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流れ時…2タイム・サン・ガールズ17

 「っち……ダメだ。全然力が入らない。」

 サキは本気で炎を飛ばしていた。栄次は避けるが無傷ではない。


 「なんだ。先程と炎が変わらんぞ?本気なのではないのか?」

 「……。」


 本気のつもりだが力の使い方がいまいち思い出せない。

 これ以上の力を纏う事がなぜかできない。

 自分はこんなもんじゃなかったはずだ。


 ……本当はあたしが太陽神のトップに立つはずだったんだ……。

 でも……お母さんが……。


 栄次の刀がサキに伸びてきた。


 ……避けないと……


 そう思っていた刹那、サキに吐き気が襲った。

 咳き込み膝をついた。風の音が耳元でする。


 ……まずい。斬られる……。


 サキは手を口に当てたまま強く目をつぶった。

 すぐに鋭い痛みを感じるかと思ったがしばらくたってもなんともない。

 サキは恐る恐る目を開けた。


 「大丈夫か?」


 栄次は鋭い目をこちらに向けながらぶっきらぼうに一言言った。

 ふと横を見るとサキの首筋に触れそうな所で刀が止まっていた。

 少しサキが動けば斬れてしまうくらいの距離だ。


 「……寸止めかい……さすが……」

 「俺は小娘を蹂躙する趣味はない。」


 サキはまた咳き込んだ。

 口を押さえていた手を見ると血がついていた。


 「……!」

 「おい。しっかりしろ。どうした?」


 サキは栄次を見上げた。

 栄次はサキの顔を見てはじめてサキが血を吐いた事に気がついた。

 サキの口からは血が漏れ、顎をつたい、服や床を汚す。かなりの出血量だった。


 「おい!」

 栄次は刀を鞘に戻すとサキの側に寄った。

 なぜ吐血したのかもわからず栄次はサキの背中をさすった。


 「ち……血が……逆流してる……。な、なんで……うう……。」

 サキはしゃがんでいる栄次の袖を掴んだ。


 「血が逆流だと……!」

 「あたし……もう……戦えない……先に行ったら……どうだい?」


 うつろな目をしているサキを栄次は仰向けにさせた。


 「こんな状態で放っておけないだろう!」

 「何……言ってんのさ。あたしは……敵……」

 「いいから黙っていろ!」


 サキは苦しそうに息をしている。

まわりを覆っていた炎は消えたように小さくなっており、栄次を襲う予定だった炎も塵のように消えた。


 栄次がどうすればいいか困っていた時、聞き覚えのある声が聞こえた。


 「栄次殿!無事でござるか?……さ、サキ殿!」

 声の主はサルだった。サルはサキの状態を見て絶句した。


 「さ、サル!お前、怪我してたのでは……まあ今はいい!娘がいきなり血を吐いた!どうすればいい!」

 栄次は珍しく焦った表情でサルを見た。


 「サキ殿は……太陽神としての力が著しく低下しているのでござるな……。

 サキ殿は我々を統べる太陽神……一番、アマテラス様の力を受け継いだお方でござる。全力で守らねば……。


 間違いなくこれは人間の血が太陽神の力と反発を起こしているのでござる。おそらく無理やり人間になろうとしたのが原因でござるな。そういう事があったのではござらんか?サキ殿。」


 サルはサキを抱き起した。

 「あたしが……人間になろうと……したわけじゃないんだ……。違うんだ……。」

 サキは目に涙を浮かべていた。


 「やっぱり今はしゃべらない方がいいのでござる。お話ならば後でゆっくり聞く。」

 サルはサキに頭を下げ、目を閉じた。


 「何をやっているんだ?」

 栄次が無言で頭を下げているサルに声をかけた。


 「忠誠を誓っているのでござる。太陽神の使いが頭を下げるのは太陽神だけでござる。彼女に神格を取り戻してもらうため……なけなしかもしれぬが……。」


 しばらくしてサルのまわりに太陽を模した魔法陣が現れた。

 その魔法陣から放たれた光りがサキを包んでいく。サキの表情が少し和らいだ。


 「これで少しは人間の力が無くなったかと思うのでござるが……。どうしてこんなひどい状態に……。」

 「し、知らないよっ!あたしは……お母さんに悲しい顔させたくないだけなんだ……。」


 涙を流しているサキをサルが優しくなでる。


 「サキ殿はお優しい……。だがサキ殿の母上はもう禁忌の先へ足を踏み入れてしまったのでござる。残念ながらサキ殿の母上は罰を受けるしかないのでござる。」


 「……。い、嫌だよ……。お母さんどうなるの?ねぇ!なんとかしてよ……サル……。」

 サキの叫びにサルは無言で首を横に振った。


 「ねぇ!サル!なんとか……してよぅ……!」

 「……。」


 サルは目をつぶった。

 こんなに苦しんでいる主を見たくはなかった。


 「ねぇってば!……なんかしゃべってよ……。お母さんはね、本当は……すごく優しいんだ。優しいんだよっ!だから!」


 サキは口から血をこぼしながら叫ぶ。サルはサキを抱きしめた。


 「すまない……。優しいというのは罪を消す理由にはならないのでござるよ。……サキ殿、いや、サキ様、少し眠られるとよろしいのでござる。次に目覚めた時、すべてが終わっていますように……。」


 「そんな……お母さん……。……お母さん……。」

 サキはその一言を泣きながらつぶやき意識を失った。


 「ここを任せてもいいか?俺は行かなければならない。」

 栄次はサキを心配そうに見つめながらサルに言葉をかけた。


 「……大丈夫でござる。サキ様は小生がお守りするのでござる。作戦にうつっている太陽神様達、猿は作戦が終了した段階でサキ様の介護を全力で行ってもらうのでござる。」


 「作戦という事はなんかするんだな?」

 サルは栄次に頷いた。

 栄次も頷き返し、そのままさっきアヤ達が走り去った方へ走って行った。


 サルはそれを見届けてからサキを抱きかかえ栄次とは逆の方向に歩き出した。

 「……アマテラス様の能力を人一倍継いでいるサキ様はこの太陽の宮の王女になるお方……。それがこんな扱いとは……っ。」


 サルはサキを強く抱きしめた。

 サキが痛みにあえぐ。サルは慌てて力を緩めた。


 サルは激怒していた。

 女がなぜそんな事をしたのか理由は正直よくわからない。

 だが自分達が守るべき主を体中からボロボロにされ精神面でも弱り果てさせられたら理由がどうあれ許せなかった。


 「サキ様には悪いが……小生、あの女は許さないでござる……。」


 サキに気がつかなかった自分にも腹が立った。

 サルにとって大事な主を見つけ出せなかった。


 ……だから今度はちゃんと守る……でござる……。


 サルは着物の袖でサキの顔についた血を丁寧に拭いた。



 「どんどん力が沸いてくるわ。太陽の宮に来てアマテラスの力はどんどん強くなる!もっともっと強くなったらあなた達を消したいの。


 でも、めんどうだから今にしちゃうわ。せっかくサキが一人留めてくれているんだもの。話している間に私の中の太陽の力はだいぶ強くなったわ。


ちょっと腕試しといこうかしら?」


 アマテラスはクスクス笑っている。


 「ほんとによく笑い、そしてよくしゃべるな……。」

 プラズマは落ち着きを取り戻してきたアヤに向かい言葉をかけた。


 「……。私はあの女、許さないわ。」

 「私的じゃなくて時神としてにしな。そっちのがかっこいいだろ。」

 「そうね。」


 プラズマの言葉にアヤは無表情で答えた。

 アヤが怒っている時はいつも無表情になる。


 「……思いっきり感情むき出しじゃないか。」

 プラズマはあきれた目でアヤを見るとアマテラスに目線を戻した。

 アマテラスはまったく動いていなかった。


 「なんで刑を執行する方がピンチになっているんだ?俺、今すぐ元の時代に戻りたくなってきた。」

 「ダメ。」

 「わかっているって……。」


 今のアヤに冗談は通じなかった。

 少しでも場を和ませようとしていたプラズマはただはにかむしかできなかった。 まあ、この状況で場が和んでも困るのだが。


 「ふふ。」


 アマテラスはにこにこと笑いながら大きな火の玉を出現させ、アヤ達に飛ばしてきた。


 「うわっ!なんだ……あれは!」


 プラズマはアヤを引っ張りかろうじて火の玉を避けた。

 遠くの方で爆発音が聞こえる。プラズマとアヤは息を飲んだ。


 「まあ、すごい。あんな大きな爆発を起こせるのね!」

 アマテラスは楽しそうな顔で今度、複数の火の玉を出現させた。


 「……っち。狂ってやがるな。あの女……。」

 「あんなのに当たったら死んでしまうわよ。」


 二人が途方に暮れていた時、下の方から声が聞こえた。

 「アヤ!プラズマ!」

 「……ん?」

 先程開けた穴から栄次がこちらを見上げていた。


 プラズマはアヤを引っ張り、穴から下の階へ飛び降りた。


 「ちょっと!きゃあ!」

 軽く叫んだアヤをうまく捕まえ、プラズマは床にきれいに着地した。


 そのすぐ上を火の玉が風の音と共に飛んで行き、通り過ぎた瞬間から爆発音が聞こえはじめた。けっこう危機一髪な避け方だった。


 「あっぶないな……。自分で穴開けた事忘れてた。」

 「……で、お前達はもう交戦中なのか?」


 状況を理解していない栄次はアヤとプラズマをきょとんとした顔で見据えていた。


 「あなたは平気だったの?サキは?」

 「まあ、色々あったが問題はない。」


 アヤの言葉に栄次はそう答えておいた。

 正直、状況がそこまでわかっているというわけではない。

 サルがなんとかすると言ったので栄次は問題ないと言った。


 「まあ、そんなのどうでもいい。それよりあの女だ。」

 アヤと栄次の会話にプラズマが割って入った。


 「強いな……。」

 「大丈夫よ……。」


 栄次がつぶやいた時、アヤが静かに上を向いた。

 やけに落ち着いた声だ。先程までのアヤとはかなりの違いがある。


 「刑の執行にうつるわ……。」

 「あ、アヤ?」


 プラズマがアヤの顔を覗き込む。

 アヤに表情はなく両の瞳の奥で時計の秒針がまわっていた。

 アヤの茶色の瞳は無機質な円形の時計になっている。


 「なっ!なんだ!おい!アヤ!」


 「俺が来た事と標的がすぐ上にいる事から時神の本性が出たか。」

 栄次は表情のないアヤをただ見つめた。

 アヤは何かに反応するかのように上を見上げるとアヤにはない身体能力と時間操作であっと言う間に屋根に上ってしまった。


 「なんだかわからんがとりあえず追うぞ!」

 プラズマは先ほどと同じように足元だけの時間操作で空気を蹴って上へと向かった。


 「お、おい!待て!お前達はどうやってそういう事をしているんだ?」

 「足元だけ時間を止めろ。アヤが覚醒している今ならお前にもできるだろう?」


 プラズマは自分の足を指差して栄次を見下ろした。


 「ふむ。」


 時間操作は思ったより簡単だった。ただ、足元に集中すればいいだけらしい。足元に気を遣ったらいままで普通にやっていたかのように浮けた。


 「な?」


 プラズマが得意げな表情で栄次を見た。


 「秩序に縛られない神の世界だからこそこんな事ができるのだな?」

 「さあな。さっさと行くぞ。」

 感心している栄次を急かし、プラズマは屋根に上った。


 「アヤ、本当に機械みたいだな。」

 プラズマは一段高い所で浮いているアヤに声をかけたが返答はなかった。


 アヤは飛んでくる火の玉の時間を一端止め、高速で時間を巻き戻しアマテラスに逆に火の球をぶつけようとしていた。

 これはアヤの意思ではない。無意識だ。


 「動きにまったくムラがない。」

 栄次がアヤを目で追いながらつぶやいた。


 「なんで俺達はああならないんだ?」

 プラズマも一緒に目でアヤを追う。

 アヤは時間操作を使い、高速で動き、アマテラスの攻撃をかわしている。


 「俺達はアヤの補佐をするためかアヤを制御するためかでああならないんじゃないか?」

 栄次は刀を抜いたが抜いただけで動かなかった。


 「なるほどな。こういうのは時神の記録にも残ってないから調べようがないな。」

 「人間本人が時を狂わす事など数多くあるわけではあるまい。記録に残らないのは当然だ。」


 プラズマと栄次が今度はアマテラスに目を向ける。

 先程までの余裕はどこへ行ったか真剣な顔でアヤに攻撃を仕掛けていた。


 「なんで私の火の玉があの位の低い神に止められるの……!力は強まったはずなのに!」


 「それはあんた自身の力じゃない。アマテラスの力だ。これ以上力が強まると制御できなくなるぞ。アマテラスはあんたのまわりをまわっているだけで中までは浸透していない。」

 プラズマは飛んでくる火の玉を避けながらアマテラスに叫んだ。


 「なるほど、太陽神達はアマテラスの力を強く感じてあの女に頭を下げた。俺達はアマテラスの力ではなく中身を見ていたため何とも思わなかったのか。」

 栄次もつぶやきながら火の玉を避けた。

 アヤがいるおかげで比較的スムーズに避けられている。


 その内、栄次とプラズマは不思議な感覚にとらわれはじめた。

 アヤに吸い込まれるという感じかもしくは一つになる感覚だ。

 その気持ちが悪い感覚になぜか二人は抵抗する気も起きなかった。


 これが自然だとどこかで思っていた。


二人は溶けて行く感覚を体で味わいながらアヤを見つめていた。

 アヤはこちらを振り向きもしない。


 しばらく動けずにいた。

 ふと下をみると足元に大きな時計が秒針を刻んでいた。

 二人はだんだんと表情を失っていき、初めから知っていたかのように同じタイミングで手を前にかざした。


 刹那、時神達の下にある大きな時計がいびつに動き始めた。

 秒針だけしかないその時計はもうすぐ十二の位置へたどり着く。


 カチカチと秒針が動いていき、十二の数字に合わさった途端に栄次とプラズマの手の平から重く冷たい灰色の鎖が飛び出した。

 その鎖は凄い速さでアヤの掌に集中し、アマテラスに放たれた。


 「なっ……何よこれ!」

 アマテラスは避ける暇もなく鎖にからめ捕られた。もがいても何しても鎖はとれない。


 ……これが時間の鎖か……


 プラズマと栄次は驚き、しばらく言葉がなかった。

 それと同時に驚いている事に感情が戻りつつあることに気がついた。


 「なるほど。私を罰しようっていうわけね。残念、私にはアマテラスがいるのよ!……これが例の時間の鎖……だけどアマテラスがいるかぎり私はこの鎖で裁かれることはない!」


 アマテラスは勝ち誇ったように笑った。

 鎖は結びついているがこのままだといつとられてしまうかわからない。


 ただの人間ではなかったのが時神達の誤算だった。

 このままではただの鎖だ。


 これで刑執行が終わったと思ったのか、アヤに感情が戻ってきた。

 アヤは二、三回まばたきした後、自分のやった事に目を丸くし、声を上げた。


 「な、何よあれ!え?なんで私浮いているの?」

 「あ、アヤ!もとに戻ったのか。」


 プラズマがアヤを見上げてそんな事を口にしている。


 ……もとに戻った?


 アヤは見上げているプラズマと栄次をひどく怯えた目で見つめた。


 ……私は……何をしたの?


 抜けた記憶を何度も呼び起こそうとしたが記憶は戻らなかった。


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