明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー7
ナオとムスビは恋仲だった。
ナオはすべてを思い出した……。
世界改変前……ナオとムスビは公園のベンチに手を繋いで座っていた。
「世界改変しても俺達は重大な記憶は失うけど後は普通みたいだよ。ナオさんの事も忘れないってさ。」
ムスビはナオの肩に手を回してほほ笑んだ。
「そうですね。これでよりよい世界が来るでしょう。平和で我々神々が人々を守り、自然は守られて笑顔の絶えない世界が来ます。私ができる事はしておきました。後はこれからの世界を人々と神々が努力しあえば良いと思います。」
「なるほどね。ナオさんも大変だなあ。」
ムスビはクスクスと楽しそうに笑っていた。
そんなムスビを見つめながらナオは幸せな気分に浸っていた。
……私はこの世界がよりよくなるためにいいことをしたのです。あの事は良くするために仕方がなかったのです。改変ならば現代神は適応できる者に変える必要があったのです。
私に罪はない。
「ムスビ、私はこれから弐の世界に行きます。これは私だけの秘密の任務なのであなたには教えられませんがすぐに戻ってきますから……。」
「うん。待っているよ。」
ナオはほほ笑むとムスビに軽くキスをし、立ち上がった。
ナオはこの時、Kの使い達から神々の歴史の消去を頼まれていた。世界改変に伴い、沢山いるKの内のあるKの世界に来るように言われた。
ナオはKの使いに連れられて弐の世界内のKの世界へと入った。
Kの世界は何もない真っ白な空間だった。その中に沢山のKの少女がいた。
Kの少女達の中の一人、水色のワンピースに身を包んだツインテールの内気な少女がナオに小さく一言言った。
「……あなたのシステムが作動しはじめました。歴史を結んでいた暦結神は一旦、消滅します。」
「え……?と、突然なんなのですか?」
少女の言葉にナオは目を見開いた。
「消滅ってどういう事ですか?ムスビがどうして?」
ナオは半分冗談だと思い、苦笑いをしていた。
「あなたが時神の歴史改変をしたからです。暦結神は神々の歴史を結んでいる神です。あなたが改変した偽の歴史により暦結神は存在が危うくなっております。データにエラーが出てしまったようです。でも大丈夫です。彼は改変後、新しく生まれ変わります。」
ナオには少女の言葉がほとんど聞こえてこなかった。
……新しく……生まれ変わる?
そうしたら私の事は忘れてしまうのですか……?
少女が冗談で言ったわけではないと知るとナオの顔がさっと青くなった。
「残念ですがあなたの事はきれいさっぱりなくなるでしょう。」
「そんな……なんとかならないのですか?」
ナオは必死に少女に詰め寄った。しかし、少女は首を横に振ったままだった。
「……そうですか……。私が時神を改変してしまったからムスビが……消えてしまう……のですか……。私は取り返しのつかない事をしてしまったのですね……。」
ナオはなんとも言えない顔で下を向いた。
「あなたの判断です。私達は否定しません。肯定もしません。」
少女はまっすぐにナオを見つめていた。
……ムスビが消えてしまう……私を忘れてしまう……でも……私はすべてを覚えている……。世界改変部分だけ記憶が消去される……。ムスビは違う神に生まれ変わってしまうかもしれない……。
ナオは動揺していた。
動揺していたが故にナオは責任逃れとすべてを忘れてしまいたいと願った。
「……では世界改変を始めましょう。三貴神を呼びます。」
少女は静かに辺りを見回してそう言った。
「ま、待ってください!」
少女が話を先に進めようとした刹那、ナオが慌てて声を上げた。
「……どうしましたか?」
「ムスビが私を忘れてしまうなんて悲しすぎます。その事象を私が覚えているなんてもっとつらいです。……私もすべて忘れます。なかったことにしたいです!」
ナオはすべての忘却を望んだ。それに少女は特に否定も肯定もしなかったがナオの意見をすぐに受け入れた。
「わかりました。ではご自分で消去なされてください。」
ただ一言だけそう言った。
そこから先の歴史は曖昧で映像も鮮明ではなかった。三貴神のような影が映り、何か言葉を交わしているナオの姿……。剣王やワイズも現れ、ナオと短く言葉を交わしていく。
その後、映像は大きく歪み、徐々に暗くなり見えなくなった。そして先程の白い空間に戻り、モンペ姿の少女の影がゆらりと現れた。空間は元の空間に戻ったようだがアヤ達がいないところを見るとまた別なのかもしれない。
以前のナオはここで歴史を消去したようだ。その後、ナオは自室の布団の上で目覚め、何か変な夢を見たとぼんやりと流し、ムスビの事も忘れ、いつもの一日をスタートさせたのだった。
その日はなぜか見知らぬ男が隣の布団で眠っていてとても驚いた。彼もとても驚いていた。彼は果たす役割と名前以外何も覚えていなかった。
ナオはたった今生まれたばかりの神だと思い、助ける面で歴史書店に住まわせたのだ。
当時は不思議な事もあるものだと思っただけだった。人に願われれば神は誕生する。彼はたまたまナオの自室に誕生してしまっただけだと。
しかし、それはこの記憶を見ると納得する。彼、暦結神ムスビはナオと恋仲であり、いままで一緒に暮らしていた。隣に眠っているのは当然の事で彼は全く見ず知らずの神ではなかったのだ。愛していたナオの大切な男神だったのだ。
……ムスビは私の……大切な想い神だった……。私はもう……ムスビを想っていた気持ちはない……。愛していた……大好きだったはず……なのに……。
……知らない方がいい記憶……。
今を生きる方のナオは先程Kの少女から言われた事を思いだした。
皮肉だと思った。自分は思い出そうと……記憶を消されるのはおかしいのではないかと歴史の改変は異常なのではないかとそう思っていたのに以前の自分がそれを望んでいたのだ。
すべて自分が招いたことですべて自分が納得いくようにしてきて、さらに不満があるというのか。
ナオはなんだか恥ずかしくもあり、悲しくもなった。
……私はいつも突発的だ。
突発的で愚かだ。
結局、責任逃れがしたかったのと思い通りにいかなかったからすべてを忘れて逃げただけ。
……こんな歴史……知らなければ良かった……。
ナオは勝手にあふれてくる涙を止めることができなかった。
これは改変前のナオの感情なのか自分でもよくわからない。今の自分は何も知らない。
しかし、いくら消去したとしても奥底に残っていた感情だけは消せなかった。
よくわからない嫌悪感と後悔。
おそらく以前のナオが持っていた感情なのだろう。




