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変わり時…3時の世界最終話

マナ達は民家の影に隠れながら徐々に剣王の城へと近づいた。

神々は民家に住んでいるものの誰もマナ達を攻撃してこない。

剣王はワイズ同様に関わりのない神には何も伝えていないようだ。


天守閣に近づくにつれて異様な殺気が漂ってきた。


「なんかヤバい気配がするぞ」

プラズマが冷や汗をかきながら辺りを伺ったが気配がするだけで何もない。いつの間にかまた神々が消えていた。


「さっきまで普通にいた神々がいなくなったね」

マナも警戒しながら天守閣周辺を見つめる。だが気配を放つ者はいない。


「気持ち悪いですね。神力ではなく、気力なのが」

「ゾクゾクする気だ。いよいよ楽しくなってきた」

神力を感じない健も気持ち悪そうにしている。ただ、マイだけは楽しそうに笑っていた。


殺気を感じながらもマナ達は先に進んだ。天守閣周辺のツツジの木の影に隠れ、門を警戒するが誰もいない。


「天守閣のまわりにも誰もいない……。不気味だ。近くで感じる気配についてもわからねぇな」

プラズマは気配のありかを探すが全くわからなかった。


「進むタイミングがわからないね」

「来たよ!」

マナが戸惑っていると健のポケットからえぃこ、びぃこが飛び出し叫んだ。

えぃこ、びぃこは素早く剣士のスタイルに変身すると持っていた小さな剣で何か光るものを弾いた。


「刀か!」

プラズマには光りの正体が見えていた。

金属がぶつかる音が聞こえた刹那、男が間合いをとるのがわかった。斬撃はマナ達の後ろからだった。


「なるほど。意外にやるようだなァ」

気がつくとマナ達の前に刀を構えた男が笑みを浮かべ立っていた。短い銀髪に青い鋭い瞳、袴を着ている男だった。


「強いっ!」

えぃこ、びぃこは剣を構えながら叫んだ。


「ふふ、楽しくなってきたな」

マイだけは楽しそうに少し離れた場所に移動して様子をうかがっている。


「えぃこ、びぃこ……勝てる?」

「無理かもー」

健の問いかけにえぃこが自信なさげに答えた。

男は刀を構えながら恐ろしい剣気を放っている。


「そういえばお前、弐の世界にいる時神の銀髪男に似ているな。確か更夜とかいう名前だった」

マイが笑みを浮かべながら男に声をかけた。男はぴくんと眉をあげるとニヤリと笑った。


「更夜ねぇ。会ったこたぁねぇが親族らしい。俺の名前は狼夜(ろうや)。弐の世界にいる霊だが剣王に雇われここにいる。高天原は引き抜かれりゃあ霊も入れるみてぇだな。ついでに俺が持ってる刀は剣王軍の刀神だ」

狼夜と名乗った男は鋭い眼光でマナ達にプレッシャーをかけていた。


「更夜って俺の心……俺の弐の世界に住んでいる恐ろしく強い忍野郎か……。まともじゃねぇな……」

プラズマは慌てて霊的武器弓を取り出すと構えた。


「あんたらに恨みはねぇが雇われの身だからな。勘弁してくれ」

狼夜は目をさらに鋭く尖らせると刀を構えたまま突進してきた。


「えぃこ、びぃこ!!」

健が叫び、えぃこ、びぃこが剣を振りかぶり飛び出す。


「うっ!」

飛び出した刹那、えぃこ、びぃこは呻きながらその場に落ちた。

「えぃこ、びぃこ!?」

健は何が起きたかわからず目を丸くしていた。


「はえぇ……」

プラズマが震える声でつぶやくと再び飛んできた狼夜に弓を放つ。しかし、狼夜は軽やかに矢を避けた。矢は狼夜の後ろにある木に刺さった。


「あぶねぇ、あぶねぇ。しかし、そこのちびっこい人形はなんだ?不思議だな。一応峰打ちに止めたが」

「まさか、えぃこ、びぃこが負けた?」

狼夜の言葉で健はやっと何が起きたのかわかった。斬撃は全く見えなかった。


「はははっ、波乱だな」

マイがクスクスと健をみて笑っていた。


「笑い事じゃないですよー」

「グダグダ言ってんな!来るぞ!」

健にプラズマが鋭く言い放った。


「この人、強すぎる。ちょっと逃げよう!」

マナは勝てないと悟り早急に逃げる方向を考えた。彼は弐の世界にいる霊だと言っていた。つまり、マナの能力で弐の世界に飛ばしてもきっと剣王がまたすぐに彼を連れてくるだろう。


「賢明だな。剣王はKの使いの人形をKから借りる事ができると聞く。つまり、弐の世界を出せる。奴を飛ばしたところで意味はない」

マイが好奇心旺盛な嬉々とした声でマナに頷いた。


「逃げられねぇよ」

「ぐあっ!」

「ひっ!?」

突然狼夜の声がし、プラズマの悲鳴が聞こえた。その後、衝撃がマナの横を通りすぎる。派手な音が響き、近くの木が折れた。


「な、何!?プラズマさん!」

マナが突然折れた木の方に目を向けるとプラズマが血を流して倒れていた。

マナは咄嗟に走り出したがすぐに冷徹な声に止められた。


「動くな。お供の男は死んじゃいない。手加減したからな。で、俺は女を斬りたくねぇんであんたは剣王に引き渡す事にする」

「剣王に引き渡されたら死んじゃうよ。私」

マナは青い顔で半笑いしていた。


「さあ?俺は知らねぇな」

狼夜はニヤリと笑うと戸惑っていた健を凪ぎはらってふっ飛ばした。


「うぐっ!?」

健はプラズマと同じ場所まで飛ばされて木に激突した。


「健さん!」

「だから大丈夫だ。手加減してるって言っただろ」

焦るマナに狼夜があきれた顔を向けた。


「手加減って……無茶苦茶だよ」

「ま、これで大方片付いたわけだが残りはあの女神か。どーすっかな」

狼夜はマイを見ながらため息をついた。


「ふっ。私はボコボコにされても構わないぞ」

「はあー、そりゃ遠慮する。そういう趣味はねぇよ」

不気味に笑うマイを見つつ、狼夜は刀を鞘にしまった。マナだけを剣王の元へ連れていこうとしているようだ。


「うっし、そこの女神は動かなそうなんであんただけ連れてくぞ」

「私はやることがあるの!連れていかれるわけにはいかないの!」

マナは近くに落ちていた木の枝を拾うと振りかぶった。


「おっと」

狼夜は軽やかに避けた。


「あぶねぇぞ。ねぇちゃん、もうあきらめな」

「……っ」

マナが渋い顔をした刹那、時神アヤと歴史神ヒメ、そしてナオの三神が近くを通りすぎた。アヤがマナ達に気がついた時、全体がまばゆい光に包まれた。


「な、なんだ!?」

「ふふっ……弐の世界が開いたな」

困惑している狼夜にマイが不気味に笑いながらつぶやいた。


「なんで突然開いた!?」

「さあな」

マイと狼夜の会話を聞いたマナは驚いて叫んだ。


「弐の世界!?」

マナが叫んだのと同時に邪馬台国から出てきたような格好の男が走ってきた。


「剣王!」

狼夜が叫んだ。

男を認識した頃にはマナは袈裟に斬られていた。すべてが突然だった。


「えっ……」

マナの身体から血と供に電子数字が飛び出した。


「斬りたくはなかったが……仕方ないよねぇ」

男、剣王は低い声でつぶやいた。

マナの血は電子数字に次々と変わっていく。

斬られたというのにマナは痛みを感じなかった。不思議と意識すらなくならない。


「あれ?斬られたのに」

マナは普通に話せていることに驚いた。

電子数字は開いた弐の世界に吸い込まれていき、ネガフィルムが見えていた世界はマナから溢れる電子数字で宇宙のような世界に変わっていく。


「なんだ?これは」

マナを斬った剣王も何が起きているかわからず、戸惑いの声をあげていた。

マナの傷口はなぜかすぐにふさがり、電子数字も出なくなった。


「何?一体……」

マナが不安げな顔で辺りを見回した時、聞き覚えのある声がした。


「よぉ!元気か?いい感じに発動したなぁ!」

「お前は!伍の世界に消えたはず……」

剣王が声の主に一番に反応した。

「お!タケミカヅチ!久しぶりだな!お前が彼女に血を出させたか!」

「どういうことだ……!スサノオ!なんでこっちに……」

「スサノオ様!」

剣王が叫んだのとマナが叫んだのが同時だった。


「楔が外れたんだよ。いやー、やっぱ現人神にしたのは正解だったなー。伍の世界が繋がったぜ!」

スサノオは嬉々とした表情で奇妙な事を言った。


「この世界に何をした……スサノオ……」


剣王はスサノオを睨み付けた。剣王は世界改変された後でもスサノオを覚えているようだ。仲が良かったとは言えない雰囲気だ。


「あ?俺はこの娘を現人神にしただけだぜ?何かやったのはお前だ。タケミカヅチ。この娘を斬っただろ?この娘の血が楔を完全に外すきっかけだ」


「この娘の眼鏡のデータがこっちに来る時に現人神になるように設定したな?こちらを壊したいのか?スサノオ」

険悪な雰囲気の剣王にスサノオは狂ったように笑っていた。


「別に。混乱は楽しいからねぇ」

スサノオはゲラゲラ笑いながら壱の世界に足を踏み入れた。


刹那、戸惑ったまま止まっていた狼夜、驚きで固まっていたアヤ達、それからマイが突然倒れた。


「え?」

マナは何ともなかったが倒れた者達は意識を飛ばしたような倒れ方だった。


「世界は変わる!現人神マナが楔を外す神々を集めてくれた!日本だけだったから小さい伍しか開かなかったが充分だ!うまくこっちの世界のデータを読み取ってくれたな!マナ!」

スサノオの喜んでいる声を聞きながらマナは考えていた。


……私が楔を外した……。伍の世界の弐が見えている……。


「つまり、こちらの神々、人間達に向こうの世界を認識させられる!そしてその逆もできる!」

マナが結論を導きだし目を見開いた時、マナの瞳が黄色から赤色に変わった。


……私は世界を繋げるシステムだったんだ!!


「おお!ついに覚醒した!いいねぇ!残念だったな!剣王!」

スサノオが苦しそうな表情をしている剣王に狂気的な笑みを浮かべながら叫んだ。


「私はお互いを幻想の世界にする。お互いの世界は壊さない」

マナが決意を込めてそう言葉を発した。

しかし、スサノオは顔を曇らせた。


「なんだと?お前は世界を繋げるんじゃないのか?」

「それだと世界が滅ぶ。だから滅ばない方法を考えたの」

「おいおい、それじゃあ困るんだよ」

マナの言葉にスサノオはあきれた声を上げた。

それを聞いた剣王は深いため息をついた。


「なるほどねぇ……スサノオ、君はおもしろ半分で世界を壊してみようと思ったわけか。昔から善だったり悪だったりメチャクチャな奴だったけど今回は悪か?」

「さあ?俺は俺だ。善悪なんてねぇよ。それは人間達、神々の勝手な判断だ。俺はどちらでもない」

スサノオはにんまりと笑った。


「相変わらずだね」

剣王もあきれた顔を浮かべた。


「私は両方の世界を壊したいわけじゃない!共存させたいの」

「はは!いいぜ!それもまた面白いか!」

マナの必死の抗議にスサノオはコロッと態度を変えた。


「え?私の意見聞いてくれるの?」

マナは意外な反応に戸惑いながら尋ねた。


「ああ!いいぜ!もうここまできたらそうするしかねぇしな!やはり世界は滅ばないように微妙にデータを変えやがったか!おもしれぇなあ!見ろ!世界が一時停止してやがる!」


倒れた神々は意識を失ったままだ。おそらく、世界改変前の記憶を持っていない者達は皆、意識を失っている。時神が倒れたことで時間まで止まっている。


「スサノオ様、倒れちゃった神々を元に戻すことってできるの?」

「マナの好きなようにやればなるようになるぜ!」

「私の好きなように……」

スサノオの言葉をマナは空っぽになりそうな頭で反芻した。


※※


「時間が止まった。皆気を失っている……。少しの狂いでも辻褄合わせのために全世界が停止する」


エスニックな格好をしている黒髪の少女ルフィニはまわりで倒れている人々、神々を表情なく見つめた。ルフィニは軍人将棋の最中だった。いつの間にか夜になっており、月明かりが将棋盤を照らしている。目の前ではヒコウキの駒をブラブラ動かしているレールがいた。


「伍の世界が開いちゃったのかな~?」

「わずかだけど開いたわ。データが変わりそう」

微笑んでいるレールにルフィニは真面目に頷いた。


「高天原のあの神達はマナちゃんを止められなかったのかな~」

「止められなかったみたいね。記憶を持っている私達だけが意識を失っていない。でも、あのマナって子はいい感じに世界を変えてくれる気がするの。私達はなるべく世界が変わらないように動こう?高天原がなんとかしてくれるかと思ったけど無理そうだからね」

ルフィニは頭を抱えながら窓から月を見上げた。今日は満月だった。

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