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明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー16

 「ははは!天叢雲剣を持っていてその程度かぁ?」

 制御室へ続くロビーでは龍水天海が下品に笑いながら疲弊し始めた蛭子を襲っていた。


 知らぬ間に蛭子は防戦一方になっていた。


 「はあ……はあ……けっこう疲れるな……。」

 蛭子は肩で息をしながら龍水天海の攻撃を危なげにかわしていた。

 風と衝撃波が強すぎてムスビと飛龍は近づく事さえもできなかった。


 「お、おい……蛭子さんが押されているよ!」

 「……だから言っただろ。」

 焦っているムスビに飛龍は平然と答えた。


 「このままだと……。」

 「負けるな。」

 飛龍がそう言い放ち、ムスビの顔が青くなった時、声が聞こえた。


 「ムスビ!大丈夫ですか!?」

 ムスビはその声に顔を輝かせて叫んだ。


 「ナオさん!死ぬかと思ったよ!」

 ムスビの後ろから現れたのはナオと天津達だった。


 「突然ですけど天津様と私達でイドさんの手助けをすることになりました。協力してください!」

 ナオは緑の髪の青年、天津に手のひらを向けた。ムスビは突然の事に目を丸くしていた。


 「えっ?ええ?ナオさんの隣にいるのは天津彦根神!?協力ってホント、突然だな……。って、本当に龍雷もいるのか!」

 ムスビは後から階段を上ってきたイドさんにも驚きの声を上げた。


 その声をよそに天津は蛭子に声をかけていた。


 「蛭子様、先程まではありがとうございました。無事、戻って来る事ができました。」

 「天津か。」

 蛭子は隙を見て天津の方へと走ってきた。


 「ぎゃははは!」

 龍水天海は狂気的に笑うと天津を見つけ、天津に向かって鉄砲玉の如く飛び込んできた。


 「やはり邪龍のままか。」

 天津はそうつぶやくと勢いよく神力を解放し触れてもいないのに龍水天海を弾き飛ばした。


 「なっ……すごい神力……。」

 ナオとムスビは開いた口が塞がらないほどに驚き、恐怖した。天津のまわりを風だけではなく強く明るい光も渦巻いた。


 その桁違いの神力にいままで狂気的な笑みしか浮かべていなかった龍水天海が初めて焦りの表情を見せた。


 「……っち。」

 龍水天海は顔を曇らせ舌打ちをすると体を変形させて大きな龍の姿へと形を変えた。そしてそのままロビー横の大きな窓をぶち壊して外へと逃げて行った。


 「にっ……逃げた!」

 ムスビは窓が割れる音を聞くとともに散らばるガラスを茫然と見つめていた。


 「オーナーはやっぱすげぇわ。ああ、惚れちまう。」

 飛龍は天津を尊敬のまなざしで見つめ、甘い声でつぶやいていた。


 「蛭子様、その天叢雲剣を貸して頂けないでしょうか。」

 天津は蛭子に向き合い、天叢雲剣を見つめた。


 「……何がしたいのかはわからないがもう貴方が頼りだ。貴方はアマテラスの第三子。私達の波形ならば持てるだろう。使うといい。」

 蛭子は天叢雲剣を天津に手渡した。天津は剣を受け取ったが顔を曇らせた。


 「これは……恐ろしいほどの力を持っている剣だ……。私でも持っているのが辛い……。」

 天津は天叢雲剣を重そうに持ちながら自分の神力を天叢雲剣に送った。


 天叢雲剣は天津の神力でコーティングされ少し持つのが楽になった。それをイドさんへ渡す。


 「……っ?」

 イドさんは突然手渡された天叢雲剣に困惑した表情を浮かべた。


 「これで辛うじて龍雷にも持てるはずだ。」

 「これで龍水天海を討てと?あなたの神力で守られていても指の一本も動かせません……。」

 イドさんは天叢雲剣を持ち上げようとしたが今、手に持っている位置から上には上がらなかった。


 「……ここからはお前が考えるのだ。」

 「……わかりました。」

 天津の言葉にイドさんは戸惑っていたが顔を引き締め、静かに言った。


****


 龍水天海は龍の姿で竜宮城外の海とその下に広がる空の間、天上界を浮遊していた。

 天上界は普通の青空と何も変わらない。ただ、その青空の上が海というちょっと変わった空間なだけである。


 「龍水天海……ここであなたを倒します。」

 龍水天海はすぐに後ろを振り返った。


 少し離れた場所にイドさんがいた。イドさんは龍の姿になった天津の上に立ち、水の槍を弓に変えたものと天叢雲剣を持っていた。

 その後ろにナオとムスビと栄次が乗っていた。


 「グルォオオ!」

 龍水天海はイドさんを見つけると地響きが起こりそうな咆哮を上げ、突進してきた。


 「来ました!歴史神達、過去神、お願いします!」

 イドさんが叫び、ナオ達は動き出した。


 ……まず私が天叢雲剣の歴史が書かれている巻物を取り出します。


 ナオが天叢雲剣の歴史と巻物を取り出した。


 「栄次!」

 そしてナオは栄次の名を呼んだ。


 「……。」

 栄次のまわりを天叢雲剣に関する巻物が回りだした。


 ……これで俺がこの歴史を過去に戻す……。とは言っても俺が何かできるわけではなく、巻物が俺のまわりを回っているだけだが……。


 巻物が栄次のまわりを回った時、イドさんが持っている天叢雲剣が過去の……力のない状態の剣に戻り、非常に軽くなった。


 龍水天海はもうすぐ近くに来ている。イドさんはその軽くなった天叢雲剣を弓にセットした。


 「ここで終わらせます……。」

 イドさんは自身の神力を天叢雲剣にありったけ込め、弓を放った。

 天叢雲剣は風を切って鋭く龍水天海に飛んでいった。


 「グルォオ!天叢雲剣の神力を失くしてどうする?こんなの簡単に弾けるぞぉ!ぎゃははは!」

 龍水天海は余裕を取り戻し、再び狂気的に笑った。そして剣を避けずに真っ向からぶつかってきた。


 「ムスビ。」

 ナオが静かにムスビに目配せをした。


 「ああ。」

 ムスビは小さく頷くと手を前にかざして天叢雲剣の歴史を結び、終わらせた。

 過去に戻っていた天叢雲剣がムスビにより歴史を結ばれ元の神力に戻った。イドさんの力もプラスされ天叢雲剣はさらに神々しく光り始めた。


 「なにっ!突然元にっ……」

 龍水天海はまぶしいほどの光を放ち始めた剣に怯え避けようとしたが遅く、喉元から天叢雲剣に引き裂かれた。天上界が龍水天海の血で赤く染まっていく。龍水天海は龍の姿から人型へと戻り、落ちていった。


 ―人々の期待に応えられず、狂った龍神の末路がこれかよ……。拙者は求めてくる人間が怖かっただけだ……求められても叶えられない自分の神力に焦り、叶わないと罵る人間達に追い詰められたんだ……だから殺した……―


 龍水天海は薄れゆく意識の中でイドさんと繋がっていた。イドさんは目を瞑り、龍水天海の最期の言葉を聞いていた。


 ―拙者とお前は違う……。お前は拙者の神としての生を継ぐんじゃねぇ。

別もんだ……。拙者の生はここで終わるんだ。お前が継ぐんじゃねぇ!……いいな?勘違いすんなぁ……。―

―お前に消されるのは癪だがもういい……。―


―消えてやるよ……それで……いいん……だろ……―


龍水天海の身体が美しい白い光となりイドさんの中に吸い込まれた。


……さようなら。あの時の僕……。

イドさんはそっと目を閉じた。

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