明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー9
気がつくとナオは元の場所に戻っていた。
「……ナオさん!」
ふと隣でムスビの声が上がった。ナオはビクッと体を震わせると声が聞こえた方を向いた。
すぐ目の前に心配そうにこちらを見ているムスビが映った。
「む、ムスビ!」
ナオは咄嗟にムスビに抱き着いた。ムスビはなんだかわからずにただ戸惑っていた。
「うひゃあ!ナオさん、どうしたの?ていうか、どこ行ってたんだよ!突然目の前から消えちまってさ……。」
ムスビの話からするとナオは記憶を見るにあたって別の場所へ移動したようだった。
「私はこの場で歴史を見ていたのではなかったのですか?」
「いや、巻物云々の時に突然消えたんだよ!」
「そうですか……。ムスビが無事でよかったです。」
ナオの発言にムスビは困惑した顔を向けていた。
「いや、俺じゃなくてナオさんのが無事で良かったよ。突然消えるし……。なんか雰囲気が変だけど歴史で何かあったの?」
ムスビが訝しげにナオに尋ねた。ナオは何も言えなかった。
「……ま、まあ、それなりにまだわからない事も沢山ありますが……ある程度はわかりましたよ。それよりもアヤさんです。」
ナオは話を大きく変えて未だ暴れているアヤに目を向けた。アヤは頭を押さえながら世界を拒絶し、トケイはそれに応じて暴れ、栄次を傷つけている。
先程と何も変わっていない状況の中、人形であるセカイはナオのすぐ足元で無表情のままナオの様子を窺っていた。
「あなたは新しい策を思いついたのか?あなたの心は前方に向かっている。」
セカイは魔女帽子をはためかせながらナオを見上げた。
「あなた達のためではありませんがアヤさんは放っておけません。私のように……愛する方の歴史を消去してしまうようなことにはならないようにするのです。……それからアヤさんを戻すときに一つ、お願いがあります。」
ナオはセカイを見据えた。
「何?私ができる範囲ならばどうぞ。」
「私にはまだわからない事があります。神々の存続のため、感情ある生き物を守るため、平和を願った少女達のために世界改変をしたことはわかりました。なぜ、記憶を消去しなければならなかったのか……それを教えていただきたいです。」
「私達とは別に世界のシステムが世界改変への条件を提示してきた。それだけ。そのデータにはつじつま合わせをし、世界が壊れない方法で改変をするために改変時の歴史を消去する必要があるということだった。この改変以前に世界が行った改変はずっと昔、この地球に人間という生き物が現れたとき。
世界は改変を行い、存在している動物達とは全く違う生き物、人間を世界になじませた。人間のDNAを『存在している動物達』に合わせ、地球に住まわせた。人間が想像することで私達人形も神も裏で種の繁栄ができた。私達がこの世界の中にいる限り、世界を変えたいのならば世界内のデータを知る事だ。データに沿って行ったため、ここまで自然に世界が回るようになった。」
「世界は目に見えないデータという事ですか?」
ナオは栄次達の戦闘の音を聞きながら心を落ち着かせてセカイに尋ねた。
すぐに栄次を助けに行きたいが今は冷静に知りたい情報を手に入れるのが先だ。
「あなたの気持ちはよくわかる。だが今は時神アヤさんをあなたの方法で抑えてほしい。後は直接Kの元へと案内しよう。世界のシステムの名は私達日本出身者の言葉だとアマノミナヌシノ神。日本の神話だと人間はこの神を『宇宙を創った根源神』だと言っている。他の国ではまた名前が違う……このデータは実態がなく、世界各国の人々は自由に想像している。後はKが直接お話しするだろう。」
セカイは包み隠さず語った。
「Kに会えるのですね?」
「Kがあなたを呼んでいる。この件が解決したら案内する。」
ナオはセカイの言葉に深く頷くとアヤを元に戻す方向へ考えを持って行った。
……ここまで来てしまったら私が以前消した過去だけではなく……すべての過去を知りましょう。
……そしてアヤさんに私がしてしまった事をしっかり話しましょう。
「ナオさん……どうするつもりなんだい?」
ムスビの不安げな声がしたがナオは深呼吸をし、そのまま答えずに歩き出した。




