変わり時…1交じる世界1
「ねえ、幽霊とかいると思う?」
茶髪のツインテール、眼鏡をかけた少女が隣を歩く黒髪の少女に小さく尋ねた。
「……はあ?何?幽霊って?」
黒髪の少女はツインテールの少女の肩を叩き、馬鹿にしたように笑った。
「ほら、死んだ後に未練があってこの世界に現れるっていうか……。」
先を歩いて行ってしまう黒髪の少女にツインテールの少女は小さくつぶやきながら小走りに追いかけた。
「マナ、あんたね、そんなもんあるわけないでしょ。」
黒髪の少女はツインテールの少女をマナと呼んだ。
マナと黒髪の少女はこれから高校に登校するために道を急いでいた。制服のスカートを揺らし、ビルの中を走る。
ちなみに二人は今、朝寝坊をしてしまい、学校に遅れそうだった。
「そっか。じゃあさ、死んだらどうなると思う?」
マナは同級生の少女に追いつきながら再び質問をした。
「だからさ、死んだらなんもなくなるでしょ。私達はタンパク質とかカルシウムとかで脳を動かしているんだからその神経回路が死んだらもう自我もなくなるしね。」
「……もしかしたら魂になって天国に行けるかもとか考えないの?」
マナは少女に再度質問を投げかける。これはマナにとっては重要な確認だった。
「考えないよ。そんな妄想みたいな事を言っていると精神科に連れてかれるよ。ほら、妄想ばっかりしている病気があったじゃん?なんだっけ?最近発見されたとかいう……自己解離性妄想なんたら症候群とか言うやつ?って、もう時間やばいじゃん!急ごう!マナ!」
「う、うん。」
マナは走る少女の背中を追いながら落胆のため息をついた。
……この子も同じ考えか……。
この世界はすべての現象が死んだ世界。死んだらどうなる?という質問を投げかけると皆、肉塊になって分解されると言う。いつから人はこういう事を信じなくなったのだろう。
死んだら実際に分解されるだけなのかもしれないがマナは魂や神様はいると思っていたかった。
ある意味、神から解放された世界は恐れる事も信仰することもなく自由なのだろう。
しかし、人から妄想する能力や想像する能力を奪ってしまった。
この手の事を話すと笑われ、行き過ぎると変な病名をつけられて精神科に入れられる。
もしかすると今、人は自由なのではなく、人は人に縛られているのかもしれない。
子供達が怪談を話す事もなくなり、会話は将来の事、勉強の事、そして休み時間に何をするかなど。
子供達を怖がらせていた学校の怪談も今やもう誰にも知られてはいない。
だいたい、そんな現象、物理的に説明できないと子供達は口をそろえて言うだろう。
そういう時代になってしまった。
……別にいいけど……なんか寂しい。証明できていないのに死んだらどうなるって質問にどうしてただの肉塊になるとか言えるんだろう?
マナはビルの間を走り抜けながら学校の校門を目指し、走った。




