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明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー20

 気がつくとナオはナオの歴史書店の自室で眠っていた。隣ではムスビも眠っていた。

 ナオはゆっくり体を起こす。


 「……ん……えーと……私は……。」

 ナオは寝ぼけた頭で考えつつ、とりあえず隣で寝ていたムスビを揺すった。


 「むう?」

 ムスビは揺すられて薄く目を開いた。


 「ムスビ……なんで私達、ここで眠っていたのでしょうか?」

 「んむ……? なんでだかはわかんないけど……弐の世界にいたからじゃない?」

 ムスビは目をこすりながら大きく伸びをした。


 「あ! そうでした! 私達はKに会って世界のシステムを知り、そして栄次と別れました!」

 ナオはふと色々な記憶を思い出し、勢いよく飛び上がった。


 「うわっ! ナオさん? いきなり飛ばないでよ。びっくりするじゃないか。」

 あくびをしていたムスビは、思わず、あくびを飲み込むぐらい驚いていた。


 「ムスビ! こうしちゃいられません! 高天原に今見てきたことをお話しましょう!」

 「うわあ! ちょ、ナオさん!」

 ナオは素早くムスビの腕を掴むと歴史書を避けて外へ出た。歴史書店の外は青い空がどこまでも続く心地よい世界だった。春のやわらかな風が桜の花びらをのせてナオ達の頬を撫でる。


 「……っ!? もう春なのですか? 知らぬ間に一年が……。」

 「弐の世界はほんと不確定だね。一日や二日だと思っていたのに平気で二、三か月過ぎているじゃないか……。」

 目を丸くしているナオにムスビは呆れたため息をついた。

 しばらく春の陽気を感じていたナオ達だったが、その平穏も束の間だった。


 「ああ、やーっと見つけたか。」

 ふと強い風が吹き、ナオ達の目の前に高天原西のトップ、剣王が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。


 「……っ!」

 ナオ達は突然に現れた剣王に声も出なくなるほどに驚いた。


 「ほんと、困ったもんだNE。」

 剣王の影から袴姿にサングラスの奇抜な少女、高天原東のトップ、ワイズも顔を出した。


 「け、剣王とワイズ……。」

 ムスビとナオの顔はいままでにないくらいに青かった。


 「お前達がやった数々の罪、忘れたわけじゃないよNE?」

 「あ~、悪いけど厳しい処罰を受けてもらうよ。」

 ワイズと剣王は同時に神力を解放した。言葉が神力に乗り、雨の様に落ちてくる言雨ことさめがナオとムスビの自由を奪った。


 「うっ……。」

 上から神力に押さえつけられ、体は自然と土下座の体勢に動かされる。ナオとムスビは言葉を発することもできず、冷や汗だけが地面を濡らした。


 「色々知ってしまったねぇ……。まあ、それは最終的にいいとして……。」

 剣王は動けないナオの腹を蹴とばした。


 「あぐっ……。」

 「ナオさんっ!」

 ナオは無残にも地面に転がった。ムスビは青い顔のまま剣王を睨みつけた。


 「あんたにも罪があるが……あんたの罪は軽い。……だが、霊史直神は許される罪じゃあない。」

 剣王は倒れているナオの腕を潰すように踏みつけた。


 「いっ……!」

 ナオの顔に恐怖の色が浮かび、腕の痛みに喘いだ。


 「残念だな……。それがしの部下であったことを悔いるといいよ。それがしは……それほど女に容赦はしない。……何度も言っているけどね。」

 剣王は再びナオの背中を強く踏みつけた。


 「ああうっ!」

 「やめてくれ!あんたの暴力は俺達がくらう罰とは関係ねぇんだろ!」

 叫ぶナオを庇うべく、ムスビは力の限り剣王の足にしがみついた。


 「何言ってんの?散々かき回しといてそれはないよねぇ?お前らは平穏に生きている神々をことごとく混乱させ、重要なポジションを守っている蛭子や天津を不安定にさせたんだ。お前らは自分の行いがわかってねぇ。それがしが許すとでも思ったか? 許すわけねぇだろ!」

 剣王は珍しく怒鳴ると、足にしがみついていたムスビを、強靭な脚力で蹴り飛ばした。ムスビは近くの住居の壁に激突し、血を吐きながら倒れた。壁は勢いよく崩れていた。


 「あぐっ……がふっ……。」

 ムスビは苦しそうに呻いていた。


 「ムスビっ……。」

 「あー……やりすぎた。軽く蹴ったつもりだったんだけどなあ。男相手だと手加減がわからないもんだねぇ。あ、ていう事はそれがしは意外に女に手加減してるって事か。なるほどなあ。」

 剣王は、恐怖で涙を流しているナオをちらりと見つめながら飄々とそうつぶやいた。


 「剣王、やりすぎだYO。アツくなるな。ここは現世だYO?破壊された壁を見て人間達がまた騒ぐだろうがYO。」

 ワイズは呆れた声で忠告はしたが、別に何かするわけではなかった。


 「ま、もうあの男は動けないだろうね。まだなんか吐いているし。もう罪神だから別に同情はしないけど、死なれると困るからもうやめとくよ。」

 剣王が冷酷な表情でナオの髪を掴んだ。


 「ひっ……。」


 「さてと……高天原に行く前にそれがしのお仕置きをしっかり受けてから……。」

 「剣王、あんたね……いっとくけどそれ、変態のセリフだからね。」

 「ん?」

 すぐ近くで女の声が聞こえた。


 剣王は声のした方を向き、歩いてくる黒髪の女を視界に入れると大きなため息をついた。

 「はあ~……君か。ことごとくめんどくさいなあ。あれは恐怖心をあおるためであって、実際にはそんな酷い事はしないって~。」

 剣王は女にも飄々と答えるとナオの髪から手を放した。


 「あ、あなたは……。」

 ナオもそっと前を向き、女を視界に入れた。猫のような目で愛嬌がある少しパーマかかった黒髪をなびかせている少女。頭には太陽の冠、仙女のような赤い着物を着ている。


 「久しぶりだね。あたしは太陽神のトップ、輝照姫大神こうしょうきおおみかみ、サキだよ。覚えているかい?」

 サキは猫のような目を細めると軽くほほ笑んだ。


 「サキ……さん。」

 「全く……壱の世界でやっとイクサメと剣王と、Kの人形の件が終わったばかりなのに……。またKの関係云々でこっちの世界も騒がしくなっているとはね。」

 サキは誰にも聞こえないようにぼそりと小さくつぶやいた。


 太陽と月の神は霊的空間の壱と陸を交互に動いているため、壱と陸に同じ神が二神おらず、太陽神と月神は壱と陸の世界両方の状態を常に把握している。


 サキは再び口を開いた。


 「ああ、実は時神のアヤもいるんだ。なんとなく意気投合して友達になったんだよ。」

 ……まあ、壱の世界ではもうとっくに友達だけど……。

 サキは最後の言葉を飲み込み、アヤを紹介した。


 サキの影からそっとアヤが顔を出した。


 「で? そんな友達報告を聞いているほど、それがしは暇じゃないんだけどなあ。」

 しびれを切らした剣王が呆れながらサキに口を挟んだ。


 「ああ、そうそう。ナオを許してやってほしいんだよ。前にも言ったっけ? あたしは別になんとかなったし。」

 サキは腰に手を当てて剣王をまっすぐ見つめていた。


 「あのねぇ……。君も散々太陽をおかしくされていたじゃないの。それに……ナオがやった事は大罪なんだよ。それがしだけの意見で許してあげる事は不可能でね。」

 剣王はサキを眺めながら不敵に笑った。サキはそれを余裕に受け止めた。


 ……こちらの世界ではみー君はいない。だけど……あたしは交渉でこいつに勝ってみせるよ。ナオは大切なことに気がついた。それを知ったうえで、この世界を生きるのもきっと悪くない。


 サキは陸では敵であった天御柱神あめのみはしらのかみ、みー君とは壱の世界ではかなり親密な関係にある。

 壱ではみー君に頼りきりだったサキも、陸の世界ではひとりで戦わねばならない。

 サキは剣王相手に軽く笑った。


 「そういうと思ったんだよ。だからね……。」

 サキは懐から高天原南の権力者、オーナー天津と天界通信本部の蛭子、北のトップ冷林の署名を取り出した。


 「……彼らはナオに軽い罰だけで許すと言っている。ナオは竜宮を救い、冷林の封印を解いた。世界にもたいして損害はなく、気づかされたことは胸に秘めて今後は動揺の色を見せないと誓う。


 そして西の剣王軍、流史記姫神りゅうしきひめのかみと東のワイズ軍の龍雷水天神りゅういかづちすいてんのかみの暴走を止めたのもナオである。剣王とワイズにもそこのところをよく理解するべきだ……とね。そうだよねえ。ヒメちゃんとイドさんの事を解決したのもそういやあナオだったような……。」


 サキは剣王とワイズをちらりと横目で見た。


 「まあ……確かにそうだYO。じゃ、私も許す方に署名するNE。」

 ワイズはなぜかとても素直にナオを許す方に走った。彼女は一度、Kと融合したことがある、これはKの意思なのかもしれなかった。それか単純に自分が不利にならないように動いているのか。


 「ワイズまで……はああ……。これじゃあそれがしの過失だけ残っちゃうじゃない。まあ、いいけど。」

 剣王は深くため息をついた。


 「ふふん、歴史神は私の部下じゃないから実際は関係ないんだがYO。龍雷りゅういかづちの事をだされちゃあ仕方ねぇってもんだYO。」

 ワイズは剣王が困っている所を楽しそうに見ていた。


 「んで、とどめにこれ。」

 サキはまた懐から一つの署名を取り出した。


 「……んげ……月照明神げっしょうみょうじんの署名まであるのっ! 今回関係ないじゃない。月は……。」

 剣王が弱り切った顔で頭を抱えた。


 「ふふん。あたしの神脈じんみゃくをナメるんじゃないよ! 剣王。」

 サキは自慢げに胸を張った。月神とは壱の世界で月神トップの月照明神の妹、月子をサキが救った事で交流があった。


 「流石アマテラスの後継……。天津はアマテラスの子だし、冷林は部下に狐耳の太陽神の穀物の神がいる……おまけに蛭子はアマテラスの兄……月照明神はツクヨミだからか。」

 剣王はどこか悔しそうだったが、やがてため息交じりにナオ達を許した。


 「よし。ナオ良かったね。アヤにもだいぶん協力してもらったけど、次にこういう事があったら庇えないから、もう無茶はしちゃダメだよ。」

 「……サキさん……。ありがとうございます。」

 サキの眩しさに、ナオは目に涙を浮かべながらそっと頭を下げた。


 「な、ナオさん……大丈夫?」

 ふと横でムスビの声が聞こえた。ナオは慌てて声のした方を振り向いた。

 ムスビはアヤに肩を貸してもらいながらフラフラと立っていた。


 「わ、私よりもムスビの方がっ……。」

 「俺は大丈夫……ごほっ……ナオさんが心配だよ……。」

 「あー……もう、わかったから。仕方ないから治療してやるよ。」

 ナオがムスビを見て震えているので、剣王がバツが悪そうにムスビを引っ張った。


 「あなた、乱暴にしてはダメよ。彼はケガをしているのだから!」

 時神アヤにも怒られ、剣王はさらにつまらなそうな顔でムスビのケガの具合を見始めた。


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