変わり時…3時の世界11
鶴はまたすぐにやってきた。アヤは鶴が来る前にさっさと歩き出してあっという間にマナ達の前から姿を消した。
健の関係などでかなり動揺していたようだ。困惑した状態のまま「じゃあ、また何かあったら言ってね」と一言だけ追加して行ってしまった。
アヤは今、何にも自分にできる事がない事をなんとなく感じていたようだった。邪魔にならないように気を使ったのかもしれない。
鶴はまたいつものように飄々と現れた。
「よよい!なんだよい?」
駕籠を引きながら楽しそうに体を揺らしていた。何度も呼ぶので鶴も徐々に興味をもってきたらしい。
「ああ……今回は高天原東に飛んでくれ」
楽しそうにしている鶴にうんざりした顔を向けながら、プラズマがてきとうに言った。
「いいけど、今東はなんだか物騒な感じだよい?」
「やっぱり私達対策しているのかも……」
マナは鶴の言葉で、不安げな顔をプラズマに向けた。
「そんな事言ったって行くしかないだろ……。このまま何にもしなくても俺は別にいいけど……」
「行くけど……そこからどうしよう……」
「とりあえず、行ってから考えましょうよ?」
プラズマとマナが頭を抱えていると、また健が呑気な感じで言葉を発した。そしてさっさと駕籠に乗り込んだ。
「あー……ほんと呑気だなあ……。行くぞ。マナ……」
「う、うん……」
プラズマもマナも健の言葉に再び動き出し、駕籠に乗り込んだ。
***
プラズマとマナが駕籠に乗り込むと鶴はすぐに空へと舞った。
「何としても東と西を納得させないと……だってたぶんだけど、向こうの世界がおかしくなったらこっちの世界もおかしくなると思うの。こっちの神々達はその現状がまるでわかってない。なんで東と西が率先して話を聞いてくれないかわからないけど……聞いてもらわないと」
マナが小さな声で自分の決意をプラズマに語った。
「改変前の記憶を持っているって事はやっぱなんかあるんだろうな……。あいつらには」
プラズマも苦い顔でうつむいた。
「ほうほう……」
「ん? なんだ? 何納得してんだよ……」
突然健が納得した顔で頷いていた。
「あ、ちょっとこちらのKのデータ解析をしてみたのですが、東のワイズさんはこちらのKのようですねー」
「ん?」
健の言葉にプラズマとマナが一瞬止まった。
「Kのデータを解析って何? そんなことできるの?」
「マナ、聞きたいのはそこじゃないだろ……」
きょとんとしているマナにプラズマが突っ込んだ。そして興味深そうにプラズマはつぶやいた。
「そうか……ワイズはこちらのK……。向こうのKとは違う。こっちのKはこっちの世界を全力で守ろうとする……。だから向こうの話を聞こうとしないんだな」
「……Kは平和を守る存在……いままでの生活を壊されたくない感情を皆、統一で持っているってことかなあ……。これは話を聞いてもらうのは大変かも」
マナはため息交じりにうなだれた。
「向こうのKとこちらのKではそれぞれ守りたいものがあるってことですね。まあ、私はとりあえず、どちらも平和ならいいと思いますが……」
健はうなりながらそうマナに答えた。統一データのKでも向こうとこちらではそれぞれ守る世界が違うようだ。健はそのどちらでもなさそうだった。中間の立場のKがいるのかもわからないが、故に健は向こうの世界に一時飛ばされたのかもしれない。
「ほんと……Kってなんなんだろ……」
マナの素朴で今更な疑問は鶴の一声でかき消された。
「よよい! 高天原東に入ったよい?」
「もう入ったのかよ……。今回も早いな……」
プラズマが顔をさらに曇らせて駕籠についているカーテンを開けた。
辺りは知らぬ間に大都会のような場所にたどり着いていた。高いビルが立ち並び、雰囲気はかなり近未来的だ。
「……高天原東って……なんだかイメージと違う気がする……」
「東のワイズのとこはかなり変わりもんがそろってんだ。現世よりも先を行く世界を実現している。高天原自体がデータの塊だから普通ならできない部分までもうすでにできる」
マナの疑問にプラズマがとりあえず説明を入れた。
「そ、そうなんだ……。やっぱり不思議な世界……」
「よよい! はやく降りろよい!」
マナがなんとか理解をしようとしていた時、鶴が急かすように声を上げた。どうやら知らぬ間に地面に駕籠がついていたらしい。
「ついちまった……。マナ、降りるぞ」
「……うん」
プラズマとマナは不安げな表情が消せないまま駕籠から降りた。その後を健が追うように降りた。
三人が降りると鶴は一つ頭を下げ、またさっさと飛び去って行った。
「もう行っちゃいましたね。やはり忙しいんでしょうか?」
「呑気な事言ってる場合じゃないぞ」
のほほんとしたコメントをした健にプラズマがうんざりした声で言った。
降ろされた場所は大都会の真ん中のような場所で、道路がなぜかすべてベルトコンベアーのように動いている不思議な場所だった。周りに神々がいるのだがその神々はマナ達に全く興味を示していない。何もない場所にアンドロイド画面を出し、チャットをしたり、電話をかけたりサイトを見たりしている。当たり前のように動く道路に乗り、道を進んでいる姿も見える。見た感じはマナ達を警戒する素振りはない。
「あれ……?なんだか皆普通な感じ……?」
「いや、下の神々や観光で来た神々には全く知らされていないだけだろ。天津や蛭子の様子を見るとほとんどの神々が伍の世界の事もKの事も知らない。記憶のある者達からすると知られたくない内容なのかもしれない」
プラズマが珍しく顔を引き締め、神々の様子を観察していた。
「で?これからどうするのですか?」
相変わらず表情の変わらない健が辺りを見回しながらプラズマに尋ねた。
「ああ……あの少し離れた所に金色の悪趣味な天守閣があるだろ。あそこにワイズは大体いるはずだ。あそこを目指して行く」
「なるほど……じゃあ、この道路ですかね?」
プラズマの言葉を聞いた健はいくつかある動く道路の内の一つに軽く飛び乗った。
「ああ!おいっ!心の準備とかあるだろ!」
「プラズマさん、行こう!」
プラズマがまごまごしている横でマナは頷くと健を追って動く道路に乗った。
「ったく……どうなるか知らないぞ」
プラズマは深呼吸をすると健とマナを目で追いながら道路に足をかけた。




