変わり時…最終話漆の世界2
マナはルフィニが黙ったタイミングで一呼吸つくと眼鏡を外した。
ルフィニはいぶかしげな顔をこちらに向けていた。
「これね、やってみたかったの。あなたに。もしかしたら予想が当たるかもしれないから」
マナがつぶやいた刹那、ルフィニはデータの塊となった。
……レール国の神。ルフィニール・フェンルーナル。次元の神であり、時神。レール神と光と影の存在。
そこまでのデータは知っていた。
次の確認が大事だった。
……『K』であるケイの夢の中の姿……。彼女が物語を想像する時のアバター……。
「そうなんだね……」
マナはそこまでデータを読み取るとすっと眼鏡をつけた。
「ソノ、メガネハ……」
ルフィニは戸惑った顔を向けた。
「あなた自身も迷ってるんだね。こっちに来たいけど来れないっていう葛藤で」
マナが諭すように発した言葉にルフィニの瞳が黄色に輝いた。
「私を見つけたんだね。私はどうしたらいいかわからない。伍の世界での私は幻想じゃない現実的な『神』になろうとしている。私が大事にしていたレール国は伍の世界の思想のせいで消えてしまうかもしれない。私が神になってしまったらルフィニが存在できなくなる……。憧れではなくなってしまうから。死なない体を手に入れて人々からメンテナンスを受けたAIロボットのような私に助けを求める人間……。それを救う私。そのために生かされるようになる私は現実的な存在する『神』ではあるけれど、私が想像した神様ではない。だから私は絶望するか、この感情すらなくなるかで憧れだったルフィニを殺すことになる……。悲しいよ。でもね、この世界はこれで保ってる。だからなんにもできないの」
長々とルフィニが淡々と語る。カタコトの日本語はなくなりまるで別人だ。
……これは……おそらく『K』であるケイである。
「あなたはケイちゃんだね?ケイちゃんは半々の感情で真ん中で苦しんでるんだ。なんで私を信じられないのかな?この世界を変えちゃいけないと誰が言ったの?壊れるのが怖い?」
マナはケイに優しく尋ねた。
「この世界が壊れるのが怖い!それにおかしくなる自分も怖い!夢は夢のままでいたいかもしれないけどその夢もだんだんどうでもよくなってきたの!夢をみなくなってきたの!!」
ケイは泣き叫び出した。得体のしれない恐怖に襲われていて苦しそうだった。
マナにはそれがわかった。
これは大人になる時に起こるものだ。知識が増えて現実を見てしまい夢を追う時期は終わる。物語のお姫様に憧れている少女はいずれ、お姫様になれないことを知り、お姫様が現実ではどれだけ大変かを知る。そしてお姫様になる夢を見ていたことを馬鹿馬鹿しく感じる。
そうやって人間は大人になるが、このケイという少女は機械化されてしまい、大人になりたくてもなれない。知識ばかりついてくるのだ。
「……苦しいよね。それ。大人になってもありえない世界に憧れを抱いてもいいと思う。うまく言えないけど届かない世界ならそれでいい。だけどこうだったらいいなと思う感情を消しちゃいけないよ。私はちゃんとそれをわかっているから、私は大人になった上でそれを考えている。だから安心して見ていて。私のやることをしっかり見ていて。ルフィニさん、クラウゼさんを貸して……気に入らなければ私を消してもいいから」
ふっとケイが消えた。瞳も元に戻りルフィニが首を傾げていた。
「……ワカラナイ……ダケド、アナタニクラウゼヲツケル。ソレガイイト……」
ルフィニは納得がいっていなさそうだったが頷いた。
「今のは向こうの『K』ですかね~?」
セレフィアがマナに確認を取ってきた。マナは黙って頷いた。
「……ケイちゃんはここをどこか夢のままで保存しておきたいという気持ちがあったんだ……」
マナは独り言を小さくつぶやいた。ケイも複雑な心境があることをマナは知った。




