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流れ時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

この日本には八百万の神がいると言われている。

その大方は人が勝手に信仰してうまれたものだ。


そうやって沢山神が生まれていてもこの国は神が飽和状態にならない。


人間にとって必要がないと判断されれば神は消えてしまうが反対に人間が祈れば新しい神が生まれる。


この世界はそれを繰り返してまわっているのだ。


冷林れいりんが……消えた。」

「なんでこんな事が……。冷林が消えたら高天原北は大変ですわ。」

「知らぬ。情報を集めよ。……高天原東の長、東のワイズ、高天原西の長、西の剣王も動いていると聞くが……。」

「わかりましたわ。ミカゲ君。」

少年と女の声は風に揺れて消えた。


******


「あー、ほんとやばいな……俺、明日には消えてんかもしれねー。」

「なに言ってんですか。僕だって消えますよ。」


若い外見の男の神様二人組が神社をバックに酒を飲んでいる。

街よりも一段高い場所に神社が立っているため、わざわざ階段を登って来る人もおらず、街灯もなく暗い。いまある唯一の光源が月であった。


「俺、なんか悲しくなってきたぜ。俺はこう見えてずっと昔から実りの神様だったのによぉ。」

「いいじゃないですか。実りの神ならば飢饉のときに助けられるじゃないですか。」


「何言ってんだよ。おたく、昨今の日本じゃ飢饉なんて言葉しらねーやついるんだぜ。

それによぉ……俺の神社の目の前にでっかいスーパーができたんだ。もう、やってられねーよな。


外じゃあ、ぷくぷく肥えたガキどもが『今日はここのレストランでハンバーグ食べたい!』とかいってやがんだぜ。

おまけにあえて食わないで痩せようとする女まで現れて……俺、どーなっちゃうんだってんだよな。」


実りの神様とやらは目に涙を浮かべ、こんちくしょー!と酒をぐびぐび飲む。


「僕なんて井戸の神様ですよ……。この地域にはもう井戸なんて使っているところなんてないし、明日にでも消えますよ。僕。」

井戸の神様とやらも実りの神様に負けじとぐびぐび酒を飲む。


「それに、今、こんな恰好で街を歩いたらコスプレとか言われるんだぜ。」

実りの神様は赤ら顔を井戸の神様に向けると服をつまんだ。


「ええ!これ、普通の和服ですけど。」


実りの神様は紅色のちゃんちゃんこを着て下は白い袴だ。髪は金色短髪で頭の上の方に狐のような耳が生えている。普通に見たら奇妙な格好だ。


対する井戸の神様はゆるゆるパーマをかけたような髪型で、美しい銀髪、群青色の着物を着ている。こちらはプロのコスラーならばいそうな気がする。


「まあ、どうせ人になんて見えねえんだけどよ。」

実りの神様は狐のような耳をピコピコ動かす。


「……それが問題なんですよね。存在に気づいてもらえないんです。」

「まったくやってられねーよな!」

二人はまたぐびぐびと酒をビンからラッパ飲みする。


と、そこへ二人の若い女が階段を駆け上がり、神社に入り込んできた。


「お?参拝か?……っておたくらかよ。」

実りの神様が一瞬顔を輝かせたが現れた女達をみてため息をついた。


「あ!どうしたのじゃ!飲めもしないくせにお酒など飲みおって!あーあー……こんなになってしもうて……。」

「うるせーな。飲まなきゃやってらんねぇんだよ。」


実りの神様は近寄ってきた女をしっしっと追い払うマネをする。


「なんかそのセリフ、疲れ切ったサラリーマンみたい。酒は憂いの玉箒ね。」

もう一人の女が何本も地面に転がっている酒ビンを見ながらため息をついた。

挿絵(By みてみん)

「歴史神と時神ですかあ……。いいですよねぇ、君達は。歴史と時間なんて人がいなくならないかぎり永遠じゃないですか……。

ほら、歴史神は人間の歴史を管理して、時神は人間の時間を管理している……仕事あるじゃないですか。」


井戸の神様はとろんとした目を女達に向ける。


「おたくのその恰好もまた、コスラーが喜びそうだぜ……。それからそのしゃべり方も今は時代遅れだぜー。」

実りの神様は歴史神をじろじろと舐めるようにみた。


「な、なんじゃ。恥ずかしいではないか……。」


歴史神は顔を赤らめると実りの神様から目を離す。恰好からすると歴史神はいうなれば奈良時代の人だ。


赤色のからぎぬ、大袖はワインレッドで小袖は金色だ。帯は黄色でそえも(袴のようなもの)は白色である。髪は奈良時代にはこだわっていないのか黒のロングヘアーという今どきの髪型。


ある意味、マニアからはうけそうな格好だ。


「そういえば時神は時代にあった格好してますよね。」

井戸の神様は放置されたビンを一つにまとめている時神に目を向ける。


「え?私の事?だって私は現代の時の神だもの。過去に生きる時神ではないのよ。だから流行の最先端をいくのよ。」

「わかったような……わからないような……。」


時神はピンク色のペプラムトップスにコバルトブルーのキュロットスカートを着込んでいて茶髪のショートヘアーだ。現代の若者という感じである。


「というか、おたくらも酒飲みにきたのか?残念だがもう酒が……。」

「お酒なぞいらぬ!なぜおぬしらはそうやっていつもやくざれるのじゃ!やくざれる前になんとか考えんのか!それだからおぬしらは……」


「あーうるせぇな。おたくはなんだ?俺のかーちゃんか?」

「あ、それ人間っぽいセリフですね!」


実りの神様が発した言葉により歴史神の眉間のしわが深くなり、それをよそに井戸の神様は実りの神様にピースをおくる。


「とにかく!お酒など飲んでいる暇はないのじゃ!」

「そういえばさっきからみなぎっていますけどどうしたんですか?」


井戸の神様はいつもよりもテンションの高い歴史神に向かい首をかしげる。


「アヤ、説明じゃ。」

歴史神は時神をつんつんとつつく。アヤというのは時神の名前らしい。


「ええ。説明が下手な歴史の神に変わって私が説明するわ。」

「下手って……へこむのぉ……。」


がっくりと肩を落としている歴史神を無視してアヤは話しだした。


「この辺界隈に新しい神様が人の手により作り出されたの。

この時代には珍しい事でしょ?


その神様がどうやらこないだこの界隈で亡くなった人間のおじいさんらしいの。

本人は本意ではなかったらしいけど近所の人達から神様のように尊敬されていたみたい。


その心が集まって彼は神様になってしまった。

彼は神様になったけれど心は成仏してもうなくなっていて外見だけあるというふうになってしまったの。


生まれたばっかりの神様。つまり精神レベルが赤ちゃんの神様が生まれてしまった。そこで彼を一人前の神様にしようとしているんだけど……。」


「外見じいさんのあかんぼをか!」

「そう。」


「やだぜ。なんでじいさんの面倒見ないといけないんだよ。わけわかんねぇよ。俺はそんなに暇じゃねぇんだ。おたくらでやりゃあいいじゃねぇかよ。」

「暇じゃろ!なんもやっておらんではないか。」


「ううあ……返す言葉がみつからねぇ……。」


アヤの申し出を軽く断った実りの神様だったが歴史神の言葉を聞いてつまった。


「あれですね……。ほら、八百万もいらない!って言っている神の集団が襲ってくるかもしれないですね。


彼らにとって僕らも含めて新しい神様は邪魔でしかありませんし。

有名どころの神達は人の信仰心とか関係なくなっちゃってますもんね。


地球において絶対的な真理!みたいになってるからいつ消えてもおかしくない僕らとは雲泥の差ですね。」


「まあ、そう自虐的になってはいかぬ。何か行動すれば道が開けるかもしれぬじゃろ?」

歴史神が井戸の神様を慰めるが酒も入っているせいか井戸の神様の表情は暗い。


「じいさんのおもりでかよ……。」

実りの神様はやる気ゼロで余っている酒ビンに手を伸ばした。


「ダメよ。これ以上飲んだら明日頭痛くなるわ。」

アヤが素早く酒ビンを奪い取る。


「いいじゃねぇか。別に。なんもしねぇんだし。」

「何言ってるの。明日はおじいさんに会いに行くのよ。」


「勝手に決めんじゃねーよ。」

アヤを睨みつけた実りの神様はお酒のせいかうとうととし始めた。


「しっかりしなさい!」

それを見たアヤは激怒し、大声で叫ぶと実りの神様の頬に平手を食らわせた。


「いってえええええ!」

殴られた反動で実りの神様はごろんとその場に倒れてしまった。スナップのきいた平手だったので相当痛かったのではと予想される。


「ふう……目、覚めた?」


「な、な、何しやがる!いってぇじゃねぇか!……たく、こええ女だよ。それからいきなり豹変すんな!おっどろいた……。ああ、目は覚めたよ。おたく、意外に狂暴なんだな。」


実りの神様は驚きつつ目をパチパチとさせていた。


「狂暴なんて失礼な男だわ。」

アヤの怒りは冷めたのか今はケロッとしている。


「わかった。わかった。じいさんに会いに行くから今日はもう帰ってくれ。」

「え?行くんですか!」


「しょうがねぇだろ。ちょっと見に行くだけだと思えば安いぜ。どうせやる事ないしな。」

「まあ……ミノさんがそういうなら……。」


井戸の神様も実りの神様に渋々承諾した。


「よし。決定じゃな。明日、迎えに行く故、今日はゆるりと休むとよいのじゃ。」

「明日、ここにまた来るわ。じゃ。」


二人はこちらが承諾するとあっけなく夜道を帰って行った。


「……なんだったんだよ……めんどくせぇな。」


「おじいさんで赤ん坊なんてちょっと想像がつかないんですけど。あ、お酒なくなっちゃったんで自分の神社に帰ります。いつまでも千福神社せんふくにいるわけにはいきませんからね。」


「ああ。酔って転ぶなよ。イドさん。まったく酔いが覚めちまったぜ。」


井戸の神様、イドさんは実りの神様、ミノさんに笑いかけるとふらふらとした足取りで階段を降りていった。


誰もいなくなった神社の真ん中でミノさんは長いため息を漏らし、ごろんと横になった。


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