変わり時…最終話漆の世界14
「よし……じゃあプラズマさんから……」
「俺から!?」
マナの言葉にプラズマは後ずさりをした。
遠くでは剣王とスサノオが激しくぶつかり合っており、少し離れた所でアマテラスとワイズが瞑想している。剣王とスサノオは拮抗しているがアマテラスとワイズの方はワイズが優勢のようだ。アマテラスに余裕はない。
「急がないとワイズが勝っちゃう!」
「わ、わかった……」
プラズマはため息をつくと恐々と目を閉じた。
「別に目を閉じなくても……」
「なんかこえーんだよ」
「とりあえず弐の世界に飛べたら待機ね!」
「うーい……」
マナはプラズマの抜けた返事に頷くと腕を振り上げ左に切った。
プラズマは五芒星に包まれスッと消えていった。
「……できる!」
マナは興奮ぎみに頷くとアヤと栄次に目を向けた。
「あ、あなた……弐の世界に飛ばす力があるの?だ、大丈夫なのよね?」
アヤは不安げに栄次とマナを見つめる。
「俺を見てもわからぬぞ……。状況が全くわからん……。何が起こってるのだ……」
栄次はアヤに戸惑いの表情で答えた。
「とにかく、説明している余裕はないので!えーと……過去神栄次さん……だったよね?侍を初めて見たけど感動している余裕もない!えーい!!」
マナは有無を言わさずに栄次も弐の世界へ飛ばした。
「お、おいっ!」
栄次は困惑したままホログラムのように消えていった。
「あとは……アヤさん」
「恐怖しかないわね……」
アヤはひきつった顔でマナを仰いだ。
「後でまた!」
マナはアヤもさっさと弐の世界へ飛ばした。
「……あとでなんとかしなさいよ……」
アヤは一言あきれたように言うとため息をついて消えていった。
「さて……私だけど……」
ついさっきこの能力に目覚めたが自分を弐の世界に飛ばしたことはない。
とりあえず、手のひらを自分に向けて頭から腰にかけて撫でるように斜めに動かしてみた。
「どうかな……」
心配しながら待つと足元に五芒星が現れマナを包み始めた。
「うまくいった!?一発で!?」
マナは足からホログラムのように消えていった。
「……んむ……」
ザァーザァーと静かな波の音がする。マナは恐る恐る目を開けた。
「ん?」
目を開けるとそこは砂浜だった。
夕日か朝焼けがわからないがオレンジと紫が入り交じったきれいな空に海が反射し、キラキラと輝いている。海はどこまでも海で後ろに広がる砂浜はどこまでも砂浜だった。
「きれいなところね……」
ふとアヤの声が聞こえた。
「俺はなんか不気味だ。きれいすぎるものは近寄りがたいな」
栄次の声も聞こえる。
「お!マナも来れたか」
マナの少し先でプラズマが砂浜を歩いてきた。
「海の世界に出たらしいんだが、波の音しかしないんだよ」
「……海……もしかすると……」
「僕をお探しかな?」
ふと男の声がした。この声は聞いたことがある。
「ツクヨミ様だ……」
「正解」
すぅっと足から光に包まれ現れたのは高貴な紫の髪をし、水干袴を着た長身の青年、ツクヨミだった。
「やっぱりツクヨミ様!」
「ツクヨミって……さっきのアマテラスといい……概念になった神がなんでいるわけ?」
マナの発言にアヤはいぶかしげにツクヨミを見た。
「あれ……時神が全員エラーかあ。こりゃ大変だねー。僕は世界が微妙に改変前に戻ったから改変前の場所にいるだけだよ」
「改変って……?」
アヤと栄次は首を傾げていたがプラズマが強引に話を進めた。
「で……あー……そうそう!鍵!鍵だよな!マナ!」
「ん?あ……そうそう!鍵!」
「鍵ねー。アマテラスはくれなかったの?」
ツクヨミはのんびりマナとプラズマに尋ねてきた。
「妨害されて鍵を出せないの!だからツクヨミ様のとこに行きなさいって……」
ツクヨミは黙りこんだ。マナの言葉をひとつひとつデータにして真意を確かめている。
神様に嘘をつけないのはニセの言葉が貼り付けられても中の本当のデータを読み取れるからだ。
リンク名の下に隠されているリンクURLを透視できるのと一緒か。
「……どうやらそのようだね」
ツクヨミは軽く頷くと手から白銅鏡を取り出した。不思議とキラキラ輝いている。
「それは……鏡?」
「うん。鏡。前は目だったけどなんか怖いでしょ?鏡にしちゃったのさ。僕とアマテラスが産まれたものなんだ。これ」
「それが……鍵?」
「アマテラスと共通して持っているのがデータは違うけどこの白銅鏡。この中に入れば黄泉の国にいける。そこにいるのはね……。イザナギとイザナミさ」
ツクヨミの説明にマナはまたわからない事が出てきた。
「イザナミ、イザナギ?昔に信じられていたっていう神様?そこに行くとどうなるの?」
「イザナギ、イザナミを説得させて混沌としていた日本をデータ化し実体化させたアマノミナヌシの矛を手に入れるんだよ。そんでアマノミナヌシのデータに侵入する。まあ、このアマノミナヌシだって人間が想像してできた神なのかアマノミナヌシが世界を回すために人間を造ったのかよくわかんないんだ。だから世界も日本もニワトリかたまごかの状態さ。本来は実体がないんでデータの改変の仕方はわからないよ。僕は」
「とりあえず……」
「この鏡の中へどうぞ」
ツクヨミは白銅鏡を海に照らすと砂浜に置いた。
白銅鏡にはなぜか海が映っている。
「海が鏡の中に……」
アヤが白銅鏡を覗き、不思議そうにつぶやいた。
「溺れそうだね……」
「反応が独特よね……あなたは」
マナのつぶやきにアヤはため息をついた。
「じゃあこの鏡に飛び込んで」
「飛び込む!?」
ツクヨミの一言に目を丸くしたマナ達は声をそろえて叫んだ。
「そう」
ツクヨミは特に表情なくそう言い放った。
「まあ、何度も言うが……俺は何も……」
栄次の戸惑いはさらに激しくなった。栄次は何も知らずに突然現代に飛ばされ、弐の世界へ飛ばされ、最後には聞いたこともない世界へ連れていかれるのだ。戸惑いがこれだけで済んでいるのが長年の経験か侍だからか。
「溺れないのかな?」
「あんたはそれしか疑問はないのか?」
マナのつぶやきにあきれたプラズマはため息混じりに頭を抱えた。
「溺れないよ。そういうデータはないから」
ツクヨミは丁寧に答えてきた。
「良かった。じゃあ、行こうか!」
「行こうかって……ためらいもないのかよ……」
プラズマは渋い顔をしてつぶやいた。
白銅鏡に躊躇せず足を入れたマナは吸い込まれるように消えていった。
「あいつ!マジでふつーに行きやがった!!」
「なかなかためらわれるが……行かなければならぬのであれば仕方あるまい……」
驚くプラズマに栄次がため息混じりに答えた。風貌は若いがじじくさい所がある栄次である。
「とか言いながら誰も行かないじゃないの……。私が先にいくわ。じゃあね」
アヤがあきれた顔のまま鏡に足をつけた。アヤも吸い込まれて消えた。
「女達のが強いようだね。全く情けないなあ」
ツクヨミが軽く笑った。
「全くだ。ここまできたら行くしかあるまい。では……」
「待った!俺が先いくよ!最後は嫌だ!」
プラズマが慌てて栄次を止めた。
「はあ……では先に行け」
「す、すまんね……」
プラズマは苦笑いのままあやまると足を鏡につけた。緊張した顔が消えると栄次も足をつけた。
「時神も連れてくるとはあの子は本当に……」
ツクヨミの声は海のさざなみの音にかき消された。




