。おまけにあなたは神の中でも有名だ。」


プラズマは堂々とアマちゃんの前に立った。アマちゃんはすかさず構えた。


「わたくし、肉弾戦はできませんの。喧嘩をしたら一方的になりますわね。」


「あなたは機織りの祖だろう?それなのに何故、人を傷つけるような糸を張る……。」

「え?」

プラズマはあきれた目でアマちゃんを見据える。


「あなたは闘う必要がないだろう?人に着るものをあたえる立派な仕事があるじゃないか。まして肉弾戦なんて……喧嘩なんて……あなたはできなくていいと思うけど。俺は機織りの祖に手をあげる事はできないな。」


「……正論ですわ。ですが収拾がつきませんのよ。」


アマちゃんはもう闘う気はないらしい。やれやれと手を振って頭を抱えた。


「ようは……あなたは関係ない。争っているのはミカゲと冷林と流史記だけなんだ。」


プラズマはそう言うと呆然と立っているアマちゃんに背を向け、いまだ、過激な争いをしている彼らのもとへ走って行った。


……俺はなんでこんな真面目に動いてるんだろう。

人の感情、表情、人格はもう見飽きたってのになあ。


争いも同じような事ばかりで俺からすれば真新しい事なんて何一つないのに。


今思う事は……あの元気な穀物の神が俺の時代で生きているだろうかという事だな。


あいつを見ていたらしばらく飽きなさそうだ。


俺の寿命があとどれくらいか知らないが流れゆく時の道楽とさせてもらうか。

未来神プラズマは楽しげに笑った。



イドさんはいきなり襲いかかってきたニッパーに手を焼いていた。

ニッパーは炎を体中にたぎらせて匕首あいくちを振り回す。


しかし、剣の使い方がめちゃくちゃでイドさんにあたる事はない。


……うーん。この子はまだ未熟ですねぇ……。僕としてはあまり傷つけたくはないですね。

こうやって避けているだけでいいでしょう。


イドさんがそう思っていた時、ヒメさんの剣がいっせいにニッパーに向かい飛んで行った。


「!?」


ニッパー自体はきょとんとしており、避けようとしない。

いや、攻撃がみえていても避けられないのだ。


イドさんは素早くニッパーの前に立つと刀剣を水の槍ですべて弾いてやった。


「なっ……!なんで……」

ニッパーはイドさんの行為を単純に驚いていた。


「ミカゲの娘、君は僕には絶対にかなわないですよ。今の刀剣をすべて自分でなんとか処理できれば僕に傷をつける事はできるかもしれませんが。」


「……っ。」

イドさんの視線を悔しそうに受け止めたニッパーは闘う手を止めた。


「ものわかりのいい子ですね……。神格の違い、わかりましたか?」


「……あたしの負けっす……。ヒステリーちゃんと比べ物にならないくらい神力が違うっす……。今更、神格の違いがわかるなんて……あんたが手をあげたらあたし……。」


「僕は争いたいわけではありません。それから身体は大事にしないといけませんよ。」


イドさんは落ちこんで今にも泣きだしそうなニッパーに優しく声をかけた。


「イド殿!彼女は敵ぞ!何をしておるのじゃ!」

その時、ヒメさんが声を荒げて叫んでいた。どことなく気が立っている。


「何を?」

イドさんはヒメさんを何食わぬ顔で見つめた。


「やはりおぬしもワシの敵じゃな……。」


ヒメさんは刀剣の狙いをイドさんに向けた。そのままイドさんに刀剣を投げつけようとした。


刹那、イドさんのまわりに重たい空気が振りまかれた。

イドさんの冷たい瞳がヒメさんを射抜く。


「いい加減にしろ……。」

「うっ……。」


イドさんが乱暴に放った言雨でヒメさんは膝をついた。

いままで見せたことのないイドさんの力がそのままヒメさんに伝わった。


ヒメさんは立っている事もできず、ただ震えあがりながらイドさんを見つめていた。


ヒメさんだけではなく他の神々もイドさんに恐怖心を抱いていた。

誰もが手を止めた。


しかし、冷林だけは動いていた。

動けなくなったヒメさんに向かい、光の触手を振り上げる。


光りの触手がヒメさんにあたる寸前にイドさんがヒメさんを抱きかかえて避けた。


「な……なぜじゃ!おぬしの行動がわからぬ……わからぬ……。おぬしは何がしたいのじゃ!」


ヒメさんはイドさんに抱かれながら不安と恐怖が入り混じった声で叫んだ。


「……ヒメちゃん、もうやめましょうよ。なんでヒメちゃんが人を消したいのかわかりませんがこんな事をしちゃダメなんですよ。」


「だ、黙れ!冷林さえ消せれば……。」

ヒメさんはイドさんから無理やり離れると刀剣を冷林に向けて放った。


「まったく聞き分けのない……。」

イドさんは冷林に向かっていく刀剣の前に立ちはだかり水の槍を出現させた。


「そこをどくのじゃ!イド!」

「ヒメちゃん……。」


ヒメさんの叫びをせつなげにイドさんは受け止めた。


「おい!イドさん!」


その時、ミノさんがいきなり声をあげた。

イドさんの背中に冷林が放った光りの触手が迫っていた。


ミノさんは咄嗟にイドさんのもとまで走っていた。


「ちょっ……ミノさん?危ないですよ!うわっ!」

「うるせぇえええ!こらぁああ!もうやめやがれぇええ!」


ミノさんは驚いているイドさんを突き飛ばすと板挟みの中心地に入り込み叫んだ。


ミノさんの身体の輝きがさらに増し、お互いの攻撃をきれいに相殺した。光りの触手と刀剣は跡形もなく消えた。


「え?」

「え?」

一同はいきなりの事で皆ぽかんと口を開けていた。一番驚いていたのはミノさんだった。


「え?なんか消えたぞ……。え?」

「み、ミノさんの神力がヒメさんと冷林を上回ったんですね……。一瞬だけ。」

「俺すげええ!」


イドさんの言葉にミノさんはよくわからずこんな言葉を口にしていた。

アヤはあきれて頭を抱えた。


するとミノさんの輝きがさらに増し、時神三人、過去神栄次、アヤ、未来神プラズマの身体からも蒼い輝きが強くなった。


その蒼い光りは空間全体を覆い尽くすものに変わった。

そのとき……おじいさんの笑顔をみたような気がした……。



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