明かし時…最終話リグレット・エンド・ヒストリー3
ナオ達はアヤとミノさんを追うしろきちに黙ってついていった。というよりも勝手について行かされた。
弐の世界を自由に動けないナオ達はある意味仕方がない。
しろきちがどう進んだかわからないが遠くの方で浮遊しながら戸惑っているミノさんを見つけた。
ネガフィルムのような沢山の世界が帯状に連なっていたがしろきちはナオ達を連れて何の障害もなくミノさんの元へとたどり着いた。
「あの……そこの……方……。」
しろきちは怯えるようにミノさんにそっと声をかけた。
「アヤが……アヤがどっかの世界に入り込んじまった!俺どうしよう!?」
ミノさんは顔面蒼白でしろきちに掴みかかった。
しろきちは「ひぃ!」と怯えた声を上げ、いそいそとナオの影に隠れる。
ナオはしろきちにため息をつきながらミノさんを落ち着かせようと口を開いた。
「あの……このしろきちさんがいればアヤさんが入り込んだ世界に行く事ができますよ。」
「本当か!じゃあ、いますぐ行こう!おたくらも行くだろ?」
ミノさんは必死な顔でナオ達に詰め寄った。ナオも若干顔を引きつらせながら何度もうなずいた。
「ミノさんはアヤに惚れているな……あれは。」
ムスビはミノさんに聞こえないように小さくほほ笑んだ後、顔を引き締めた。
「しろきちさん、アヤさんが入り込んでしまった世界に行く事ができますね?」
ナオはほぼ強制的な言動でしろきちに尋ねた。しろきちは頭を縦に振った。
「は、はい……。行けますが……えーと……その彼女は自分の世界に入り込んで閉じこもっているようですよ……。」
「閉じこもっている……世界に入る事はできるのですか?」
ナオの質問にしろきちは顔を曇らせた。
「む、難しいと思います……。あなた達があの方とどこまで親密なのかわからないので……え、えっと……親密ならばその方の心は抵抗なく入れてくれると思うのですが……。」
「親密ではないと心には入れない……か。」
しろきちの言葉にムスビは考えるようにつぶやいた。
「そ、それは……そうですよ……。僕だっておいしいひまわりの種を沢山食べている夢に誰か介入してきたらビビりますし……。」
しろきちは大きく頷いていた。
「……俺は時神だが……それも関係ないのか?」
栄次が頷いているしろきちを呆れた目で見つめながら尋ねた。
「うーん……ま、とりあえず……行ってみます?」
「飽きたのだな……。」
しろきちは考える事が面倒くさくなったようだ。先程からそわそわしている。
「まあ、行ってみないとわかりませんし……。」
ナオは不安が残っていたがアヤの世界の前まで行ってみる事にした。
一同はしろきちに連れられてアヤの世界を目指し進んだ。ネガフィルムのように流れる世界を何の抵抗もなくしろきちは進む。しかし、ゆっくり歩くように動いているのにどうやって進んでいるのかわからない。
ナオ達はしろきちにすべてを託しつつ、緊張した面持ちでついていった。
しばらく進んだしろきちはピタリと足を止めた。
「この世界……です。」
しろきちはネガフィルムの一部でなんの変哲もない世界を指差していた。
「……見た感じは他の世界と区別つかないな……。あんたらは一体どこで判断してるの?」
ムスビが再び顔色悪くしろきちに疑問をぶつけた。
「……よくわかりませんが……わかるんです。」
しろきちはまた曖昧に流し、首を傾げた。
「それで……入れそうですか?」
ナオはアヤの世界という部分を眺めながらしろきちに尋ねた。
「……入れそうですが……な、なんか……どす黒い何かが……。」
「?」
しろきちの言葉にナオ達が今度は首を傾げた。
「ぼ、僕は……ちょっと入らないでもいいですか?」
「ええ!?あんたが入ってくれないと俺達どうなるの?」
ムスビが必死にしろきちの肩を掴んだ。
「うわあっ……!あ、あの……大丈夫……です。中にセカイがいる……みたいなので……。」
「セカイ?」
しろきちの発言でナオ達は眉をひそめた。
先程まで一緒にいた手のひらサイズの人形の女の子を思い出した。
「なんか嫌な予感がしますね……。」
ナオは何かを考えるそぶりをするとやがて頷いた。
「行きましょう。しろきちさんはまた呼んだときにいてくれればいいですから。」
「ちょっ!ナオさん!」
ナオの言葉にムスビが真っ先に反応した。そのムスビの肩を栄次がポンポンと叩きつつ、「ムスビ、いつもの事だろう……。」と半ばあきらめの言葉をかけていた。
「じゃあ……ぼ、僕は待っていまーす!」
しろきちはナオ達の背中を突然押し、アヤの世界に放り込むとさっさとどこかへ去って行った。
「おーい!」
ムスビの叫び声とナオと栄次のため息が同時に静かな世界に響いた。




