変わり時…2向こうの世界2
公園を出てマナは迷わず歩く。車が絶えず横切るがこの辺はしっかり歩道と車道がわかれているから安心だ。あの公園は都会の真ん中にある公園だったので辺りはもちろん、高いビルで囲まれている。
「なんか……都会はあんまり向こうとは変わらないな。神社や寺や教会がないくらいで……。でもまあ……そりゃあそうか。こっちも向こうも同じスピードで回ってんだからな。……で……ここはどこだ?」
プラズマは息を上げながらマナに尋ねた。
「ここは新宿だけど……新宿って言ってもわからないかな?」
「新宿だと!新宿なら向こうでもあった。」
マナの言葉にプラズマは驚いた。だがすぐに思い直した。
「そうか。そういえば……第二次世界大戦まで向こうと伍は同じ世界だったんだっけか。」
「そうなんだ?」
「だったらしいぞ。」
マナとプラズマは会話をしながらビル群を抜け、駅前に到着した。
「えーと……あっちよ。」
マナが一瞬迷いつつ駅には入らずに迂回して歩き始めた。
「相変わらずごみごみしてるなー。新宿は。あのほら、駅に入ると迷宮入りするごちゃごちゃ感。トンネルをくぐると急に場所がわからなくなる不安感。」
プラズマがため息交じりに言葉を発した時にはもうトンネルをくぐっていた。
トンネルから出てしばらく歩くとアマテラス大神の神社があった。
神社には参拝客はおらず、観光客が沢山いた。
もちろん、おみくじなどもない。
鳥居を潜り、石段を登ると形だけの狛犬がマナとプラズマを出迎えた。
残念なことに賽銭箱すらない。
「あー……なんか寂しいなあ……。」
「はあ……疲れた……。」
プラズマが寂しそうな顔をしている横でマナは肩で息をしていた。歩けないプラズマをずっと支えて歩いてきたのだ。石段が一番つらかった。
「ああ、マナ、なんか悪いな。元気になったらおぶって走ってあげるからな。」
「そんな事しなくていいよぅ。」
マナはなんだか恥ずかしくなりプラズマを軽く小突いた。
「……で?あんたがここに来たかった理由って?」
プラズマが話を元に戻したのでマナもため息交じりに答えた。
「向こうの世界にいた時に同じ神社を見たの。」
「へえ。」
「それでかな。」
マナ自身、何か期待してきたわけではないが新しい発見があるかもしれないと思って来てみたのだった。
「……お?」
ふとプラズマが社の中を覗きながら声を上げた。
「……?」
「……わずかながらに霊的空間が見えるぞ……。」
「れいてき……くうかん……。」
プラズマに言われてマナも社内を窺った。確かに何かを感じるが明確にはわからなかった。
「……マナ、俺だったらたぶんあそこの中に入れる。あんたはどうかわからないが……行ってみるか?」
「うん!」
プラズマの問いにマナはワクワクしながら大きく頷いた。やはりマナは不思議な現象が好きだった。
マナとプラズマが社内へ入ろうとした刹那、社内から女の子二人の声が聞こえた。
「ひぃっ!」
マナは短く悲鳴を上げたが彼女達の姿を見て安堵のため息を吐いた。
「レティとアンじゃないの!」
社内でウロウロしていたのはマナの友達であるレティとアンだった。
金髪の少女レティと褐色の肌のアンはお互いマナを見て驚いていた。
「な、なんで私達の名前を知っているのかしら?」
「名乗ってないよね?同じ学校だったっけ?」
「……え?」
レティとアンはマナをまったく知らない子だと思って話しているようだった。
「わ、私だよ!マナだよ!」
「……?ごめん。わからない。」
必死のマナにレティとアンは怯えながら二、三歩離れた。
「友達だったでしょ!私達……。」
マナもなんだか自信がなくなってきていた。
「わ、悪いけど……し、知らないってば。」
アンがレティの影に隠れてマナを気味悪そうに見つめた。
「じゃ、じゃあ……今ここで何してたの?」
マナは動揺しながら質問を変えた。
「えーと……まあ、歴史探索っていうかな……。そんな感じ。ね?レティ。」
「え、ええ。そうね。海外から来たからなんだか珍しいっていうか……。」
アンとレティは歯切れが悪くマナに言葉を返した。
「違うよね?アンもレティも超常現象が好きなんでしょ。なんか起こるかもしれないって思って来たんだよね?」
「ち、違うわ!だいだい、あなた誰なのよ!放っておいてよ。」
「れ、レティ……。こういう人はあまり刺激しちゃダメなんだよー……。」
腹が立ったのか叫ぶレティにアンは恐る恐るレティを止めていた。
マナはなんだかやるせなくなり、半分自暴自棄でレティとアンの手を強く握った。
「……もういいわ!レティとアンを怪現象だらけの世界に連れてってあげるから!」
「ひっ!」
マナはそう叫ぶとレティとアンを社の奥へ引きずり込もうとした。
「やめろ!」
マナに向かい叫んだのはプラズマだった。霊的空間が近いからかこの空間ではプラズマは普通に動くことができた。レティとアンを引き込もうとしたマナの手をプラズマが払いのけ、マナの前に立った。
「おい、マナ。あんたご丁寧に未来通りに動いてるじゃないかよ!クロノス……リョウがなんて言っていたか覚えてんだろ。」
「……。」
―レティとアンは君を全く覚えておらず、おまけにこちらに来る事ができずに消滅してしまう。―
リョウはマナ達にはっきりとこう伝えていた。
マナは自然と溢れる涙が止められなかった。悔し涙なのかもしれない。
……想像が沢山できる世界がすぐ近くにあるのにそれができない……。
……レティとアンは私を忘れている……。
……すべては向こうとこちらが繋がっていないせいだ……。
……つなげれば……。
そこまで考えて再びリョウが言った言葉を思い出した。
―君はそれから伍の世界とこちらの世界を繋げようとする。向こうの世界をどうつなげたのかはわからないけど世界は後に繋がってしまう。それから……先程の未来へと向かうんだ。伍の世界を繋げてしまった事により自然共存派戦争なんていう本来はない戦争が起きてしまう事をプラズマ君が未来見で見てしまう。それで……その戦争を君は止めようとするんだ。僕とプラズマ君を使って。―
恐ろしくマナのこれからを予言していた。今もプラズマが叫ばなかったらリョウの言葉を忘れてリョウの予言通りに動いていたかもしれない。
「マナ……ここはあきらめろ。彼女達はもうあんたの友達じゃないんだ。」
「……。」
マナはその場で泣き崩れた。なんだか裏切られた感じがした。
レティとアンはその状況を気味悪そうに眺めながら赤髪の男、プラズマを仰いだ。
プラズマの目を見たとたん、アンとレティは立ちくらみがした。咄嗟に目線を外す。
何か見てはいけないものを見ているようなそういう悪寒も襲っていた。
「か、彼女は……やばめの妄想症だわ……。重度の自己解離性よ。どうする?アン……。救急車呼ぶ?」
レティはプラズマから目をそらしてから泣いているマナの方を向いた。
「その方が良さそうだね。どうして……ここまでこじらせちゃったんだろうね?」
アンはマナを不気味に思いながらスマホを取りだし、救急車を呼んでいた。
「こんなんで救急車を呼ぶのか……こっちのやつらは……。」
プラズマは愕然としながらレティとアンを眺めていた。
マナは何もできずにただ茫然としているだけだった。プラズマはマナを無理やり立たせるとどうしようか迷った。このままでは何もないのに救急車に乗せられてしまう。
「走って逃げようにも……俺はこの空間以外の場所だったら歩けもしないし……。ああっ!どうしよ!」
プラズマはマナを抱えながら社内をウロウロしているだけだった。
アンとレティは不気味がってかなり遠くで様子を見ている。
そのうち救急車のサイレンの音が聞こえてきてしまった。
プラズマはさらに焦り、どうしようか深く考えている所で社の奥から手が伸びてきた。
「手っ!?」
手は拒むプラズマを強引に引き寄せ、そのまま霊的空間へと引きずり込んだ。
救急隊の声が聞こえる中、プラズマとマナはその場から忽然と消えた。




