変わり時…4狂う世界17
マナは気がつくとワイズの城の前にいた。悪趣味な金色の城が後方で不気味に輝いている。
「出られた!?」
「そのようだ」
マナの言葉にプラズマが眉を寄せたまま答えた。
「あれ?冷林さんは?」
「もう願いを叶えたからいなくなったんだろ」
「というかプラズマさん、なんでそんなに不機嫌なんですか?」
プラズマの態度に健が首をかしげながら尋ねた。冷林は皆を外に出すとどこかへ消えたらしい。
「あいつが来る。さっさと逃げるぞ」
「あいつ?」
マナが首を傾げているとマイがクスクス笑っていた。
「ああ、そうか。ほら」
マイが指差した方向に目を向けると強力な神力に逃げる暇すらなかったあの恐ろしい神、天御柱神が飛んできていた。
「やばいっ!どうしよ!?」
「鶴を呼びましょう!それですぐに現世に飛びます」
「もう呼んだ。だが間に合うかはわからない」
健にプラズマは困った顔で答えた。
よく見ると天御柱神とは逆の方向から鶴が飛んでくるのが見えた。
「か、隠れておきましょうか?」
健が苦笑いを浮かべつつマナ達を見回した。
「もうその必要はねーよ」
ふと背後から天御柱神の声が聞こえた。マナ達は凍り、恐る恐る振り返る。
「お前、いつの間に……」
先ほどまで空を飛んでこちらに来ていたはずなのに、本当に一瞬で背後にいた。
「俺は風だからな。スピードならいくらでもあげられるんだよ」
「ちっ……まだ鶴が来てねぇのに」
プラズマはちらりと空を仰いだ。鶴はまだ少し遠い位置にいる。
天御柱神、みーくんは堂々と冷ややかな目を向けて立っていた。その顔に表情はない。
「現人神マナ。お前の拘束命令が出ている。同行願う……と言いたいところだがあんたはそれに従わないだろうな。手足の一、二本は覚悟してもらうぞ」
天御柱神の瞳が赤く輝いた。
マナはごくんと息を飲んだ。
「ずいぶんなハッタリだな。天御柱。罪を犯した私でさえも何もできなかったくせにな」
マイが挑発ともとれる発言をした。
刹那、パァンと弾けた音がした。気がつくとマイが空を舞っていた。
「ま、マイさんっ!?」
マナが小さく悲鳴をあげた。マイはマナ達の横を勢いよくかすめ、近くの木に激突した。
「マイさん!」
マナが叫び、プラズマ、健は言葉を失った。
「驚くこたぁねぇ。少しひっぱたいただけだ。うるさかったからな」
みーくんは静かに言い放つとマナを睨み付けた。
「私に対して本気ってことだね」
マナも拳を握りしめ、みーくんを睨み付けた。
「はっはっは!痛い痛い。まだまだだな。やるならもっと徹底的にやれ」
土埃の中からマイが左頬を抑えて歩いてきた。唇が切れて血が出ていたがマイはなんともないのか平然と笑っていた。
「お前はこちら側のはずだ。俺は基本女には何にもしねぇが時と場合がある。今のは警告だ。語括神マイ。お前ならワイズの……こちらの考えがわかるだろう。今すぐ牢に戻れ」
みーくんはかなりの威圧を込めてマイに命令をした。
「やだね。痛い事は大歓迎だ。もっとやってくれ。特にお前のような男には……」
演技なのかなんなのかマイは頬を赤らめてうっとりとみーくんを見ていた。
「警告は無視か。いい度胸だな」
みーくんが頭を抱えた刹那、プラズマが叫んだ。
「今だ!乗れっ!」
プラズマに手を引かれたマナは箱形の何かに引き込まれた。
なんだかわからず目をパチパチさせていると健とマイも乗り込んできた。
「行けっ!」
プラズマが再び叫ぶとふわりと浮く感じがした。
そこではじめてマナは鶴が引く籠の中にいることに気がついた。
「いつの間に近くに……?」
マナは呆然としたままプラズマを仰いだ。
「ボケっとしてる暇はねぇ!あいつが追ってくる!」
プラズマは霊的武器の二つ目、威力の高い銃を取り出すと籠についていた窓を開けて銃をうち始めた。
マナにはわからなかったがみーくんがマナ達の籠に向かって攻撃を仕掛けているようだ。元々風であるみーくんは空も当然のように飛べるのだろう。このままだとどこまでも追ってくる。
「マイ、あんたをおとりにして鶴を近くまで呼んだ事はすまなかった」
プラズマは銃を打ちながらマイにあやまった。
「油断させるのが目的だったとしてもこれじゃあ失敗だな」
マイは相変わらず楽しそうに笑っていた。
頬を張られて体を打ち付けるほどまでいったというのに笑っているマイはやはりぶっ飛んだ思考の神のようだ。
「やっぱ逃げらんねぇか……。健、マイ!なんかしろ!マナも!」
プラズマに怒鳴られマナ達は慌てて窓から様子をうかがった。
そのうち、籠が大きく揺れ、鶴のうめき声が聞こえた。
「まずい!鶴が一羽やられた!」
ひとつの籠に鶴は三羽ほどいる。
そのうちの一羽が地面に叩きつけられていた。
「きゃあ!」
マナが悲鳴をあげた。竜巻があちらこちらにあがりはじめ、鶴の進行を邪魔する。
「あの鶴、死んではいないな。さすが天御柱。軽い怪我だけで済ませたか」
プラズマは下に落ちた鶴の様子を見たようだ。普通は遠すぎて見えないがプラズマは弓や銃などの飛び道具のプロだ。目がとにかく良い。
「よく見えましたね。うっ!」
健がプラズマに感心しているとまた籠が大きく揺れた。
「なんとかしないと鶴がいなくなるぞ。くくく……」
マイは楽しそうに笑っていた。
「じゃ、じゃあやっぱり私が弐の世界にあの神を飛ばすしかない!」
マナが冷や汗をかきながら一瞬の出来事になるだろう作戦を話し始めた。




