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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー11

「YO☆」

「うわあああ!」


ミノさん達は目の前に立っていた神様に驚いて思わず声を上げた。


その神は幼女の姿をしており、原色が色々混ざっているニット帽のようなものをかぶって赤色の着物に下は白い袴を着ている。


そして何よりも特徴的なのはレンズが二等辺三角形のサングラス。


つっこみどころいっぱいな奇妙な格好である。


「YO☆YO☆ナス食べてショーユゥ昼顔ライダー音大!ソトマ引いてハンバーガーダイズぅぅ!私はトンカツライブのアルパカ足踏み!イッツミルク☆」


少女は謎のラップを発しながらこちらの反応を待っている。


「……。えーと……。」


つっこむところはいっぱいあるのだが何にも言葉を紡ぐ事ができない。


「あの……ワイズ……空耳で英語のラップを歌うのやめてもらえますか?」

「だってなんて言っているかわからないんだもんYO☆」


イドさんが少女に向かいワイズと言った瞬間、ミノさん達の顔色が変わった。


「思兼神って……女の子だったのかよ。」

「この状況でつっこむところそこじゃないわよ。」


二人はしばらく呆然と東のワイズを眺めていた。

東のワイズはきょとんとした顔を二人にむけている。


部屋は暗く、広い部屋なのか狭い部屋なのかよくわからない。それからこの暗い中、サングラスをしているとはどういうことか。


「おい、龍雷水天、こないだはよくも水をかけてくれたものだな。」

ワイズの後ろから別の声がした。渋い男の声だ。


「あー……天御柱神ですか……。北からもう戻ってきたんですか?ていうか、あれ、ちゃんとあやまったじゃないですか。」


イドさんが頭をかきながら声に答える。

刹那、風がワイズ達の前を通り過ぎ、イドさんの目の前に鬼の仮面が現れた。


昨日イドさんとアヤが竜巻の中で出会った神だ。どうやらコップ一杯の水をぶっかけた事にご立腹のようだ。


「こちらは人に危害を加えないように頑張っていたというのにお前は呑気に俺に水を……水を……」

「もういいYO☆。お客が困っているYO☆」


静かに怒っている天御柱神を戸惑った顔でワイズがなだめる。


「ミノさん達が困っているのはワイズのせいですよ。」

「なんでだYO☆。私が何したっていうんだYO☆ご立腹だYO☆」


イドさんの言葉によりワイズの眉が吊り上った。


「ああ、わかりました。すいません。あなたは何もしてませんよ。それよりもほら、本題を。」


イドさんのフォローで機嫌を直したワイズはミノさん達に向かい挨拶をした。


「うむ。ああ、えーと、私は東のワイズこと、思兼神おもいかねのかみだYO☆。」


そこで天御柱神が素早く部屋の電気をつける。パッとミノさん達の視界が明るくなった。


部屋は意外に狭く、畳が敷き詰められている床の真ん中に洋風の椅子がちょこんと置いてある。


そのすぐ横にどうやって生えているのか、もみじの木が紅色の葉をつけている。


ミノさんとアヤは不思議な部屋に目を奪われていた。


「ああ、これは紅葉だYO☆。今から本格的な秋が訪れるYO☆。」


―い、いや、そういう事じゃなくてだな……。な、なあ?―


ミノさんはちらりと横目で見つつ、アヤに助けを求める。


―私に聞かないで。ここは神の国よ。なんでもありなんじゃないの?―


「あ、それからとりあえず音楽でも聞く?カッコいい歌見つけたんだYO☆あ、おいしいお菓子も……」


「歌もお菓子もいいですから、本題を進めてください!あなたはさっきから何がしたいんですか?」


東のワイズ相手に珍しく戸惑っているイドさんはなかなか新鮮だった。


「ごめん。何を言おうとしたのか忘れちゃったYO……。」

「ワイズ!」


「うう……イドちゃん怖いYO……。天御柱―!」


ワイズはいそいそと天御柱神の後ろに隠れる。


「天御柱神に隠れるなんて卑怯です!」

イドさんはワイズに厳しい目線をぶつける。


「龍雷水天、思兼神はふざけているんだ。本気で怒るな。」

やれやれとため息をついた天御柱神はそっとワイズを見つめた。


「と、いう話であって、本題に入るYO☆」

ワイズは天御柱神の後ろから飛び出すとにこりと笑って話し始めた。


―な、なんなんだよ……この神は……―


ミノさんはまた戸惑い、アヤに目を移す。


―だから知らないわよ。いちいちこっち見てこないで。―


おじいさんは知らぬ間に紅葉の元におり、葉っぱに向かい手を伸ばしている。


「単刀直入に言うYO☆。今回の元凶は冷林だYO☆」

「!」

「これはすべて冷林が仕掛けたものなんだYO☆。あの無邪気な爺をつくったのも冷林だYO☆」


「どういう事よ?」


「あの爺は冷林の力をうけて神になったんだYO☆。ミカゲらは知らないけどNE☆」


「そういえば、ミカゲ様はおじいさんが冷林って言っていたわ。魂が冷林とか。」


「うん。まあ、それは間違いじゃないYO☆ただ、北の者は爺が信仰を集めたのと冷林の転生が同時期に起こった為の事故と考えているようだYO☆」


ワイズは楽しそうに指を動かしている。


「ごめんなさい。よくわからないわ。」

「えー、だから……うーん。飽きたYO……。ラップ調にじゃべっていい?」


ワイズは口をとんがらせながら天御柱神を見た。


「ダメだ。ちゃんと説明してからじゃないとダメ。」

天御柱神がなだめるようにワイズに言葉をかけている。父と娘という感じが一番近い。


「うー……だから、ね?冷林がぁ……転生するんだYO……


それで、タイミング良く爺が神になったから皆、冷林が爺の中に入っちゃったと思っているんだYO……

でも実際は冷林が狙って中に入ったんだYO。本人は記憶ないみたいだけどNE。


で、我々はなんかよくめんどー事を持って来る冷林を封印しちゃおうかなーなんて考えていてNE☆


何考えてんだかわかんないけど今現在記憶を失くしているから、この際。」


「なるほど。今のはわかりやすかったわ。じゃあ、私達に力をくれているのは冷林なのね?」


「うーん……冷林にそんな力ないからそれは爺の力じゃないKANA☆」

「結局なんなのよ?」

「わかんないYO☆」

「……。」


しーんとした空気が部屋に流れた。


沈黙に耐えきれなくなったミノさんが最初に口を開いた。


「なあ……ワイズさん、あんたは俺達の仲間なのか?」

「ワイズさん?ははは!それ斬新ー!気に入ったYO☆仲間になろう☆」


ワイズはニコニコと微笑むと難しい顔をしているミノさんの手をとった。


「仲間になろうって……おいおい……。」


ミノさんはため息をつくと先程からむすっとしているイドさんに目を向けた。イドさんもミノさんに視線を移す。


「一つだけ言っておきましょうか。冷林の封印はおじいさんと共にです。それでも我々を仲間と言いますか?」


「龍雷水天、余計な事は言うな。」


イドさんの発言に天御柱神が強引に入り込んできた。


「まあ、いいですけど。」

イドさんはそこから何も言わず黙ってミノさんとアヤを見据えた。


「助言?ありがたいわね。」

「僕の立場上、それ以上言われたらやばいですね。」


「だってイドは私達の仲間じゃない。おじいさんを守るグループでしょ?」

アヤの発言でワイズ達の表情が曇った。


「アヤちゃん……。」

イドさんは恐る恐るワイズと天御柱神に目を向ける。


「ふーん。イドちゃんは封印に協力してくれないんだNE☆」


「俺に水をかけといて思兼神を裏切るのか!」

「えー……えーとその……」


イドさんは救いの目でミノさんを見つめる。


「俺見たってしょうがねぇだろ。」

困った顔をしているイドさんにアヤは堂々と言い放った。


「仕返しよ。さっき騙したから。

それにさっき、あなたは仲間だって自分で言ったのよ。中途半端に私達の肩を持とうとするとこうなるわ。」


アヤはキッとイドさんを睨みつける。


「ここはアヤちゃんが黙認してくれると思ったのですがねぇ……。一応、アヤちゃん達を騙すためにああいう風に言ったんですよ。」

イドさんは慌ててワイズを説得した。


「じゃあ協力してくれるんだNE☆」

ワイズの表情がパッと明るくなった。

「……うまく逃げたわね。」

「……。」


イドさんはアヤを一瞬だけ睨みつけた。


刹那、地震のような揺れが一同を襲った。


「ああ、剣王軍が来たYO☆。冷林はほんとやっかい事ばかりだYO……。」

「剣王軍だって!」


ワイズの一言で天御柱神は慌てて空間をタッチし、アンドロイド画面を出すと城全体にいる神々に連絡を入れはじめた。


「西の……剣王……武甕槌神。」

「俺達も巻き込まれたらやべぇぞ……。おい、くそジジイ!紅葉触ってないでこっち来い!」

「んー?」


おじいさんは相も変わらずのんきに返事をし、ひょこひょこと素直にこちらに向かって歩いてきた。


「よし、戦闘態勢だYO☆。」

ワイズが近くのボタンを押した。すると静かに壁と天井が動き始めた。


「な、なんだ!」


ミノさんが叫んだ頃には天井は開いており、青空が見えている状態だった。

壁もどこかに折りこまれ床だけになっていた。


上空を沢山の銀色の鎧達とロボットスーツに身を包んだ者達がハヤブサの如く通り過ぎる。


手に持っている大型の刀やレーザー銃がギラリと太陽に照らされて光っていた。


「……一応、逃げましょうか?」


イドさんがこそこそとミノさん達に耳打ちをしてきた。外はもうワイズ軍が放つ竜巻や雷の光りと剣王軍が放つレーザーと刀から放たれるカマイタチでごっちゃごちゃだ。


「おたくはこんなんでどうやって逃げるって言うんだ。」

「信用するわよ。」


ワイズは指揮をするので精一杯で天御柱神はもう戦場に飛んでいる。誰もこちらを見ていない。


イドさんはそれを確認するとそっと目を閉じた。イドさんの周りをケムリが包む。


「!」

しばらくしてからイドさんではないもののシルエットがはっきりとケムリに映った。


そこに佇んでいたのは一匹の龍だった。一般の龍よりは少し小さいかもしれない。だが、四、五人ならば乗せるのはたやすいだろう。


「乗ってください。」

龍になったイドさんがミノさんとアヤを誘導する。


「わー!かっこいいー!」

おじいさんはこういう時だけ行動が素早いのかもうイドさんに乗っている。


「あ、ああ……しかし、すげぇな……。龍なんて見たことねぇし……。反応に困るぜ。」

「彼は竜神だったわね……そういえば。まあ、いいわ。とりあえず乗りましょう。」


二人はオドオドしながらウネウネ蛇のように動いているイドさんの背中に乗った。うろこで思ったより背中は固い。


「かてぇ……座り心地は最悪だな。」

「そう言わないでくださいよ……。じゃあ、行きますよ。」


イドさんが空へ舞いあがった。

龍のしなやかな体がまるで水の中にいるように空中を泳ぐ。


「わああ!すっごいいい!かっこいいいい!」


一人テンションの高いおじいさんの声が響き渡った。


「すごい……。龍に乗って空を飛べるなんて思わなかったわ。」

「そ、そうだな。けっこう怖ええけど。」


二人は呆然と遠ざかって行く城を眺めていた。

途中、ワイズがこちらに気がつき何か言っていたがイドさんが戻る事はなかった。


いや、戻れなかった。


襲ってくる剣王軍から逃げていたからだ。優雅に舞っていたのは飛び立ってから二、三秒だけだった。


「うわあ!ビームはやめてほしいですね。龍バージョンのイドさんだとちょっと避けにくいです。」


イドさんの横すれすれをレーザー光線が通り過ぎる。イドさんの身体が激しく揺れ、乗っているアヤ達は気分が悪くなった。


「ちょっと!もっと優しくなんとかして!」

「そうだぜ……。気持ち悪くなってきたじゃねぇか。」


「無理です!僕も必死なんで!アヤちゃん、たくましいミノさんにつかまってキャー怖いってやってください。ギャップ萌えします。ああ、なるべくかわいい顔で。」


「馬鹿言ってないでなんとかしなさいよ!だいたい、こんな蒼い顔してゲーゲーしている神様に頼れって方が無理。」


「なんかすごい失礼な言葉が聞こえたぞ……今。」

「ミノさんもっとしっかりしてくださいよ……。アヤちゃんが困ってるじゃないですか。」


「とにかくイドは前を向いて避けなさい!」


イドさんは斬りつけてくるロボット達を避け、レーザー光線を結界で弾きとギリギリの防衛をしている。


ミノさんはおじいさんの服を掴んで落ちないように気を配り、アヤはタイムストップをかけて剣王軍の動きを弱めている。


「あー、それから言っていませんでしたが……僕、龍になれるの三十秒だけなんです!」


イドさんの言葉を聞き、アヤ達は一斉に青ざめた。


「何その最後の必殺技的なの!やめなさいよ!いきなりそんな事言うの!」

「おいおい、今何秒たったんだ?そろそろやべぇんじゃ……」


ミノさんがふっと言葉を切った。


「ああ、限界ですぅ……。」

気の抜けた声を残しイドさんはもとのイドさんに戻った。


「馬鹿ヤロー!こんなとこで……戦場のど真ん中で……いきなり龍をやめんじゃねぇえええ!」

「きゃああああ!」

「おお?」


アヤは絶叫を放っているがおじいさんは今も楽しそうだ。イドさんは素早くおじいさんが離れないように着物を掴んだ。


「ちょっ……あ、アヤ!」


アヤは絶叫を放ちながらギュッとミノさんに顔をうずめていた。レーザーが二人のすぐ横を通り過ぎる。


「あ……いいですねぇ……僕、そっちがよかったです……。アヤちゃんがデレました!ついに!」

「デレた!?」


ミノさんの間抜けな声を残し、一同は真っ逆さまに地面に向かい落ちて行った。しかし、一同の落ちている感覚はすぐになくなった。


「……?」


ミノさん達は恐る恐る目を開ける。

なんだか知らないが一同はプカプカと浮いていた。


余裕の出てきたアヤは頬を赤く染めながらバッとミノさんから離れた。


「おぬしら……何を恥ずかしい会話をしておるのじゃ……。」

「ヒメ?」


ミノさん達の目の前にはヒメさんがいた。ヒメさんもフヨフヨと空を浮いている。


どうやら高天原の衣のおかげで浮いているらしい。ミノさん達の下にも大きな布が浮いている。


「あ、あれは事故よ。事故。で?歴史の神は私達をどうするつもりなのかしら?敵はイドだけよね?」

アヤは照れを隠しながらボソボソとつぶやいた。


「一度剣王の元に来てもらおうと考えておるのじゃが……。イド殿、おぬしはどうするのじゃ?」

ヒメさんはいつもの表情でイドさんを見つめる。


「僕ですか?じゃあ、僕も同伴させてもらいましょうか。」

イドさんの反応をみてヒメさんは大きく頷いた。


「やったの!これでまた皆でお話しできるの!とりあえず、剣王のもとに来てもらってからじゃな。翁―❤歴史の神じゃよ!」

「ひーめーだあああ!」


笑顔で叫ぶおじいさんにヒメさんも笑顔で応じた。


「おたくは一体なんなんだよ……。」

「歴史の神じゃ!」


ミノさんの不安げな問いかけにヒメさんはきっぱりと答えた。


「そういう事じゃなくてだな……。」


「……まあ、とりあえず、西の剣王にも会っておくのがいいんじゃない?歴史の神、あなたも私達の仲間なんでしょ?」


アヤの言葉にイドさんの肩がビクッと動いた。


「んー?もちろんじゃ!」

「あー、言っちゃいましたね……。」


イドさんは頭を抱えた。


「なんじゃ?」

「なんでもありません。」

「地獄の勧誘がスタートしたな。」


きょとんとしているヒメさんにミノさんはやれやれとため息をついた。


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