明かし時…3ジャパニーズ・ゴッド・ウォー最終話
「……。」
イドさんの記憶を覗き、ナオ達は茫然と立ち尽くしていた。
「……彼女は……僕の娘じゃありません……。娘じゃないんですよ。」
イドさんは切なげにヒメさんを見ていた。風がイドさんとヒメさんを通り抜ける。
「……父上……。」
ヒメさんはあふれ出る涙を抑えながらイドさんをまっすぐ見つめた。
「……ヒメちゃん……。」
イドさんは複雑な表情でヒメさんを見据えていた。
その視線のぶつかり合いに割り込むようにナオが入り込んだ。
「……そういう事だったのですね。私達(歴史の神)を欺き、歴史の改ざんまでして娘さんを守ろうとした……そういう事ですね。もう……父親だと言ってもいいと思いますよ。
この世界は一度、世界大戦時にKのシステム改変により変わったらしいですから。あなたはヒメさんとの事を覚えていたみたいですが現在の龍神達はおそらく記憶の消去がなされているのだと思われます。これにつきましては今度調査をする予定ですが。」
ナオは少し同情しながら淡々と言葉を発した。
「……システムの改変……ですか……。ワイズと剣王は色々と覚えているみたいでしたが……。」
イドさんは覇気のない顔でナオに目を向けた。
「はい。調査の所、彼らは世界大戦以前の記憶も持っているようです。今後、名前で出たKについても調べて行こうかと思います。」
「……K……。」
Kの部分で小さく声を発したのはアヤだった。
その隣でミノさんはどこか落ち着かない様子で腕を組んでいた。
「おい、それよりもよ、人間を消すという大罪を犯そうとしてまでもおたくに会いたがっていた娘が目の前にいるのにおたくはまだ隠すつもりなのかよ。」
ミノさんはイドさんの態度が気に入らなかったらしい。どこかイライラしていた。
「ミノさん……僕はもう縁を切っちゃったんですよ。……今回、ヒメちゃんがやった事は許される行為ではありません。ですが、冷林の封印までで押しとどまったので僕は少しほっとしているんですよ。
今回の件に関しては僕も冷や冷やしました。僕がうまくヒメちゃんを止められなかったらどうなっていた事かと。あれでワイズはけっこう気持ちをくんでくれて僕の手助けをしてくれていたのですが……僕があまりにヒメちゃんをうまく止められなかったのでワイズが見かねて手を出してきたんですね……
それで……剣王の方もヒメちゃんを気にかけてくれて僕が止めに入るのを待ってくれました。本当は僕の事なんて考えている暇はないはずなのに……。」
イドさんはそこで言葉を切り、ナオ達に目を向けた。ナオは困惑した顔でイドさんにはにかんでいた。
「そんなこたぁいいからよ。もう親子を気にしていいんだからさっさと抱きしめるなりなんなりしてやれよ!」
ミノさんはイドさんがウジウジしているので背中を思い切り押した。
「うわっとと……ミノさん、乱暴ですね……。……でもそうですね……。僕はもう隠す必要はとっくになかったのかもしれません……。」
イドさんはヒメさんの元へと歩いて行き、そっとヒメさんを抱きしめた。
「ち……父上ぇえ……。」
ヒメさんは目から大粒の涙を零し、ワンワン泣いていた。
「ヒメちゃん……ごめんなさい……。僕はずっとヒメちゃんを見守っていました。ヒメちゃんは紛れもなく僕の娘で僕の宝物です……。」
イドさんはヒメさんの頭をそっと撫でながらしがみつくヒメさんをしっかりと抱きしめた。
「ごめんなさいなのじゃ……。冷林はワシが元に戻すからの……。大変な過ちを犯すところじゃった……。」
「そうですね……。これに関してはちょっとお仕置きが必要ですが今回は僕にも非があるのでこんなことを二度としないと約束だけしてください。いいですね?ちゃんと言いなさい。」
イドさんは鋭い声でヒメさんを叱った。
「うう……もうしないのじゃ。しない故、父上、ワシのそばにいてほしいのじゃ……。」
「そうですか。いいですよ。」
ヒメさんは子供の顔に戻り、イドさんを離すまいとしがみついていた。イドさんはヒメさんの頭を優しく撫でるとそっと抱き上げた。
「……ここではない鏡の世界、壱の世界では彼女はもっと暴走していたようですね……。ここ、陸の世界の彼女は何かに気が付いたのでしょうか。」
ナオがヒメさん達を眺めながらぼそりとつぶやいた。
「ん?ナオさん、壱の世界の事が見えたのか?」
ムスビに問われ、ナオは首を傾げた。
「いいえ。なんとなく程度です。イドさん、そしてヒメさんの記憶、歴史は世界大戦以前のものなので歴史が壱の世界とたまたまリンクしたのだと思われます。」
「よ、よくわかんないけど……そうなんだね?」
「それと……イドさんにはまだスサノオ尊との記憶が隠れている気がします。過去を放出すると言われている竜宮に行ってみましょう。」
ナオは腕を組みながら唸った。
「ええ!また無茶するの?あそこには天津彦根神がいてだね……。」
ムスビはため息をついた。
「竜宮だとここは北のようだから真逆だぞ。」
いままでずっと黙っていた栄次がぼそりとつぶやいた。
「ええ。それでも行きます。」
ナオは栄次とムスビを見据え決意のこもった目で頷いた。
ムスビと栄次はお互い見合うとため息を再びついた。
「……では僕達はアヤちゃんの仲間から一度離れますね。冷林を元に戻さないといけませんから。」
イドさんはヒメさんを抱きながらどこかすっきりした顔でミノさんとアヤに声をかけてきた。
「あー、もうわかったぜ……おたくはハナから仲間じゃねぇんだろ。さっさと行け。まあ、後で酒でも飲もうぜ。」
ミノさんはうんざりした顔でイドさんをはらった。
「あ、ワシはアヤを手助けするのじゃ。冷林の用が終わったら仲間に加わるぞい。」
「ちょっと……ヒメちゃん……。」
ヒメさんの嬉々とした表情にイドさんは頭を抱えた。
「……ええ。よろしく頼むわ。」
アヤは先程から何かをずっと考えながらヒメさんに返事をした。
「おたくは何を考えてやがんだよ。」
ミノさんの突っ込みにアヤは頷いて答えた。
「……Kという者について調べるわ。ミノは付き合ってくれるのよね?」
アヤはにこりとミノさんにほほ笑みかけた。
「……うっ……あ、ああ……そうだな……。」
ミノさんはあからさまに嫌そうな顔をしたが同意の言葉を発した。
アヤ達はアヤ達で動くようだ。そのうち、目的が同じになるかもしれない。
ナオはそんなことを思いながらムスビと栄次を連れて歩き出した。
「ナオ……。」
アヤは小さくナオを呼んだ。
「……はい。何でしょうか?」
ナオは振り返ってアヤを見た。
「ナオ……無茶はしないようにしなさいよ。」
アヤは呼び止めたが何を言うか悩み、とりあえず一言だけ言葉を発した。
「はい。ありがとうございます。アヤさん。アヤさんも無茶はなさらずに。」
ナオはアヤに優しくほほ笑むと再び歩き出した。




