変わり時…3時の世界16
異次元の空間に足を踏み入れたマナはまずまわりを確認した。
辺りはネガフィルムのようなものが沢山絡み合っている不思議な空間だった。
「弐の世界に入ったみたいだな」
横でプラズマの声が聞こえた。
「一応、檻からは出られたって感じでいいのかな?」
「はい。ここは弐の世界ですから」
健がマナににこやかに笑いかけた。相変わらず呑気だ。
「ふむ。ここは弐の世界、だが、私達が操れるのはほんの一部だ」
なんだか楽しそうに笑っているマイがネガフィルム部分を眺めながらつぶやいた。
「どういうこと?」
「弐の世界……心の世界、想像の世界……特に人間は複雑なのだ。人間は自分の心に嘘をつく生き物。当然、弐の世界も嘘だらけ。本心を別の心で覆う。本心が隠されている弐は私達、心に作用できる神も入れない。私が操れるのは上部の弐。本心の上を結界のように覆っている本心ではない心の弐。難しいだろ?」
「うーん……つまり……本格的な弐の世界の上を偽物の弐の世界が覆ってるってこと?地球でいうオゾン層的な……」
マナの言葉にマイはけらけらと笑った。
「物わかりのいいことだ。で、そこにいるKはどこの弐でも行きたい放題なのだろう?人を操るのも簡単そうだな」
「まー、行けますけど何にもできませんよ。私達は観測者みたいなものですから」
マイの言葉に健が首をかしげて答えた。
「そうか。なんにもできないのか。つまらんな。私は上部の弐を操れる。夢はだいたいこの上部の弐だ。私はこの上部の弐に肆(未来)を出してありえない未来を見せる事ができるのだ。元々、芸術の中でも劇のような演じるものを守る神であるから疑似的な世界に本物の人間を登場人物として組み込めるというわけだ」
「難しいけどなんとなくわかったよ。あなたは絶対にありえない正夢を見させられるということね?」
「わかりやすい表現をすればそんな感じだ」
マナの発言にマイは満足そうに頷いた。
「で?こっからどうすんだよ」
プラズマが頭を抱えながらマナ達を見た。
「どうしようかな……伍の世界を疑似的でも見せられれば……」
マナが考えているとマイにどことなく似ている金髪の少女が通った。
「お、妹のライだ。上部の弐を渡り歩いているのか。なんでまた」
マイが少女を嬉しそうに見つめていると少女がこちらに気がついた。
「あれ?お姉ちゃん!?なんで弐にいるの?」
マイの妹、ライはマイとは違うかわいらしい目でなんとなくその場にいた一同を見つめた。
「ライこそ何している?」
「私はワイズからイドさんの回収を命じられたからいるんだけど」
ライは不安げにこちらを見ていた。
「ああ、そうか。私は少しこちらで遊んでいるだけだ。お前に迷惑はかけん」
「お姉ちゃん、無茶はしないでね」
「ああ」
ライはまだ不安げにマイに声をかけたがとりあえず、イドさんを助ける事で頭がいっぱいなのか一同に頭をひとつさげると他に追及せずに滑るようにネガフィルムの中へと入っていった。
手には『弐の世界にいる時神』と書いてある本が握られていた。著者はアヤと書いてあったがあの時神現代神アヤの事なのか。
「あの子は?」
「私の妹、絵括神ライ。芸術神で絵を主に担当していて上部の弐を渡れる。ワイズ軍にいるが……まあ、彼女はかなり特殊だ」
マナの問いかけにマイは不気味な笑みを浮かべて答えた。
「そ、そうなんだ」
「なるほど、龍雷水天!」
ふとプラズマが何かに閃いたのか声をあげた。
「どうしたの?いきなり」
「あいつの娘……あ、いや……あいつの知り合いに流史記姫神、通称ヒメちゃんとか呼ばれている神がいた。そいつは確か人間の歴史を管理している。伍の世界をみせるのに使えないか?」
「人間の歴史を管理!?それまで神様が管理しているの?」
マナは単純に驚いた。
「管理というか……バックアップをとってる神だったかな?」
プラズマは自信なさげにマナに答えた。
「しかし、あの子は剣王軍だぞ」
プラズマの言葉にマイがくすくす笑いながら答えた。
「そうなんだよな……。剣王のとこに行くのはちょっとなー」
プラズマも自分で言っておいて自信なさげだった。
「でも、仲間にできたら心強いかも。人間の歴史を管理しているなら、これからの歴史も記録してくれるんでしょ?うまく伍の世界を幻想としてこっちの人間達に植え付ける時に当たり前の歴史に書き換えられたらすごくない?」
「いちいちあんたの発想がすごいぜ……。どっからそんなプランが出てくるんだよ」
「ダメかな?」
マナは肩を落としながらプラズマを見上げた。
「ダメかどうかはわからん。かけあってみてもいいかもしれないな」
「そう言えば……天界通信本部の蛭子さんが神々の歴史を管理している神もいると言ってましたね。その神を使って他の神達の歴史も変えちゃうとか?」
健も会話に入ってきた。
「神も人間も両方変えちゃうのはいいかもしれないね!世界を繋げずにお互い認識しあう世界は世界どうこうじゃなくてそこにいる神や人間に認識してもらうって事だし、昔からお互い共存してました!みたいに歴史を改変できたらすごいよね!こちらのありえないことばかりおきる世界ならできそうな気がする」
マナはどこかワクワクしながら言葉を発した。
「その前に難関だ。その神達は剣王軍にいる」
マイの言葉にマナは唸った。
「西の剣王……。ねぇ、私思ったんだけど……」
「なんだ?」
「世界改変に重要そうな神様って皆、ワイズさんか剣王さんのとこにいない?」
「……」
マナの言葉に一同は息を飲んだ。
「確かに……。全く気がついていなかった……。不気味だ」
「言われてみればそうですね……」
プラズマと健が不気味な状態に再び黙り込んだ。
「というよりも、そのプラン、その状況に気がついたお前も不気味だ」
マイだけは楽しそうにマナを眺めていた。
「私もわからない……。でも、たぶん……世界改変するのに使う神様は合っている気がする」
マナの瞳が突然黄色に変わった。
プラズマ達は驚いて一瞬固まった。マナの瞳はすぐに元に戻った。
……あいつ……スサノオが言っていた、エラーのサイン……、なぜ俺達に今見えた?俺達に気がついてほしかったか?ということは図星か?こっちの世界のシステム……
プラズマがマナを見据えながらそう思った。
「ま、まあ……とりあえず、どうします?剣王のとこに行きますか?」
健が汗をハンカチで拭いながらなんとか声をあげた。
「うん。そうだね。このままでいても仕方ないし……。とにかく、歴史神さん達に会ってお話しないと」
マナは真剣な眼差しで頷いた。
「じゃあ、さっさと剣王のとこに行くか。私も助太刀しよう。ふふ……面白くなってきた」
マイがマナの肩を軽く叩き、プラズマと健を仰いだ。
「ちっ。もう仕方ないか。死ぬ気でぶつかるか……」
プラズマはなんだか乗り気ではなくなってきた。
神としてのシステムが反抗しているのか、マナを不気味に感じる方が強くなってきていた。
なぜか危険な予感がプラズマを覆いはじめた。おそらくそれはプラズマだけでなく、マイや健も感じているはずだ。
足を踏み入れてはいけないものにマナは足を踏み入れている。
その危険な感覚をよそ者であるマナは全く感じていない。
それが彼らには不気味に感じたのだ。
ワイズや剣王が必死で食い止め、リョウが守っている楔をマナは思うところなく破壊しようとしている。
「協力はする……するが……こいつは厄介だ……」
プラズマは感じてしまった感情に頭を抱えるしかなかった。
マナは再び瞳に光を宿し、健に笑いかけた。
「よし!怖がってても仕方ないよね!これから剣王のとこに行こう!健さん、弐の世界の案内よろしくね」
「はい。わかりました」
健は小さく頷いた。




