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明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー19

 ナオは茫然とその歴史を見ていた。


 「……彼らはそうやって向こうへ行ったのですか。……向こうへ行ってみたいですが……私では叶わなそうですね。こちらと伍の世界はもしかすると、三貴神の縁でかろうじてつながっているのかもしれません。切り離されているが繋がっているのでしょう。その状態で私がデータとしてもし、介入してしまったら縁が切れてしまう恐れがあり、再び世界を壊してしまうかもしれませんね。」


 「……そういう事です。」

 ナオの言葉にKは静かに言った。


 「……もうわかりました。なんだか晴れやかな気分です。私はあちらへ行っていい神ではない。もちろん、ムスビを悲しませたくもない。だからもういいです。」

 ナオはどこかすっきりした顔で結界の外を見ていた。


 「ナオさん……いつか三貴神に会ってみたいね。」

 ムスビはナオの言葉に安堵し、柔らかな笑みを向けた。


 「そうですね……。ですが……私はもう罪神です。現世に戻ったら罪を償わなければ。」

 ナオはせつなげな表情でじっと宇宙空間を見据えていた。


 「罪か……。確かに色々やらかしたからね。……俺も背負うから。」

 ムスビはナオの手をそっと握った。

 ナオは抵抗せずムスビの手を強く握り返した。


 「ナオさん、お話が終わりましたら、速やかに過去から持ってきたデータである栄次を元に戻してあげてください。もう探索はお済でしょう? このまま放置されますといずれエラーが出てしまいます。」

 ナオの心が晴れたタイミングでKが栄次に対しての処置について話した。


 「……そうでしたね。もう……概念になってしまった経緯は知ることができました。目標は達成です。栄次には感謝しきれないほどの感謝をしなければなりません。私達に協力し私達を守り……この長い歳月を共に過ごしてくれました。私達が勝手に連れてきたというのに……。申し訳ありませんでした。」

 ナオは栄次のそばまで寄るとそっと頭を下げた。


 「……俺は俺の判断をした。お前がエラーを見つけると言った時、俺は世界の事を考えて動こうとしているお前を立派だと思った。覚えているか? はじめは概念になった神々の歴史が存在しない事をお前は不思議に思って世界のために原因究明をしていたのだぞ。俺は今回の件に関われて見ているものがすべて正しいわけではないという事を知った。俺はお前のおかげだと思っている。」

 栄次はぶっきらぼうにそう言った。


 「栄次……。ありがとうございます。……もうあなたに手伝ってもらうことはないと思いますが……私達が生きているこの時代でまた会えることを祈っています。」

 「ああ。また会えるだろう。その前に俺は一つ壁を越えねばならぬようだが……。お前の言葉……心にしまっておくぞ。」

 「ええ。」

 ナオは栄次に軽くほほ笑んだ。


 「栄次、散々守られたけどあんた、過去に戻っても生き残れよ。それから俺達の事、忘れないでくれよな。」

 ムスビはどこか寂しそうに栄次に叫んだ。


 「叫ばんでも聞こえる。お前達が元気に存在していることを祈って俺は未来へ歩くぞ。さあ、もう用が済んだなら元へ戻してくれ。」

 「栄次……また会いましょう。」

 ナオはそっと目を閉じると表情の変わらない栄次に向かい、巻物を投げた。


 巻物は栄次を取り巻き、そこから電子数字が飛び出した。風が舞い、栄次の足元に五芒星ができる。巻物は栄次をまわると今度はムスビに向かって放たれた。


 「うわっ!」

 「ムスビ、栄次を連れてきた時と同じです。大人しくしていてください。」

 ナオの言葉にムスビはとりあえず動くのをやめた。

 そのうち、栄次の体が徐々に電子数字となって分解され始めた。


 「栄次……これでさよならです。今のあなたはデータの一部なので……おそらくいままであった事を忘れてしまうと思います……。ですが……っ!」

 ナオの必死の声に栄次が鋭い目をナオに向け、頷いた。

 「俺は忘れない。お前達がいた事だけは忘れずに元の時代へ戻る。」

 栄次は静かにそう言い放つと軽くほほ笑みながら消えていった。


 「じゃあな。」

 「栄次……ありがとう……お元気で。」

 ナオとムスビは電子数字が舞う空間をただずっと見つめていた。


****

 

 「では、あなた達もここから離れた方がいいでしょう。弐に入り込みすぎるとおかしくなりますよ。」

 栄次が消えてからKはどこかせつなげな顔をこちらに向け、そう言った。


 「……そうですか。わかりました。もうここにいる意味もありません。私達も元の世界へ行きます。」

 ナオは覚悟を決めた顔で大きく頷いた。


 「ではあなた達は私が元に戻します。」

 Kの少女はそう一言言うと素早く手を上げた。


 刹那、ナオとムスビの意識がぷっつりとなくなった。突然に目の前が真っ暗になり自分達は本当にデータだったのだと再認識した。

 Kの少女はナオとムスビが電子数字へと変わり消えていくのをただじっと見つめていた。


 ……こちらの世界は世界が長い年月をかけてプログラム化させた電子に近い世界。本当は向こうの世界よりもこちらの方が神も感情も何もないの。皆プログラムでデータだから……。


 ……まあ、だからこちらは常に平和なんだけど。大きな争いもないし、自然破壊もない。人間が起こしたエラー、戦争や破壊で世界に備わっていた防御システムが作動してしまった。


 そもそも異常なのだ。生物は元々、自分の命を軽く見たりしないし、生物を大量に殺傷しようなどとも思わないようにできている。食べるため、自分の命を守るためにやむを得なく生物を殺すの。人間のように大量に殺すための兵器を作る事もないし、相手を差別したりもしないし、自殺……だってしない。


 本能に逆らって生きている人間はこの世界にとって一番の失敗作かもしれない。

 ……私達Kは世界から利用されているのだ。平和を願うだけの心で世界のバランスをとるために……。


 Kの少女はそっと目を閉じると静かにその場所から消えていった。

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