明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー16
「……?」
ナオ達は一斉にドアの方を向いた。
そして入ってきた者達に驚いた。
「あ、アヤさんとミノさん!?」
「あれ?ナオじゃないの……。なんでここに……。」
「アヤさんこそ……。」
アヤも驚いていたがナオはさらに驚いた。
アヤもKについて調べていた。ナオはこの出会いが偶然でない事を感じていた。
ナオが言葉を失っている中、草姫の呑気な声が聞こえた。
「あら~?そこの狐耳さんが持っているのは~……。」
草姫がそんなことを言ったのでナオ達もなんとなくミノさんの方を見た。
ミノさんは植木鉢に入った盆栽のような松を手に持っていた。
「え~と……ああ、これは気がついたらうちの神社に生えてきやがってた松で……えーと小さかったから引っこ抜いて植木鉢に移して盆栽好きな天記神に売ろうかなと……。弐の世界に用があったんでついでに持ってきたっていうかな~……まあ、そんな感じだ。」
「弐の世界の事は言わないでって言ったでしょ……。」
ミノさんにアヤが小声で注意していた。
「まあ~どうでもいいけど~……その松~花姫の生まれ変わりだわね~。神力感じるでしょ~?」
草姫が動揺しているミノさんから松を奪い取り、まじまじと眺める。
「た、たしかに……花姫の神力を感じるが……生まれ変わりの樹霊という事か。」
イソタケル神も松に近寄り眺めた。
「どうして今頃になってキツネさんの神社に……?」
ヒエンも松に近づくと愛おしそうに葉っぱを触った。
「辻褄合わせよ。」
ふと天記神が口を挟んできた。
「辻褄合わせ?」
「あんまり向こうの世界(壱の世界)の事は言いたくはないのだけれど……向こうの世界では草姫ちゃんとヒエンちゃんとタケル様が花姫を生まれ変わらせてしまったのよ。松の木としてね。その反動でこちらの世界にも歴史の辻褄合わせとして松が出現したの。ちゃんとこの松を守っていけば三百年後くらいには神霊になれるでしょう。そしてまた別の神として生まれ変わるわ。……これは新しい神話となり後世に語り継がれる事でしょう。まあ、この辺は一未来の話ですけどね。」
天記神の発言にナオは壱の世界の事について少し興味がわいた。
……壱の世界は色々な事が起こっている……向こうの世界の私は……何をしていたのだろうか……。
「そうか。では、この松は我々が預かるしかないな……。僕がもらってもいいか?今度は僕が守ってみせる。」
ナオが物思いにふけっているとイソタケル神がどことなく明るい顔でミノさん達を見ていた。
「おお?おたくがこの松を貰ってくれるのか?助かるぜ。これ、絶対に育ちそうにないところに生えていたんで心配だったんだよ。……ところで……おたく、どっかで会ったか?」
神格がミノさんよりもはるかに高いイソタケル神にミノさんは怯えながら尋ねた。
「……ああ。会っているが気にすることはない。」
イソタケル神は一言だけ言うと松を受け取って図書館外へと歩き始めた。
「ど、どこ行くんだ?」
ミノさんがさらにイソタケル神の背中に言葉をかける。
「……この松を埋め立て地があった付近に植えて大切に管理して育てるつもりだ。キツネ神……すまなかったな。」
イソタケル神は振り返らずにそう言うと図書館のドアを開けて外へと去って行った。
「な、なんだったんだ?」
ミノさんはイソタケル神があやまった理由がわからず、戸惑いながらヒエンの顔を見た。
「……キツネ神さんが歴史書を見た時、わかる事ですよ。」
ヒエンはそう言ってミノさんに笑いかけた。
「ああ……俺は歴史書が大嫌いなんだ。過去を振り返る気はねぇから……。」
「そうですか。それは残念です。……ではわたくしもそろそろお兄様を追いますね。……歴史神の方々、ありがとうございました。」
ヒエンはミノさんに優しく答えるとナオ達に頭をそっと下げておしとやかに図書館から出て行った。ヒエンもイソタケル神もミノさんに昔の事を押し付けるつもりはなかった。もうこのまま彼が知らないのならばそれでいいと思っていたのだった。
「おいおい……なんだよ。」
「キツネ神ちゃ~ん。花姫から生まれたあなたは私の甥みたいなものね~。じゃ、私も行くわ~調べたかったことは解決したし~疲れちゃったの~。シオンとトルコギキョウの間~花言葉はさよなら~。」
草姫は颯爽と軽やかに図書館から去って行った。
「ええ!?甥ってなんだ!?あああ!ちょっと!」
ミノさんは戸惑いと不安で叫んだが草姫はあっという間に消えてしまった。
「……まったくわからん。」
突然の事にミノさんは茫然とその場にうなだれていた。
「……なんだかわからないけど松の件は解決したわね。じゃあ、もうここには用はないわ。行くわよ。ミノ。」
アヤはすぐに頭を切り替えると悶々としているミノさんを引っ張り、嵐のように図書館を去って行った。
「……。」
残されたナオ達は思考の余地もなく、ただその場に立ち尽くしていた。
「……さっさと行ってしまいましたわね……。」
天記神は頭を抱えた状態のまま椅子に座っていた。
「……すぐに行動をするタイプなのでしょうか……彼らは……。」
ナオは目を丸くしたまま、ムスビと栄次を見つめた。
「な、なんだかそそっかしい神が多いみたいだね。解決したらそれでいいみたいな……。」
ムスビも同じく茫然としており、首を傾げた状態のまま固まっていた。
「急激に静かになったな。」
栄次はため息交じりにつぶやいていた。
図書館内はあっという間に誰もいなくなり、残っているのはナオ、栄次、ムスビと天記神だけだった。




