変わり時…3時の世界12
しばらく会話もなく道路に乗っていると金色の天守閣が目の前に見えた。金閣寺を悪い意味で進化させたような落ち着かない建物を見ながら進むと知らぬ間に不気味なくらい神がいなくなった。
「……さっきの場所とは全然雰囲気が違う……」
「警戒態勢かもしれないな」
不安げなマナをプラズマは鋭い瞳で一瞥する。
その後、プラズマは突然手を横に広げた。手を横に広げた瞬間、不思議な事に電子数字が回り、プラズマの体が白く光った。
「え?何?」
マナが戸惑っている中、プラズマが水干袴になって現れた。
「ふう……俺はこっちの方が今はいいか」
「なっ!なんで服が変わったの……!?」
「あ?ああ、これは神なら皆ある本来の姿だ。霊的着物っていって人間の服を着るよりも動きやすいんだよ。マナ、あんたもたぶん、現人神だから霊的着物に着替えられるはずだ。それと……」
プラズマはマナに一通り答えると手から弓を出現させた。
「一応霊的武器もな……」
「へえー、プラズマさんの霊的着物は水干袴なんですねー。じゃあ平安あたりから存在してたんですか?」
健がまじまじとプラズマを仰ぐ。
「ああ、そうみたいだな。……さっそく悪趣味な天守閣の前に神が立ってるぜ」
プラズマは健に軽く答えると目の前に迫った天守閣の扉の前に男の神が立っているのに気がつかせた。銀色のゆるゆるパーマを肩先で切りそろえている着物姿の男性だった。
「ん?あいつは……」
プラズマは目を細めて男を観察した。
「知り合い?」
「付き合いはないが……一度会った事はあるな。確かあいつの娘が暴走した時に……。あ、いや、それはいいんだがあいつは唯一ワイズ軍にいる龍神だ」
プラズマはなんだか濁しながらマナに答えた。
「龍神……」
「とりあえず、ぶつかったら負けるぞ」
頭を抱えたプラズマがそう言った時、動く道路は無情にも悪趣味な天守閣の前で切れた。
「こんにちは。あなた達がめんどくさい現象を引き起こそうとしている神々ですね?」
銀髪の若そうな青年は丁寧な言葉でマナ達に話しかけてきた。
「めんどくさい内容ではないです。ワイズさんに会わせてほしいんですが」
マナも丁寧に銀髪の青年に話しかけた。
「ワイズはあなた達を歓迎していません。むしろ、追っ払えと言われています」
「やっぱりな……」
銀髪の青年がこちらを睨みつけてきたのでプラズマも同じように瞳を鋭くした。
「僕は龍雷水天神と申します。ワイズ軍に所属している龍神です」
「ああ、そういえばアヤが井戸の神でもあるから『イドさん』とか呼んでたな」
プラズマが霊的武器弓を握りながら警戒の色を見せつつ言った。
「アヤさんと知り合いの神……」
マナがそうつぶやいた刹那、プラズマが突然弓を放った。
「えっ?」
マナは驚いて龍雷水天、イドさんに目を向けるとイドさんは水でできたとてもきれいな槍を持っていた。イドさんの足元にはプラズマが放った矢が刺さっている。
「突然、槍出して飛びかかって来るのは良くないよな」
「……時神未来神……弓の反射だけは素晴らしいですね」
イドさんは冷や汗をかいているプラズマに軽く笑いかけた。
「マナ……どうやら相手は俺達を追い出す気か、あんたを消す気だ」
「……やっぱり戦うしかないのかな……」
マナはこんな状況は初めてなので思考がうまく動いていなかった。反応が遅れ、気がついた時にはマナの目の前に槍を構えたイドさんが迫っていた。脚力が人間とはあきらかに違う。一瞬で距離を詰められた。
「っ!」
マナがよろけてしりもちをついた。その間にプラズマが割り込み、弓で槍を弾いた。
「っち……早いな……くそっ!龍神なんて反則だぜ……」
イドさんは少し距離を置いて着地した。
「……仕方ないですね……」
ふとプラズマの隣になんとなく突っ立っていた健がつぶやいた。
「仕方ないってなんだ。このままじゃやばいぞ!」
「Kの使いを呼びます。元は私の娘あやちゃんのなんですが借りますね。『えぃこ』と『びぃこ』!」
焦るプラズマに呑気に答えた健は突然、不思議な名前を呼んだ。
刹那、健の足元に五芒星が広がり、手のひらサイズの人形二人が現れた。
花柄のワンピースを着ていて三角巾のような布帽子を被っている少女の人形だった。一人は真っ赤の花柄、もう一人はピンクの花柄の服を着ている。
「な、なんだ!これ?」
プラズマがさらに動揺していると人形が動き出した。
「なんだ、健じゃん。今、あやちゃん昼寝中だから暇してたの。何?」
赤い花柄の服を着ている人形が飄々と話しかけてきた。ちなみに二人とも前髪が目元を覆っているため目があるのかないのかわからない。
「しゃべった!」
マナとプラズマは腰を抜かすぐらい驚いた。イドさんも警戒して近寄ってこない。
「えぃこ、目の前にいる龍神をなんとか抑え込めないかな?びぃこと力を合わせてでいいから。アクションドールだから大丈夫でしょ?」
「んー?まあ暇してたからいいけどね!ね?びぃこ!」
健が赤い服の人形えぃこに慣れた感じでそう言うと、えぃこは今度隣にいたピンクの服の人形びぃこに話しかけた。えぃこもびぃこも服が同じだったら区別がつかない。
びぃこと呼ばれた人形はイドさんをじっと見つめながら頷いた。
「なんか弱そうだし、抑え込めそうな気がするわ。さっさとやるか」
びぃこはサバサバそう言った。
「ああ、その前に言っといていいかね?そこの女の子、あんた、『対象の神を弐の世界へ飛ばせる能力』があるのを知っているかね?」
「へ?」
びぃこが突然、会話をマナにふってきたのでマナは変な声を出してしまった。
「霊的着物になってその能力を使えば私達は必要ないんじゃないかと思っただけだね」
びぃこは吐き捨てるようにそう言うと手を横に広げて現在の服から侍姿に変身した。
えぃこも同様に手を広げ侍姿に変身する。
「ま、ほんとは魔法使い衣装のが好きなんだけどー、あいつ、物理的な感じだし」
二人は手に刀を装備すると飛び出していった。
「おい!あいつらはなんなんだよ……」
プラズマがやっと我に返り健に問い詰めた。
「えー、Kの使いはドールが多いのですがその中のアクションドールというタイプでして私達が制作した服、もしくは買った服に着替えるとその衣装のアクションができるんですよ。あやちゃんの護身用だったのですがほとんど使い道がなくて……。あ、でも弐の世界のパトロールは彼女達にさせてますね」
「半分くらいしかわからんが……任せていいのか?」
「問題ないかと。彼女達に任せている間に中に入り込みましょう!」
健が前を指差したのでプラズマも目を向けた。手のひらサイズしかない人形になぜかイドさんが押されている。
「全く不思議だ……。チャンスだから隙をみて入り込むぞ」
「……う、うん」
いまだ動揺しているマナは辛うじてプラズマに答えた。
「っく……突然なんですか?この人形達はっ……」
イドさんはえぃことびぃこが放つ刀を弾くのに悪戦苦闘していた。水の槍では太刀打ちできないと判断したイドさんは今度、雷や水弾を飛ばすようになった。
「きゃあっ!」
マナが四方八方に飛ぶ雷に声を上げた。
「やっぱり一筋縄では行かないな……。隙がない……」
プラズマは先程からワイズの城に侵入する隙をうかがっているがイドさんはそれに気がついているのかこちらの動きを見るのも忘れていない。
えぃことびぃこは侍姿からまた手を横に広げ、今度は魔法使いスタイルに変身した。手にはロッドを持ち、魔法使い特有のとんがり帽子とローブを身にまとっていた。
そして小さな結界を張りながらイドさんが放った雷や水弾をうまく弾いた。
「そういえばマナさん……さっきびぃこが言っていましたがあなたには能力があるみたいですね?弐の世界に飛ばせるとか……えぃことびぃこがあの龍神を抑えている間に霊的着物になって隙をみて龍神を弐の世界へ飛ばしてみたらいかがでしょうか?」
健は思い出したようにマナにそう尋ねた。
「そんな事突然言われても……。霊的着物って私……よくわからないんだけど……」
「……手を横に広げて服を着ているイメージをするだけだ」
戸惑っているマナにプラズマは小さくつぶやいた。
「とりあえず、やってみるよ……」
マナは目をつぶると服を着ている所をイメージしながら半信半疑で手を横に広げた。
「ほお……」
ふとプラズマの声が聞こえた。マナはゆっくりと目をあけて恐る恐る体を見た。体がなぜか羽のように軽い。
「……っ!?」
マナは飛びのくくらい驚いた。知らない内に服装がいままでずっと着ていた謎の学生服から着物っぽいものになっていたからだ。
しかし、他の神々が着ているような着物ではなく、どこかアレンジされた着物だった。足元はスカート調になっていてレースもついていた。帯もだいぶん崩された感じでいわゆるなんちゃって着物だ。
全体的に明るい黄緑色の着物で肩先もあいていてどこか涼しげにも見える。
「お?頭に……」
プラズマがマナの頭頂部を指差した。マナが震える手で頭に手を持っていくと何か冠のようなものを被っていた。
ツノのように出ている二本の突起の真ん中にパソコンなど電化製品によくある電源ボタンを型取ったものがついていた。
「え……ナニコレ……」
マナは戸惑いながらプラズマと健を交互に仰いだ。
「霊的着物に着替えられたんですよ。しかし、伍から来たマナさんの着物はとても独特ですねー」
健が呑気に頷いた。
「やっぱりあんたも神って事だな」
「神……」
プラズマの言葉もマナの中にうまく入ってこない。こちらの世界は本当に不思議な事しか起こらない。さすがのマナもしばらく止まってしまった。
「では、さっそく弐の世界にあの邪魔な龍神を一度、移転させてしまいましょう!ワイズとの交渉がうまくいったら壱の世界に戻す形で……」
「簡単に言うけどここから先、どうしたらいいかわからないよ!」
健は普通に言ってきたがマナにはどうしたらいいかまるでわからなかった。




