変わり時…最終話漆の世界9
「この男……やたらと強いと思ったら持っている刀が刀神だな」
クラウゼが重い斬撃を受け流しながらつぶやいた。
「まあ、正解だ。名前はちぃちゃんとか言うらしいぞ……ククッ」
クラウゼに攻撃を加えながら狼夜はイタズラな笑みを浮かべた。
『ちぃちゃんじゃないっすけど……アニキ……。あれはサキ様が勝手に……』
狼夜が振るっている刀が困惑したように話し出した。この刀はどういう経緯かサキに名前をつけられたようだ。
「まあ、いいからさっさとやるぞ!おっと」
狼夜は軽く流すとクラウゼの剣撃を危なげにかわした。しかし、顔は笑っている。
「クラウゼ!俺達はこいつらを崩すぞ!」
プラズマが剣王軍をみまわしながらクラウゼに大声で宣言した。
クラウゼはそれでなんとなくわかったのかため息をついた。
剣王軍はプラズマの声を聞き、突然全員が構えた。
「やっぱりな……マナ、マイ、健、切り崩して進むぞ……」
「うん!」
マナの返答に余裕のない笑みを浮かべたプラズマは銃を剣王軍に向かってぶっぱなした。
それを合図に剣王軍が襲いかかってきた。
「突っ走る!」
マナは鏡を握りしめ走った。
剣王軍は容赦なく刀を振る。マナを狙ってきたがマナを健のドール達が守ってくれた。
「さて、まだ加担しといてやるか。演劇殺陣強化の糸」
マイは糸をドールに飛ばし人形達を強化した。
「どなたか、どなたか時神過去神を呼べる神はいませんか!?」
マナは飛んでくる剣撃に怯えながらもハッキリと叫んだ。
剣王軍は返答しない。
「難しいな……流史記姫神!……とかいねぇか!?」
プラズマがヒメちゃんの名を叫びつつ銃で攻防していた。
「ん?なんだ?これは」
攻撃を糸で防いでいたマイが足元に光る何かに気がついた。
淡い緑に光るのは五芒星だった。
よくみるとクラウゼやプラズマ、マナ、健にも五芒星が展開していた。
「おい!足元!」
「え!?」
プラズマがマナに叫んだ刹那、淡い光が強くなりマナ達はホログラムのようにその場から消えていった。
剣王軍は突然消えたマナ達に驚き戸惑っていた。
「はぁーん、あれか。暦結神……だな」
狼夜は意味深な笑みを浮かべてつぶやいた。
※※
「ん……ん?」
マナが気がついた時、奇妙な場所にいた。
「どこ!?」
「しーっ……」
マナが声をあげるとかぶせるように男の声がした。
「だれ!?」
「しーっ!」
マナが叫ぶとすかさず静止の声が返ってきた。
辺りは茶色だ。なんというか、洞窟のような感じである。灯りは蝋燭が所々にあり、風があるのか炎がゆらゆら揺れている。
「てか、お前は……」
隣にいたプラズマが先程の声の主を指差した。
いつの間にかマナ達の前に青い短髪の優しそうなひ弱そうな青年が立っていた。
「ああ、俺は暦結神だよ。君達、剣王に喧嘩売ったんでしょ?頼みがあるんだよー」
暦結神はフレンドリーに笑いかけてきた。マナ達は警戒を解かずに眉を寄せる。
「あー、そんな顔しないでよ。俺は剣王に捕まったナオさんとヒメちゃんを助けたいだけなんだよ。君達は剣王に喧嘩売ってるらしいから協力できないかなーとか思って……」
暦結神は慌てて言葉を付け加えてきた。マナ達は少しだけ警戒を緩めた。プラズマが言っていた神々の名前が出たからだ。
過去神を呼ぶ事ができる神は少ない。その神々が現在剣王に捕まっていること、そしてこの神が助けようとしていること、無駄に探さなくても良くなった上に仲間になりそうな神が出てきたこと、このチャンスは捨てられない。
「深いことは聞かないけど、手伝ってくれるなら手伝って!」
マナは代表でそう答えた。
「いいよ。ぜひ、同行させて!俺ひとりじゃ無理だったよ」
暦結神はほっとした顔で頷いた。
「ところで、ここはどこなのだ?」
会話がきれたタイミングでクラウゼが入ってきた。
「ここ?ここは剣王の城に行くための地下通路。なんか秘密基地作りたかった神が通路を通したんだって。都合がいいから使わせてもらった。ワープ装置で君達をここに飛ばしたのさ。ヒメちゃん達を探してるみたいだったし」
暦結神は隠すことなくすべて話した。
「で?結局ここはどこだ?」
マイがとても楽しそうに暦結神に尋ねてきた。
「なんで笑ってるのかわかんないけど……ここは剣王の城のすぐ下だよ。それより、君達は神力のコントロールできるの?」
「神力のコントロール?」
「って何?」
暦結神に問われ、一同は首を傾げた。
「げっ……」
暦結神はさあっと血の気がひいた。
「まさかずっとそうやってだだ漏れな……。いますぐ神力落として!見つかる!!」
「俺はやっているが?」
「どうやるのでしょう?」
クラウゼは平然と答えたが残りは皆戸惑いの表情をしていた。
「ああ……もうダメだ……。見つかったよ……。とりあえず剣王の城の最上階にナオさん達がいるみたいだから最上階まで来て!じゃ、俺は先に!あ、ここまっすぐ行けば城内に行くから!」
暦結神は早口でまくしたて一本道を指さすとワープ装置を作動させ、マナ達を置いてさっさと消えていった。
「な、なんだったんだ……」
「よくわかりませんが……先に進んだ方が良さそうですよ……。反対側から足音聞こえます」
戸惑うプラズマに健がささやいた。
「剣王の城の方へ走ろう!」
「あ!ちょっと待てよ!」
マナはすぐさま走り出した。こういう判断力と大胆さが今までの経験でとても早くなった。
プラズマ達は困惑しながらも後を追いかけ、不気味な洞窟の先へ進んでいった。




