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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー4

イドさんはトイレからやっとの事で出る事ができた。


「ふう……大変な事になってました。」

「……まあ、いいわ。それ以上何も言わなくていいわよ。」


ここは駅近ビルから少し離れたスーパーの前。

駅とは正反対でまわりは静かだ。


裏が山で人通りも少なくとても過ごしやすい。

先程の台風じみた風はもうなくなっていたが雨は降っている。


……しかし、あの風を起こした神は一体何がしたかったのかしら……

……わざわざスーパーの前で下してくれるなんておかしすぎるわ……

……偶然……かしら?ま、今はいいか。


考え込むのをやめたアヤはスーパーのトイレから出てきたイドさんを呆れた目でむかえた。


「それより、天御柱神あめのみはしらのかみ国之常立神くにのとこたちのかみって確か思兼神おもいかねのかみを筆頭とするグループの神様じゃなかったかしら?」


「そうなんですか?思兼神ってあの切れ者、知恵者、現在けっこうな神を支配する、高天原東の長、通称東のワイズですよね。」


「あら。意外に詳しいじゃないの。そうよ。

長老が持つ知恵を霊的存在にした神様ね。


現在はかなり上位のランクの神様らしいわ。

何回も転生しているらしいし。


しかし、人の知恵から生まれた神がどうして我々を、おじいさんを襲うのかしら。」


「とりあえず、夕飯何か買いましょう?」

イドさんは真剣なアヤに向かいニコリと笑った。


「呑気ねぇ。」


頭を抱えたアヤはイドさんと共にスーパーへと足を運んだ。

そこで激安の鰈を見つけ今晩は鰈の煮付けにすることに決めた。


途中、イドさんがおもちゃのロボットで遊び始め、アヤが買う事になるという痛手を負ったが平和な買い物になった。


その平和もつかの間、二人はスーパーから出て驚いた。

外は大雨と竜巻が渦巻いていた。


「えっと……これは……。」

「とりあえず、スーパーに戻りましょう。こんなんじゃ帰れないわ。」


呆気にとられつつもスーパーに足を向けた二人だったが神様がそれを許さなかった。


「うわあああ!」


突然吹いた一陣の風により二人はまた高々と空に舞い上がってしまった。


「見て。天御柱神よ!」


アヤは飛ばされながら竜巻の中心にいる男に目を向けた。

男は着物を着ており、竜巻の目のあたりで座禅を組んでいる。


顔は鬼のお面をかぶっているのでよくわからなかった。

鬼のお面は鉄製か銀製かここからではよくわからないが金属製のようだ。


「あのお面も高天原産ですか?」

「そう考えるのが妥当じゃない?高天原って意外に最新式のメタリックなのね……。」


「で、どうしますか?」

「どうしたいかしら?」

「できれば穏便に……。」


イドさんは恐々と天御柱神を見上げる。


「争いはごめんだわ。時間を止めるからさっさと逃げましょう。」


アヤは先ほどと同じように時間の鎖を竜巻ごと巻きつけ時を止める。

風はぴたりと止まり、アヤ達は止まった風の上に足をつけていた。


「風の上に立つというのは初めての経験です……。」

「常に動いている風が止まると物質の流れも止まるから立てるのね……。」


アヤは足元を見ながら身震いした。

意外に自分達は高い所にいた。遥か下の方にスーパーが見える。


「しかし……天御柱神の時間は動いてますね……。」

「彼には効かなかったのよ!」


アヤはこちらを睨みつけている天御柱神を怯えた目で見つめる。

天御柱神は無言で右手を挙げた。


「やばい!」


アヤがイドさんの手をひいて走り出した。

竜巻の上を走るとはなんとも奇妙な光景だ。


ゴゴゴゴ!と雷鳴が轟いたと同時にまっすぐに雷がアヤ達の近くに落ちた。

雷はそのまま地面までつききって道路をえぐった。


「はわわわ……。」

すっかりおびえきっているイドさんにアヤは笑いかけた。


「あ、良い事思いついたわ。」

「いいい……いいことってなんですか?ロボットもう一台買ってくれるとかですか?」


「あのねえ……あなた、この状況で何を言っているの?……いい?」

二人が作戦会議を始めた段階でも天御柱神は容赦なく雷を飛ばしている。


「よ、よし。わかりました。」


イドさんは決心したように飛んできた雷の前に立った。


そのまま両手を広げてコップ一杯分の水を出現させ、それを板状に引き伸ばす。それを認めたアヤは水の時間を止めた。


高速で迫ってきた雷は止まっている水に吸収される事なくきれいに跳ね返った。

跳ね返った雷は見事、天御柱神に直撃。


「……っ!」

天御柱神の低い呻きが聞こえた。


「今よ。逃げるわ。」

「何か逃げてばかりですね……。もっとガーンと敵を倒す……」


「何?じゃあ一人で残ればいいわ。」

「じょ……冗談ですよ……。ゴッドジョークです。流してください。」


アヤは小さくなっているイドさんの手を引きながら竜巻から飛び降りた。


「……。」

アヤは地面にぶつかる寸前で自分達に一瞬だけ時間停止をかける。

地面からジャンプしてまた地面に足をつけたくらいの衝撃で二人は地面に降り立った。


「はあ……はあ……これが所謂フリーフォールというやつですか……心臓が死ぬかと思いましたよ……。」


「そうね……。まったく次から次へと……虎口を逃れて竜穴に入るね……。さ、逃げるわよ。あの神達がこんな弱いわけないから少し不気味よね。」


アヤが止めた時間はもう戻り始めている。いまのうちに遠くへ逃げておきたい。


「その前にちょっと厠へ……。さっきのフリーフォールでお腹が……」

「ダメ!逃げるのが先!」

「ああ……ちょっとま……」


アヤは急激に顔色の悪くなったイドさんを容赦なく引っ張って行った。

しばらく逃げて先程の駅近ビル付近まで戻る事ができた。


そこでイドさんはまた用を済ませ、すっきりとした顔でお腹をさすりながら出てきた。


「ふぅ……かなり危ない状況でした……。男子トイレの便座って少ないんですねぇ。」


「それは他の男に聞きなさい。私に言わないでちょうだい。それ以上言ったら締めるわよ。」

「ご、ごめんなさい……。」

イドさんはアヤの睨みに委縮した。


「この辺は曇りのようね……。雨は降っていないわ。」

「そうですね。やはり天候を操っていた彼らのせいだったようです。しかし、びしょびしょになりましたねぇ……。台風の中走ったんですもんねぇ。」


二人の身体はかわいそうなくらい濡れていた。

アヤは自慢の服が濡れて不服そうな顔をしている。


「あんまり見ないで。下着透けてるかもしれないから。」

「え?下着ですか?」


イドさんはとぼけているようで鼻の穴は広がっていた。

それはアヤの鉄槌により消える。


「痛いじゃないですか……。いきなり殴るなんて……せめてグーは……」

「……なんだかいやらしい雰囲気を感じたものだから。」

頬を涙目でこすっているイドさんから目を逸らし、アヤは恥ずかしそうに下を向いた。


「……?」

その時イドさんが空をふっと見上げた。


「どうしたの?」

「……来ました。今度は西の剣王軍です。」


「西の……剣王って……」

「ええ。ミノさん達を狙っているのでしょう。急ぎましょう!」

イドさんは素早くアヤの手を握ると走り出した。



雲が晴れたのでミノさんとヒメさんとおじいさんはのんびり神社へと向かっていた。

「後はここの階段を登れば安全だぜ。」

「お腹すいたのじゃ……。」

「ごはんは~?」


ミノさんはさすがにげっそりしてきたヒメさんとなんだか楽しそうなおじいさんに目を向ける。


しかしその目は一瞬で前へ向き直った。

眼前に見える階段の所に見知らぬ男が一人立っていたからだ。


彼はこちらが見えているようだ。

男は最新式のメタリックな甲冑に身を包んでいた。


「なんだ?おたく?参拝か?俺は神様に祈られるほどたいそうなもんじゃねぇぜ。」


「あ、あれは健御名方神たけみなかたのかみ熱田大神あつたのおおかみじゃ!」


ヒメさんが目を見開いて叫んだ。

ヒメさんは二人の神の名を呼んだが立っているのは一人だ。


「……?」

ミノさんが悩んでいるとヒメさんが丁寧に補足説明をしてくれた。


「あれじゃ、健御名方神が持っている剣、あれが熱田大神じゃ。」

「なるほど。で?俺達ピンチなんじゃねぇのか?」


「じゃな……。のう、ミノ殿。ここはカッコよく戦ってみてはどうじゃ?ワシは隠れておる故。」

「おいおい、勘弁してくれ。俺はうどんしかだせねぇって……」


そこまで言った時、ミノさん目がけて熱田大神を振りかざした健御名方神が迫ってきていた。


ミノさんは冷や汗をかきながらぎりぎりでかわす。


「う……し……死ぬ……。」

ミノさんが避けた所はミシミシと音を立てて一直線に亀裂が走っていた。


「がんばれー!ミノ殿!ワシは翁と応援してる故―!」

「がんばれー!負けるなー!」

「っちょ……おたくらー!」


いつの間にか遠くに移動しているヒメさんとおじいさんにミノさんは救いの目を向けた。


よそ見をしている暇もなく熱田大神から赤い光線……レーザー光線が飛び出す。

地面がえぐられ一直線にその光はミノさん目がけて飛んできていた。


「うおわあああ!なんだそりゃ!そんなのありかよ。」


ミノさんは必死でレーザー光線を避ける。

一気に赤い光が突き抜けたと思うとミノさんの後ろで大爆発を起こした。


「ひぇえええ!助けてくれー!俺はうどんしか出せないって言ってんだろーがあああ!」

「大丈夫じゃ!奇跡は起こる故―!」

「がんばれー!まけるなー!」


遠くで応援している声。

なんだか運動会で走っている子供を応援する親のようだ。


「ちょ……ちょっと黙ってろ!」


ミノさんは全神経を集中して飛んでくる斬撃とレーザー光線をギリギリでかわしている。

その時、ヒメさんの携帯が鳴った。


「お?」


YO♪だんご!おはぎ!くさだんご!YO♪だんご!おはぎ!くさだんご!YO♪


マヌケにもヒメさんの着メロが鳴る。

ついでにミノさんのポケットに入っていた携帯も鳴る。


ラブロマンス♪二人の心はラブロマンス♪いやん❤うふん❤


「うるせええええええ!こんな時に何がラブロマンスだ!馬鹿野郎!」

ミノさんは怒りながら携帯を地面に投げつけた。


「アヤ!どうしたのじゃ?夕飯鰈の煮付けにする?カレーがいいのじゃ。」

「何の会話してんだよ!夕飯よりこっちの事話せぇえええ!」


着信はアヤからだったらしい。ヒメさんは残念そうに電話に出ている。


「うむ。それでの、今、ミノ殿がむっきんむっきんで襲ってきた者をバッタバッタと倒してくれる故、心配はいらないのじゃ。」

「おい!ふざけんな……。」


ミノさんはレーザーを紙一重で避けながら先程叩きつけた携帯を拾い、イドさんに決死の思いで連絡を入れた。


「はい。イドさんです。ああ、ミノさん大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫じゃねぇ!今すぐ助けてくれ!」


ミノさんはなるべく緊迫感が伝わるように叫んだ。

爆音がまたすぐ後ろで響く。


「なんかすごい音がしてますねえ。あれみたいです。えーと……あの有名な映画知ってます?あのパニック映画なんですけど……。」


「その話、後でいいか?後でいいよな!俺は今それどころじゃねぇんだ!うわっ。とりあえず速く……うおっ!」


ミノさんは顔すれすれに飛んできたレーザー光線をかわす。

いままで避けられているのが奇跡のようだ。

神様にも火事場の馬鹿力というものがあるらしい。


「すぐに向かいますからちょっと待っててくださいよぉ!コップ一杯のお水を提供いたしますからぁ!」

そこでイドさんからの電話は切れた。ミノさんは愕然とした。


……そうだ。あいつが来ても役にたたねぇ……。


「って……うわあ!」

少し呆けていた時間が命取りになったかミノさんの目の前には剣先が伸びていた。


や、やばい。これは本当に……

……し……死ぬ……


ダメだと思って目を強くつぶった。

「……。」

しかし、予想していたダメージはいつまでたっても襲って来なかった。

恐る恐る目を開ける。


「……お!」

いつ来たのかヒメさんが悠然とミノさんの前に立っていた。


「……やめよ!退くのじゃ……。ワシを怒らせるな……。」

ヒメさんは健御名方神を見据えながら恐ろしいほど低い声でなだめるように言った。


急降下してくる何かに押しつぶされそうな感覚とびりびりとした空気がミノさんを襲う。


な、なんだ……?これは……ヒメが発した息……。


「……。」

健御名方神は手を止めると無言で消えた。

消えたと同時に神社付近にのんびりした雰囲気が戻ってきた。

挿絵(By みてみん)

「ひ……ヒメ……?今のって……」


「ゴッドレインじゃ。雨のように降りそそぐ息。

古くから生きるものは言雨ことさめと言う。


今じゃほとんど使えぬ者ばかりじゃが、歴史の神故、ワシは長生きじゃから言雨を使える神から歴史を盗めばできるのじゃよ。」


ヒメさんはニコリと笑ってミノさんを振り返った。


「おいおい……あるなら初めから使ってくれ。しかし、すげーな。おたく、意外にやり手の神だな。」

「意外て……まあ、よいわ。しかし、おぬしこそやるではないか。軍神相手によーやったのう。」

「なんとも言えねぇ……。死ぬかと思った。」


腰が抜けたのかミノさんはその場に崩れ落ちた。


「ん?」

座り込んだ前方に何か紙切れのようなものが落ちているのをミノさんは発見した。


「おお!これは。」

ミノさんが紙切れに手を伸ばそうとした時、ヒメさんがひょいっとそれを感動しながら拾い上げた。


呪文のようなものがびっしり書かれている。

紙切れというよりお札のようだ。


「なんだ?それ。」


「グランドセレスには嬉しいお知らせじゃ!」

「グランドセレスとかカッコよく呼ぶな。普通に地上に住む神でいいだろ。で?何が嬉しい知らせなんだ?」


ヒメさんは興味のなさそうなミノさんの前にお札を突きつける。


「これはのぉ、高天原へのチケットじゃ!そうじゃな、簡単に言えばギャラクシーヘブンリー……エー、ゴートゥ……」

「無理に英語使うな。高天原のチケットが一番簡単だ。」


「むぅ……。まあ、そういうものじゃ。通行手形というべきものじゃな。」

ヒメさんはおもしろくなさそうな顔でミノさんを見た。


「それがあれば高天原に行けるんだな?」

「まあ、一応のぅ。これは神格の高い神しか持たぬのじゃがグランドセレスなワシ達がばれずに入れるかは不明じゃ。」

「なるほど。」


ミノさんが頷いた瞬間、遠くで戦況を見守っていたおじいさんがぐずり始めた。


「やべぇ。」

「ど、どうしたのじゃ。翁よ……。」


二人は慌てておじいさんの傍へと駆け寄って行った。



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