変わり時…3時の世界4
駕籠が上がってしばらく経った。マナは興味深そうに窓の外を見ていた。
飛行機でもあるまいし、空に駕籠が浮いている事が不思議で仕方がなかった。それと同時に世界が青空から徐々に宇宙空間みたいになっているのがさらに気になった。
「なんか宇宙みたいになっているけど……」
マナはまず呼吸を心配した。本当に地球から出てしまったのかと不安になったのだ。
「宇宙っていうかな、これは弐の世界だ。高天原に行くにはここを通るしかないんだよ。鶴は夢の世界にも関与しているって言われているから高天原までなら上辺の弐の世界を渡れるんじゃないかな」
プラズマの説明にマナはなんとか頷いた。
「じゃ、じゃあ、大丈夫なんだね?息とか……」
「息?何を心配しているのです?」
マナのつぶやきに健が首を傾げた。こちらの世界ではこの空間を通って高天原に入るのは当たり前のようだ。
「……なんでもない……」
質問するのをあきらめたマナはまた再び窓に目を向けた。
目を離した一瞬で外はまた再び青空になっていた。なんだかどことなく暖かい。
「お、南に入ったな」
プラズマが外の様子をみてそう言った。
「え!いつの間に!」
下をみると民家のような古い町並みが見えた。古都のような感じだが観光地の様にきれいに家が整理されていた。
「確か高天原南には海があるんですよ。一度みてみたかったんです」
健がマナにワクワクした顔を向けた。
「海……」
「まあ、俺達はその海の中にある竜宮に行かなきゃなんないんだけどな……。一番話が通しやすいのは娯楽施設竜宮のオーナー、天津彦根神だろ」
健の様子を呆れた顔でちらりと見たプラズマは疲れた声でつぶやいた。
「海の中に行くのですか?私は高天原に行ったことがないので知らなかったのですけど……」
「お前、高天原とレール国を結んでるくせに本当に行ったことないのかよ……」
「ないですよ。レール国ができたのはつい最近で高天原トップの言葉を受け取ってそれをレール国に届けるだけですから、使者が現世に来ていたので行く必要がなかったんです」
健はきょとんとした顔のまま、プラズマに頷いた。
「つまりあんたの仕事はつい最近できたって事か……。ま、いいや。とにかく海の中に行くんだよ。鶴は海辺まででそこからは龍神の管轄だから使いの亀が連れてってくれるさ」
「へえ、そうなんですか」
プラズマと健は普通に会話をしているがマナには何のことかさっぱりわからなかった。
気がつくと駕籠が地面についていた。
「よよい!着いたよい!」
鶴の声で我に返ったマナはプラズマを仰いだ。
「着いたみたいだ。降りよう」
「う、うん」
プラズマはマナを促して駕籠から外へ出た。マナの目に眩しい日の光が入る。海風が心地よくきれいな海が目の前に広がっている。地面は砂浜だった。
観光地という事だが観光客がおらず、がらんとしている。まるでプライベートビーチだ。
「きれい……ここが竜宮……」
「竜宮はこの海の中だ」
ぼうっと景色を眺めているマナにプラズマはため息一つつきながら海を指差した。
「で、ここで竜宮の使い亀を呼ぶわけですね?」
健は大きく伸びをしながら辺りを見回してプラズマに尋ねた。
「そういうわけだが……亀がいないな……。竜宮にいやがるのか……しかも観光客がいない所から今日は竜宮休みだな……」
プラズマは再びため息をつくとちらりと鶴に目を向けた。
「よよい?亀を呼べって事かよい?」
鶴が空気を読んだのかそう尋ねてきた。
「できるか?できるんならやってくれよ」
「まあ亀に意見を通すならやってやるよい。来るかわからないけどよい!」
「頼む」
鶴はあからさまに嫌そうな顔をしたが従ってくれた。頭に指先を当ててぶつぶつ何か言っている。おそらく、テレパシーで会話をしているようだ。
何かぼそぼそ言っていた鶴がふっとこちらを向いた。
「はあ……とにかく来いって言っておいたからその内来ると思うが来いとしか言っていないから後はなんとかしろよい!んじゃ」
鶴はそれだけ言うと駕籠を連れてさっさと飛び去って行った。
「ありがとよ……。あー、神々の使いのくせになんであんな偉そうなんだ?あいつは」
プラズマは去って行く鶴に呆れた目を向けた。
「プラズマさん、亀が来たようですが……」
健がプラズマをちょんとつついて気づかせた。
「もう来たのかよ」
プラズマが海の方を向くと砂浜に一匹のウミガメが首を傾げながら辺りをきょろきょろ見回していた。
「ほ、ほんとにウミガメだ……。浦島太郎だ……」
マナはよたよた歩いてくるウミガメに目を丸くした。
ウミガメはこちらに気がついたのかゆっくり寄ってきていた。




