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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
最終部「変わり時…」世界を変える力
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変わり時…最終話漆の世界21

危なげに歩いているマナを支えアヤは石段横の竹林に入った。

無情にも静かな風が通りすぎ、竹の葉を揺らす。

筍はそう簡単に見つからない。


「そ、そういえばマナ、桃は潰れてないの?」

アヤはかなりの衝撃を受けたマナが持っている桃について尋ねた。


「不思議と大丈夫みたい……。アヤさん、ありがとう……ひとりで歩けるから……」

「ダメ!歩ける怪我じゃないんだから!!」

マナを無理やり支えるとアヤは前を歩き始めた。


「……ありがとう……。筍……見つからないね……」

「筍は地面に埋まっているのよ。掘らなきゃ見つからないわ」

アヤがそう言った時、後ろからあーちゃんがおぼつかない足どりで近づいてきた。


「狛犬!」

マナとアヤはまだ戦うのかととりあえず構えた。


「あー……負けちまったから探すの手伝うぜ!」

「え……?」

あーちゃんは歯を見せて笑うと石像の狛犬姿になり、鼻で地面をフンフンとかぎはじめた。


「ああ!あったぜぃ!!……ここほれワンワン!」

意気揚々にあーちゃんは言い放つと前足で地面を堀り始めた。

「ほれ。もってけー!」

あっという間に筍を掘りあてると前足で器用に持ってからマナに投げた。

マナは尻餅をつきながら立派な筍を受け取った。


「……な、なんで?」

マナとアヤは警戒した顔であーちゃんを見てつぶやいた。


「ああ?気まぐれ」

あーちゃんは口角をあげていたずらっ子のように笑うとヨロヨロ去っていった。


「きまぐれ……」

呆然としていたマナとアヤはやがて我に返り、今度は葡萄を探すことにした。


「竹林から出ようか……」

「うん。葡萄は山葡萄だと思うの。反対側の藪の中にありそうね」

「山葡萄……どんなのかな?普通のブドウじゃないの?」

マナの質問にアヤは小さい丸を指で作った。


「これくらいの豆っぽい大きさの野生のブドウよ」

「へぇ……」

マナとアヤは石段に戻ってきた。そこに人型に戻ったあーちゃんが再び大の字で寝ており、ヘラヘラと手を振っていた。


「向こうはうーちゃんがいるから!」

「……なんで急に友好的……」

感情の変化がよくわからない。動物的で気まぐれのようだ。


しかし、自分の役割以外はしないらしい。向こう側はうーちゃんの担当なのか全く動こうとせず大の字で寝ている。


「ま、まあ……とりあえず行きましょう?友好的ならいいじゃないの」

「……そ、そうだね……」

アヤとマナは寝ているあーちゃんを恐る恐る跨ぎ、竹林とは反対側の森の中へ入った。


「……うう……葡萄はおいしい食料だけど……わけてあげますよ……うう……」

すぐにうーちゃんの声が聞こえた。うーちゃんは石像の狛犬姿でなんだか申し訳なさそうにお座りしていた。


「あ、ありがとう……」

いまだに戸惑うアヤとマナに目もくれず、うーちゃんは鼻を動かし犬のようにあちらこちらを歩き回った。


しばらく匂いを嗅いでからある一点に向かって走っていき、青いような紫のような色をした木の実を枝ごと口にくわえて持ってきた。


「うう……はい……」

若干怯えつつ房になっている木の実をマナの手のひらにそっと乗せた。


「これが……山葡萄?」

「うう……もう大きいのない……うう……」

「大小はいいんだけど、山葡萄なの?」

うーちゃんは大きいものを探してきたようだ。豆みたいな小さな粒が房になってついている。売り物で出ているブドウとは似ているが別物にも見えた。


「うう……これしかしらない……うう……」

「……ありがとう。信じるね」

マナが山葡萄だと思われる木の実を大事に備え付けのポケットにしまうとうーちゃんにお礼を言った。


「……うう……」

うーちゃんはどこか安心した顔で何度も頷いた。こちらは先程のあーちゃんと比べると飼い犬のような雰囲気だ。


「……でも狛犬は犬じゃないんだよね……」

マナは小さくつぶやくがうーちゃんは首を傾げただけだった。


「うう……では……これで……うう……」

うーちゃんはそわそわしながら去っていった。


「……さて……」

うーちゃんを見送ってからアヤはマナを見た。


「どうするの?これから……」

「あの神社の白銅鏡から進むとイザナミ様にまたぶつかっちゃう……。アヤさん……時間を戻せるかな?」

「……やってみるけど……戻るとリョウが……あなた怪我しているし……」

「仕方ないわ……」

マナが覚悟を決めた刹那、目の前にリョウが現れた。


「……っ!」


「やっぱり……追ってきてた!!」

「なんとか時間巻き戻せたから来てみたら……正直ここまでやるとはね」

リョウは突然襲ってきた。マナが動けない傷を負っていることを瞬時に気がついたらしい。

刀を振りかぶって突っ込んできた。


「仕方ない!」

アヤは咄嗟にマナの手を握ると時計の魔方陣を出現させ、元の時間軸へたどり着けるように祈った。ふたりはホログラムのように素早く消えた。


「ちっ……!アヤちゃんは時間操作にセンスがあるな……」

リョウも後を追うように時間操作て未来へ飛んだ。


「おわっ!」

ふとプラズマの驚く声が聞こえた。


「……え?」

マナとアヤは急いで辺りを見回す。草原の丘。目の前には鳥居。あやはいない。そして消えかかるプラズマと栄次が視界に入った。


「……戻った!」

「おい!マナ!なんだその……」

プラズマと栄次はマナの怪我に絶句した。ふたりには何が起きたのかわからない。


「リョウにやられたのか?あいつは突然消えたんだ!お前らを追っていった!」

プラズマは興奮した口調で叫んでいた。

マナは話の途中で膝をつき肩で息をしながら筍と葡萄、そして桃を並べた。


「とりあえず、食べて!!」


「食べてって……」

「いいから早く!!」

マナの気迫に押されプラズマと栄次は慌てて桃と葡萄に食らいついた。


「渋い……」

プラズマが半泣きで桃と葡萄を飲み込む。

「おい、筍はどうする……」

栄次は筍の扱いに困ったようだ。


丸々一本なためそのままでは食べられない。

「なんとか食べて!!」

マナにそう言われ戸惑った栄次は刀で筍の皮をむいた。


「ゆ、ゆでないと……」

「そんなことをしてる暇はないの!生でかじりなさい!」

アヤにも怒られ、不安げなふたりは慌ててそのままかじった。


「うう……」

青くなっているふたりはなんとか少しだけかじった筍を飲み込み、肩で息をした。


「あ!透けてないぞ!」

「消えずに済んだらしいな……。……!」

栄次が最後まで言い終わる前に口を閉ざし、刀を凪ぎ払った。

金属音が響き、刀を構えたリョウが現れた。


「……遅かったか……」

「マナに暴行したのはお前か?」

栄次は鋭く睨みながらリョウに尋ねた。


「暴行なんて……。違う、違う。でも、マナちゃんが一瞬で消えてくれてればこんな半殺しにならずに済んだんじゃないかな?」

リョウは剣先を返して斬りあげてきた。

栄次は受け流すと再び素早く構えた。


「そうか。お前は冷たい神か……半殺しになった女を見てなんとも思わんとは……」

「仲間だったら怒りが沸き上がってるとこだろうけどね……。……っ!!……強いね……」

栄次はリョウの攻めを切り崩していく。絶え間なく刀を凪ぐ音が聞こえ、両者とも激しく動いていた。


「強い……私もああなれたら……」

「マナ、これからを生きる者は強くなくたっていいんだ」

マナの言葉にプラズマが答えた。


「私が弱かったから力のある者に勝てなかった……」


「……違うぞ。その時代は終わったんだ。その考え方は戦争を生む考え方だ。栄次は……あいつは……強くなりたかった男じゃない。古い時代が男は強いものと決めつけたから血反吐を吐きながら物理的に強くなったんだ。あいつは本当はすごく弱くて優しい男だ。現代を生きるアヤよりも未来を生きる俺よりも後悔しやすくて何かに怯えている。俺は『時代の犠牲者』だと思った」


「……こんなに強い栄次さんが……弱い?……ごめんなさい……勝手に思っていた……昔の人は皆強かったって……」

「とにかくリョウを抑えるぞ!」

時間操作で突然現れるリョウを栄次は感覚で受け流している。なんとかしてリョウを引っ張り出したい。


「ごめんなさい、私はもう時間操作はできないわ」

「うん、アヤさんは休んでいて」

マナが当たり前のように動こうとしたのでプラズマが慌てて止めた。


「馬鹿女!あんたが一番休んでろ!」


「でも……」

「リョウは俺と栄次がやる……」

プラズマは自分の神力を解放すると静かに答えた。

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