明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー15
目の前が真っ白だった。ナオはまた真っ白な空間に立っていた。
……ここは……前の……。
ふと目の前にイソタケル神と紫色の髪の男……スサノオ尊が現れた。
……スサノオ尊……
「お父上、最後に聞きますが……本当に行ってしまうのですか?」
「……ああ。わりぃな。」
イソタケル神の不安げな声にスサノオ尊は楽観的に笑いながら言った。
「ふーん。貴方も行くんだ。」
ふと、女の子の声が聞こえた。現れたのはこの間も歴史に登場したツインテールの幼女、Kの少女だ。
「ああ、あんたがKの一部か。んで?向こうにはあんたの一部がいるのか?」
スサノオ尊はKの少女に友好的に話しかけていた。
「……いるよ。伍の世界にもKはいる……。いっぱいいる……。」
少女は小さく表情無くつぶやいた。
「そっか。じゃあ、向こうで会えるかもな。じゃあ、後の改変はそっちに任せるぜ。」
スサノオ尊は少女に軽くほほ笑んだ。
「……半分は頑張るよ。もう半分は……。」
少女は後ろを振り返った。イソタケル神もスサノオ尊も少女にならって振り返った。
振り返った先にはナオがいた。
……私……また……私が……。
「弐の世界に入ったのは初めてですが仕事はしっかりやります。お任せください。」
ナオは勝手に話していた。口が勝手に動いた。
「まあ、弐の世界にここまで深く入り込んだ一般神はあんたが最初だろうなあ。じゃ、頼むぜ。」
「お任せください。」
スサノオ尊に真面目に答えるナオ。
その後、スサノオ尊が「ああ、忘れてた。」と再び口を開いた。
「……『自分の歴史』もちゃんと消しとけよ。これはお前のためだからな。」
スサノオ尊は鋭い瞳をこちらに向け、忠告するように言った。
記憶はそこまでだった。スサノオ尊の切なげな瞳を最後に残し、ナオの前で記憶が弾けた。ナオが最後に感じた感情は切なさと悲しみだった。
……彼を……ムスビを……忘れてしまう……。
「うっ……。」
「ナオさん!大丈夫?」
現実か幻かわからないナオをムスビが強制的に現実に戻した。
「は、はい……大丈夫です……。」
「何を見たんだ?なんだか今回は俺達が歴史に入り込めなかった!」
ムスビが不安げにナオに叫んだ。
「え?一緒に見たのではないのですか?」
「いや……今回はナオだけが見たようだ。」
栄次が静かにナオに答えた。
「イソタケル神も見えましたか?」
「いや……僕は全くわからない。」
ナオがイソタケル神に尋ねるとイソタケル神は首を横に振った。
……今回は私だけが見た……歴史……。
……この歴史はダメだ……見てはいけない記憶だ……思い出してはいけない何かを……思い出してしまいそう……。
ナオは無意識に震えていた。
「ナオさん……もう探るのはやめようか。」
ムスビが優しくそう声をかけた。
「いえ……ここまで来てしまったら最後まで調べます。」
「強情だなあ。ナオさんは……。」
「場所は弐の世界の深部。スサノオ尊達が消えたのも、Kの少女が出てきたのもすべて弐の世界の深部です。そこに……伍の世界にいける何かがあるようです。こうなったらKに会いに行きます。」
ナオは再び瞳に強い光を宿し、はっきりと宣言した。
「Kに会うだって?無理だろ……それは……。」
「Kとはなんだ?」
イソタケル神がムスビが話した単語を拾い尋ねた。それを天記神が柔らかく止めた。
「タケル様、Kの事は気にしなくても良いです。弐の世界にいるようですがどうせ会いに行けませんから。」
「そ、そうか。では……もうよいのか?」
イソタケル神がナオに頼み事が終わったのか確認を取った。
「あ、ええ。もう大丈夫です。手がかりは得ました。冷林の封印は後でちゃんと解いてくださいね。」
ナオはそう答えて頭をそっと下げた。
「ナオさん、それと草姫さん、栄次さん、ムスビさん。兄を探してくださいましてありがとうございました。わたくしが責任をもって兄に封印を解かせます。大丈夫です。」
横にいたヒエンがナオ達に感謝の言葉を述べながらしっかりと言った。
なんとなく話がまとまりそうだった時、図書館のドアが控えめに開いた。




