変わり時…1交じる世界13
「君が死んだ未来はこんな感じ。どちらにしろ、けっこうヤバいと思う。」
リョウはあまり危機感なく、笑ってみせた。
マナは真っ青になりながらリョウを見つめた。
……自分が死ぬ未来ってなんだ……。
急に頭がおかしくなりそうなことがポンポン出てきて本当に頭がおかしくなりそうだった。そしてとてつもなくリアルな映像でもう震えるしかない。
「ね、ねえ……どうすればいいの?」
マナは不安定な上ずった声でリョウに尋ねた。
「知らないよ。知らないけど一緒に考えてあげる。僕は何もできないかと思うけど、今の未来は見ておいた方がいいと思ったんだ。」
「そ、そうだね……。こうならないように何とかしないと……なの?」
マナは冷や汗をかきながらプラズマに目を向けた。
「……けっこう衝撃的だったな。俺もあそこまで明確には未来は見えない。マナが死ぬと過去神栄次と現代神アヤと一緒に行動するのか……俺は。」
プラズマも動揺しつつリョウを眺める。リョウは木陰に体を移し、涼み始めた。
「……しかし、この未来は千年後辺りなんじゃないか?マナはそこまで生きているっていうのか?」
プラズマはふと不思議に思った事を訊ねた。リョウは木に背を預けながらまた軽くほほ笑んだ。
「知らないけどマナちゃんは君と一緒にいる影響で未来へ飛べるらしいんだ。」
リョウの言い方にプラズマは違和感を覚えた。
「……違うな……。あんたが一緒に行動しているからだろ。」
「……ふーん。」
プラズマの言葉にリョウは試すような目でプラズマを仰いだ。
「あんたは俺達日本の時神ができない能力を持っているはずだ。あんたは一神で過去、現代、未来を守っている。こっちの世界の管轄にないマナを連れまわしながら時渡りができるんじゃないか?」
プラズマはリョウを睨みつけた。リョウはクスクス笑うと木から背を離した。
「まあ、半分正解かな。僕は時渡りはできるけど誰かを連れていけない。それは君の能力がかかっているんだ。プラズマ君。君は日本の未来を守る未来神。頑張れば肆の世界には飛べるんだよ。僕と力を合わせればマナちゃんも未来へ連れて行ける。今はプラズマ君しかいないから僕は未来にしかいけないんだ。君達に合わせるからね。」
「ごちゃごちゃ言っててよくわからないんだが……。」
プラズマはやれやれとため息をついた。
そんなプラズマのため息を聞き流し、リョウは再び口を開く。
「つまり……僕とプラズマ君が力を合わせてマナちゃんを未来である肆の世界に連れて行ったって事さ。あの戦争を止めにね。」
「まいったな……。自然共存派戦争なんて俺は聞いた事もなかったんだがそんな未来を少し前に見ちまったんだよなー。」
プラズマは頭を抱えながら返答した。
「ね、ねえ……どうして私がこっちに来たことで戦争が起きちゃうの?」
いままで黙って話を聞いていただけのマナが恐る恐る口を挟んだ。
「どうやら、マナちゃんがこれから何かをしてしまって伍の世界とこちらが繋がってしまうようだ。マナちゃん、君はこちらの世界を幻想的な世界だと感じているかい?憧れを抱いてしまっているかい?」
リョウは透明感のある瞳をマナに向け、静かに問いかけた。
「……ま、まあ、多少は……そうかも。私達の世界とはまるで違うから……興味がわいちゃうっていうか……皆にもこの世界を見て不思議な現象がある事を知ってもらいたいっていうか……。」
マナはリョウの顔から目をそらすと小さくつぶやいた。
「皆に見てもらいたいか……その皆ってのは君が住んでいた世界の人間達の事だよね?その感情がすでにダメなんだ。」
リョウは近くの小石を蹴りながら諭すように言った。
「で、でも……私がいた世界では信じられない事ばかりここでは起こるのよ。こういう世界を夢見ている子も私の世界にはいる。その子達だけでもこちらの世界に住まわせてあげたい。」
マナは友達のレティやアン、そしてケイと名乗ったあの少女の事を思い出しながら話した。
「そうだ。その感情が君を動かしてしまうんだよ。君がこれからすることを言ってあげようか?君は夢や霊魂の世界である弐に行けばKに会えることを知る。そして何も知らない僕達を動かしてKの元へと向かうんだ。途中でプラズマ君が弐の世界にいる時神について気がつく。弐の世界の時神未来神にコンタクトを取ろうとするんだ。」
マナとプラズマは息を飲みながらリョウの言葉の続きを待った。
リョウは唇を湿らすと再び口を開いた。
「その後、弐の世界の時神未来神にKの元へと連れて行ってもらう。そして君は向こうのKとコンタクトを取り始める。君は一度、向こうの世界へ行くみたいだけどどうやって行けたかは僕にはわからない。」
「……。」
マナは伍の世界の弐の世界という所で見たスサノオ尊について思い出した。あそこも夢の世界だと言っていた。もしかするとそこを通って行ったのかもしれない。
「で、まあそれはいいとして君はまたこちらに戻って来る。その時にレティとアンという少女を無理やり引っ張ってくるようだ。レティとアンは君を全く覚えておらず、おまけにこちらに来る事ができずに消滅してしまう。君はそれを深く悲しむ。自分が連れてこようなんて思わなければ良かったと。それから君は妙な行動をとり始めるんだ。」
リョウが淡々と話す中でマナは心の核心をつかれているような気分がしていた。おそらく自分は……いや、間違いなく同じ行動を取ってしまうだろう。
そういう確信だった。
「君はそれから伍の世界とこちらの世界を繋げようとする。向こうの世界をどうつなげたのかはわからないけど世界は後に繋がってしまう。それから……先程の未来へと向かうんだ。伍の世界を繋げてしまった事により自然共存派戦争なんていう本来はない戦争が起きてしまう事をプラズマ君が未来見で見てしまう。それで……その戦争を君は止めようとするんだ。僕とプラズマ君を使って。」
リョウは腕を組んで楽しそうに笑っていた。
「……。」
「とまあ、一番可能性がある未来はこんなところ。他には向こうのKの少女をこちらに連れて来てしまう未来だったり、伍の世界を説得させてこちらの世界と融合させようとしたり……そんな未来が見えるけど結末は同じなんだ。」
リョウはため息交じりに息を吐いた。
「……そこまで見えるのか。あんたは……。じゃあ、何のアクションも起こさない方がいいって事か。俺はマナを監視しなければならなそうだな。」
プラズマが落胆の表情を見せた。
「……そんなことになるのは嫌……。皆が争わない世界共存がしたい。」
マナは小さくそうつぶやいた。
「まあ、僕の未来見はこの世界を保たせるために世界が与えた能力なんだと思う。それを君に話させるのも世界のシステムで危険な状態を回避しようとしているようにも思う。」
リョウは再び小石を蹴るとマナに向かってほほ笑んだ。
「……わかった……。じゃあ……私はこの世界にいない方がいいんだね?プラズマさんが何かアクションを起こさないといけないみたいなことを言っていたから勘違いしたよ。」
「悪いな。悪い方面の未来見だったか……。」
マナの言葉にプラズマははにかみながら答えた。
「……ありがとう。私、何か本当に今言った事をやりそうなの。一度、私が元いた世界に帰れるように頑張ってみる。その弐の世界っていうのに行けばいいのかな?」
マナは夢の終わりを感じた。でもやはり自分には不適格な場所だとも思った。
「本当に帰るのか?まあ、帰るなら色々こちらの世界も安心か……。」
プラズマはなんだかやるせない顔でマナを見ていた。
「まあ、君がどう判断するかは君に任せるよ。君が向こうに帰りたいというならば帰らせてあげる。ただ……君は何度もこちらに来ることができるコードを持っている。……例えば……その眼鏡、なくさなければまたこっちに来れるかもしれない。だけど、次こちらに来ようとしたら消滅するかもしれない。それは僕にはわからないよ。」
リョウはある一点を指差して続けた。
「弐の世界から帰るならばこの山道を登った先に古い図書館がある。そこから戻るといいよ。」
リョウが指差した場所は人が一人分歩ける程度の整備されていない道だった。辺りは得体のしれない植物で埋まっている。
「この上に図書館が……。」
「うん。じゃあね。」
リョウは一言返事をするとそのまま消えていった。
「消えた!?」
マナの声にプラズマは冷静に答えた。
「奴は過去、現代、未来の三方向の次元を生きている。リョウが過去か未来に飛んでいったんだろ。驚くことはないよ。」
プラズマの言葉にマナは「はあ」と抜けた返事しかできなかった。




