変わり時…1交じる世界5
「はっ!」
マナは気がつくと真っ白な空間にいた。体を起こし、辺りを確認してみても空間はどこまでも真っ白だった。先程とは真逆だ。
「……どこまでも白い……。私はどうなっているの?これって夢?」
マナは自分の体にとりあえず目を向けた。先程とは違い、何か着ている感じがあったからだ。
「……これは……私の学生服……。」
マナはいつも学校に行くときに着ている学生服を身にまとっていた。だが自分の学校の校章はなくなっていた。
その代わり、マナの胸元には見た事もない学校の校章がついていた。知らない内に緑のシュシュも元に戻っていた。
「いらっしゃい。はじめてのお客さん。」
ふと後ろから少女の声が聞こえた。マナは慌てて振り返った。すぐ目の前に、ツインテールのモンペ姿の少女がほほ笑みながら立っていた。
「誰!?」
「そんなに驚かなくてもいいよ。現人神マナさん。私はK。よろしく。」
「K……。」
Kと名乗った少女はとても友好的に話しかけてきた。
マナはKという名になにか引っ掛かりがあった。
……K……けい……ケイ……。ケイ?
……ケイ!
『私はケイ。向こうだとK。人々の心の具現化でできたシステムの内の一つ。』
……そうだ!
「……あの子がそう言っていた……。あの精神病院にいる女の子が!」
「ふーん。お姉さんは向こうのKに会ったんだね?」
マナが叫ぶように声を上げるがKの少女は別に驚いてもいなかった。
「向こうの……K……。」
「そう。実はあなたは一番真実に近いんだ。……あなたがこれからどう動くのか、向こうの私達の同胞も救ってくれるのか、私は楽しみにここで見ているからね。」
少女Kは軽くほほ笑むとその場から姿を消した。
「ちょっと!」
マナが何だかわからず叫んだが、マナもすぐに意識を失った。
****
「このままじゃ遅刻しちゃう!」
マナは商店街を焦りながら走っていた。現在は春の陽気漂う朝八時十五分。桜の花は残念ながらもう散っている。
「もう少し!もう少しで学校!」
マナはスカートを揺らしながら商店街を駆け抜ける。今は登校中だ。珍しくない朝寝坊で今日もマナは全力疾走している。
「あーっ!今日は間に合わないかもしれない!」
……ん?
走っていてマナは突然変な違和感にとらわれた。
……ちょっと待って……。
マナは足を止めた。
「私……なんで走っているの?こんな見たこともない場所を……。」
マナの瞳が突然黄色に発光し、電子数字が回った。しかし、すぐに元の茶色の瞳に戻った。
「私はついこないだ学校にいて、授業を受けて帰ってそれで日曜になってレティとアンと一緒に妄想症の子と会った。私は登校中じゃない。」
引き返そうとしたがよく考えたらここがどこだかわからない。
「……ここはどこ?」
よくわからないがなぜか行ったこともない学校の行き道を知っていた。
「……よくわからないけど……その学校へ行ってみよう。」
とりあえず、マナは不安げな顔で学校への道を歩き始めた。
しばらく商店街を歩いていると見たこともない学校についた。
「……この学校は知らない……。場所もどこだかわからないのになんでこの学校への行き道を知っているの?」
マナは不思議に思ったが恐怖は感じなかった。
……入ってみよう……。
好奇心の方が強くマナははやる気持ちで校門をくぐった。
少し古臭い学校だった。だがさびれてはいない。
どこにでもある公立の高校のようだ。
時刻は九時を過ぎた。
学校は朝の慌ただしい朝礼が終わり、今はのんびりと一限目の授業に入っている。
マナはなんだか場違いな気分を感じながら恐る恐る廊下を歩いた。この時間帯は寝坊した生徒が慌てて教室に入っていく時間帯でもある。
マナは慌てている三人の生徒とすれ違った。通り過ぎさまに制服を見るとなぜか自分と同じ制服を着ていた。
……この学生服はここの学校のものなんだ……。
……でもなんで私がここの学校の制服を着ているの?
学校の制服は着ているものの場所以外学校の事はわからない。
この学校に通っていたとしてクラスはどこなのか、時間割の状況もわからない。
……私はやっぱりこの学校の生徒じゃない。
マナはそういう結論を出し、とりあえず学校関係者に見つからない場所を探した。
……屋上……。
マナは四階の階段をのぼった後、五階へ続く階段を見上げた。五階は屋上になっているようだ。
……でも屋上ってだいたい鍵がかかっているはず……。
そんなことを思いながら階段をのぼると重そうな扉があった。
マナはダメもとで扉のノブをひねった。
「あっ……。」
鍵がかかっていると思っていた扉はあっけなく開いた。
「開いた……。」
マナはそのまま屋上へ出て静かに扉を閉めた。
春のあたたかな風とまだ残っている桜の花びらが頬をかすめる。快晴の空がとても気持ちいい。
「屋上は開いているんだ……この学校。」
辺りを見回すとのどかな自然風景が遠くに見えた。しばらくぼんやりと風景やら、グランドで体育をやっている生徒達を眺めるやらをやっていると、少し目が疲れてきた。
マナは目を休めようと眼鏡をはずした。辺りは若干ぼやけたが、少し遠くの方に大きな鳥居が存在していることに気がついた。
「……あれ?眼鏡していた時は見えなかったのに眼鏡をはずしたら鳥居が見える……。」
ひとりごとをつぶやきながら、眼鏡をはずした状態で一周ぐるりと見回してみる。
鳥居は全部で三つあった。ちょうどこの学校を真ん中に正三角形を形成するように鳥居が立っている。
……ふーん。ぴったり正三角形になるように鳥居が立っているね。おもしろいわ。
……ん?……『正三角形に』鳥居が立っている?
マナは固まった。
再び眼鏡をしてみる。辺りは鮮明になったが遠くに見えていたはずの鳥居がなくなった。
「あれ?」
マナは再び眼鏡をはずしてみた。辺りはぼやけほとんど見えなくなったが、遠くにある鳥居だけははっきり見えた。
……まって……この配置……どこかで……。
「はっ!」
マナは目を見開いて驚いた。そういえばアンが言っていた三つの鳥居と位置が酷似している。
「真ん中に……妄想症の精神病院があって……結界が……云々ってアンが……。」
マナは震える声でつぶやくと再び眼鏡をかけた。眼鏡をかけたとたん、その鳥居は跡形もなく消えた。
……一体どういうこと?眼鏡をはずすと見えるなんておかしいよ……。それにここは妄想症の病院じゃなくて学校……。
……何がどうなっているの?
マナは突然、言いようのない不安と恐怖に襲われた。
……ここは何なの?私がおかしいの?
マナは狂いそうになっていた。不安になればなるほど不安になってくる。
その時、重度妄想症だったKと名乗った少女の言葉を思い出した。
……しっかり自己を保っていないと分解されちゃうよ……。
「しっかり……自己を……保っていないと分解……されちゃうよ……。」
マナは茫然と遠くの風景をながめた。下のグランドでは楽しそうに笑う生徒達が体育の授業でサッカーをやっていた。
……これから私はどうすればいいのだろう?




