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明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー17

 「終わったのですか?」

 ナオが警戒をしたままイドさんに尋ねた。


 「……ええ。僕が勝ったようです。と言っても皆さんがいなければ負けていました。……ありがとうございます。」

 イドさんはどこか納得のいっていない顔をしていた。


 「……龍雷、お前はこれから神力が上がってくるはずだ。そうなった時にこの竜宮の手助けをしてくれ。……今はその心構えだけでいい。もう遊園地なるものをやる必要もない。竜宮は元の竜宮に戻るだろう。」

 天津の言葉にイドさんは複雑な顔でほほ笑んだ。


 「ええ。……天津……、封印がなくなってからのお願いで大変心苦しいのですが、テーマパーク竜宮を続けてほしいんです。」

 イドさんは言いにくそうに天津に言葉を発した。


 「お前からあれを続けてくれと言われるとは思わなかった。」

 「……娘がこのテーマパークをお気に入りにしているみたいで……僕もここで安心して娘を見られるかなと……。」

 イドさんは口ごもりながら天津を見据えた。


 「……そうか。ならばまだ私はここのオーナーでいよう。急にやめるのも不審に思われるからな。」

 ほほ笑んだ天津にイドさんは深く頭を下げた。

 そのやり取りを見ながらナオは、遠くをこそこそと飛ぶ怪しい龍を発見していた。


 「ナオさん?」

 ムスビがナオの訝しげな表情に気がつき、声をかけた。


 「ムスビ、栄次……あれを……。」

 ナオはムスビと栄次をつつくと、天津とは反対側にいる不審な龍を指差した。


 「……あの龍に時神のアヤと狐耳と甲羅を背負った女……カメか……? がいるぞ。」

 栄次は目を凝らしながらナオにささやいた。


 「よ、よくみえましたね……。アヤさんにミノさんにカメですか……。」


 「あの龍は竜宮のツアーコンダクターをやっている龍神で流河龍神りゅうかりゅうのかみだよ。皆、リュウとかリュウさんとか呼んでいる。あのツアコン、何やってんだよ?」

 龍を見ながらムスビは首を傾げた。


 アヤ達を乗せた龍は天上界にぽつんと浮いている真っ赤な鳥居を潜り、竜宮から姿を消した。


 「……あの浮いている不気味な鳥居から現世へと行けるみたいですね……。……はっ!あのカメはもしかすると現世に行きたがっていたカメでは……?あのカメは無事だったんですね……。それでアヤさんがなぜいるのかわかりませんがあのカメを現世に連れて行ってあげたと……。」

 ナオが栄次を見上げる。


 「その推測は当たっていそうだな。」

 栄次は軽く頷いたがムスビはよくわからず首を傾げていた。


 ****

 

 天津は先程のロビーまでナオ達を連れて戻ってきた。

 「おい!大丈夫だったか?」

 「良かった、生きてやがる。」

 戻るなりロビーで待機していた蛭子と飛龍がナオ達の元へと走ってきた。


 「勝ったのか?」

 蛭子の問いかけにイドさんは小さく頷いた。


 「みなさんのおかげであいつを倒せました。蛭子……先程の非礼を許してください。僕はもっと修行をしなければならないようだ。」

 イドさんは頭を抱えてため息交じりに答えた。


 「……蛭子様、大切な天叢雲剣をお貸しいただきありがとうございました。」

 天津は蛭子に天叢雲剣を手渡した。蛭子は頷くと剣をいともたやすく持ち上げ、光の粒にして消した。


 「そういえば……オーナーでさえ持つのが辛そうだった天叢雲剣を蛭子さんは振り回していたんだな……。スサノオさん達の力がどんなだったのか想像もできないぞ。」

 ムスビは小さな声でナオに耳打ちした。


 「……確かにそうですね。一度、会ってみたくもなります。」

 ナオもムスビに小さくささやき返した。


 「さて……一応一件落着はしたが……歴史神、特に霊史直神れいしなおのかみには罪状がある。これに関しては見過ごしてやれぬ故、助けられたことは感謝しているが捕縛させていただく。」


 「うっ……。」

 穏やかな雰囲気から一転、天津は鋭い眼力をナオに向けた。ナオは冷汗を浮かばせ、身の危険を感じた。


 「やはり……こうなるか。」

 栄次が刀に手を伸ばした。


 「栄次!ナオさん!走れ!」

 突然ムスビが割れた窓ガラスの方へ走った。栄次もナオもなんだかわからずにとりあえずムスビについて走り出した。


 「待てっ!」

 天津が強い神力を発する。


 「っぐ……。」

 ナオ達の体が急に重たくなった。


 「何が何でも走れ!窓から飛び降りろ!」

 「窓からっ!?」


 ムスビのトンチンカンな言葉にナオも栄次も驚いた。だがこのまま止まっていても天津に捕まるだけだ。ナオ達は決死の覚悟で割れた窓から外へと飛び出した。目を瞑ったがすぐに何かの上に着地した。


 「……?」

 ナオと栄次は目を見開いた。赤く大きな龍が風を巻き上げながら勢いよく上昇した。


 「えっ?」

 ナオ達は直立に上昇する赤い龍の上にしがみつくように乗っていた。


 「飛龍!何をしている!」

 もうかなり下の方にある割れた窓ガラスのロビーから天津が顔を出し、赤い龍に鋭く叫んだ。


 「オーナー、あたしは今回こいつらの味方をするぜ。ふふっ。後でとびっきり痛いお仕置きをしてくれよ!楽しみにしているぜ!じゃなっ!」

 紅い龍になった飛龍は楽観的に笑うとナオ達を連れて優雅に飛んでいった。


 「……天津、貴方は部下の不始末に一体いつも何をしているんだ……?」

 茫然とした顔をしている天津の横に蛭子が呆れた顔を出し、ため息交じりに尋ねた。


 「……何もしていません……。飛龍は私にはいつもああなのです。」

 天津は頭を抱えて蛭子に答えた。


 「なんであれ部下に好かれるのは良い事だな。ところであの歴史神達は罪神なのか?」

 「ええ……まあ。」

 蛭子の質問に天津は曖昧に頷いた。


 「……ふむ……ならば次回の権力者会議は私が出よう。すべてお前に任せて私はまったく出ていなかったからな。」


 「蛭子様は七福神の会合もあるではありませんか。情報はこちらがいち早くあなたに流していますので出席する必要はないかと。」

 「お前は竜宮の立て直しがあるだろう。私が出る。」

 蛭子は羽織を翻すと天津に背を向け去って行った。


 「ありがとうございます。……よろしくお願いします。」

 天津は蛭子に深く頭を下げた。

 隣でイドさんも無言で頭を下げていた。


 ……僕とあいつとスサノオ尊の記憶……はっきりと思い出させられました。概念になったとされるスサノオ尊はついこの間までこの世界に……いたと……。


 イドさんは窓の外の青空を静かに見上げた。



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