明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー13
ナオと栄次は配線部分を元に戻すため、過去見をしようとしていた。
「……天津彦根神の……オーナーの巻物を使えばこの封印を見る事ができるかもしれません。後は……念のために……。」
ナオはオーナーの巻物と共にイドさんの巻物も取り出した。
「その巻物も使うのか?」
「ええ。念のため。関係者のイドさんの歴史も使います。あの橙の髪の龍神はイドさんの生まれ変わる前です。あの橙の龍神の巻物はございませんからイドさんで代用します。」
「なるほどな。」
ナオの説明で栄次は納得の色を見せた。
ナオは栄次に説明した後、巻物を床に置き、手を広げた。巻物が光出し、その光が大きく広がった後、栄次を包み込んだ。栄次を包み込んだ直後、光は竜宮制御室をすごい勢いで拡散していった。
辺りの空気や風景が砂のように消えていく。そして新しい景色を作りだしていった。
辺りは突然荒野に変わった。
いや、荒野ではない。元々あった建物や木がすべて燃えてなくなった後のようだ。
「……?なんでしょうか?過去なのは間違いないですがこれは竜宮以前の問題です。急いでいるのに別の記憶が……。」
ナオは予想外の過去に焦った。
「……近くで蛭子神の神力を感じた……もしかするとそれがこちらに関与してきたのかもしれない。」
「蛭子さんが……?イドさんとはどうなったのでしょうか?」
「それは悪いが俺に聞いてもわからんぞ。それよりもあれを見ろ。」
困惑しているナオに栄次は冷静に言い放つと目の前を見るように指示をした。
ナオは栄次に従い、前を向いた。
「……あれは……。」
焼野原で血に染まった橙の龍神、龍水天海が高らかに笑い声をあげていた。
「ぎゃははは!全部殺してやった!次の村も全滅だ!ぎゃははは!」
龍水天海は手に持っていた血まみれの人間を放り捨てると歩き出した。
よく見ると龍水天海の横は海だった。海はきれいな青色ではなく人の血を吸い真っ赤な色をしていた。ちょうどその時、日が沈みかけていて海をさらに赤くしていた。
「もうやめて!お願いですから!」
先程、イドさんの記憶で出てきた女の龍神、龍史白姫神が龍水天海の袖を掴み必死に懇願していた。
「ああ?うるせぇなぁ。」
「どうか元の銀の髪に戻ってください……。禊をして心を清めてください!人間の血を吸ったその橙の髪を清めてください……。殺してしまった民の命を背負ってください……。お願いです……このままではあなたはっ……。」
龍史白姫は泣きながら必死で頭を下げ続けた。
「うるせぇんだよ。よく考えたらお前もいらねぇなあ。」
龍水天海は泣き叫ぶ龍史白姫を鋭い爪で薙ぎ払った。
「がふっ……!」
龍史白姫の体から血が飛び散った。
「うう……。」
龍史白姫は左肩から腹にかけて爪で引き裂かれていた。
「……あかっ……私の赤ちゃんが……。」
龍史白姫は血が滴る腹を庇いその場でうずくまった。
それを見ていたナオと栄次は思わず目をそらしてしまった。
「あなた……やめて……お願い……あなたの子よ……子供は……子供だけはっ……。」
「ぎゃははは!死ね。」
刃物で切り裂いたような音と龍史白姫の泣き声が同時に響いた。
「ナオ……見るな。」
「……。」
栄次はナオの頭を下に向かせた。ナオは体中から震えが起こり目に涙を浮かべた。
「いやです……この歴史は……見たくないです……。あの女神は子が宿っていた……それをあの男は……。」
「……。」
ナオは震えながら栄次にしがみついた。歴史はナオを無視して続く。
龍水天海は血にまみれた自分の妻を踏みつけると次の村へと飄々と歩いて行った。
「ひっ……酷い……。」
「……狂った神は怖い。ここまで落ちてしまうと元に戻るのは難しいな。」
「あの神からは過剰なシステムエラーが見えます。他にも村の人々を殺したようです。」
ナオは涙を拭きながら切なげに龍水天海を見つめた。
龍水天海がいなくなっても視点が変わらなかった。視点は傷つき倒れている龍史白姫だ。
しばらく経つと龍史白姫の前に紫の髪の男が現れた。髪は肩先で切りそろえられており鎧をまとっていた。
「……あの方は……スサノオ尊……。」
ナオ達は一回スサノオを歴史の中で見ていたので顔を知っていた。
「……おい。どうした?しっかりしろよ!」
紫の髪の男、スサノオは血にまみれた龍史白姫を抱き上げて声をかけた。
「……す、スサノオ……様。あか……赤ちゃんが……。」
龍史白姫は今にも消えてしまいそうな声でスサノオに必死で訴えた。
「身ごもっている神か……ひでぇな。この辺の村といい、生き残っている民がいねぇ……。故意に殺している神がいる……。お前もそれにやられたのか?」
「……お願いします……夫を助けてください……。お願いします。」
龍史白姫は焦点のあってない瞳でただスサノオに叫んでいた。
「……ふん、なるほど。だいたい読めた。お前はここにいろ。じきにお前を助けに戻ってくるからな。」
スサノオは龍史白姫をそっと横にすると手から天叢雲剣を出現させ歩き出した。
龍史白姫がもう助からない事をスサノオは知っていた。少しでも安心できるようにまた戻ってくると言ったのだ。
スサノオは人々の叫びと燃え盛る村の方へと足を速めた。




