変わり時…2向こうの世界14
「はっ……。」
気がつくといつぞやで見た真っ暗な宇宙空間で浮いていた。
「わきゃうっ!」
突然、健があげそうにない悲鳴をあげて前を隠した。
なぜか、健とクラウゼだけ裸になっていた。先程まで着ていたスーツはどこへ行ってしまったのか。
「きゃあっ。」
二人の裸を見たマナは顔を真っ赤にし、手で顔を覆った。
「……どうやら、初めて向こうへ行くやつは裸になるらしいな……。」
プラズマがやや引きつった笑みで健とクラウゼを見ていた。
「なんでですか?ていうか……私も向こうへ行けたんですね?」
健が戸惑いながらプラズマに尋ねた。
「んー……。まだ行けていないと思うぞ。ここは向こうへ行く手前のとこじゃないか?俺達は今、データだ。まあ、魂か。現実的なこっちの服が取っ払われたってとこか?」
「困ります。私のは少し小さめで……見ないでください。」
「どこを心配しているんだ。あんたは。別にどうだっていいぞ。」
プラズマは呆れた顔を健に向けるとちらりとクラウゼにも目を向けた。
クラウゼは手で隠しているものの健よりは堂々としている。
「と、とにかく、早く向こうへ行こうよ!」
マナがなるべく見ないように宇宙空間の先に目線を移した。
「そ、そうだな……。」
残りの男衆はなんだか奇妙な雰囲気になったがマナに合わせてとりあえず頷いた。
「え?でも……どうやって動くの?」
マナは自分で言って自分で突っ込みを入れた。動こうと思ったが足が前へ行かない。
ずっと空を切っている感じだ。
「あ、さっきはあれか……スサノオさんだかに押されて……。」
「俺がどうしたって?」
プラズマが言葉を言い終わる前にスサノオ尊の声が間近で聞こえた。
上から聞こえた気がしたので一同はふと上を向いた。
「!」
プラズマ達の頭上すれすれのところでスサノオ尊が寝転がっていた。
「そんなところにいるなよ!びっくりした。」
驚いて息を飲んでいたプラズマは息を吐きながら叫んだ。
「あ、スサノオ様。三回目だね。」
マナがスサノオ尊に笑みを向けた。
「おう。また向こうへ行くのかい?いいねぇ。あんたらの異世界旅行で互いの世界がどう影響を与えるか、実に楽しみだ。」
スサノオ尊はマナ達が立っている所に合わせて降りてくるとどこか楽しそうに笑っていた。
「笑いごとじゃないぞ……。ケイって子だってグダグダだし、レール国の奴らがこっちにいるし……。」
プラズマは健とクラウゼを見つつ、ため息交じりに語った。
「そうか。その後ろの奴はあの名前のない国の出身か。それと、あの国の広報だか調停だかの日本人。本来とどまらないとならない世界にいない奴らがこんなにもいる。あの少女ケイの放置とかツクヨミとアマテラスは何してやがんだよ。あのKはこっちと向こうを繋ぐ唯一の結界を持ってやがるんだ。そして、こっちの世界から選ばれた唯一の神。」
「こっちの世界から選ばれた神って……こっちには神がいないんじゃ……。」
マナの質問にスサノオ尊は腕を組んで答えた。
「ああ、神という概念はない。だが、向こうの世界の奴らが神と言っているような偶像物にケイはなりつつある。あの子は想像力が豊かすぎるから、自分の魂……こちらでいう、ソウハニウムの増減を自身でできるんだ。そしてそれはこちらの人間はまずできない。そのうち、あの子は機械化人間の初期モデルとして人の上に立つ存在になるだろうなあ。実際にいるし、本当に神のように崇められるかもしれねぇ。」
「私はケイって子を救いたいの。あの子、今の世界を辛そうに受け止めているの。」
マナはとりあえず、スサノオ尊に現状を訴えた。
「……あの子はこっちの世界のシステムからそういう存在に選ばれたんだ。もはや、あの子がいなくなったらこっちの世界自体のエラーが出て壊れるぞ。向こうは存在感のないものを信じるがこちらの人間は存在感のあるものを尊敬したり恐れたりするんだ。あの少女はその存在感がかなりでかい。」
「……いつからあの子はそういう存在になってしまったの?Kに選ばれてから?」
「世界が分裂した時からか。いや……重度な妄想症に診断された時からかもしれないな。ほんと、世界はいいように回ってやがるよ。俺達がいてもいなくても関係ねぇってか。」
スサノオ尊はわざとおどけながらそう言った。
「……私、ケイちゃんの負担を減らしてあなた達に意味を持たせようと思っているの。だから……協力してね。絶対に私達が見た未来の姿にはさせない。」
マナは先程心に秘めた決断をスサノオ尊に堂々と言い放った。
プラズマ達は目を見開いて驚いていたがスサノオ尊は大声で笑っていた。
「はっははは!面白い!そりゃあおもしれぇが俺達が存在を許される場所はもうない。向こうの世界では俺達ははじめからいない事になってやがるしこちらの世界でももういない事になっている。だが面白い。非常に面白い!案はあるのか?まさか世界をつなげたりとか考えてるのか?」
「世界は繋げない。私は私の思った通りの事をすればよかったことに気がついたの。」
「ほう。」
スサノオ尊はマナの言葉に目を細めた。
「私もケイちゃんもいままでの事を思い起こせばどうすればよかったのかすぐにわかったわ。私達は常にこういう世界もあったかもしれないなど想像を膨らませていた。
つまり、あっちの世界を本当に存在している、『幻想であり想像の世界』だとこちらに認識させる。本当に存在しているんだし、こっちの人間も信じると思うの。だけど世界を繋げないからこっちの人間は興味を持っても向こうへは行けない。反対に向こうの人間にもこっちの世界を認識してもらう。幻想が死んだ世界を『不思議な幻想の世界』だと理解させる。向こうの人間も何も信じない世界にきっと興味を持つと思うけどこっちには来れない。……とか今考えているんだけど。」
マナの発言に一同は黙った。単純に驚いていた。
ただスサノオ尊だけは先程と同様に大笑いしていた。
「あっははは!いいねえ!あんた最高だ。最高すぎるぞ。どうするつもりか知らねぇが面白いから手伝ってやる。また手伝えることがあったら言えよ。……おっと、そうだ。向こうへ行くんだろ?じゃあな。」
スサノオ尊は笑いながら突然にマナ達を突き飛ばした。少しマナの背中を押しただけなのになぜか新幹線のような速さでマナ達は吹っ飛ばされた。マナに磁石でもついているのかマナの体に引き寄せられるようにプラズマ、クラウゼ、健が高速でマナを追う。
「え!ちょっとー!いきなりすぎる!」
マナは叫んだがスサノオ尊はもうすでにそこにいなかった。
「あの男に押されなければ動けもしなかったな……。不思議な事だ。」
いままで黙っていたクラウゼがため息交じりにつぶやいた。




