明かし時…4ドラゴン・キャッスル・ヒストリー1
辺りはどこまでも荒地だ。高天原北は神々がほとんど住んでおらず、北所属の神々は皆、現世で修業をしているようだ。故にまったく栄えていないし、木種の神もいないので緑もない。
そんな中、赤い髪の少女、ナオと侍風の青年栄次、それからハイカラ雰囲気のムスビは高天原南にある竜宮へ行くため、こっそり神々の使い鶴を呼んだ。
鶴はすぐに来てくれた。
「よよい?何かお呼びかよい!」
鶴は白い美しい羽根を羽ばたかせて元気よく返事をしてきた。
この鶴は以前、高天原まで連れて行ってくれた鶴だった。口調が特徴的なのですぐにわかった。
「鶴、前回はありがとうございました。」
「……?何の事だよい?」
ナオのお礼に鶴は首を傾げた。
「ナオさん……以前、俺達がさ、この鶴さんに関わった事を忘れろって言ったでしょ……。」
訝しげに鶴を見ていたナオにムスビがそっとささやいた。ナオはムスビの言葉でそう言った事を思い出し、小さく頷いた。
「そういえば言いましたね。なるほど……そこまで徹底的に守っていただけるとこちらとしても嬉しいです。では、また仕事を頼ませていただきます。」
「要件をどうぞ!よよい。」
鶴は駕籠を引いたまま、頭を垂れた。
「……竜宮付近へ連れてってもらえませんか?これもお忍びでです。」
「わかったよい!だけど……今現在、竜宮は閉鎖されているよい!現地ではテーマパーク竜宮のオーナー、天津彦根神が行方不明との事でけっこう緊迫しているよい!天界通信本部までならば見つからずに行く自信があるよい!」
「……オーナーが行方不明?どうしてまた……。」
鶴の言葉でナオとムスビが目を丸くして驚いた。
「理由はわからないが竜宮付近はとても禍々しい神力が漂っているよい!行くのはかなり危険だよい!」
「……と、とにかく、天界通信本部までは行けるのですね?ではそこまでとりあえず送っていただきましょう!」
ナオは深く息を吐くとさっさと駕籠に乗り込んだ。
「えーっ!ナオさん……危険だって言われてるよね!またマジで行くのかよ……。」
ムスビが焦った表情で駕籠の中にもう座っているナオを見つめた。その後、すぐにポンと肩に栄次の手が乗った。
「ムスビ、ナオは行く気だ……。あきらめろ。」
「栄次……お前も正気かよ……。閉鎖状態の竜宮にどうやって入るの?」
「とりあえず、乗れ。」
怯えているムスビを栄次は無理やり駕籠に乗せた。駕籠はムスビと栄次を乗せると空へと舞いあがった。鶴が空を飛び、駕籠を引く。どういう仕組みかはわからないが駕籠は傾くわけでもなくそのまま空に浮き上がるように制止していた。
鶴はゆっくりと動き出す。
「で?高天原南の竜宮にどうやって入るの?確か、竜宮は観光地だけどけっこうシステムが厳重らしいよ。」
ムスビがどこかふてくされた顔でナオと栄次を見た。
「そうですね……。この駕籠の行き先が天界通信本部なのでそこで色々情報を集めようかと思います。」
「天界通信本部とは何だ?」
ナオの答えに栄次は首を傾げた。
「ご存知なかったですか。天界通信本部は神々に読まれる新聞やPR動画、世界の神々についてなどの様々な知識とリアルタイムなニュースを配信してくださる施設です。本部の社長は外交神蛭子神で七福神です。えびすさんとも言いますがえびすだと彼の娘であるエビスさんと名前が被るので皆は蛭子神と呼んでいます。」
「なるほどな。瓦版の配信ならば情報を色々と持っている可能性が高いと……。」
「瓦版……わざわざ古臭く言わなくても……。」
栄次が納得している横でムスビは瓦版に反応した。
「だが俺達は追われているのだろう?本部の近くをウロウロと歩いていたら捕まるのではないか?」
栄次はムスビをちらりと横目で見るとナオに再び尋ねた。
「ま、まあ、その危険性はありますが……そこはおいおい考えていくとします。」
「また何にも考えがないの!?何度も言うけど俺は不安だよ!」
自信なさそうなナオにムスビは心から叫び、深くため息をついた。
「考えても予想外な事ばかり起きるので考えるのをやめました。」
「ナオさん、はじめから考えてないよな……。」
外を窺いながらしれっと言い放ったナオにムスビは頭を抱えた。




