最終話
マイが壱の世界のデータを、夢を見ている伍の世界の人たちに割り込ませる。
突然に混乱を産んだ伍。
世界はおかしな方向へと向かった。
未来神プラズマのデータにより未来が飛ばされ20年後。伍はもうひとつの世界があることを突き止める。
妄想症の人がいけるという世界へ。
そちらの方が楽しそうだと皆妄想をはじめる。それが50年後のこと。
世界は繋がり始め……滅亡の未来へと向かい始める。
「これじゃあ一緒じゃない!」
リョウが予想した通りになり、焦るマナ。
「え……?」
その時アマノミナヌシが過去を消し去るかとデータで訴えかけてきた。
つまり、真っ白にするかと問いかけてきたのだ。
「……なくさない」
マナは過去を残す選択をし、人々に善意を植えつける事にした。
……私は……現人神だ!私は神としてやらなければならないことがある!
そうして神のお告げとしてこう言った。
「現人神として言う。人を傷つけたりルールを破ると神はあなたをみている」と。
この一言だけ言った。
現在、神に近いケイに神からのお告げとしてそれを言わせ、世界は徐々に妄想の世界(壱)のデータをさぐるのをやめ、いい行いをして死ぬと神が連れていってくれるものという認識を産んだ。
さらに500年が経ち、人々の考えは改変前の精神に戻る。
暗い夜道で物音がしたら怪異かもしれない、悪いことをしていると怪異に連れ去られる、天災は怪異かもしれないなど。
人々の精神は一周回ったのだ。
結局、マナも古いデータを参考にするしかできなかった。やはりこの世界は同じように回るのが一番良いらしい。『怪異を信じる』から『怪異を信じない』に変わり、再び『信じる』に戻ってくる。
このサイクルが一番滅びから遠い。マナはそう結論付けた。
伍の世界は日本を中心に目に見えないものも信じ始めた。
そして知らぬ間に妖怪という言葉ができていた。
様々な妖怪の想像が産まれ、様々な妖怪のデータが出現した。
ものを信じていなかった時代はマイが割り込ませたデータにより、表向きはなかったことになった。
過去のデータ自体は残っているが。
「これが自分がやりたかった理想……だけど……これでいいのかな……」
自分がやったことに自信を持てなくなったマナは世界を変えた重圧に押し潰されそうになった。
よく考えれば神だって完全ではない。それは人間が想像したものだから。でも、やはり自分がしたことは信じなければならない。
そう言い聞かせているとケイが弐の世界がつながったことによりホログラムのように現れた。
現在、機械化の体が残ったケイは人間の理を外れた怪異になっている。
何百年後のケイかわからないが顔は微笑んでいた。
「おねぇちゃん、ありがとう。人間は想像する能力がある。だから想像はなくしちゃいけない。私は半端者だけど、これがいいよ。ありがとう。お姉ちゃんを信じて良かった……」
「ケイちゃん……私が……私がやったことは……合っていたのかな?」
「……わかんない……でも……お姉ちゃんも世界に動かされていたのならこれは必然なことだったんじゃないかな?」
「……元々、私がこのような判断を下すと世界から運命付けられていたってことかな?」
「……それは私よりも世界に近いお姉ちゃんのがわかるんじゃないの?とりあえず、ありがとう。私だけでも救ってくれた」
ケイは優しく微笑む。
「ケイちゃん。私はたぶん、世界改変のシステムだけで動いていたんだよ……。世界の滅亡を避けたいと考えている世界のデータが集まったのが私。ケイちゃんのためじゃなかったんだって気がついた……」
「なんとなく……感じていたよ。アマノミナヌシのデータを持っていた時点で、もしかしたらって……はっきりとわかったんだね」
「……うん」
マナは素直に頷いた。
「……あなたはたぶん消えてしまう。世界を改変するというデータしかないから……でももし……また会えたら……私を覚えていたら……また遊びたいな」
「そうだね……」
マナは悲しげに去っていくケイを黙って見つめていた。
ケイとはもう会えないだろう。
なんとなくわかった。
未来を結び、過去を消さず、再びアヤのデータが現代へ導いた。
「私はどうなる?」
マナがアマノミナヌシに問う。
「あなたのシステムはこれで終わりだ。世界は徐々に溶け込むだろう。妖怪が生きる世の中と神が生きる世の中で正反対のバックアップをとりはじめる。あなたは消滅し一から人の子として生きる。世界改変したものが世界にいたらデータに支障が出るからだ。人として産まれる前の記憶はアマノミナヌシと同化する」
「一から……記憶もなにもなくなるんだ……」
「そういうことだ。世界は改変される。そろそろあなたも……」
マナのデータは分解された。
「さ、最後に!……最後にデータになっている時神さん、マイさんを実体化させて!」
マナは最後に時神達、マイに一言言いたかった。アマノミナヌシは何にも言わずに時神、マイをデータから実体に戻した。
「な?なに……」
「いま……なんか……」
アヤ達はデータになってからの記憶がないようだ。マナを見て不安そうにしている。
「皆、ありがとう。時間が止まっている健さん達にもお礼をするね。ありがとう!そして……プラズマさん……」
「……?」
呆然としているプラズマにマナは笑顔で手を振った。
「ずっとついてきてくれてありがとう!また会えたら会おうね……。さようなら……」
「お、おい!?」
プラズマにお礼をした後すぐ、マナは消えた。
不思議となんの違和感もなかった。自分の使命を果たした達成感もあった。
……私は世界の人々のデータを代弁したんだ……。
……後悔はない。
マナがいなくなると時神達の瞳が黄色に変わり、データが書き換えられ、また緑に戻った。
「なんだ?ここは?」
戸惑うプラズマは辺りを見回した。
「待って!なんかすごい風がっ!」
「愉快だな?」
アヤが叫んだ刹那、プラズマ達は強風に吹っ飛ばされた。ひとり楽しんでいたのはマイだけだった。
アマノミナヌシはなにも言わずに時神達、マイを世界から出したのだ。
「うわああ!」
プラズマ達が悲鳴をあげていると知らずのうちにネガフィルムが絡まる弐の世界に出ていた。
「あ、あれ?」
「時神にマイ……?」
途中でリョウが時神の前に現れた。Kの使いのドールを連れている。
「日本の時神が弐の世界に落ちたと聞いて探していたんだよ」
リョウは記憶を失っており、そう言っていた。
「……なんでかここにいたんだ……なんでだ?」
「弐の世界は怖いわ……」
プラズマとアヤは青い顔でリョウを見ていたが、栄次は「何かがおかしい……」とずっとつぶやきながら頭を抱えていた。
「ほら!現世に帰るよ……高天原も心配していたんだからね……。過去神は過去に帰る!現代神は現代に帰る!未来神は未来に帰る!高天原の面々が移動の手伝いしてくれるって!ほら!早く行くよ!」
「……は、はい……」
なんだか納得できなかったがKの使いと共に現世に戻った。
いままで通りのふつうの生活が始まった。
アヤはアパートの自室のベッドで目覚め、頭を抱えながら歯を磨いていた。
「……なんかおかしいのよね……うーん……」
「もしもーし!ごめんくださーい!」
ふと外から聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「インターホンあるのに直に……天然?それよりもこの声……どっかで……はーい!」
アヤは険しい顔のまま玄関のドアを開けた。春の日差しの中に青年と小さな女の子、後ろに女性が立っていた。
「あ、あれ?あなたはっ……えーと……」
「お姉ちゃん、こんにちは」
小さな女の子が頭を下げて丁寧に挨拶してきた。
「……健と……あや……ちゃん?」
アヤはなぜだか彼らの名前は覚えていた。他は何にも覚えていない。彼らとどこであったかもわからない。
「アヤさん、私達と一緒に暮らしませんか?ああ、自分の家族です。嫁と娘」
「は、はあ……」
健がまぶしい顔で言うのでアヤは顔をひきつらせながらなんとなく頷いた。
「アヤさん、世界改変は覚えている?」
小さな女の子、あやが無邪気な顔で尋ねてきた。しかし、なにかをうかがっている顔だ。
「世界改変?なんのことかしら?突然変な事ばかり起きるからそれと関係するの?」
「ううん。なんでもない」
あやはアヤの返答に満足そうに頷くとアヤの手を引いた。
「もっと広いマンションで一緒に住もう!」
「……そんないきなり!?」
「あやとアヤ……どっちもあやちゃん。呼び間違いしそうです。あー、私はパパでいいですから」
「……はあ!?」
戸惑うアヤを健とあやは強引に連れ出した。
「全然わからないわよ!!ちょっとー!!」
朝日が昇る静かな玄関先でアヤの悲鳴が響き渡っていた。
世界はほとんど変わっていない。
※※
何年後か何百年後か何千年後かわからないいつか。
朝起きてからマナは母と会話し学校へ向かった。
途中友達に出会い、友達と会話しながら学校への道を走る。
「この路地は猫又いそうだわ……」
友達の女の子が暗い路地を気味悪そうに一瞥しつつマナにそんなことを言った。
「確かに気味悪いね……。あ、帰りに神社巡りしよ?アマテラス様とツクヨミ様とスサノオ様の神社でパワーをもらうの!」
「あんた、好きねぇ……。いいけど昨日も参拝していたじゃない」
呆れる友達の声を聞き流し、マナはつぶやく。
「こっちの世界にも……神様がもっと現れるかな?アマテラス様、ツクヨミ様、スサノオ様の他に……」
「なーに?こっちの世界って?」
友達に突っ込まれてマナは微笑んだ。
「私が書いている小説にはね、色んな神様が皆それぞれの役割を持っているの。現実もそうなったら楽しいのになあとか」
「ああ、あんた、小説投稿サイトで大ヒットしたもんね。なんだっけ?『TOKIの世界書』シリーズだっけ?知らない人、いないかも?神々がデータになっているなんておもしろい発想力だわ」
「ありがと!」
二人は笑いながら学校の校門をギリギリで駆け抜けた。
そして学校での古典の授業中。
「昔は妖怪や神が何かすると言われていました。ゲームとかで見る姿よりほんとは怖い存在だ。そこを踏まえてもう一度、ここの文を……」
先生の話を聞き流し、マナは一生懸命に考え事をしていた。
……妖怪とか神様って友達とかになれるのかな?
いるかわかんないけど……いたらいいなー。次出すのは赤い髪の未来っぽい時神で未来神で……ちょっとイケメンで……。
マナは授業をそっちのけてノートに小説に出すキャラクターを描いていた。
……おお!かっこよく描けたわ。それでー……現代神のアヤと過去神の栄次が語括神マイと出会ってワールドシステムに……。
……楽しくなってきたわ!それでー。
マナは窓から青い空を見上げた。
話は最初に戻る。
マナがロスト・クロッカーを書いたのか、以前におこったことを本にしたのか?
もう一度、最初に戻ってみてほしい。
そして、世界はループへと繋がるのである。
その頃、マナが描いていた赤い髪の青年プラズマは元の肆の世界でのんびりと昼寝をしていた。
ミリオンセラーの『TOKIの世界書』を脇に抱えて……。
世界は繋がってしまったのかもしれない。
そして「物語」の終わりに……ひとつ。
マナが想像した通りに世界が動いているのか、世界を巡り経験した事をマナが想像しているのか……。
どちらなのか?
わかったことは……
どちらも
「存在」している
ということである……。
そしてまた「あなた」は最初に戻るのだ……。
どちらが正しいのか確かめるために……。
これから再び、アヤは旅をする。
時間の旅だ。
ロスト・クロッカー……。
偽りの記憶をマナが描いていくのかもしれない。
おわり。




