流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー10
「わりい、とりあえずなんか食っていいか?朝からなーんも食ってねぇんだ。」
ミノさんが生気のない声でつぶやく。
「あなたね、知らない所、しかもイドに連れられているっていうのになんでそんなに呑気なの!」
アヤは隣を歩いているミノを睨む。
ここは正直どこだかわからない。
高層ビルと色々電子化された物達が連なり、道路は普通の道路なのだが歩かなくても勝手に動いてくれる。
すれ違う神々は空間をタッチしながら電子新聞を読んだりテレビを見たり現世にはありえなかった事を普通に行っていた。
奇妙な事にこんなに機械化しているのになぜか神々の格好は和服だ。
「それはいいとしてですね、なんで僕がおじいさんをダッコしなければならないんですかという疑問がですね……。」
二人の前でよろよろしているイドさんの腕の中には先程お昼寝を始めたおじいさんがいる。
「いいじゃない。それくらい持ちなさいよ。なんか怪我も治っているし。」
イドさんの怪我は一体何をしたのか跡形もなく消えていた。
「あの……これ、おかしくないですか?なんかストーリー上のノリというんですかね……なんかその……。」
「何言っているの。あなたがさっき『行きましょう』って言ったのよ。こちらは了解していないのだけれど、しかたないから連行されてあげるわ。どこに行くのかわからないし。」
戸惑っているイドさんの横でミノさんは手から出したうどんをひたすらすすっていた。
「ですが、僕がおじいさんをそのまま連れて行っちゃうかもしれませんよ?」
「そういう事言う人ほど大丈夫なのよ。……ミノ、私にもうどんちょうだい。」
ミノさんがうどんをすすりながら新しく手から出したうどんをアヤに渡す。
「ああ、いいですねぇ。僕も食べたいんですが手が空いていなくて……。」
イドさんの手はおじいさんを抱えていてうどんを持つことはできなさそうだった。
「それよりもよぉ、ここはどこなんだ?」
うどんのだし汁まできれいに飲んで満足げな顔を見せているミノさんはイドさんに鋭い声を発する。
「ここは東のワイズ軍のテリトリーですよ。
すごい機械化進んでいるでしょう?
この状況に慣れていたのでいきなり現世の携帯を使った時は全然わからなかったですよ。」
「あら、あれは本当にわからなかったのね。もうほとんど信じられないけど。」
「なんかアヤちゃん僕に厳しくないですか?」
アヤがイドさんに目も合わせないのでイドさんはさみしそうにミノさんに目を向ける。
「知らねぇよ。戸惑っているんだろ?おたくが敵なのか味方なのかわからないからな。」
「僕はミノさん達の味方ですよ?」
「そうかよ。じゃあ、最後まで味方でいろよな。」
ミノさんはやれやれと前方を見上げる。
眼前にはひときわ大きく、見た目ゴージャスな建物が建っていた。
建物といってもビルではなく、日本の城だ。落ち着きの欠片もないくらい金色で赤い宝石が散りばめられている。
金閣寺を悪い意味で進化させてしまったような感じだ。
「なんだよ。あの眩しい城は……。ハデすぎじゃねぇか?」
ミノさんは眩しさに目を細めながらため息交じりに声を発する。
「えー……まあ、それは否定しません……。ワイズは最近ああいうのにハマっているらしく……。」
イドさんの発言でアヤの顔色が曇る。
「ワイズ?東のワイズの事?あなた、やっぱり私達をワイズ軍に連れていくつもりだったのね。」
「あれ?言っていませんでしたっけ?」
「言っていないわ。」
「あ……でもとりあえず会ってみてくださいよ!悪いようにはしませんから。」
そうこうしている間に城が近づいてきた。落ち着かないがなかなか存在感はある城だ。
動く道路は城門の前できれた。
イドさんはそこからフラフラと歩き出す。
後ろをアヤとミノさんが続いた。
イドさんはいそいそと自動ドアから中に入る。
「……金閣寺みたいな城に自動ドアがついてるってなんだ?」
「……。ワイズの性格がわかるような気がするわ。」
ミノさん、アヤは半ばあきれながらイドさんに続いた。自動ドアを潜った瞬間、爆音で謎のラップが聞こえてきた。
―君の心にどきゅんなビート!一緒に食べよう弩級のハート!そんな君は度胸のニート♪
「うわあ!なんだ!なんだ!」
「何このダッサいラップ!」
二人は城に入った瞬間に大音量のラップを聞き、思わず外に出てしまった。
「ああ、大丈夫ですよ。これはBGMです。流していいです。ワイズの趣味ですから。」
「……。」
イドさんが二人を見て微笑んだ。
ミノさんとアヤは東のワイズがどんな神様なのかさらにわからなくなった。
城内一階はロビーのようだった。床は木の床板だ。ここは和風な雰囲気を残しているらしい。
イドさんは先に進むと奥にひっそりとあったエレベーターの前で立ち止まった。
「城の中にエレベーターがあるのかよ……。」
「ええ。こちらですよー。あれ?おじいさん起きたんですか?」
ラップがあまりにもうるさかったのかおじいさんが目を覚ました。
華麗にイドさんから飛び降りると真ん丸な目をパチパチさせながらさっきから聞こえている謎のラップを口ずさみはじめた。
「やめなさい。うるさいわ。」
アヤが鋭い声を出した刹那、ミノさんの身体が蒼く光り始めた。
「!?」
「ミノ、あなたなんで光っているの?」
「そういうおたくだってなんか気持ち悪いくらい光っているぜ。」
アヤもよくわからないがミノさん同様、蒼い光が纏い始めた。
「よくわからないけど、なんか力が湧いてくるわ。力が抜けるところなんだろうけど。」
「確かに……今なら上位の神にも勝てそうな気がするぜ……。」
「おじいさんの影響ですね……。
おじいさんは人間の信頼を一心に受ける神。
その力を『人間からつくられた神』に渡す事ができるんですね。おじいさんは無意識でやっているようですが。」
イドさんが微笑みながら戸惑っている二人を見据える。
「なんでいまさらなんだよ。」
「おそらく人間界の歌が媒体となったんですね。
いま流れている歌はまったく売れていない人間の歌手のものです。
ストリートライブでCDを無料で配布している段階の歌手ですね。
ワイズはこれが今お気に入りらしくて……。
まあ、たぶんですが今流れている歌を口ずさんだ事により起こったんだと思います。僕はなんともありませんし。」
イドさんは別段驚く事もなくエレベーターの一番上のボタンを押した。
一番上のボタンは「天」とよくわからないボタンになっている。
自分達が光っているのにイドさんはまったく変化はない。ミノさんとアヤはイドさんが自分達とは違う系列の神である事を改めてわからされた。
「おいおい。こんな光ったまま、ワイズの所に行くのかよ?」
「うーん。どうしようもないですからねぇ。」
「勘弁してくれよ……。」
ミノさんががっくりと首を垂れる暇もなく、エレベーターは上昇を始めた。
今度のエレベーターは冷林の所とは雲泥の差で静かに快適に上昇をしている。
しばらくすると周囲がいきなり宇宙になった。
「うおっ。」
「きれいだわ。」
星々がキラキラと輝く。
まるでプラネタリウムにいる気分だ。
二人は美しい幻想を味わった。
そして知らないうちに身体にまっていた蒼い光りは消えていた。
気がつくと月がこちらに向かって近づいてきていた。おじいさんは月には目もくれずキラキラ輝く星を一個一個数えている。
「そろそろですね……。」
イドさんはなんだかうんざりとした声を上げた。
刹那、エレベーター内に例のラップの爆音が響いた。
―君の心にどきゅんなビート!一緒に食べよう弩級のハート!そんな君は度胸のニート♪そこにえがくは心のアートぉおお!
「うるせえぇ!そして意味がわからねぇ!」
「この幻想にまったく合わないわ。やめて。なんか癖になってくるし……。」
二人が苦しむのをよそにおじいさんは楽しそうに歌っている。
「もう少しですよ……。まったく……ワイズだけでなく他の神もこの曲が気に入っているってどういう理由なんですかねぇ……。」
イドさんは不服そうに何かぶつぶつとつぶやいている。そうこうしている間にエレベーターのドアが開いた。




