明かし時…5プラント・ガーデン・メモリー3
ナオ達は近くにある人間が利用する図書館へと向かった。図書館はナオの歴史書店から歩いて十五分くらいの所にある。そこそこ都会にあるこの図書館は駅前なので住宅街から駅前にあるショッピングモールが並ぶ道を歩いていた。
「え?人間の図書館へ行くのですか?」
ヒエンが図書館が見えてきた所で疑問の声を上げた。
「ええ。神々の図書館は人間が利用する図書館から行く事ができます。」
「いやー、しかし、ここを知らない神がいるとは驚きだね。」
ヒエンに説明するナオにムスビは図書館を眺めながら半分呆れた声を上げた。
「知らない事は悪い事ではございません。ヒエンさんはいままで神々の図書館を利用する必要がなかっただけです。必要とした時に使ってみればいいのです。」
ナオはヒエンを慰めた。
「はい。自分の無知を恥じることにします。……では、その神々の図書館ではわたくしの父であるスサノオの記述もあるのでしょうか?」
ヒエンの言葉にナオは眉を寄せて首を傾げた。
「……それは……昔の逸話ならばあるのかもしれません。最近の動向などはおそらく消えていると思いますが。」
ナオ達はヒエンを連れて自動ドアから図書館内へ入った。レンガ壁の落ち着く図書館だった。
図書館は平日の昼間という事もあり人はほとんどいなかった。
受付の一人がこちらに気がつき、素早くやってきた。
「いつもご利用ありがとうございます。一番奥の右の棚でございます。」
「え?」
受付の人の言葉にヒエンは驚いて目を見開いた。
「はい。ありがとうございます。では。」
ナオはそのおかしさを普通の事であるように流し、図書館内を歩き出した。
「ちょ、ちょっとお待ちください!ナオさん、あの方、人間ですがわたくし達が見えて……」
「ええ。あれは心配いりません。いないところもありますがあれは天記神……えー、図書館の館長ですね、それの術で動く人形です。霊的なものなのでその人形は人間の目には映りません。幻に近いです。触れもしませんので。」
「そ、そうなのですか。」
ナオの言葉にヒエンは戸惑いながら答えた。
「では向かいましょう。」
ナオはヒエンを促し、ムスビ達に目を向けると歩き出した。
幻の案内人の通り、ナオは一番右側の奥まった棚の方へ向かった。この辺に少し人がいたがその人々は奥の棚の方面には行かない。
それよりもまず、その棚が見えていないようだった。
「ここから先、この一列飛び出したこの空間は人間の目には映らない霊的空間です。人間の目には壁に見えている所です。」
ヒエンが不思議そうな顔をしていたのでナオが素早く答えてあげた。
「そ、そうなのですか……。ですが、ここは……この棚は本が一冊しか置いてありませんよ?」
ヒエンが怯えのようなものを見せていたのでムスビが得意げに笑った。
「まあ、見てればわかるよ。な!」
ムスビは横を悠然と歩いていた栄次の肩を軽く叩いた。
「すまん、実は俺も神々の図書館とやらは知らん。」
「げっ……!お前も知らなかったのかよ!堂々としていたからわからなかったよ。だから黙々とついてきただけだったのか。まあ、あんたはいつも黙々としているけど。」
ムスビはやれやれとため息をつくとサッと霊的空間内に足を踏み入れた。
「ヒエンさん、栄次、ここから先、無茶をしなければ無事に図書館へ着けます。」
「無茶とは?」
ナオの言葉に栄次が問いかけた。
「あそこは弐の世界と繋がっています。夢幻の世界……弐。弐に迷い込んだら宇宙の中に投げ出されるのと同じことだと思ってください。私達が行くのはその弐の世界の入り口、門の部分です。その門から先へ行ってしまった場合、現世を生きる者、現世に存在する神は干渉できません。どうなっているか神々にもわからないのです。ですから、絶対に図書館以外の場所には行こうと思わないでください。」
「わかった。」
「は、はい。」
ナオの注意に栄次とヒエンは顔色を悪くして答えた。
それから手招いているムスビの元へとナオは歩き出した。栄次とヒエンもナオを追った。
ムスビは本棚に一冊だけあった真っ白な本を掴むと振りながらナオ達にほほ笑んだ。
「はい、これこれ!」
「ムスビ、あんまり乱暴に扱わないでください。」
ナオはムスビの手から白い本を奪い取った。その白い本には『天記神』とだけ書いてあった。
「てんきじん?その本をどうするのですか?」
「これは『あまのしるしのかみ』と読みます。この本を開くと神々の図書館へ飛べます。」
ヒエンの質問にナオはまた丁寧に答えた。
「なるほど……わたくし達を電子化してこの中に取り込むのですね。」
「ええ。仕組みに関しましてはおそらくそうなのでしょう。そして……この本の内部が弐の世界の入り口と繋がるわけです。」
ヒエンの回答にナオは頷いて答えた。
「では、開きます。」
ナオは一同を見回すとそっと白い本を開いた。
刹那、目の前が真っ白に染まった。




