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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー15

ヒメさんはゆっくりと歩き、おじいさんの前に立った。

そのままおじいさんに触ろうとした瞬間、燃え盛る炎がヒメさんを襲った。


「……っ。」


ヒメさんがひるむと今度は炎を掻い潜って日本刀が複数的確にヒメさんを狙い飛んできた。


ヒメさんは素早く避け、手を前にかざした。

炎は強風に当てられたかのようにヒメさんのまわりを流れて消えた。


「ヒステリーちゃん……あたしらを騙してたっすね……。」

「そうじゃな。そうなるの。」


ヒメさんは苦笑をニッパーに送る。


「冷林は生き返らせる。そちは神格が上。争いは避けたい。」

動揺を隠せないニッパーとは対照でミカゲ様は落ち着いた瞳でヒメさんを見据える。


炎と刀を出現させたのはニッパーらしい。

ミカゲ様は鍛冶の祖であり、火の神だ。娘のニッパーも同じような力があるようだ。


「ミカゲ君……。そうですわね。争いたくはありませんがわたくし達の邪魔をするというのならば容赦いたしませんわ。」

アマちゃんはミカゲ様の隣でそっと構える。


「ワシはしたい事をするだけじゃ。おぬしらに用はもうない。」

ヒメさんが言雨を放った。まわりの空気が重圧により地面に叩きつけられた。


それと同時にヒメさんのまわりに無数の刀、剣が現れる。


「あれが……いままで歴史の神が見てきた過去使用されていた武器達……。」

未来神プラズマがヒメさんを見てそうつぶやいた。


「俺の刀も……彼女にはなんの感情もなく振り回せるのか。」

過去神栄次は左腰に差してある鯉口をそっと撫でた。


「あなた達は……ヒメがする事をただ見ているだけなの?」

アヤが言雨に耐えながら時神二人に問いかけた。


「俺は別にどちらでもよいのだ。俎上の魚……長く生きすぎた……。もう、生きるか死ぬかそういう判断ができなくなったのだ。それに俺は過去の者だ。現代の事に首をはさめん。」


栄次はアヤに向かいそう言うと鯉口を触っていた手をそっと離した。


「俺も未来の者だし何もできないね。ここで人が消える事になったら俺はまっさきに消える。俺はかけをすることにしたよ。結局自分の未来は見えないから。」


プラズマは腕を組んだまま、まったく動こうとはしなかった。


「時神って自分の事ばっかりよね。やっぱり最低だわ。」


「俺達は人間を救えるわけじゃない。人間が持っている時間、時計を守るだけだよ。」


プラズマの言葉にアヤは目を伏せた。

否定したかったがその通りだと思ってしまった。


「……歴史の神は……人の歴史を守るはずなんだがな……。末の露、本の雫と言われる人のな。」


ミカゲ様に対し牙をむくヒメさんを栄次は複雑な表情で見つめた。


ヒメさんは様々な刀、剣をミカゲ様達に容赦なく飛ばしている。

それらは暗い空間に散らばって刺さった。


ミカゲ様は一本の刀に炎を巻きつけ飛んでくる刀剣を弾き、アマちゃんは糸で刀剣の動きを止め、ニッパーもミカゲ様と同様に刀剣を弾いている。


ミカゲ様達が苦戦している間、ヒメさんはおじいさんに手を伸ばした。


その時、何を思っていたのかヒメさんが一度ミカゲ様達を振り返った。

ミカゲ様がニッパーを守って戦っていた。


「……後ろに退け。娘。そちはまだ名のない神。余の力と剣王の力で保つ娘よ。あれにはかなわぬことを知れ。」

「……お父様……。」


ニッパーは静かに父親の背中を見つめていた。


ヒメさんはせつなげな表情を一瞬向けたがそれは一瞬だけで次にはニッパーを鋭い目つきで睨みつけていた。


「最悪じゃ……。人間くさい事を……堂々と……。子は三界の首枷とはよく言ったものじゃ。」


ヒメさんはそうつぶやくとおじいさんに触れた。

気を失ってまったく動かなかったおじいさんの周りに突如光の柱が走った。


「冷林の魂……いでよ!」


ヒメさんが叫ぶと光の柱はやがてひとつの球にまとまった。

その光の球は果てしないエネルギーで満ちており、人間の心を集めたような温かさを感じた。


「冷林の……魂?」


アヤは呆然とその光の球を見つめていた。

それは見とれてしまうほどきれいだった。


「魂が肉体に宿るまでにさよならじゃな。」


ヒメさんは冷徹な笑みを浮かべるとミカゲ様達を襲っている刀剣の中から一本を取り出し、光の球目がけて袈裟に振り下ろした。


「っ……!」


ミカゲ様達が息を飲む音がした。

アヤ達時神は光の球から目を背ける事ができず、ただその光に見とれていた。

すぐにその光は遮られた。


「な……なぜじゃ……。」


光が遮られたのは人の影がヒメさんと光の球の間に入っているからだ。

その人物はヒメさんの刀を素手で止めていた。

逆光でよく見えないが聞いた事のある声が耳に届いた。


縁神えにしのかみ様を……どうか……」

「お……おじいさん?」


アヤは驚いて声を上げた。ヒメさんの前に立っていたのはおじいさんだった。

おじいさんは声質共に先程までのものとは異なり、年相応のものになっている。

そして刀を受け止めている手から血がポタポタと滴っていた。


「な……なぜじゃ!翁が……。魂を切り離したというに……どうして……。」


「……日穀信智神にちこくしんとものかみ様のおかげです……。わたしがここにいるのは。彼がわたしに力をくれています。」


おじいさんの言葉にヒメさんがそっと目を細めた。


「……そうか……ミノ殿じゃな……。おぬし、生前ミノ殿を慕っていたのじゃな?」

「ええ……昔は食べるものに困っていまして……よくお願いしていましたよ。」


おじいさんは焦っているヒメさんとは対照で落ち着きのある笑みを向けた。

その間、冷林の魂は肉体に向かい飛んで行った。


「誤算じゃった……。あの男を先に始末するべきじゃったか……。」

ヒメさんが嘆いた時、真黒な空間の中に魔法陣が出現しミノさん達が現れた。


「噂をすればなんとやらじゃな……。」

「……あなたは……。」


顔を曇らせたヒメさんの横でおじいさんが肩を震わせながらミノさんを見つめていた。


「ん?なんだ?じじぃ?起きてんじゃねーか!いきなりぶっ倒れたからびびったぜ?てか、なんだこの真っ暗な空間は!……アヤも無事か!」


ミノさんはあちらこちらを見ながら矢継ぎ早に口を動かした。


「私は無事よ。来るのが少し遅かったわ。」

「それはイドさんに言え。」


アヤの言葉にミノさんはイドさんを指差した。


「僕ですか……。押し付けですか……。まあ、でも冷林は生きています。なんだかわかりませんがおじいさんも目覚めているようですし。」


イドさんは頭を抱えながらつぶやいた。


「だいたい、おたくがこの空間になかなか入れなかったのが問題だろ?」

「それは無理ですよ……。ここは時間がなくて、歴史もない。いまや、架空の生き物である龍だからこそ、この空間の綻びに割り込めたんですよ。」


「なるほどな。たしかにここ、なんも感じないな。」

ミノさんが唸った時、おじいさんが歓喜の声をあげた。


「あなたは日穀信智神様では?死んでから拝めるなんて……こんなこと……」

「なんだよ。じじい。気持ち悪いぞ。どこで覚えたその言葉使い。」


にこやかな顔をしているおじいさんにミノさんはあきれた顔を向けた。


「ミノ!あのおじいさんは生前の方のおじいさんよ。冷林じゃないわ。」

「んん?」


アヤの言葉にミノさんは頭を捻っていた。


「もう……説明が面倒だわ。」

「アヤちゃん、そんなこと言わないで下さいよ。ミノさんがかわいそうでしょ?」


ため息をついたアヤにイドさんがフォローを出す。


「うるせぇな。よくわかんねぇがあれは冷林じゃねぇんだな?」

「そういう事よ。」


アヤがそこまで言った時、沢山の刀剣がミノさん達に襲いかかってきた。


「冷林はワシが倒すのじゃ……。邪魔をするでない!」


重い刀剣が勢いよく黒い空間に落ちて行く。

ミカゲ様達がこちらを守ろうと走り出すがミカゲ様達にも刀剣が迫る。


「あれは歴史に刻まれた今は亡き刀剣。時間停止はできないわね……。」


アヤは時間停止ができなければ何もできない。

しかし、冷静な目でヒメさんを観察していた。


イドさんは動かない。ヒメさんをじっと見つめている。

ミノさんはアワアワと焦りながら飛んでくる刀剣を避けていた。


栄次は腰に差している刀を抜き、刀剣を弾く。

金属の重たい音が暗い空間に響いている。


プラズマは小型のナイフを器用に使い、襲い来る刀剣を受け流している。


そんな中、完全に狙われているのはミノさんだった。


「ひ、ヒメ!おたく、なんで俺を殺そうとしてんだよ!おわっ!」

ミノさんは紙一重で刀剣を避けている。


「おぬしが……邪魔をしたからじゃ!」

「なんだかわかんねぇよぉ……!」


ヒメさんの鋭い声でしょぼくれたミノさんは理解できないまま走り回っていた。


「ミノ!うどん出しなさい!」

アヤの言葉にミノさんが「うえええ!」と謎の叫び声をあげた。


「またあれかよー!」


ミノさんはそう言いながらも長いうどんを出現させた。

アヤはそれに素早く時間停止をかける。


しかし、うどんは硬くならなかった。


「あ……ここは時間のない空間だったわ。これ、できないわね。」

「おーい!これどうすんだあああ!」


ミノさんはコシのあるうどんを丁寧に抱えながら走り出した。


「置いて走ればいいじゃない……。」


アヤがふうとため息をついた時、アヤの足元すれすれに刀が刺さった。

アヤはその刀を握って持ってみた。


かなりの重さがあり両手で持っていても腕を上げる事さえできない。


「アヤ。刀はそう簡単に持てるものではない。これは人を殺すためのものだ。簡単に持てるものではないのだ。」


栄次はアヤから刀を奪い軽々と一振りするとその場に突き刺した。


「あなたは死にたいんじゃないの?」

「神ができない事……それは自殺だ。」

「芥川龍之介の小説でそんなセリフあったわね……。」


栄次は芥川龍之介をおそらく知らないだろう。

アヤはあえてこう言った。

自分勝手に死のうとしていた彼がこんな事を言い出すのが滑稽だったからだ。


「完璧な事故でないといけないんだ。自分勝手に死ぬのは人間だけだ。」

プラズマは栄次の横で言葉を続けた。


「あなた達はなんでそうなのよ。あの神みたいになれないの?」

アヤは走り回っているミノさんを指差す。


「……なんだお前、あの男神に惚れているのか?」

栄次の言葉にアヤの顔が真っ赤になった。


「そんなわけないでしょ。なんで今の話でそこにいくのよ!あなた達も傍観してないで彼みたいに何か行動を起こしなさいって言ってるのよ!」


「ふふふ……。」


刀剣は相変わらず飛んできている。

その中でプラズマは愉快そうに笑っていた。


「なにがおかしいのよ。」

「いいね。退屈しないで。俺も自分の時代で彼を探してみようかな。」


プラズマはそう言うとアヤの前に立った。栄次も刀剣を弾きつつ前に出た。


「今回はあの女神を止めるために動く。お前が少なくとも今、楽しそうにしているのだ。俺達も消えるわけにはいかなくなった。」


「別に……楽しそうに……なんか……。」


アヤは顔を赤くしてうつむいた。

それを見て軽く微笑んだ彼らはミノさんに向かい走って行った。


ミカゲ様はそんな様子を横目で見ながらイドさんが気にかかっていた。


「僕が気になりますか?ミカゲ。」


イドさんは大量の刀剣の雨を素早く避けながらミカゲ様のもとにいつの間にか来ていた。


「東の者よ……。おぬしは何を考えている。」


「まあ、色々ありますが今回は味方ですよー。

西の剣王軍の幹部が暴れているんで落ち着かせろとのワイズの命令でついてきただけです。


まあ、実際はおたくのお子さんとあそこで暴れている彼女が西の軍を勝手に動かしていたようですが。」


「あの流史記はリーを殺す。人を消す。如何してそのような所業を……。」

「……僕が知るわけないでしょうに……。」


イドさんはミカゲ様の質問に対し、おかしそうに笑った。


刀剣を避けていた刹那、ヒメさんの身体が何かにうちつけられたように宙を舞い地面に叩きつけられた。


「なっ?」

ミノさん達はいきなり倒れたヒメさんに目を丸くした。


「……リーだ。リーが来た。」

「え、縁様……。」


トーンのないミカゲ様の言葉におじいさんは尊敬の意を見せた。


ミカゲ様の視線の先には人型クッキーのような身体で顔のパーツがなく代わりに渦巻きが描いてあるぬいぐるみのようなものが立っていた。


人型クッキー、冷林は何の言葉を出す事なく、いまだ立ち上がる事のできないヒメさんに攻撃をしていた。

白く光る触手が鞭のようにしなり、ヒメさんを叩きつけている。


「……!」

イドさんは咄嗟にヒメさんの前に立ち、冷林の攻撃を止めた。


「う……イド殿?ワシを助けるなぞ……やはり何を考えておるかわからんの……。」

ヒメさんは不意打ちのダメージを背負いながらふらりと立ち上がった。


「ただの気まぐれです。」

イドさんは表情なしにそうつぶやくと冷林の攻撃を手から出した水で受け流した。


「あなた、やはり冷林を消すつもりですわね!」

「東のワイズを裏切るっすか!このまま冷林に手を出したら許さないっす!」


ヒメさんをかばうイドさんにアマちゃんとニッパーは敵意の目を向けた。


ミカゲ様は冷林を守るべく、刀を構えながらイドさんに斬りかかっていった。

それに乗り、アマちゃんが糸を巧みに操り、ニッパーが炎でイドさん達を襲う。


「ワシが狙うは冷林のみじゃ。その他はいらぬ!」


ヒメさんは重い言雨を放つとまたも刀剣を出現させた。

アマちゃんの放つ糸を刀剣が切り裂き、ニッパーの炎はイドさんが放つ水の弾ですべて消える。


その隙を狙い、ミカゲ様はイドさんに斬りかかり、冷林はヒメさんに攻撃をしかける。


「そちが戦う意は……。」

「僕の中にある大事なものを守るため……でしょうかね!」


ミカゲ様の刀を水の槍で弾いたイドさんはいたって真面目に答えた。


「ふむ。わからぬ男よ。」

「それよりも襲ってくるのやめてもらえます?」


ミカゲ様は火柱をたてながら踏み込んで刀を振り、イドさんはそれをしっかりと受け止める。一体どういう仕組みでできているのか水は貫通する事なくしっかりと刀を捉えていた。


「流史記は冷林が脅威と判断した。そちは人間にあだなす凶悪な龍……。ここで消せるならば……。」

「凶悪な龍……。」


ミカゲ様の言葉を聞いていたヒメさんはぼそりとそうつぶやいた。

襲ってくる光の触手を刀剣で斬りながらヒメさんは笑い出した。


「人間を滅ぼす龍……ふふっ。愉快じゃ。イド殿、標的を冷林にすれば人などすぐに消え失せる……のぅ?」


「……。」

ヒメさんの言葉にイドさんは何も言う事ができなかった。


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