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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー12

一向はヒメさんの謎の衣により、西の剣王の土地までやってきた。


西は自然の豊かなところだった。

和風の家々が並び、山々は赤や黄色に色づき、紅葉と銀杏がひらひらと空を舞う。


地面では色づいた草とススキが風に揺れて心地の良い音を出している。


「しかし、すげぇな。その衣、ワープできんのかよ。」

「西はすでにメカではなく自然のものを発展させるのじゃ!」


ヒメさんは持っていた衣をそっと羽織ると歩き出した。


「いや、違いますね。剣王もそうですが剣王側の神々が機械を使いこなせないんです。


さっき襲ってきたロボットは金属系の祖神がいたからこそできる技ですよね?金山かなやま夫婦神と金屋子神かなやこがみが確かそちらにいたはずです。」


「うう……否定ができぬ……。」


イドさんがしれっと言ったのに対し、ヒメさんはがっくりと首を落とした。


「まあ、でも西は自然が多くていいですね。東も少し行けば山だらけですが。やはり山神がしっかりしているのでしょう。」


「そうじゃな。東はあんまり山神がおらんかったのぉ。北の神々はほぼ俗世界にいるからようわからんし。」


ヒメさんが唸った隣でおじいさんは楽しそうにトンボを追いかけている。


「そういえば、西の剣王はおじいさんをどうするつもりでいるの?」


アヤは楽しそうなおじいさんを見ながらヒメさんに質問した。


「翁と冷林を引き裂いて冷林を復活させるのが目的らしいのじゃ。

ワシは反対しておる。


引き裂くという事は翁を消すという事じゃからの。


まあ、確かに翁の魂が冷林と分離しても翁は成仏するだけじゃが、現段階で神となっておる翁をそう易々と成仏させるのはどうかと。


冷林の勝手で翁が苦しむのはおかしいじゃろ?」


「あなたはじゃあ西の剣王を裏切っていると?」

「……否定はせぬ。」


ヒメさんは少し顔を曇らせて小さくつぶやいた。


「なるほど。私達を連行するのはあれね、裏切っているのを知られないためね。でも、西の剣王はあなたの事、わかっているんじゃないかしら?」


「……。」


ヒメさんの反応を見てアヤはまだ何かあるなと思った。


「ま、よくわかんねぇけど、目の前に日本の城みてぇのがあるぜ。」


ここで場の空気を読んだミノさんが前方に見えるしっとりと落ち着きある城を指差した。


紅葉の赤と銀杏の黄色が白い城壁を美しく浮き出させる。


「ああ、あれじゃ。剣王の城はの。落ち着きあるじゃろ?」


「そうですね……。ワイズとは大違いですよ……。彼女ももっとなんとかしてくれるといいんですがね……。」


イドさんはその美しい城をうっとりと眺めていた。


「なんか威圧が違うな。踏み込むの、ためらうぜ。」

二、三歩下がり始めたミノさんをアヤが乱暴に押し返す。


「さっさと歩いて。」

「……ふぅ……おたく、少し手厳しすぎやしねぇか……?」


「こっちも必死なの。後ろにさがったら負けよ。」


よく見るとアヤの手は震えている。

相手は武甕槌神だ。


ついこないだまでただの高校生だったアヤにとっては単純に恐怖だろう。


……そりゃあ、そうだよな……。俺なんて何百年神やってんだよ……。なさけねぇ。


ミノさんは一瞬、目を細めるとアヤの頭にそっと手を置き、そのままアヤを追い越し歩いて行った。


「お?なんかミノさんがかっこいいですよ?」

「かっこいいのじゃ!みの!」

「み~の~♪」


イドさん、ヒメさん、おじいさんは勝手に盛り上がりはじめた。


「うるせぇ!これじゃあ、緊張感もへったくれもないじゃねぇか!」


ミノさんは頬を赤くしながら叫んだ。


「ちょっと自分かっこいいとか思いませんでした?思いましたよね?」


イドさんが揶揄するように言った。

横ではおじいさんがススキをいじっている。


ミノさんは不機嫌そうに歩いて行ってしまった。


……無理してるわね……。ほんと、人間みたい。


「……ミノ。気をつかってくれてありがと。私は……大丈夫よ。」


アヤは不機嫌さがにじみ出ている背中に向かい声をかけた。


「……。」

ミノさんは一瞬立ち止ると振り返らずにまた歩き出した。


イドさんとヒメさんは微笑みながらミノさんの後を追う。おじいさんもススキを一本持ちながらヒメさんを追った。


……頼りないけどあなたがいるから何とかなるって思えるのよ……ミノ。


アヤは口に出さずに心でつぶやくと歩き出した。


城門をくぐって紅葉が落ちるきれいな庭に出た。

苔むした岩と澄んだ池がある。


その池に赤く色づいた紅葉が鮮やかに浮いていた。


「こっちじゃ!」

ヒメさんは庭の先にある障子戸を指差した。


「え?あそこが玄関的なとこなのか?」


ミノさんは期待外れだと言わんばかりの表情をつくっている。おじいさんは落ちている紅葉をとりあえず拾っていた。


まるで庭の掃除屋だ。


「ま、まあ、これもこれで風流ではありませんか……。」


イドさんもはっきりとは出ていないが浮かない顔をしている。アヤは黙ったまま走り去るヒメさんについていった。


障子戸を開けるとどこからか話声が聞こえた。


「タイムカード押してないの何回目?まったく困るんだよねぇ。君みたいのがいると!」

「あ、すんません。タイムカードの押し方わっかんなくて。へへ。」


なんか怒っている方の声は男だ。

もうひとつのあやまっている方は女の声だった。


「全然反省の色が見えないんだよねぇ!君は!それがしもタイムカードの押し方頑張って覚えたんだよねぇ!君も頑張りなさい!」


……タイムカードってそんなに頑張って覚える事あったっけ……


アヤは小遣い稼ぎにやっていたバイトの事を思いだしてみた。


思い出すも何もふつうにまっすぐに押すだけだったように記憶している。


ヒメさんが履物を脱いで中に入る。

一同もそれに従った。


ここは土足禁止らしい。

長い木の廊下があり、両脇に障子戸が連なっている。ヒメさんは一つの障子戸の前で止まった。


「ただいま帰ったぞよ。」

そして躊躇なく取り込み中の神達がいる障子戸を開けた。


「うわっ!誰っすか!」


最初に声を上げたのは女の方だ。

彼女は袖のない忍び装束のような着物を着込んでおり、ニット帽をかぶっていた。


黒い長い髪が鮮やかなニット帽から浮かび上がる。どこか不気味さを感じる雰囲気だ。


そして奇妙な事に彼女は縦に線を引っ張ったような目をしており、とても人間には見えなかった。


まあ、ここにいるのは人間じゃなくて神様なんだろうが……。


「剣王、タイムカードとやらは無理にやらなくてもよいのではないかとそう思うのじゃが。」


ヒメさんは胡坐をかいて座っている男を剣王と呼んだ。


男は髪を左右で結っており、緑色の水干袴を着こんでいた。パッと見、邪馬台国の男性を連想させる。


口周辺にヒゲが生えている事から若くは見えない。


まあ、彼らの歳なんてまったくあてにならないのだが。


鷹のように鋭い目で男はヒメさんを睨んだ。


「無意味だが意味がある!」


「それ、意味ないのか意味があるのかどっちなんすか?あたしにはちょっとわからないっすね!ね?ヒステリーちゃん。」


大きく頷いている剣王に目が縦棒の女が複雑な表情でヒメさん達に助けを求める。


「ヒステリーじゃのうてヒストリーじゃろ!ニッパーよ、少し英語を勉強せい。」


ヒメさんはドヤ顔で女にピシッと言い放った。


……まあ、あなたもあんまり変わらないけどね……


アヤはそう思ったが黙っておいた。


「あー!あたし、ニッパーっす!最近お色気に目覚めたー、麗しのニッパーっす!どーもどーも!よろしくっす!誰だか知らんけど。」


ニッパーと名乗った女はミノさん達一人一人と握手をするとにっこりほほ笑んだ。


「それよか、このおっさんが武甕槌神なのかよ……?」


ミノさんはテンションの高いニッパーの話をそこそこ聞きながらヒメさんに詰め寄った。


「そうじゃ。」

ヒメさんはきっぱりと言い放った。


「ああ、そうだ。今日のごはんのことなんだけどねぇ、デザートに芋を出す事に……」


「芋?芋はデザートじゃないっす!おかずっす!」


間の悪いタイミングで剣王がまったく関係のない事を話しはじめた。それに反発するニッパー。


「あのな!俺達を無視するんじゃねぇ!」


さすがのミノさんも武甕槌神相手に怒鳴ってしまった。


「君ねぇ、あんまり大きな声を出すんじゃないよ。ここは事務所なんだよ?って、あれ?君達誰だい?って、龍雷水天……君は何をしにきたのかな?」


剣王がやっとミノさん達に気がついた。


「僕ですか?僕はノリです。」

「ふーん。相変わらずわからないねぇ。君は。」

「ええ。でしょうね。」


「君はワイズを裏切っているんだろ?

そしてそこの狐耳とかわいらしいお嬢さんの味方でもない。


それがしにも君が何を考えてんのかよくわからないんだよねぇ。」


「……。」

剣王の言葉にイドさんは黙り込んだ。


アヤの視線がイドさんに向く。

イドさんは挑発的な威圧を剣王に突き付けている。


しかし、剣王の表情は変わらない。


「まあ、まあ、それよりここに時神の未来神を呼ぶっす!」

「!」


ニッパーの発言でアヤの顔がまた蒼くなった。


「あなた……何言って……。」

「プラズマくーん!」


ニッパーはアヤの言葉をさえぎって叫んだ。


「はいはい。ここにいるよ。……ってアヤ!」

呼ばれたと同時に部屋に入ってきた青年はアヤをみて驚いた。


「湯瀬……ぷ……プラズマ……。」


青年は赤い髪を肩先で切りそろえており、目の下に赤いペイントをしている。


上は紺色のセーターで下は黒のズボンだ。

おしゃれとは言えないラフな格好をしていた。


「誰だ?」

ミノさんは首を傾げながらアヤに目を向ける。


「時神、未来神。未来を司る神。時神は三人で一人なの。過去神、現代神、未来神。私はこの中の現代神にあたるわ。」


「へぇ……時の神ってひとりじゃねぇんだな。」


ミノさんがそこまで言った時、おじいさんが浮き上がっている事に気がついた。


「!」

おじいさんは意識があるのかないのかわからないが手を広げ、蒼い光に包まれながら浮いている。


「おい!じじい!どうした?いつから浮けるようになったんだ?」

「な、なによ?おじいさん!どうしたの?」


ミノさんとアヤはおじいさんに声をかけるがおじいさんの反応はない。


そしておじいさんはそのまま床に倒れてしまった。


「おい!なんなんだよ!ギャグか?」

「おじいさん!」

「……。」


アヤとミノさんがおじいさんをゆするがおじいさんは起き上りもしなければ目も開けない。


それをじっと見つめているヒメさんとイドさんに表情はなかった。


「おお!あれっすか?もう過去神に会ってるんすか?」


「む?ニッパーよ、ミカゲから聞いておらぬのか?」


ニッパーの驚きの声にヒメさんは眉をひそめた。


「聞いてないっす!娘っすけど聞いてないっす。兄貴の方には言ってるんすかね?」


「娘!?あんな子供みてぇなやつに?そういえば確か息子はいたか。」


ニッパーの言葉にミノさんが驚きの声をあげた。


「ミノ、突っ込むところは今、そこではないわ。」


アヤはミノさんをちらっと見ると息を吸い、ヒメさんの方を向いた。


「どういうことよ。おじいさんはどういう状態なの?」


「時神に会う事で翁が冷林だったころを思い出しているのじゃよ。」

「……?」


「過去、現在、未来すべての時間を今、冷林がみているのじゃ。冷林が蘇ったところで翁を消す。


そうすれば冷林が返ってくるのじゃ。北とはそういう意味で連携しておる。」


「私をおじいさんに会わせたのも……そのためだったと?」

「そうじゃな。」


アヤはなんの表情もないヒメさんを睨みつけた。

その時、ずっと黙っていたイドさんが口を開いた。


「あれですか。後は時神三人集めると出現すると言う過去、現在、未来が干渉しあわない空間を出すつもりですね。


過去を生きる時の神、今の世を生きる時の神、そして未来を生きる時の神……絶対に会うはずのない三人が会った時に起こるあの空間……。


時間のないあの空間を。」


「……それは言わないでほしかったのじゃがな……。


言ってしまったらアヤが空間を出してくれなくなってしまうではないか。


やはり東のものはどこまでも邪魔をするの……。」


ヒメさんはイドさんを鋭い目で睨みつけた。


「まあ、まあ、いいよ。いいよ。そこのお嬢さんくらいそれがしが……」


剣王はアヤに向かい笑いかけた。刹那、重たい空気がアヤを襲った。重圧。プレッシャーだ。


「うっ……。」

「こうやってしまえば済む事だからねぇ……。ヒメちゃん。」


剣王の言雨は強烈だった。


アヤはもちろんの事、ニッパーやヒメさん、未来神プラズマ、ミノさんもその場に立っていられなかった。


ただしイドさんだけは平然と立っていた。


「さすがですね。剣神、軍神と有名ですからね。あなたは。」

「しかし、君はどこまで神格が上なんだね?それがしは……」


「無視しないでよ……私が……そんなに弱いわけないじゃない……。」


剣王が最後まで言葉を紡ぐ前にアヤの声が遮った。


「ん?」


アヤはその場に立っていた。


今にも崩れ落ちてしまいそうな膝を必死で押さえながら剣王を見据えている。


そして少し笑ってみせた。


「思い通りに……なると……思っていたら……大間違い……よ。」


「アヤ……立つな……。やつは武甕槌神だぞ……。」

近くにいたミノさんが苦しそうにアヤを見上げたしなめた。


「だから……何よ……。」


アヤはぼやける視界を必死で正常に戻しながら剣王を睨みつけている。


「あっはははは。」


急に剣王が笑い出した。笑い出したと同時に周りの空気ももとに戻った。


一同、一気に力が抜け、その場に崩れた。

しかし、アヤだけは立っていた。


「何よ。こんなの……たいしたこと……ないじゃない……。」


「無茶はやめた方がいいねぇ。

お嬢さん、膝がガクガクしてんじゃない。


唇も震えているし、顔色も悪い。

少し触ったらもろく崩れてしまいそうだよ。


だが頑張る女の子は嫌いじゃない。

もう、君を思い通りに動かそうなんて思わないから安心するといいよ。」


「ちょっ……それじゃあ、空間がでないじゃないっすか!」


調子を取り戻してきたニッパーが剣王に対し叫んだ。


「もういいよ。それがしはどうでもよくなった。

冷林がどうなろうとほんとは知ったこっちゃないんでねぇ。」


「剣王……はじめから何にもせんと思ったら……今回の件、はじめから手をひくつもりじゃったな……。」


「まあ、さっきは遊んでみただけだしねぇ。

だいたい今回はヒメちゃん、ニッパーが勝手に動いているんじゃない。


それがしは知らないから参加するも何もできないのー。


ニッパーがそれがしの指示なしに現世に行っちゃうし……もうめんどくさいからほっといたんだけど。」


「ウソっすね。剣王はあたしらが何してたか知ってたんすよ。」


「なんだい?君達はさっきからお咎めがほしいのかい?それがしが今回の件を知っていた事とするなら君達はどうなるかな……。」


「……。」

剣王の一睨みでヒメさん、ニッパーは黙り込んだ。


「ああ、それと、たぶんだけどねぇ、それを確認しにきたんだろう?龍雷水天。」

「……ええ。まあ。」


イドさんは複雑な顔で言葉を濁した。


「しかし、ミカゲもそれがしが動くと考えているのかねぇ。それとも……。」


剣王がニッパーに目を向けた刹那、火柱がアヤ達を襲った。


「あつっ!な、何!」

「ひ……火だ!」


「やっぱり剣王は動いてくれなかったっすか……。ヒステリーちゃん。逃げるっすよ。」


火焔を操っていたのはニッパーだった。


ヒメさんは大きく頷くとまずは倒れているおじいさん、そしてアヤとプラズマの手を素早く握った。


ニッパーの炎がミノさん達の視界を奪っている間、ヒメさんは衣を上に投げるとアヤとプラズマ、おじいさんと共に跡形もなく消えた。


そしてそれを確認したニッパーもその場から忽然と姿を消した。


「いやー……やられました。」

「どこに行ったかは大方予想できるけどねぇ。」


イドさんはポリポリと頭をかき、剣王はやれやれとため息をついた。


「あ、アヤ!じじい!」


ミノさんはどこにともなく叫んだ。

しかし、どこからも返答はなかった。


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