変わり時…1交じる世界12
風が巻き上がる。マナの隣にはリョウとプラズマがいた。
辺りは激しい炎で覆われていた。武器を取る不思議な人間達。その人間達の頭には獣の耳がついていたり、しっぽがあったりする。
対して空を飛び、レーザー光線のようなものを落とし続けるこちらも不思議な人間達。体は機械で覆われ、まるでロボットの様に感情なく、獣耳の人間を惨殺している。
「自然共存派戦争が始まった……。」
プラズマが悲しそうに下を向く。先程から兎の耳がついている不思議な少女をプラズマは抱いていた。彼女は全く動かない。プラズマの手から血が滴り、この少女の息がもうないことをむせ返る血の臭いで感じた。
「どうして……こんなことに……。」
マナは恐怖心で頭を抱えた。目から涙がつたう。
「君が伍の世界と、こちらの世界を結んでしまったからだ。こちら側の人間は原始に戻り、動物と交わり、新しい人類を始めている。しかし……伍の世界の人間達も感情を失くし、すべてが平等になる事で進化を遂げた新しい人類。本来ならば交わらない新しい進化を遂げた人間達がこうして……戦争をしてしまっているんだ。昔見た宇宙人のパニック映画のようだね。」
マナの横でクロノス、リョウが無表情のまま戦争を眺めている。
「……け……Kは?」
マナは戸惑いながらリョウに必死な目を向けた。
「Kはもう存在しない。僕達が消してしまった。別々の進化を遂げた人間達がぶつかり合わないわけがない。世界の融合なんてしてはいけなかったんだ。世界のシステムが壊れた。世界は時期に……リセットシステムが作動するだろう。世界がプログラムのエラーに対処できなくなった。そういえば人間は昔、これをビックバンと呼んでいたな……。」
「……ビックバン……。」
「前に一度起こっている。僕達より前にいた生命体が何か取り返しのつかない状態になってしまったのだろうね。世界がシステムエラーに対応できなくなり、消滅した。世界ってなんなのだろう?何のためにある? 僕にはわからない。」
リョウのどこかせつなげな表情を最後に景色は消えた。
*****
「はあ……はあ……。」
マナは脂汗をかきながら地面に膝をつく。
辺りは元の状態に戻っていた。葉をなでる風が妙に優しかったのを感じた。
「とまあ、最悪の結末で見えた未来がこれだよ。」
リョウは青空を眩しそうに仰ぎながら伸びをした。
「これは最悪だな。気分まで最悪だ。」
プラズマは顔をしかめ、やれやれとため息をついた。
「ちなみに……マナちゃん、君が死んでしまった未来もあるんだ。」
「えっ……。」
リョウの発言にマナの顔色がみるみる悪くなっていった。
「これも見てみなよ。」
リョウがまたも景色を変えさせた。世界が揺れる。
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すぐに視界に入ったのが汚染されて茶色くなっている海。所々で油が浮いている。
「……マナが戦争に巻き込まれて消滅してしまった今、俺達にはどうすることもできない。」
プラズマが先程と同じく兎耳の少女の亡骸を抱きながら風に揺られている。辺りは戦争を繰り返し、化学兵器を使いまくった結果、植物も何も育たない寂しい環境になっていた。
機械の人間はなお、暴走を止めない。もうすでに立っている人間などいないのに。
「彼らはもうすでに感情を失くしている。俺達ももう信仰されていない。俺達の言葉は届かない。そして最後の一人になるまで同士討ちをこれからするのだろう。」
プラズマの横にいた侍姿の男が汚染された海の上で今もなお、殺し合いをしている機械人間達をぼんやりと眺めていた。
「こういう場合、私達も消えるの?他の神々みたいに。」
侍姿の男の隣にいたのはアヤだった。アヤは感情のない瞳で泡が混じる海の満ち引きを見つめていた。
「……僕が最初のようだ。その次が君達。最期くらいほほ笑んで消えよう。」
アヤのさらに横にいたのは消えかけているリョウだった。
「最後の最期まで残っていたのはやはり俺達時神か……。人間がああなった以上、時間の関係ももうすでにない。」
侍姿の男は消えゆくリョウに寂しげにほほ笑んだ。
「つくづく……私達は人間じゃないんだなって思うわ。もう……どうでもいいけど。」
アヤは得体のしれない化学物質を沢山含んだ空気を思い切り吸うと伸びをした。
「最後に残るのはたぶん、アヤ……あんただけど……寂しくないように俺が殺してあげようか?アヤは寂しがり屋だからな。最後に寂しく残って消えるのは嫌だろ?痛くなく優しくやるから……。」
プラズマがアヤを心配してかそんなことを言った。プラズマはなぜか笑っていた。
「……そうね……。お願いするわ。」
アヤはほほ笑みながらあっさりそう言った。
リョウが消える一歩手前、プラズマが兎耳の少女をおろし、アヤの首にそっと手をかけた。
刹那、再び世界が揺れた。




