変わり時…最終話漆の世界13
「ほー、今回は情報が変わっちゃった奴がいるのか」
スサノオは軽く笑いながら時神達を見ていた。
「スサノオ様……まさかシミュレーションのこと……」
マナが尋ねるとスサノオはニカッと笑った。
「まあな。またこっちに入り込めて良かったぜ。今回はシミュレーションしていた奴はぶっ倒れたか!愉快愉快」
スサノオは時間の止まっているマイをちらりと横目で見た。
「お前はスサノオか……。シミュレーション同様に楔が抜けた」
ワイズは悔しそうにスサノオを睨み付けていた。
「あー、お前は思兼神だな?俺はマナについている。こっちのが楽しいぜ?」
「……すべてはお前か……。毎回安定のしない性格……。守ったり壊したり突き放したり良心的だったり……」
「俺はこういうデータなんだ。しかたねーだろ?人間が言う善悪が拮抗してんだよ。俺はそういう神だ」
「向こうに行っていれば良かったが」
ワイズはどこか古くさい言い回しでつぶやくとつけていた三角形のサングラスを乱暴に外した。
サングラスは派手な音を立てて割れたが割れた破片が飛んだまま止まった。時間が止まっているからだ。
ワイズの目には沢山の電子数字がびっしりと隙間なく流れていた。
「ワイズがサングラスを外した……」
プラズマが目を見開いて驚いていた。ワイズは常にサングラスをしており、いまのいままで目を見たものはいない。
「すべてのデータを取り込んでしまうからな。私にとって邪魔なものを遮断するサングラスだ。しかし、スサノオのデータはどちらにしても入ってくる。うんざりだ。お前を向こうに閉じ込めるためにデータを取り込んでやる」
「あー、怖い怖い。……マナ!そこのボーッとしてる時神が世界を停止させてくれたから小娘使ってアマテラスを呼び出せ!あいつは俺が抑えてやる」
スサノオはサキを小娘と言い、剣王を挑発的にあいつと言うと不気味に笑った。
「ど、どうすれば……」
「とにかく、サキにきいてみるぞ」
プラズマが困惑していたマナを引っ張り大混乱しているサキの元に連れていった。頭に「ハテナ」マークのついている栄次とアヤは怯えた表情で後ろをついてきた。
「ちょっ……これはなんなんだい?」
サキは辺りの時間が止まっていることと先程の現象の謎を考え、フリーズしていた。
「ちょっとシミュレーションから外れたけど……サキさん、アマテラス様を連れてきて!」
「そんなこと言われてもアマテラスなんて見たことないし、どうやるんだい?」
「わ、わかんないけど……」
マナはサキに聞き返されて戸惑った。
「……そういえばサキ、お母さんがアマテラスを体に宿したんじゃなかったかしら?」
いままで話さなかったアヤが小声で自信なさそうにつぶやいた。
「そういえばそんなことがあったな……」
栄次も小さくつぶやいた。
これはサキが太陽神になる前に時神を巻き込む大事件があった時を指す。この件についてマナが知っている内容はない。
「しかし……俺はどうしてまたアヤやプラズマがいる世界に飛んだのだ?時間も止まっている……。また何か問題が……」
栄次は動揺と困惑がある程度収まったのかやっと謎の現象に口を開いた。
「まあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ」
プラズマがため息混じりに栄次の肩を叩く。
スサノオと剣王が戦い始めた。
スサノオはアマノムラクモノ剣という剣を出現させたようだ。
いままでとは次元が違う。そのまま世界が滅びそうな感じだが時間が止まっている空間内なので風もなければ衝撃もなく、物も壊れないため重たい金属音しか響かない。しかし、気迫と雰囲気で近寄れば文字通り消し飛びそうなのはよくわかる。
故に戦闘ができないワイズはかなり距離をおいて悔しそうにこちらを見ていた。
もしかするとデータを取り込んで対策をしようとしているのかもしれない。
「とりあえず、なんとかしてアマテラスをこちらに連れてくんだ……。健とか倒れてるやつはたぶんそのままで大丈夫だから心配しなくていいだろ……」
プラズマの言葉にマナは小さく頷いた。
「なんか申し訳ないけど……今のうちにアマテラス様をなんとか……」
「だからあたしはわからないって」
マナの視線にサキは頭を抱えた。
「何かアマテラス様に繋がるものは……」
「……そういえば……太陽にアマテラスの巻物があったね。陸の世界に行った時に陸のナオが神々の歴史の矛盾部分に気がついてあの巻物を盗ったんだけど、後で返されてねぇ。なんかに使えたんじゃないかね?」
「ナオさんって今、時間が止まっている神でしょ?それ、今出せる?」
ピンときたマナはサキに詰め寄った。
「データ収納に入ってるんじゃないかい?」
サキは恐々と左手についてる腕輪を指差した。
「じゃあ、出して!」
「わ、わかったよ……」
サキはマナに押されつつ腕輪の電源ボタンを押してアンドロイド画面から異色な巻物を取り出してきた。
「こ、これ……だよ」
巻物は古びた巻物で開きにくい雰囲気が漂っている。
「中を見てみようか」
マナは冷や汗をかきながら巻物を開けた。開かなそうだったがマナが開けるとすんなり開いた。
「開いた……」
開けた瞬間にくずし字で書かれていた何かの文章が光り出して電子数字に変わり、弾けて飛んでいった。
その電子数字は過去、現代、未来それぞれの時神に吸い込まれると再び吐き出され少しデータが変わった状態でマナに入っていった。
「なんだ!?」
プラズマ他、アヤ、サキ、栄次は驚いていたが状況は進み、マナの体から再び出てきた電子数字はマナの目の前で形作られてアマテラス大神になった。
太陽の王冠にスサノオと同じ紫の高貴な髪を腰まで伸ばしている。
服装はサキに似ており、柔和な顔が安心感を生んでいた。
「あら……あら?わたくしは……ん?壱の世界でしょうか?ここは……」
アマテラスは落ち着いた声音でマナを見てそれから時神達を見てサキに目を向けた。
「……あ、あんた……もしかして……アマテラス大神……ほんとにいたんだ……うっ……」
サキがアマテラスを認識した刹那、サキはその場に倒れた。
「サキさん!?」
「サキ!」
マナとアヤの声が同時に響き、栄次がサキを支えた。
「気絶したぞ……」
栄次が言った通りサキは突然に気を失った。
「はい。わたくしの魂を半分、あの子には渡していますので矛盾が生じたのでしょう。太陽を変わりに見てもらうために魂をわけた存在なのですよ。わたくしがこちらにいたことはなかったことにされていますからエラーが出たのでしょう」
アマテラスは焦ることもなく答えた。
「サキさんは大丈夫なの?」
「問題ありません。わたくしがこちらに来たからなのですから」
「な、なんかよくわかんないけど、いいんだね?」
アマテラスの返答にマナはとりあえず頷いた。
「で?こっからどうするんだ?サキは置いといて……いろんな奴が気絶しておまけに時間も止まってるし後には退けないぞ?」
プラズマはアマテラスをちらりと見た後にマナを見据えた。
「そ、そうだ!鍵!鍵をください!」
マナは突然にシミュレーションの事を思い出し叫んだ。
「鍵は渡せませんね……。あの方が邪魔を……」
アマテラスは不気味に佇むワイズを手のひらで華麗に示した。
「ワイズ……」
プラズマがワイズを睨み付ける。
ワイズは無表情で目に映る沢山の電子データをいじっているように見えた。
「あの方が常に変動する何億とも言えない膨大な数字データを『留める』というコマンドにそのつど変えているため鍵を渡せないのです。シミュレーションでわたくしが持つ鍵のデータをあの方は解析してしまった……。知恵の神とはいえ恐ろしい……」
「じゃあどうすれば……」
「弟に……ツクヨミに会ってきなさい。こちらの世界は一時的に改変前に戻っております。ツクヨミはわたくし達の神話では影。本当はいなかったかもしれない弟なのです。神話ではツクヨミの行動はスサノオに変わっています。
わたくしの影である彼は夜。月が統べる世界、もしくは海原を守っています……。わたくしとは違う鍵を持っていることでしょう。あなたが改変をよしとするならばわたくしがあの方のデータをできるかぎり邪魔するようにします。……世界は……迷っています。改変するかしないか、それぞれのデータをぶつけて記録を取っています。わたくしはすべての人間、生き物を救う神でありますから伍の世界の者達をわたくしの手で救わねばならないようです」
「アマテラス様……私はどういうデータなのかな……」
マナはアマテラスを見上げ自分の存在意義を問いかけた。
「あなたは……極端なデータはないでしょう。世界のシステムと同じなのかもしれません。日本ではアマノミナヌシと呼ばれている神と……」
アマテラスはマナに軽く微笑むとそっと目を閉じた。
刹那、ワイズの顔が曇った。
状態はわからないが先程言っていた邪魔をしているらしい。
そこからは話しかけても口を開いてくれなかった。
「ね、ねぇ……これからどうするのよ……」
いまいち状況が読めていないアヤは恐る恐る尋ねた。
「……ツクヨミ様がどこにいるかだよね……。夜の世界で海原……月……ということは弐の世界……かな?アマテラス様が生きている者達を太陽の元に見守っているとすると月のように静かに眠っている者達を見守っているのはツクヨミ様だ。幽霊と言えば夜だし、アマテラス様の逆をいくなら正しい気もする……」
マナの言葉にプラズマが口を挟んだ。
「待てよ。どうやって弐に行くんだ?健はいないぞ」
「思い付いたの。よく考えたら私、弐の世界に神々を飛ばせるよくわからない特技を持ってる。敵対してなくても飛ばせると思う。やってみたい」
マナは時神達を見据えて小さくつぶやいた。
「なるほどな。やってみな」
ポカンとしているアヤと栄次をよそにプラズマは軽く笑いかけた。




